農研機構研究報告
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原著論文
ブドウ台木3品種の無毒化と,RT-PCRおよび次世代シーケンス解析を利用したウイルス・ウイロイド検定
千秋 祐也中島 育子土師 岳佐藤 明彦伊藤 隆男
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2021 年 2021 巻 7 号 p. 73-80

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Abstract

国内における生食用ブドウあるいは醸造用ブドウ栽培では,「 テレキ 5BB」(Vitis berlandieri × Vitis riparia),「グロワール」(V. riparia),「 101-14」(V. riparia × Vitis rupestris) などが代表的な台木品種として使用される.一部の台木母樹に, 新種ウイルスの感染事例が認められたことから, 熱処理と茎頂培養の併用による無毒化個体の作出を行った.得られた 16~ 18 個体について, 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により一次選抜を行った.選抜した 6 個体ずつを混合して,現時点で最も信頼性の高い新たな手法である次世代シーケンス解析を用いたウイルス診断を行った.その結果, 「テレキ 5BB」の一部の個体でウイロイドの陽性が認められた他は, 全ての供試個体においてウイルス感染は認められなかった.それぞれの 2 ~ 6 個体からはいずれのウイルス・ウイロイドも検出されず, 無毒化台木母樹としての利用が期待できる.  

緒言

ブドウは, 挿し木繁殖が非常に容易であるが, 自根栽培ではブドウネアブラムシ(フィロキセラ)の寄生により枯死を招く恐れがある.そのため, 抵抗性台木に接ぎ木をして栽培することが一般的に行われている.いくつかの台木品種があり, 品質や収量の向上, 土壌適応性の付与などにつながる特性も考慮して, 自園の土壌や品種に合わせて使い分けられている(植原 2000).代表的な台木としては, 「テレキ 5BB」(Vitis berlandieri × Vitis riparia, 別称 : コーベル 5BB),「 リパリア・グロワール・ド・モンペリエ 」(V. riparia, 以下, グロワール),「 101-14」(V. riparia × Vitis rupestris) などがあり, 「テレキ 5BB」は, 果実品質に優れ, 早熟性と広い土壌適応性から, 国内に最も広く普及している (植原 2000).醸造用ブドウの台木としては, 「グロワール」は果実収量に優れており, 剪定量が少なく樹勢が抑えられ,「101-14」は果実品質に優れる傾向が見られた(渡辺, 2016).

農研機構で保存する「テレキ5BB」母樹について,最近, ブドウファバウイルス (GFabV) とブドウジェミニウイルスA (GGVA) の感染が確認された (Chiaki et al. 2020a).GFabV は, 「グロワール」からも検出されている (Chiaki et al. 2020b).また, 葉の奇形やモザイク, 輪点などの症状を示すいくつかのブドウ品種から GFabV や GGVA が検出される事例も報告されている (Al Rwahnih et al. 2017, Chiaki et al. 2020a, 2020b, Fan et al. 2020).GFabV とGGVA は, 次世代シーケンス (NGS) 解析で, 近年発見された新種ウイルスである (Al Rwahnih et al. 2016, 2017).NGS 解析では, 試料中の遺伝子情報(塩基配列) の断片を網羅的に取得して, それらを数学的にアセンブルした配列(コンティグ) を得る.データベースに登録されている遺伝子情報に対し, BLAST による相同性検索を行うことで, ウイルス由来のコンティグを検出することができる.未知のウイルスであっても, 他のウイルスと一定の相同性を示せば,検出可能という利点もあり, 従来法に代わる網羅的な検定手法として期待されている (Al Rwahnih et al. 2015).

