農研機構研究報告
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原著論文
良日持ち性ダリア品種‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’ および‘エターニティルージュ’の育成とその特性
小野崎 隆 東 未来
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2022 年 2022 巻 10 号 p. 1-19

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Abstract

日持ち性は花きの重要形質であり,2014 年から日持ち性の向上を目標としたダリア育種を開始した.22 品種を育種材料として品種間交雑を行い,切り花の日持ち日数を指標とした選抜とその選抜系統間での交雑を 2 世代繰り返した.2017~2019 年に系統適応性検定試験を実施した結果,系統 505-13,629-18 および 606-46 の 3 系統が新品種候補として有望と判定され,2020 年 4 月に,それぞれ‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’および‘エターニティルージュ’として品種登録出願した.3 品種の最大の特徴は,優れた日持ち性である.2018 年および 2019 年の調査で,切り花用主要品種‘かまくら’の日持ち日数は,蒸留水で 3.9~6.2 日,日持ち延長効果のある GLA(1%グルコース,0.5 mL・L-1 kathon CG および 50 mg・L-1 硫酸アルミニウムから構成される品質保持剤)で 6.0~8.0 日であったが,3 品種の日持ち日数は,蒸留水で 6.3~12.0 日(‘かまくら’の 1.4~2.2 倍),GLA で 9.0~13.4 日(‘かまくら’の 1.1~2.0 倍)であった.2019 年に全国 5 カ所で栽培時期の異なる作型で栽培した切り花も同様の良日持ち性を示したことから,3 品種の優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.

緒言

切り花の商品価値を高めるには,花が美しいだけではなく,長持ちすること,すなわち良日持ち性が重要であり, 日持ち性の向上は花き品種開発の主要な育種目標の一つである(小野崎 2021).良日持ち性は消費者からの要望が高く,近年では切り花の日持ち日数を明示してそれを保証する日持ち保証販売の取り組みも始まっている(市村 2016松島 2015).

ダリア(Dahlia variabilis)はキク科ダリア属の球根植物であり,豪華な花容と豊富な花型,多彩な花色が注目され,全国的に生産・消費が拡大している新規有望花き品目である.(株)大田花き花の生活研究所の推定によると,2020 年のダリアの生産額は 28.2 億円と推定されており,今後も切り花の重要品目としての成長が期待されている.

ダリアの品質保持技術については,出荷前および湿式での輸送中にグルコースなどの糖質と抗菌剤を連続処理することにより,ダリア切り花の日持ちを1.5倍程度延長できることが明らかになっている(市村 2016).また,サイトカイニンの一種である 6-ベンジルアミノプリン(6-benzylaminopurine, 以後BA)を花弁全体に散布処理をすることにより,日持ちが約 1.3 倍に延長する(Shimizu-Yumoto and Ichimura 2013).ダリア 27 品種を用いて BA 製剤散布処理による日持ち延長効果を冬季および夏季に調査した辻本ら(2016)の報告では,BA 処理は品種や季節に関わらず日持ち延長に効果があり,広範な品種に利用可能であることが示されている.

しかしながら,ダリアは他種の花と比較すると切り花の日持ち性に劣り,一般的な品種の場合,常温(23℃)で 1 週間の日持ち保証は困難である(市村ら 2011).また,乾式輸送では水揚げ不良になりやすく高温下では鮮度低下が著しいため,低温下での湿式輸送が必要であることや,茎には空洞があるため観賞中に茎が腐りやすいことなど,収穫後の取扱いが難しいため,家庭等における消費は十分に広がっていない(市村 2016).

ダリアは日持ちが短い代表品目であるが,その日持ちには品種間差があることが報告されている(高橋ら 2016, 辻本ら 2016, 中嶋ら 2019, Onozaki and Azuma 2019).このことはダリアの日持ち性に関する遺伝的変異の存在を示唆しており,育種による日持ち性向上の可能性を示している.生産者,市場関係者などの実需者や消費者から,遺伝的に日持ち性に優れるダリア品種の育成が強く望まれているが,これまでダリアの日持ち性向上を目標とした育種は全く行われてこなかった.

