現在,北海道の畑作では,規模拡大が進む一方で,てん菜の作付面積が減少し,小麦の過作等,輪作の崩れによる経営の悪化が懸念されている.その大きな要因の一つとして,高齢化等を含む労働力不足が挙げられる.農研機構は,こうした傾向に歯止めをかけ,輪作の維持を図るために,高効率大型 6 畦狭畦収穫機,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機を開発している. これらの開発中の作業機について,導入に必要とする作業面積を,従来の作業体系における稼働費用との比較より検討した.その結果,高効率大型 6 畦狭畦収穫機の稼働費用は,従来の 1 畦収穫機のものを下回る作業面積は 120 ha,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機の稼働費用が,従来の全自動 4 畦移植機のものを下回る作業面積は,1 ha 当たり 2.0 時間の場合は,3.5 ~ 60 ha,70 ~ 120 ha,140 ha 以上であることが明らかになった.すなわち,新技術の導入が可能となる作業面積について,移植機の作業効率が 1 ha 当たり 2.0 時間まで上昇すれば,作業者の調達の可否次第で,様々な移植,直播の組み合わせが可能となることが理解できる.
近年,北海道の畑作経営では,耕地面積の拡大を継続している一方で,てん菜の作付面積は減少傾向にある.作物統計によれば,1998 年には 70,200 ha あったものが,2008 年には 66,000 ha,2017 年には 58,200 ha と大幅に減少している.収穫量も10 a 当たりは上昇しているものの,総収穫量は 2008 年には 4,248,000 t であったものが,2017 年には 3,901,000 t と減少傾向にある.長尾(2013)も,1960 年から 1985 年まで増加の一途をたどってきたが,2000 年以降は減少傾向にあると報告している.その理由の一つとして,畑作経営の高齢化等による労働力不足が挙げられている.長尾(2013)は,畑作農家の耕地面積規模拡大により,4 月下旬から 5 月中旬の作業で食用バレイショの作業との競合が激化すること,てん菜の収益性の低下による高収益野菜の導入等を挙げている.さらに,加糖調製品の輸入自由化による砂糖の需要の減退,砂糖消費の減少もまた,大きな要因として挙げられ,目標てん菜面積の引き下げを招いていることも指摘している.白井ら(2016)も,上述のほかに,高コスト,品代が安い,近年の天候不順等も挙げている.
さらに,苗の圃場への移植作業等に必要とする補助労働力も,十勝およびオホーツク等の畑作地帯では,高齢化が進むと同時に,周辺地域の人口減等により確保が困難となっており,てん菜の作付の困難性はよりいっそう深刻となっている.こうした規模拡大の下でのてん菜の作付面積の減少は,小麦の過作等の輪作体系の崩れ,連作障害による収量減等が懸念される.
そこで,農研機構は畑作経営の規模拡大下でのてん菜の作付面積の減少傾向に歯止めをかけ,輪作体系の維持,経営の安定を目指すため,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機,および高効率大型 6 畦狭畦収穫機を開発している.前者は,Programmable Logic Controller(PLC、注 ) のコマンドに従い,苗の分離から畑への植付まで行う,ロボット式の移植機である.具体的には,ロボットアームの前方に設けられたコンベアベルトに苗を置くと,PLC により制御されたロボットアームが苗を剥離し,植え付けユニットの搬送ベルトに置く.ロボットアームは次の苗を剥離して戻り,剥離後は先に置いた苗が無くなるのを待ってから置く.ロボットアームはこの動作を繰り返す.搬送ベルトに置かれた苗は機械が前進すると 1 本ずつに分離され,欠株・幼苗を取り除いてから左右に振り分けられて畑に植え付けられる仕組みとなっている.後者は,ドイツから輸入した大型収穫機を,比較的,浅いところに根の位置がある移植栽培のてん菜に適応させるため,スカルパー等のアタッチメントを改良したものである.