ウイルスの中には媒介虫により周囲に伝染するものがあり, ウイロイドでは汚染器具を介した伝染も報告されている (Habili 2017, Maliogka et al. 2015).栽培管理の中では, それらの対策に加えて, 感染個体を圃場内に持ち込まないことが重要である.ウイルス・ウイロイドはともに, 接ぎ木や挿し木などの栄養繁殖で伝染する(Maliogka et al. 2015).ブドウの場合, ウイロイドは実害が無いと考えて問題視していない (Habili 2017).一方で, ウイルスには重要な病原が多く, ブドウでは接ぎ木や挿し木が頻繁に行われるため, ウイルス感染のリスクには警戒が必要である(Maliogka et al. 2015).特に, 台木の増殖には挿し木が一般的に用いられており, ウイルス保毒台木は穂木品種への伝染源となる.その観点から,GFabV と GGVA の検出(Chiaki et al. 2020a, 2020b) を契機として, ウイルス無毒化台木母樹の重要性が再認識されることになった.本試験では, 上述の 3 台木品種における無毒化母樹の確保を目的として, 熱処理と茎頂培養を併用する無毒化処理 (Maliogka et al. 2015, 間瀬 2003)を, 2016 年から 2018 年にかけて随時行った.さらに,NGS 解析による網羅的なウイルス診断を併用してウイルス感染の有無を判定した.ブドウでの無毒化台木の利用は, 多様な穂木品種におけるウイルス被害防止のために非常に有益であり, ここに内容をまとめて紹介する.

材料および方法

無毒化処理には, 農研機構で保存している「テレキ5BB」(JP 番号: 116434), 「グロワール」(同: 116542),「101-14」(同: 116521) の挿し木苗の鉢植え個体を供試し, 2016 年, 2017 年, および2018 年にそれぞれ処理を行った (表 1).鉢植え個体の温度処理は, 4 月末~ 5 月末に, 昼 33℃/夜 28℃ (各 12 時間, 自然光) で開始し,1 週間後に昼 38℃/夜 33℃ (各 12 時間, 自然光) の熱処理の条件へ移行した.2017 年と 2018 年は加湿も同時に行った.熱処理開始から 1 ~ 2 ヶ月後に 2 ㎝程度の茎頂部分を採取し, 0.1% Tween 20 を含む次亜塩素酸ナトリウム溶液( 有効塩素濃度 1%)で 20 分間滅菌処理した.その後, 滅菌水で 2 回洗浄し, 葉原器 2 枚程度を含んだ 0.2 mm 程度の茎頂部分を, 実体顕微鏡下で無菌的に切り出して培養した.初代培地は, 1/2 MS 培地 (Murashige and Skoog 1962) に, 4.4 μM 6- ベンジルアミノプリン(BA), 2.3 μM カイネチン, 4 mg/L アデニン, 30 g/L ショ糖および 7 g/L 寒天を加えたものを用いた.「テレキ 5BB」と「グロワール」は, 約 2 ヶ月間の培養を行った.生育に遅れの見られた「101-14」は, 6 ヶ月からそれ以上の期間培養を継続した.生育の認められた個体は, 増殖培地 (1/2 MS 培地に 2.2 μM BA,30 g/L ショ糖および 7 g/L 寒天を添加) へ継代した.多くの個体は発根まで至ったものの, 良好な地上部の生育を示しながら無発根の個体が一部にあり, その場合は, 発根培地 (1/2 MS 培地に 0.1 μM ナフタレン酢酸, 30 g/L ショ糖および 7 g/L 寒天を加えた培地) へ継代して, 発根を促した (間瀬 2003).発根したものについては, 寒天培地を洗い流し,鹿沼土を鉢底に敷き, 細粒のバーミキュライトに植えつけた.加湿器付きインキュベーター中でプラスチック製の保湿可能な蓋つきの透明な育苗ケース ((株)アカサカ) に入れ, フタを少しずつずらして約 1 ヶ月後に完全に外した.その後加湿器付きインキュベーター外の培養棚に移し, そこでも同様の操作を行って, 外気に完全に順化させた.得られた順化個体は, 4 月~ 6 月にかけて順次直径 9 ㎝のポリポットに移植して生育を促進させたのち,1年後に素焼き鉢 (7 号鉢) に移植してさらに生育を促した.