著者らは,1992 年からカーネーションの交雑育種による日持ち性の向上に関する研究に取り組み,日持ちの良い系統同士の交雑を繰り返すことでカーネーションの日持ち性の改良が可能であることを明らかにした(小野崎 2016Onozaki 2018).2005 年には老化時のエチレン生成量が極めて少なく,従来品種の約3倍の優れた日持ち性を有するスタンダード系品種‘ミラクルルージュ’,‘ミラクルシンフォニー’を育成した(小野崎ら 2006).また,愛知県農業総合試験場と農研機構は 2006 年から日持ち性に優れるスプレーカーネーションの共同開発に取り組み,農研機構育成のエチレン低生成能で日持ち性に優れる選抜系統 108-44(Onozaki et al. 2006)を用いて,2015 年に淡桃色花色の良日持ち性スプレー系品種‘カーネ愛農 1 号’を育成した(堀田ら 2016).さらに 2021 年には‘カーネ愛農 1 号’の枝変わりにより,濃桃色花色の良日持ち性スプレー系品種‘カーネフジ愛農 1 号’が育成されている(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/nogyo-keiei/carnation2021.html,2021 年 7 月 1 日 参照.).そこで著者らは,カーネーション育種研究で確立した日持ち性の評価・選抜法をダリアに適用して,日持ち性に優れるダリアの育種を 2014 年から開始した.

農林水産省委託プロジェクト研究「収益力向上のための研究開発」のうちの「国産花きの国際競争力強化のための研究開発」が,2015~2019 年の 5 年間の研究期間で実施された.同プロジェクトの「日持ち性等に優れた性質を持つ新規有望品目の育成」の実施課題で,農研機構野菜花き研究部門(茨城県つくば市; 以後,農研機構野花研)を中心に,秋田県農業試験場(秋田県秋田市; 以後,秋田農試),奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市; 以後,奈良農研セ)と日持ち性に優れるダリアの育種に関する共同研究を行った.農研機構野花研は良日持ち性ダリアの選抜・育成を担当し,秋田農試はダリアの日持ち性と施肥条件との関係の解明,奈良農研セは日持ち性品種間差に関わる要因の解析を担当した.2017 年以降は,得られた日持ち性に優れる有望系統について,夏秋期出荷作型(秋田農試)と冬春期出荷作型(奈良農研セ)での系統適応性評価を行った.また,冬春期出荷作型の系統適応性検定試験場所として,2018 年から高知県農業技術センター(高知県南国市; 以後,高知農技セ),2019 年から宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市; 以後,宮崎総農試)を加えて,有望系統の全国的な系統適応性評価を実施した.

その結果,全国 5 カ所のどこで栽培しても良日持ち性を示し,難露心性,花型,鮮明な花色,収量性などの一般形質についても対照品種と同等以上の特性を示す3品種‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’および‘エターニティルージュ’を育成したので,その育成経過と品種特性の概要について報告する.

育成経過

1)本研究における日持ち日数の評価方法

 日持ち日数の評価については,外花弁が水平状態に達した開花ステージで切り花を収穫し,調査に供した.切り花は茎長40cmに切り揃えた後,最上部の葉以外は除去し,蒸留水,抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)および GLA 液(1%グルコース,kathon CG 0.5 mL・L-1および硫酸アルミニウム50mg・L-1から構成される品質保持剤,Ichimura et al. 2006)を入れた 300 mL または 500 mL 容のコニカルビーカーに 1~3 本ずつ挿し,気温 23℃,相対湿度 70%,蛍光灯(光強度:10 μmol・m-2・s-1)で 12 時間日長に調節した恒温室内に置き,花全体の 1/3 以上の花弁に萎凋や褐変が確認された日までの日数を調査した.

なお,本研究で抗菌剤として用いたイソチアゾリン系抗菌剤 kathon CG(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株))原液には,抗菌作用のある有効成分として 11.3 g・L-1 の 5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMIT)と 3.9 g・L-1の 2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)が含まれている.

2)ダリアの日持ち性向上を目標とした交雑育種

日持ち性向上を目的とした育種を開始するために,2014 年秋に,Onozaki and Azuma(2019)により日持ち性が明らかにされた切り花用ダリア 24 品種(図 1)のうち,‘ブラックキャット’と‘銀映’を除く 22 品種間で 45 組み合わせの交雑を行った(表 1).種子親となる花の花弁をすべて除去し,虫による交雑を防ぐため袋掛けを行った.次に,雌ずいが成熟した交雑適期の花に花粉親の花粉を受粉し,再び袋掛けした.受粉後 1 か月以上株上で莢を成熟させた後,降霜前の 11 月中下旬に莢を収穫してハウス内で乾燥させ,交雑組み合わせ毎に結実程度,種子数を調査して採種を行った(小野崎 2018).