てん菜の大型収穫機に関しては,2004 ~ 2006 年にも,ドイツから輸入したものを,十勝やオホーツクの畑作地帯において,試験的に稼働し,導入を試みていた.この収穫機は,わが国のてん菜の栽培において,主流である畦幅 60 cm,4 畦に改良した.樋口ら(2009)は,導入する上において,必要な作業面積は 100 ha 前後と試算された.だが,この大型収穫機は畑作地帯において普及には至らなかった.その理由の一つとして,大型収穫機は直播栽培向けに作られたものであるので,根が浅い位置にある移植栽培のてん菜は,タッピングの際,深切りしてしまう等の弊害があることを挙げていた(注 2).
さらに,樋口ら(2009)は,普及に当たって,直播栽培の振興が重要であることを指摘している.確かに,直播栽培は育苗作業がなく,ビニールハウス,ペーパーポット等,育苗に関わる資材も不要なので,移植栽培に比べて生産費用が低いのは明らかである.しかし,発芽時の霜害,風害等のリスクの大きさ,移植に比べて収量が少ない等により,現時点においても,てん菜は移植栽培が主流である.したがって,こうした大型収穫機を畑作経営に普及させるためには,移植作業に関しても技術開発を行った上で,収穫機と移植,直播の組み合わせをどのようにしていくか,検討する必要がある.
本稿では,てん菜の高効率大型 6 畦狭畦収穫機とロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機に関して,導入に必要な作業面積を検討する.具体的には,上述の新技術について,試験結果等より算出された稼働費用と,従来,用いられている移植機および収穫機のものと比較し,前者が後者を下回る作業面積を導入条件とし,その値を算出する.ここでは,全自動4畦移植機と1畦収穫機を従来の技術とする(注 3).
注 1: PLC とは,機械や装置を自動的にコントロールするために,必要なプログラムが書き込まれたコンピュータのことである.制御盤は,この PLC とモニター等で構成されている.ここでプログラミングされたコマンドにしたがって,本移植機は稼働する.
注 2: 他に,圃場間移動距離およびそれに要する時間の長さも挙げられていた.社団法人北海道てん菜協会・社団法人北海道地域農業研究所(2010)の試験では,稼働時間の 40%が圃場間の移動であった.これらについては,畑作農家や経営法人等の農業者のみならず,作業受委託組織,集荷業者である製糖工場,運送業者,関係機関等で会合を開き,できるだけ収穫機の移動時間を少なくするように収穫作業順を決める必要があると考えられるが,本稿では検討の対象外とする.
注 3: てん菜の移植機について,実際には半自動 2 畦移植機も小規模な畑作経営を中心に用いられているが,ここでは,現在,普及している移植機の中で,最も作業効率の高い全自動 4 畦移植機を,比較の対象とした.
ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機,高効率大型6畦狭畦収穫機について,導入に必要な作業面積を検討するにあたり,第一に,作業体系と各作業に要する労働時間を,従来技術および新技術それぞれ整理する.新技術の作業時間等については,実証試験結果を用いる.
第二に,移植機と収穫機の稼働費用について,試算式を策定し,それぞれの体系ごとに試算する.稼働費用は作業面積 1 ha の値とする.労賃および燃料費の単価,1時間当たり燃料消費量等,稼働費用の試算に必要とするデータについては,現地実証を行っている畑作経営,JA等の関係機関からの聞き取り調査,北海道農業生産技術体系の数値を用いる.
第三に,試算した新技術と従来の技術体系の稼働費用を比較し,前者が後者を下回る導入条件を明らかにする.
1. ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機および高効率大型6 畦狭畦収穫機の概要
まず,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機について,図 1 に示したように苗台に積まれた苗箱を,作業者がロボットアーム前方のコンベアベルト上に置くと,苗が送り込まれて,ロボットアームで苗を剥離し圃場へ定植する「移植機構」の搬送ベルトへ置かれて,苗が植えられる仕組みになっている.揚力 5.5 トン以上のトラクターを用い,作業速度 2 ~ 3 km/h で移植作業を行っている.畦幅は従来の技術体系では 60 cm であるが,開発された移植機は高効率大型 6 畦狭畦収穫機に合わせて cmにしている.従来の 4 畦の全自動移植機では,トラクターを運転するオペレータ 1 名,機械に乗って苗を補給する補助作業員 2 ~ 3 名を必要とするが,当移植機は 1 ~ 2 名ですむ.1 日当たり 4 ha 程度,すなわち 1 時間当たり 0.5 ha を見込んでいる.開発当初は 90 馬力(67.1 kW)程度のトラクターを想定しけん引型であったが,使用されるトラクターが 120 馬力(89.5 kW)以上のもので油圧揚力が大きいため,直装型に変更し,旋回時間の短縮,および作業速度の上昇による作業効率の上昇を実現している.従来の油圧によるリンク機構を,ロボットアームに変更したことにより,苗の剥離速度を調整可能になったので,苗の水管理に対する適応範囲が広がった.
次に,高効率大型 6 畦狭畦収穫機について,図 2 に示したように,ドイツ・HOLMER 社から輸入した大型収穫機を,わが国で栽培されているてん菜に合わせて改良したものである.全長 13.4 m,全幅 3.08 m,全高 4.00 m,重量 28.2 t で,動力は自走式である.作業の流れは,てん菜の頭をトッパーで抑え,スカルパーで茎葉を切断し,デフォリエーターで切断した茎葉を機械外へ排出する.さらに,掘り取り鍬が設置されているリフターで掘り取り,回転タービンを用いて土を落としながらエレベータでバンカー(タンク)内部へ送り込み,排出エレベータでワゴンへ搬入する仕組みになっている.この収穫機は,深植えした直播てん菜に対応したものであるため,2003 年に初めて日本に輸入され,試験的に収穫作業を行った時点では,比較的浅植えである移植てん菜に対しては,茎葉のみならず,根の一部分まで切ってしまう,深切り等,多数の問題点を抱えていた.現在は,深切りを防ぐために,スカルパーを日本の移植てん菜用に専用設計した「フィラーホイールスカルパー」に変更し,前から来るてん菜をタイヤ式で押さえつけ,地上部の茎葉を切るようにしている.さらに,センサーを機体の一番先であるリーフフィラーに装着し,ヘッド部分を畦に自動追従できるようにして,掘りこぼしを減少させる等,移植栽培の多いわが国のてん菜に対応できるように改造している.作業能率は,旋回および排出も含めて,1日当たり 6 ~ 7 ha,1時間当たり 0. 8 ha 程度を見込んでいる.
2.試算方法
1)試算式
ここでは,新技術であるロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機,高効率大型 6 畦狭畦収穫機と,従来の移植機,収穫機の稼働費用をそれぞれ試算して 1 ha 当たりに換算し,双方を比較する.作業機の稼働において,直接,必要とする費用である減価償却費,修理費等の固定費用,燃料費,家族もしくは雇用の労働費等の変動費用を稼働費用とする.従来の技術については,トラクターを動力に用いる 4 畦全自動移植機,および 1 畦収穫機とする.また,タッピング機能がついていない収穫機を用い,ビートタッパーを用いている事例も多く存在するので,この場合についても試算する.
稼働費用の試算式は以下の通りである.
稼働費用=変動費用+(固定費用/作業面積)………………………………………………………………………………(1)
変動費用=家族労働費+雇用労働費+燃料費………………………………………………………………………………… (2)
固定費用=作業機の減価償却費+修理費+車庫費+租税公課・保険+利息+管理費+雑費……(3)
作業機の減価償却費=作業機の取得価額/耐用年数………………………………………………………………………(4)
新技術について,稼働費用が従来技術のものより下回る状態であれば,導入した方が有利であるとし,これを導入条件とする.てん菜の作業面積を独立変数,稼働費用を従属変数として,移植機,収穫機の新技術と従来技術をそれぞれ試算して比較し,導入条件となりうる作業面積を明らかにする.
2)試算の前提条件
新技術の稼働費用を試算するに当たり,前提条件を表 1 のように設定した.