2. 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)

今回供試した「テレキ 5BB」母樹では, GFabV と GGVA の他に, ホップ矮化ウイロイド (HpSVd) とブドウ黄色斑点ウイロイド 1 (GYSVd-1) の感染が認められている (Chiaki et al. 2020a).国内既報告のその他のウイルス (Nakaune and Nakano 2006) については, これまでの RT-PCR で, 「テレキ5BB」や「グロワール」母樹から検出された履歴が無いために今回は検査せず, これら 4 種のウイルス・ウイロイドのみを対象として RTPCR を行った.GGVA は DNA をゲノムに持つため, 逆転写反応は不要だが, 他の標的と操作を統一した.各個体の葉柄 (約 0.05 g) からの試料調整は, マルチビーズショッカーおよび 2 ml 破砕チューブと 18 mm 長メタルコーン (安井機械) を利用して, Nakaune and Nakano (2006) の粗抽出法に従って, 2,500 rpm 60 秒にて行った.2018 年は GFabV と GGVA のみを, 2019 年は 4 種ウイルス・ウイロイドを対象にして, 2020 年は追試の必要がある場合のみ, それぞれ RT-PCR を行った.2018 年の GGVA 検定のみ, プローブ法を用いたリアルタイム RT-PCR を行った.使用したプライマー・プローブは表 2 に示す.2018 年の GFabV 検定では OneStep RT-PCR Kit (Qiagen), 2019 ~ 2020 年の試験では PrimeScriptOne Step RT-PCR Kit v. 2( タカラバイオ) を利用して,Chiaki et al. (2020a, 2020b) の手法によりワンステップ反応にて行った.増幅産物を, 1.5% アガロースゲルに電気泳動し, 陽性対照と同じ泳動度を示す明瞭な断片を陽性と判定した.リアルタイムRT-PCR では, EXPRESS One-Step Superscript qRT-PCR Kit (Invitrogen) を使用し, StepOnePlus リアルタイム PCR システム (Applied Biosystems) にて, 50℃ 15 分後に, 95℃ 20 秒, 95℃ 1 秒,60℃ 20 秒を 45 サイクル行い, Ct 値 37 以下を陽性と判断した.

3. NGS 解析

RT-PCR の結果を受けて, GFabV と GGVA 非検出個体をそれぞれ選抜した.そのうち, 「グロワール」と「101-14」は, HpSVd および GYSVd-1 も非検出の各 6 個体を選んだ.「テレキ 5BB」では, ウイロイド陽性のものも含めて6 個体を選抜した.各個体から, 2019 年 8 月に葉を 3 枚ずつ採集し, 台木品種ごとに, それらの一部を混合して計 0.2 g として, Plant/Fungi Total RNA Purification kit (Norgen) にて全 RNA を抽出した. 全 RNA (2.3 ~ 4.3 μg: 57.4 ~ 109 ng/μL) を, ( 株)マクロジェン・ジャパンに送付し, TruSeq Stranded Total RNA with Ribo-Zero Plant (Illumina) と TruSeq Stranded Total RNA LT Sample Prep Kit (Illumina) を用いて, リボソーム RNA の除去と, ランダムプライマーによる cDNA ライブラリー作製を行った.それぞれのライブラリーは, NovaSeq 6000 シーケンサーシステム (Illumina) にて NGS 解析 (100 塩基, ペアエンド)を行った.得られたリードについて, CLC Genomics Workbench v.12.0.1 (Qiagen) を用いて, アダプター配列を取り除いた後, 120 塩基以上のコンティグにde novo アセンブリした.これらのコンティグについて,GenBank/EMBL/DDBJ データベース (ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/blast/db/, 2019 年7 月時点) に登録のウイルス・ウイロイド配列に対して, BLASTN による塩基配列相同性検索, および BLASTX によるアミノ酸配列相同性検索を行った.Lowest E-value が 0.001 以下の配列について, さらに, 同データベースの全生物種の配列に対する BLASTN および BLASTX を実行した.両方の結果にて「virus」をキーワードにしたフィルタリングを行い, 両結果ともに, 既知の植物ウイルス配列と最も高い相同性を示すコンティグが確認された場合は陽性と判断した.また, BLASTN 結果における「viroid」をキーワードにしたフィルタリングにより, ウイロイドと最も高い相同性を示すコンティグを検出した.さらに 2020 年 8 月, 上記と同様の手法により追試を行った.具体的には, 各台木品種について, 前年までにウイルス・ウイロイド非検出の 2 個体ずつを選抜し, 計 6 個体を全て混合した試料から 1.9 μg (48.6 ng/μL) の全 RNA を得た.(株) マクロジェン・ジャパンに送付して NGS 解析を行い, CLC Genomics Workbench v.20.0.4 を用いてコンティグをアセンブルした.BLAST 検索は, 2020 年 9 月時点の更新データベースに対して実施した.