2015 年 4 月 23 日または 5 月 14 日に 2014 年秋の品種間交雑で得られた 1,109 粒の種子を播種し,発芽した 439 実生のうち育苗中に枯死した 20 実生を除く 419 実生を 6 月 11 日または 7 月 7 日に露地圃場へ定植し,無摘心で栽培した.開花始めの 7 月 17 日から 9 月 18 日までに開花した 314 実生を第 1 世代とした.第 1 世代各個体の切り花について,抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)を用いて前項で説明した方法で日持ち日数を調査した.調査期間内(7/17~9/18)に開花した切り花は,1 実生当たり 10 本を上限に,日持ち日数の調査対象として収穫・調査した.各実生の平均日持ち日数,交雑組み合わせ別の平均日持ち日数,第 1 世代の平均日持ち日数を算出した(表 1).調査期間内の総調査切り花本数は 944 本であり,1 実生当たりの平均調査切り花数は 3.0 本であった(データ略).2015 年 10 月に日持ち日数 5.1 日以上の 64 系統を一次選抜し(第 1 世代選抜系統),さらに第 1 世代選抜系統間で 29 組み合わせの交雑を行った(表 2).

2016 年 4 月 4 日に第 1 世代選抜系統間での交雑で得られた 571 粒を播種し,発芽した 355 実生のうち育苗中に枯死した 6 実生を除く 349 実生を 5 月 26 日に露地圃場へ定植し,無摘心で栽培した.開花始めの 7 月 1 日から 9 月 16 日までに開花した 308 実生を第 2 世代とした.第 2 世代各個体の日持ち日数を第 1 世代と同様の方法で調査した.調査期間内(7/1~9/16)に開花した切り花は,1 実生当たり 10 本を上限に,日持ち日数の調査対象として収穫・調査した.各実生の平均日持ち日数,交雑組み合わせ別平均日持ち日数,第 2 世代の平均日持ち日数を算出した(表 2).調査期間内の総調査切り花本数は 1,044 本であり,1 実生当たりの平均調査切り花数は 3.0 本であった(データ略).2016 年 10 月に日持ち日数 6.0 日以上の 73 系統を一次選抜した(第 2 世代選抜系統).

3)‘エターニティトーチ’(系統 505-13)の日持ち性の再評価および二次選抜

系統 505-13 は第 1 世代 314 実生から一次選抜した 64 系統の一つであり,種子親‘ミッチャン’に花粉親‘黒蝶’を交雑した後代である(図 2).

2016 年に栽培時期や栽培法の異なる 3 区(冬春期・施設・鉢栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培)で第 1 世代一次選抜系統の日持ち性を再評価して,2016 年秋に 11 系統を二次選抜した(表 3).系統 505-13 の日持ち日数は,冬春期・施設・鉢栽培の蒸留水区で 9.6 日(‘春のリズム’の 1.8 倍),GLA 区で 12.9 日(‘春のリズム’の 1.8 倍),夏秋期・ハウス・鉢栽培の蒸留水区で 8.3 日(‘かまくら’の 1.7 倍)と優れていた.暗赤色の花色が季節を問わず安定しており,花が大きく観賞性が高い,露心しないなど,日持ち性以外の形質にも優れていた.そこで,第 1 世代系統 505-13 を品種候補の一つとして,2017~2019 年度の 3 年間,系統適応性検定試験に供試した.

4)‘エターニティロマンス’(系統 629-18),‘エターニティルージュ’(系統 606-46)の日持ち性の再評価および二次選抜

系統 629-18 および 606-46 は第 2 世代 308 実生から一次選抜した 73 系統中の 2 系統であり,それぞれ,種子親系統 505-46 と花粉親系統 569-63,種子親系統 513-53 と花粉親系統 512-2 の交雑後代である(図 2).