第一に,移植作業および収穫作業の適期と作業機の作業効率について,作業適期は現地実証の畑作経営法人および農業協同組合,農業改良普及センター等の聞き取り調査結果を検討して設定した.移植作業は 4 月下旬~ 5 月上旬のうち荒天を除く 15 日間,収穫作業は 10 月中旬~ 11 月上旬のうち荒天を除く 25 日間とした.
作業効率については,移植機は従来技術 3.03 時/ha,新技術 2.5 時/ha または 2.0 時/ha(注 4),収穫機は従来技術 4.33 時/ha,新技術 1.33 時/ha とする.ビートタッパーについては,従来技術 1.11 時/ha とする.新技術では,収穫機にタッピング機能が付設されており,タッパーは不要となるため,試算には含めない.これらの数値のうち,従来技術の値は北海道農業生産技術体系,新技術の値は試験結果を用いた(注 5).また,総作業時間のうち,打ち合わせ,準備,後片付け等を除く実作業率は 65%とした.これらの作業機 1 台当たり作業面積の上限は,適期と作業効率から,従来技術については移植機 35 ha,収穫機 40 ha,新技術については移植機 45 ha または 60 ha,収穫機 160 ha と試算できる.作業面積がこの上限を超える場合は,新規に購入して複数台で作業を行うものとする.
第二に,取得価格であるが,従来技術である 4 畦全自動移植機 と 1 畦収穫機,ビートタッパーについては,実証試験地からの聞き取り調査の結果および農業機械便覧に掲載されている希望小売価格の平均値を用いた.一方,新技術であるロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機,高効率大型 6 畦狭畦収穫機については,販売予定価格である 83,000 千円,14,000 千円とした(注 6).減価償却費はこの取得価額に耐用年数を除して求めるが,この耐用年数は法定耐用年数を用いた.
従来技術およびロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機の動力にはトラクターを用いるが,これはレンタルで利用することを想定し,1 日 50 千円とした.その理由は,次の通りである.農業者が所有するトラクターを用いる場合,他の作目との併用が行われるので,減価償却費を算出するに当たって,利用割合による案分を行う必要がある.だが,2 台,3 台と複数台になれば,利用割合はトラクターごとに異なると同時に,追加するにつれ変化し,算出が困難になる.したがって,ここでは,トラクターの利用時間もしくは日数ごとに利用料を支払うリース方式を採用することとした.
第三に,作業者数および支払われる賃金については,次の通りとした.作業者数については,従来技術を利用する場合,移植作業はオペレータ 1 名,苗を作業機に補充する補助作業員 2 名,収穫作業は収穫機のオペレータ 1 名,ビートタッパーのオペレータ 1 名とする.新技術を利用する場合,移植作業はオペレータ 1 名,補助作業員1名,収穫作業は収穫機にタッピング機能が付設されているので,オペレータ 1 名とする.賃金については,オペレータ 2,000 円/時,補助作業員 1,800 円/時とする.
第四に,作業機の燃料使用量および燃料費については,次の通りとした.燃料使用量について,従来技術は北海道農業生産技術体系の値を用い,移植機は 10.0 リットル/時,収穫機は 7.5 リットル/時,ビートタッパーは 6.0 リットル/時とした.新技術については,試験結果等の値を用い,移植機は 10.0 リットル/時,収穫機は 60.0 リットル/時とした.燃料費については,免税軽油を用いることとし,1 リットル当たり 72 円とした.
その他,作業機の取得の際に発生する租税公課・保険,利息,管理費,雑費については,実証試験地からの聞き取り調査をもとに,それぞれ取得価額の 0.05%,0%,1%,1%とした.修理費については,取得価額の 5%を見積もった.車庫費については,従来のものを利用することを前提とした場合と,新たに建設することを前提とした場合について想定し,それぞれ取得価額の 0%と車庫費係数である 3.5%と設定した.また,形状,傾斜,土質等の圃場条件が作業効率へ影響を与えることがあるが,ここでは試算に含めていない(注 7).