結果

1. 無毒化処理とRT-PCR

熱処理と茎頂培養によって, 「テレキ 5BB」では 41 個の茎頂から 20 個体, 「グロワール」は 30 個の茎頂から 17 個体, 「101-14」は 60 個の茎頂から 19 個体の順化個体を得ることができた (表 1).各品種での獲得割合は 32 ~ 57% であり, 生育に遅れの見られた「101-14」が最も低率であった (表 1).それらのうち, 良好な生育を示した 16 ~ 18 個体をそれぞれ RT-PCR に供試した.RTPCR による検定結果が全て陰性であった個体の割合は 17~56%であり,「 テレキ 5BB」が最も低率であった(表 1).RT-PCR の詳細な結果は表 3 にまとめた.2019 年に行ったウイロイド検定では, 反復を取ったところ, いくつかの試料で反復結果に矛盾が見られ, その一部には不明瞭な増幅断片のみが確認されるものがあった.非特異増幅なのか, 試料の汚染によるのか, 試料中のウイロイド濃度が低いためなのか, 2019 年の時点では判断を保留した.個体の生育にともなうウイロイド濃度の上昇も期待して 2020 年まで待ち, あらためて採集した試料を用いて追試を行い, 特異的増幅の有無を確定した.調べた範囲における全ての品種について, いずれの個体からも GFabV は検出されなかった.GGVA は, 「テレキ 5BB」7 個体からのみ検出された.また,「 テレキ 5BB」の 8 個体から HpSVd, 4 個体からは GYSVd-1 が,それぞれ検出された.「グロワール」と「101-14」については, それぞれ 8 個体と 11 個体から HpSVd が検出されたものの,GYSVd-1 はいずれの個体からも検出されなかった.

2. NGS 解析

2019 年の NGS 解析では, 「テレキ 5BB」から 48,907,782, 「グロワール」から 58,541,926, 「101-14」からは 40,030,422 のリードが得られ, それぞれ 95,255,126,800, 112,467 のコンティグがアセンブルされた.BLAST 検索を行った結果 (表 3), 既知の植物ウイルスと最も高い相同性を示すコンティグはいずれからも検出されなかった.「グロワール」と「101-14」からは, ウイロイドと最も高い塩基配列相同性を示すものも確認されなかった.「テレキ 5BB」からは, HpSVd (アクセッション番号 MF979531) と 100% 塩基配列相同性を示す 297 塩基のコンティグが 1 つと, GYSVd-1 (AB028466)と 100% 塩基配列相同性を示す 368 塩基のコンティグが 1 つ確認された.NGS 解析と RT-PCR の結果を比較すると (表 3), 「グロワール」と「101-14」では両者が完全に一致した.「テレキ 5BB」は, RT-PCR で HpSVd と GYSVd-1 陽性を確認した個体を含めて NGS 解析をしており, NGS 解析でも両ウイロイドだけが検出された.そのうち, RT-PCR で両ウイロイドも検出されなかった「テレキ 5BB」2 個体については,「 グロワール」と「101-14」各 2 個体とを混合して 2020 年にも NGS 解析による追試を実施した (表 3).その結果, 56,465,010 のリードが得られ, 69,371 のコンティグにアセンブルされた.BLAST 検索を行ったところ, 既知の植物ウイルスおよびウイロイドに由来するコンティグは全く検出されなかった (表 3).

考察

国内でのブドウは, 生食用の需要が圧倒的に大きく,消費者のニーズに対応した多様な品種の育成が続いている.一方で, 近年, 国内産のブドウのみを原料に醸造したワインが「日本ワイン」と定義されたことや新規ワイナリーの増加にともない, 醸造用ブドウの新植が活発化している.これらブドウ品種の需要増に合わせて, 健全種苗供給への要望が高まっている.ウイルスは, 果実品質や樹勢の低下をもたらすものが知られており, 種苗管理における対策がより一層求められている (Maliogka et al. 2015, 間瀬 2003).農研機構では, 育成品種の無毒化処理を行うとともに, 国内既報告のウイルスを対象とした RT-PCR による検定を実施してきた (千秋, 伊藤 2019,間瀬 2003).RT-PCR は, 比較的簡易な操作で迅速・高感度に対象を検出でき, 大量検定にも対応できる利点があるが, 標的以外は検出できないという欠点がある.存在自体が知られていなかった GFabV と GGVA は, RTPCR による検定対象となっていなかったため, 国内に広まった可能性が考えられる(千秋 , 伊藤 2019).