2017 年に栽培時期や栽培法の異なる 3 区(冬春期・施設・鉢栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培)で第 2 世代一次選抜系統の日持ち性を再評価して,2017 年秋に 10 系統を二次選抜した(表 4).系統 629-18 の日持ち日数は,蒸留水区で 6.4~7.8 日(‘かまくら’の 1.3~1.7 倍),GLA 区で 9.0~10.4 日(‘かまくら’の 1.1~1.4 倍)と比較的優れていた.きれいな桃色花色で,早生であり収量性に優れる,花が比較的大きく観賞性が高い,露地圃場で 10 月下旬まで露心しないなど,日持ち性以外の形質にも優れていた.系統 606-46 の日持ち日数は,蒸留水区で 5.6~9.6 日(‘かまくら’の 1.5~1.9 倍),GLA 区で 11.4~12.2 日(‘かまくら’の 1.4~1.6 倍)と優れていた.早生であり収量性に優れる,花色がくすみのないきれいな深赤色である,花型が整っている,露心しにくいなど,日持ち性以外の形質にも優れていた.そこで,第 2 世代系統 629-18 および 606-46 を品種化候補系統として,2018 および 2019 年度の 2 年間,系統適応性検定試験に供試した.

5)‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’および‘エターニティルージュ’の最終選抜および品種登録出願

系統 505-13 は 3 年間,系統 629-18,606-46 は 2 年間の系統適応性検定試験を実施した結果,育成地だけでなく,秋田農試,奈良農研セ,高知農技セおよび宮崎総農試の栽培環境下でも良日持ち性を示し,その他の形質も対照品種と同等の特性を示したことから,良日持ち性のダリア品種として有望と判断した.以上のことから,2020 年 4 月 10 日に,それぞれ,‘エターニティトーチ’(品種登録出願番号: 第 34643 号,出願公表: 2020 年 7 月 16 日),‘エターニティロマンス’(第 34641 号,2020 年 7 月 16 日),‘エターニティルージュ’(第 34642 号,2020 年 8 月 13 日)として品種登録出願した.

品種の特性

1)栽培概要

農研機構野花研において,2017 年は‘エターニティトーチ’,2018 および 2019 年は‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’を供試し,対照品種としては切り花用ダリアの代表品種である‘ミッチャン’,‘黒蝶’,‘かまくら’の 3 品種を用いた.2017~2019 年度は夏秋期・露地栽培,2019 年度には冬春期・施設・土耕栽培の作型を追加して栽培し,特性調査を行った(表 5).夏秋期・露地栽培については,基肥として BM ようりん(朝日工業(株),N:PO:KO=0:20:0)を 16 kg/10 a,苦土入り CDU 複合燐加安(ジェイカムアグリ(株),N:PO:KO=12:12:12)を N施用量が 20 kg/10 a となるように施用した.5 月 14~17 日に露地圃場の幅 60 cm の畝に株間 40 cm で挿し芽苗を定植し,6 月 17~20 日に 1 回目の摘心,7 月 14~18 日に 2 回目の摘心を行った(表 5).

2019年の冬春期・施設・土耕栽培では,基肥として,BM ようりん(朝日工業(株),N:PO:KO =0:20:0)を 40 g/m2,被覆燐硝安加里エコロング 413-180(ジェイカムアグリ(株),N:PO:KO=14:11:13)を 170 g/m2 施用した.2019 年 8 月 1 日に挿し芽苗を温室内の幅 60 cm の畝に株間 40 cm で定植した.定植から 9 月 3 日までは遮光下で栽培した.8 月 19 日から赤色 LED(DPDL-R-9W,鍋清(株))で5:00~7:00,16:00~19:30 に電照を行い,14.5 時間日長とした.8 月 30 日に 1 回目摘心を行い,10 月 2 日に 2 回目摘心を行った.10 月下旬から最低夜温 10℃で加温した.

2)日持ち性

日持ち調査については,前項の特性調査の栽培で採花した切り花に加えて,冬春期・施設・鉢栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培の切り花を供試して行った(表 5).鉢用土には市販の基肥入り培養土(ロイヤル培養土,刀川平和農園(株))を用いた.冬春期・施設・鉢栽培では, 2017 および 2018 年は電照用電球(K-RD110V75W/D,パナソニック),2019 年は赤色 LED(DPDL-R-9W,鍋清(株))で電照を行い,14.5 時間日長,10~12℃加温条件の温室内で栽培した.夏秋期・ハウス・鉢栽培では,5~10 月には寒冷紗(クールホワイト 45-50%遮光,ダイオ化成(株))で遮光を行い,無加温,自然日長条件のハウス内で栽培した.それぞれの栽培から採花した切り花を,恒温室(気温 23℃,相対湿度 70%,光強度 10 μmol・m-2・s-1 の蛍光灯で 12 時間日長)内で日持ち日数を調査し,切り花用主要品種‘かまくら’の日持ち日数と比較した(表 6, 7, 8).