注 4: 移植作業,収穫作業ともに,作業者は午前 7 時集合,午後 6 時解散とした.試験結果より,移植機については,作業速度 2.5 km /時または 3.0 km /時,圃場作業効率 55%,収穫機については,作業速度 6.0 km /時とした.なお,圃場作業効率とは,総稼働時間に占める,旋回,苗補充,排出,圃場移動,停止等を除く走行時間の割合のことである.
従来方式の移植機について,実証畑作経営法人の聞き取り調査では 3 ha /日(1 日の稼働時間は9時間程度)であったことや,作業機の速度は新技術とほぼ同じであることをもとに試算した値を用いた.試算式は以下のとおりである.
0.33(ha/ 時)= 3,300(m2/ 時)= 2,500(m/ 時)× 4(畦)× 0.6(m/ 畦)× 55%
3.03(時/ha)= 1 / 0.33(ha/ 時)
注 5: 実証圃場における試験結果による.昨年度は 1 日当たり最大で 3 ha(2.5 時/ ha)程度であったが,本年度はトラクターの接続方法の直装式への変更等,作業機の改良により,最大で 4 ha(2.0 時/ha)程度でとなった.本稿では,念のため 1 時間当たり 2.5 ha,2.0 ha の双方について試算した.
注 6: ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機は,試作品の段階で改良中であり,高効率大型 6 畦狭畦収穫機は販売を開始して間もないため,ここでは開発に協力した機械メーカーが示した価格を「販売予定価格」として用いた.
注 7: 現在,作業受委託組織がこれらの新技術を運用しているが,1 区画当たり 1 ha 未満など作業不可能な圃場は受託の対象外としているため,考察の対象外とした.
試算結果は,図 3 ~ 5 のとおりとなった.
第一に,てん菜のロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機の稼働費用について見る.まず,作業機の効率が 2.5 時間/ ha の場合について,35 ~ 45 ha で新技術の稼働費用が従来に比べてやや低かった.70 ~ 90 ha について,車庫費を含まない試算では,新技術が従来をやや下回っているが,含んだ試算では双方はほぼ同等であった.これらの作業面積以外は新技術の稼働費用が従来技術を上回っていた.90 ha 以上の場合について,この移植機を追加購入して対応したならば,稼働費用は常に従来技術を上回るようになる.
次に,作業機の効率が 2.0 時間/ ha の場合について,当然ながら 2.5 時間/ ha より導入が容易となる.35 ~60 ha,105 ~ 120 ha,140 ha 以上で従来技術を利用した方が稼働費用は低く,有利となる.70 ~ 105 ha については,車庫費を含まない試算では,新技術が従来をやや下回っているが,含んだ試算では双方はほぼ同等と試算された.35 ~ 60 ha は新技術の移植機は1 台で作業可能,60 ha,120 ha はいずれも追加購入しなければならない作業面積であり,減価償却費等が上昇するため,新技術の方が費用高となるが,従来技術の移植機の追加購入が必要となる 70 ha 以上,140 ha 以上で従来技術の方が費用高となる.
第二に,てん菜の高効率大型 6 畦狭畦収穫機の稼働費用について見ると,収穫後の堆積を畑土場で行う場合,120 ha 以上で新技術が従来技術を下回ることが理解できる.車庫費を含めた場合においても,稼働費用自体は高くなるものの,作業面積についてはほぼ同じ傾向であった.てん菜の収穫適期は 10 月中旬から 11 月上旬にかけて,天候不順による作業不能日を除けば 20 ~ 25 日程度であるので,1 日 5 ~ 6 ha かそれ以上,収穫作業を行う必要がある.
以上より,てん菜の新技術導入に当たって,可能となる作業面積は,収穫機 120 ha 以上,移植機については作業効率が 2.5 時間/ha ならば 35 ~ 45 ha,2.0 時間/ ha ならば 35 ~ 60 ha,105 ~ 120 ha,140 ha 以上であることが理解できる.