ブドウの検定で世界的に用いられている従来法としては, 生物検定, 血清診断, RT-PCR が挙げられる(Maliogka et al. 2015).生物検定は, 精度が高いものの,病原体の特定まではできず, 植物の管理にかかる多大な負担, 結果の判定に年単位の時間を要するなどのデメリットも多い.NGS 解析では, 生物検定と同等以上に高精度な検定結果を比較的短期間で得ることができる (Al Rwahnih et al. 2015).ブドウでは, 2018 年の時点で, 全世界で 84 種類ものウイルス種の感染が報告されて, その数は増え続けている (Martelli 2018).国内でも, 多くのウイルス種が見つかっており (千秋, 伊藤 2019), 血清診断や RT-PCR だけでこれらを精査することは, 費用と労力面の負担が大きい.その点では, 1 つの反応で網羅的なウイルス診断ができる NGS 解析の利用価値は非常に高い.一方で, 標的遺伝子が誤って試料中に混入した場合は偽陽性の結果が生じ, データベースに未登録のウイルスの場合や, 採取時期や採取部位の違いにより低濃度で存在する場合に検定漏れする可能性は否定できない.しかし, それらは, 他の手法を用いても同様に起こりうるリスクである.また, 従来法で無毒と判断されてきた穂木・台木品種から NGS 解析でウイルスが検出される状況となっており (Chiaki et al. 2020a), 無毒化検定にも NGS 解析の手法を積極的に取り入れることが, より確実な判断につながると考える.Kreuze et al. (2009)によるサツマイモのウイルス検定では, small RNA を用いた NGS 解析で 3 万リードあれば信頼性のある結果が得られると推察している.Al Rwahnih et al. (2015) によるブドウの 2 本鎖 RNA を用いた NGS 解析では, 6 百万リードから生物検定と同等以上に正確な診断結果が得られている.今回の NGS 解析では, 経費節約と効率化のために 6 試料を混合して 1 反応を行い, 1 試料あたり 6.7 ~ 9.7 百万リードを得た (4 ~ 5.8 千万リード/6 試料).「テレキ 5BB」に関して, RT-PCR で GYSVd-1 陽性の 1 試料を含む 6 試料を混合して実施した 2019 年の NGS 解析でも GYSVd-1 が検出されている (表 3).それぞれの NGS 解析について, 対象とする RNA や解析の手法は様々であり, 一概に論じることはできないが, 今回のNGS 解析で RT-PCR と同程度の検出感度は得られたと考えている.結果的に, RT-PCR による一次選抜と,NGS 解析による二次選抜において, 両者の結果には全て一致が見られた (表 3).最終的には, ウイルス・ウイロイドが全く検出されない「グロワール」と「101-14」は各 6 個体,「テレキ5BB」は 2 個体が得られた.無毒化処理を開始した 2016 年は, 担当者が交代したばかりで処理に不慣れな時期であり,「テレキ 5BB」では陰性個体が全く得られず, 「101-14」も順化個体の獲得率がわずかに 10%で, 陰性個体も得られなかった(表 1).この処理年の影響も,「テレキ 5BB」で無毒化個体の割合が低くなった一因と推察する.これらの 2 ~ 6 個体は, 無毒化台木母樹としての保存を予定している.今後は, 品種母樹を保存・育成するための台木として利用する他, 将来は, 苗木業者への無毒化台木の供給源としての活用も検討していきたい.無毒化台木の利用は, ウイルス病防除の基礎となる対策であり, ブドウの安定生産に大きく貢献できるものと考えている。

謝辞

吉田知恵氏には茎頂培養をしていただいた.ここに記して感謝の意を表する.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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