日持ち調査は,2017 および 2018 年は蒸留水区,GLA 区の 2 区,2019 年は蒸留水区,GLA 区に加えて,GLA+BA 散布区を設け,BA 剤として市販のミラクルミスト ff(クリザール・ジャパン(株))を切り花収穫・調整後,収穫当日の花全体に散布した.

2017 年度の調査では,‘エターニティトーチ’の日持ち日数は,冬春期・施設・鉢栽培では,蒸留水区が 9.4 日(‘かまくら’の 1.7 倍),GLA 区が 14.6 日(‘かまくら’の 1.7 倍)と優れた日持ち性を示した(表 6).夏秋期・露地栽培では,9 月調査の日持ち日数は,蒸留水区で 6.8 日(‘かまくら’の 1.5 倍),GLA 区で 13.2 日(‘かまくら’の 2.1倍)と優れていたが,10 月調査の日持ち日数は,蒸留水区で 5.8 日(‘かまくら’の 1.0 倍),GLA 区で 9.4 日(‘かまくら’の 1.3 倍)とやや低下した.比較的日持ち性の良い品種である‘ミッチャン’との比較では,10 月調査の蒸留水区を除けば,‘エターニティトーチ’の日持ち日数は‘ミッチャン’よりも蒸留水区で 2.0 日,GLA 区で 1.4~7.0 日優れていた.

2018 年の調査では,‘かまくら’の日持ち日数は,蒸留水で 5.0~6.2 日,GLA 区で 6.0~7.6 日であったが,3 品種の日持ち日数は,蒸留水区で 6.9~12.0 日(‘かまくら’の 1.4~2.1 倍),GLA 区で 9.8~13.4 日(‘かまくら’の 1.4~2.0倍)と,優れた日持ちを示した(表 7).‘ミッチャン’との比較では,夏秋期・ハウス・鉢栽培における‘エターニティロマンス’の蒸留水区を除けば,3 品種の日持ち日数は‘ミッチャン’よりも優れていた.

2019 年の調査では,‘かまくら’の日持ち日数は,蒸留水区で 3.9~5.2 日,GLA 区で 6.3~8.0 日,GLA+BA 区で 8.4~9.8 日であったが,3 品種の日持ち日数は,蒸留水区で 6.3~10.0 日(‘かまくら’の 1.5~2.2 倍),GLA 区で 9.0~12.3 日(‘かまくら’の 1.1~1.7 倍),GLA+BA 区で 9.8~15.6 日(‘かまくら’の 1.1~1.7 倍)の優れた日持ちを示した(表 8).‘エターニティトーチ’では,GLA+BA 区は GLA 区とほぼ同等の日持ち日数で,他の品種と比較すると,BA 散布処理による十分な日持ち延長効果は認められなかった.‘ミッチャン’との比較では,3 品種の日持ち日数は‘ミッチャン’と同等または上回っていた.

以上のように,‘エターニティトーチ’は 3 年間の日持ち性調査,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’は 2 年間の調査で,栽培年度,季節,栽培方法の違いにかかわらず,安定して優れた日持ち性を示した.したがって,3 品種の優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.

図 3 に,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’と一般品種‘ポートライトペアビューティ’を同じ日に収穫して抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)に生けて,0,6,9 日目の切り花の様相を示した.‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’は,一般品種‘ポートライトペアビューティ’の約 2 倍の良日持ち性を示した.

3)一般的特性

‘エターニティトーチ’

開花始期がやや遅い晩生品種である.晩生の対照品種‘黒蝶’に比較して,2017年の夏秋期・露地では 2 日遅く,2018 年の夏秋期・露地では 18 日早く,2019 年の夏秋期・露地では 2 日早かった(表 9).一方,2019 年冬春期・施設では,‘黒蝶’に比較して 9 日遅かった.以上のように,3 年間の試作結果により,‘黒蝶’とほぼ同程度に晩生と判断される.露心程度はいずれも 0%で露心は発生しない.2019 年夏秋期露地では,9 月採花の切り花で 8 月の異常高温遭遇による奇形花の発生が見られたが,10 月以降の発生はなかった.最大花径は栽培時期に関わらず安定しており,夏秋期では 14.2~15.1 cm と‘黒蝶’と同等~やや小さく,冬春期では 15.2 cm と‘黒蝶’よりも 5.0 cm 小さかった.花型はセミカクタス咲き(花弁の先端に向かって花弁が外側に反っている花型)であり,花容が豪華でインパクトがあり,観賞性が高い(図 4).花色については,夏秋期3作,冬春期 1 作とも暗赤色(RHS チャート番号 187B,Dark Red)で花色が安定していた(図 4).挿し芽発根率は,2018 年が 84.6%と対照品種をやや上回り,2019 年が 60.6%と対照品種と同程度であった.