しかしながら,新技術の導入効果が生じる作業面積について,移植機の作業効率が2.5 時間/ ha の場合,作業が可能な面積は最大で 45 ha であり,収穫機の稼働に最低限必要な 120 ha には届かない.作業が困難となった 75 ha 以上については,直播で対応するより他はない.一方,作業効率が 2.0 時間/ ha の場合は,稼働費用が従来技術より高い 60 ~ 70 ha および 120 ~ 140 ha,従来技術とほぼ同等である 70 ~ 105 ha 以外は新技術の導入が有利となるため,作業者の調達の可否によっては,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機 1 台導入により「移植は 60 ha まで,それ以外は直播」,2 台導入により「移植は 120 ha まで,それ以外は直播」,3 台導入により「すべての作業面積を移植で行う」等,様々な選択肢が可能となる.
すなわち,現在,開発中のてん菜の新技術を導入するにあたり,移植機の作業効率が高くなれば,作業者の調達の可否次第で,移植,直播の組み合わせについて,様々な選択肢が可能となるといえる.
本研究では,てん菜の新技術であるロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機,および高効率大型 6 畦狭畦収穫機に関して,従来の作業体系における稼働費用との比較より,導入可能な作業面積を検討した.
その結果,以下のことが明らかになった.第一に,高効率大型 6 畦狭畦収穫機の稼働費用は,従来の 1 畦収穫機のものを下回る作業面積は 120 ha 以上であった.第二に,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機について稼働費用が,従来の全自動4畦移植機のものを下回る作業面積は,作業効率が 2.5 時間/ ha ならば 35 ~ 45 ha であった.70 ~ 90 ha については,車庫費を含まなければ,新技術は従来技術を下回るが,含めれば双方の稼働費用はほぼ等しかった.この新技術である移植機 2 台の作業面積の上限である 90 ha を超過した場合,追加購入すれば,常に従来技術の稼働費用を上回ることも明らかになった.一方,作業効率が 2.0 時間/ ha の場合は,35 ~ 60 ha,105 ~ 120 ha,140 ha 以上で,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機の稼働費用が,従来を下回った.
以上より,新技術の導入可能な作業面積について,ロボット 6 畦狭畦用短紙筒移植機の作業効率が 2.5 時間/ha ならば,収穫機と移植機で差が生じ,この差分を移植機の追加購入ではなく,直播で対応せざるを得ないが,2.0 時間/ ha まで作業効率が上昇すれば,作業面積 60~ 105 ha および 120 ~ 140 ha 以外は新技術利用の方が有利であるため,作業者の調達の可否次第で,移植,直播の組み合わせについて,様々な選択肢が可能となることが理解できる.したがって,新技術を導入し,効率よく稼働されるためには,ロボット 6 畦狭畦短紙筒移植機の作業効率 2.0 時間/ ha を実現する必要がある.そのためには,トラクターへの接続は旋回時間を節約できる直装式の採用,農業者は作業機内の移植苗の詰まりを少なくするための育苗管理(水分等)の徹底,作業計画については,圃場間の移動の短縮化等,工夫が重要となる.
最後に残された課題について述べることとする.ここで示された作業面積は広大であるため,実際に稼働させるには,作業受委託組織を設立し,委託者を募る方法で行うこととなる.しかも,てん菜の移植作業の適期は 15 日程度,収穫作業の適期は 25 日程度と短い.この,わずかな期間で広大な面積を円滑にこなすためには,作業機を稼働させる上においてルールが必要となる.受託する圃場の条件,作業順,圃場間移動のあり方や,作業受委託組織の構成員のあり方等,検討すべき課題は少なくない.これらに関しては,今後の課題としたい.
本研究課題は,生研支援センター委託革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロ)「寒地畑作を担う多様な経営体を支援する省力技術および ICT を活用した精密農業の実証」で実施した.現地実証の畑作経営法人,糖業(製糖工場),機械メーカーおよび農業協同組合,農業改良普及センター等の関係機関の皆様より,多大なご協力を賜った.記して謝意を申し上げます.
すべての著者は開示すべき利益相反はない.