‘エターニティロマンス’

開花始期が早い早生品種である.2018 年の夏秋期・露地では,9 月 6 日に開花し,‘黒蝶’よりも約 1 か月開花が早かった(表 9).2019 年の夏秋期・露地では,7 月下旬~8 月中旬の高温少雨のため開花始期が遅延し,9 月 20 日の開花であったが,対照 3 品種に比較して 8~11 日早かった.一方,2019 年の冬春期・施設では,‘かまくら’よりも 4 日遅かったが,‘黒蝶’より 4 日,‘ミッチャン’より 21 日早かった.夏秋期・露地では生産性が高く,2018 年は‘かまくら’と同程度,2019 年は‘かまくら’を上回る収量性を示した.露心程度は,自然日長の夏秋期・露地栽培では 0~15%であり,電照を行い 14.5 時間日長とした冬春期・施設では 0%で露心は発生しなかった.最大花径は,夏秋期では,11.3~11.6 cm,冬春期では,14.0 cm と‘かまくら’と同等の中大輪で,切り花にボリュームがあった.花型はフォーマルデコラ咲き(幅の広い舟形の花弁が幾重にも重なるダリアの代表的な花型)である(図 5).花色については,夏秋期 2 作では紫桃色(RHS チャート番号 N74D, Moderate Purplish Pink),冬春期 1 作では薄紫色(RHS チャート番号 75A, Light Purple)であった(図 5)が,花色差異は僅かであった.挿し芽発根率は,2018 年が 85.0%と対照品種をやや上回り,2019 年が 53.0%と対照品種をやや下回る程度であった.

‘エターニティルージュ’

開花始期が早い早生品種である.2018 年の夏秋期・露地では,9 月 6 日に開花し,‘黒蝶’よりも約 1 か月開花が早かった(表 9).2019 年の夏秋期・露地では,7 月下旬~8 月中旬の高温少雨のため開花始期が遅延し,9 月 18 日の開花であったが,対照 3 品種に比較して 10~13 日早かった.2019 年の冬春期・施設では,‘かまくら’よりも 6 日,‘黒蝶’より 14 日,‘ミッチャン’より 1 か月早かった.夏秋期・露地,冬春期・施設とも生産性が高く,対照 3 品種を上回る収量性を示した.露心程度は,自然日長の夏秋期露地栽培では 0~6.7%であり,対照 3 品種に比較して露心しにくかった.電照を行った冬春期・施設では露心は全く発生しなかった.最大花径は,夏秋期・露地では,10 cm 程度,冬春期・施設では 11.6 cm と,‘ミッチャン’と同等~やや大きい中輪であり,特に夏秋期には切り花調整重が重く,切り花にボリュームがあった.花型はフォーマルデコラ咲きである(図 6).花色については,夏秋期 2 作では深赤色(RHS チャート番号 60B, Strong Purplish Red),冬春期 1 作では深赤色(RHS チャート番号 61B, Strong Purplish Red)であった(図 6)が,花色差異は僅かであった.挿し芽発根率は,2018 年が 68.8%,2019 年が 63.0%と対照品種と同等であった.

系統適応性検定試験場所における成績

1)試験概要

系統適応性検定試験を,2017 年は‘エターニティトーチ’について秋田農試(以後「秋田」と略す),奈良農研セ(以後「奈良」と略す)の 2 場所,2018 年は‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’および‘エターニティルージュ’について秋田,奈良の 2 場所,‘エターニティトーチ’,‘エターニティルージュ’について高知農技セ(以後「高知」と略す),2019 年は‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’および‘エターニティルージュ’について秋田,奈良,高知,宮崎総農試(以後「宮崎」と略す)の 4 場所で実施した. 各検定場所における試験設計および耕種概要を表 10 に示した. 対照品種として‘ミッチャン’,‘黒蝶’,‘かまくら’を供試した.

2)日持ち性

2017 年度の‘エターニティトーチ’では,秋田,奈良の評価において,蒸留水区,GLA 区とも良日持ち性を示した(表 11).

2018 年度では,秋田の夏秋期・露地の‘エターニティロマンス’で蒸留水区が 8.1 日の日持ち日数で‘かまくら’の 7.7 日と同レベルであった.それ以外は,3 品種で蒸留水区が 9.1~11.8 日,GLA 区で 10.9~14.3 日と優れていた.奈良での3品種,高知での‘エターニティトーチ’,‘エターニティルージュ’の評価では,いずれも良日持ち性を示した(表 12).

2019 年度の秋田,奈良,高知,宮崎の評価では,3 品種とも蒸留水区,GLA 区,GLA+BA 区で良日持ち性を示した(表 13).秋田では,2019 年夏季開花作型で高温条件(28℃)での日持ち試験を行ったが,‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’の GLA 液,28℃の日持ち日数はいずれも 8.0 日と高温条件下でも良日持ち性を示した(表 14).一方で,‘エターニティルージュ’は 28℃での日持ち評価中に供試切り花数の 30%で花散りが生じたため,GLA 液,28℃での日持ち日数は 6.4 日であった(表 14).

‘エターニティトーチ’における GLA に BA 散布を組み合わせた GLA+BA 区での GLA 区と比較した日持ち延長効果は,秋田では 0.8~1.1 日延長したが,奈良,高知,宮崎では,頭花中間部からの萎れ発生のため大きな日持ち延長効果は認められなかった.一方で,‘エターニティロマンス’では GLA+BA 区は GLA 区と比較して 2 日程度,‘エターニティルージュ’では GLA+BA 区は GLA 区と比較して 0.9~3.7 日の日持ち延長効果が認められた(表 13).

3)切り花特性

‘エターニティトーチ’

2017 年度では,開花始期は,秋田では‘黒蝶’とほぼ同等であったが,奈良では,晩生の対照品種‘黒蝶’より 14 日遅かった.奈良では到花節数は 10.1 節で標準的であったが切り花長が 150 cmと長大となった.露心程度は,秋田の無電照区の 2.1%以外は 0%で,露心はほとんど発生しなかった(表 11).

 2018年度では,開花始期は,奈良の夏秋期・施設で ‘黒蝶’より 8 日遅かった以外は,秋田,奈良,高知とも‘黒蝶’とほぼ同等~9 日早く,開花遅延は見られなかった.露心程度は,秋田の施設・無電照で 25.0%,奈良の夏秋期・施設で 10.0%であった以外は 0%と,露心の発生は極めて少なかった.最大花径が 13.5 cm~18.2 cm と大輪で,花に豪華さがあった.挿し芽発根率は,奈良,高知では 100%,秋田では 70~86%と,良好であった(表 12).

2019 年度では,開花始期は秋田の施設で‘黒蝶’より 7~15 日遅かったが,奈良,高知では‘黒蝶’と同等であった.宮崎では,‘黒蝶’よりも 6 日早かった.露心程度は,秋田の無電照区の 14.2%以外は 0%であり,露心の発生は極めて少なかった.花径について,秋田の露地で 10.7 cmであった以外は,14.2~18.7 cm と大輪であった.挿し芽発根率も対照品種と同程度であった(表 13).

‘エターニティロマンス’

2018 年度では,秋田の開花始期は露地,施設・無電照では供試品種中で最も早かったが,施設・電照では‘ミッチャン’と同等であった.奈良では,夏秋期,冬春期とも対照 3 品種よりも開花が早く,早生であった.露心程度は,秋田の施設・電照で15.0%,奈良の夏秋期で 8.3%であった以外は 0%と,露心の発生は少なかった.最大花径が 11.3~13.6 cm と中大輪であった.挿し芽発根率は,奈良では 83%,秋田では 97~100%であり,高い発根率を示した(表 12).

2019 年度では,開花始期は秋田の夏秋期・露地では対照 3 品種よりも 6~13 日早く早生であった.秋田の夏秋期・施設では,電照の有無にかかわらず,10 月 7~8 日に開花し,対照品種‘かまくら’と同等の早生であった.奈良,高知,宮崎の栽培では,地域,栽培時期にかかわらず,供試品種中で最も早生であった.露心程度は,秋田の施設・無電照で 22.2%.高知で 23.8%,宮崎で僅かな発生が見られた以外は 0%であり,露心発生は少なかった.挿し芽発根率は高知で 25%とやや低かったが,対照品種‘ミッチャン’の 27%,‘黒蝶’の 29%と同程度であった.その他の 3 場所では,93~100%と高い発根率を示した(表 13).

‘エターニティルージュ’

2018 年度では,開花始期は概して対照品種よりも早いか,同等であった.露心程度は,奈良の夏秋期施設では 50.0%と高かったが,対照品種と同レベルの発生程度であった.その他は,秋田の施設・無電照で 16.0%であった以外は 0~2.2%と,露心の発生は少なかった.最大花径が 9.4~12.3 cm の中輪であった.挿し芽発根率はいずれの場所でも 100%と,高い発根性を示した(表 12).

2019 年度では,開花始期は,宮崎の冬春期・施設以外は,対照品種と同等かやや早かった.露心程度は,秋田の施設・無電照で 56.2%であった以外は,露心の発生は少なかった.花径について,10.2~11.8 cm と中輪の花径を示した.挿し芽発根率は,いずれの場所でも 100%であり,高い発根性を示した(表 13).

育成地と系適場所全体の総合評価とまとめ

‘エターニティトーチ’

日持ちに季節変動,年次変動が少なく,安定して優れている.秋田の GLA 液,28℃の日持ち試験でも 8.0 日の日持ちを示し,高温下での日持ち性にも優れる.‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’に比べると,BA 散布による日持ち延長効果が低かった.露心はほとんど発生しない.花径が大きく,切り花として存在感がある.‘黒蝶’よりもやや赤みが強い暗赤色の花色であり,花径が大きく,豪華な花容で,観賞性が高い.奈良での 2017 年冬春期栽培では草丈が伸びすぎる欠点が指摘されたが,その後は発生していない.秋田および農研機構野花研の夏秋期栽培で夏季の高温遭遇による奇形花の発生が見られた.冬春期には奇形花の発生は皆無なので,夏秋期よりは冬春期向け品種といえる.茎は硬く,草姿が安定している.宮崎を除くと晩生であり,生産性は‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’に比べ劣る.秋田の 2019 年夏秋期施設電照では開花始期が‘黒蝶’より遅かったが,その他の場所では‘黒蝶’と同程度かやや早い開花始期を示した.

‘エターニティロマンス’

農研機構野花研での切り花特性は,花径が夏秋期には 11.3~11.6 cm,冬春期には 14.0 cm と比較的大きく,特に冬春期には切り花にボリュームがあり,切り花の一般的な特性に優れている.3 品種の中では最も早生性であり,収量性が良好である.日持ち性は 3 品種中ではやや劣るが,比較的日持ち性の良い品種の‘ミッチャン’を上回っている.秋田の GLA 液,28℃の日持ち性試験では 8.0 日の日持ち性を示し,高温下での日持ち性にも優れる.夏秋期の露地栽培では日持ちが低下する傾向がある.横向きでなく上向きで咲くため,フラワーアレンジメントやブーケに使いやすい.

‘エターニティルージュ’

農研機構野花研では,栽培法や季節に関わらず,安定した良日持ち性を示す.系適場所における日持ち試験でも 3 品種中で最も日持ち性に優れていた.きれいな深赤色の花色であり,早生で収穫本数も多く,切り花調整重等の諸形質に優れる.秋田の GLA 液,28℃の日持ち試験では花散りが生じ,日持ち日数が 6.4 日と‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’の 8.0 日に比べ低かったが,‘かまくら’の 5.7 日を上回っている.農研機構野花研で 2 年間日持ち評価をした際には,花散りは全く生じなかった.下葉が弱い傾向にあり,2019 年奈良の冬春期では下葉枯れがみられる株もあったが,下葉は出荷時に除去するので,大きな問題ではない.

適地および栽培・流通上の留意点

系統適応性検定試験の結果から,3 品種は全国のダリア生産地で栽培可能と考えられる.3 品種とも挿し芽発根率は対照品種と同等であり,苗増殖の点での問題はない.‘エターニティトーチ’は,夏季の花芽分化期に異常高温に遭遇すると奇形花が発生する場合がある.冬春期には奇形花の発生は皆無である.3 品種とも,常温(23℃)に比較して高温条件(28℃)での日持ち日数は低下するので,輸送時および保存時の高温は避けるようにする.

品種名の由来

共通して良日持ち性を有し,豪華な花容を兼ね備えた品種,高生産性を兼ね備えた品種など,それぞれに異なる特徴を有している.品種名は,英語で「永遠」を意味する「エターニティ(eternity)」を冠したエターニティシリーズとして命名した.‘エターニティトーチ’(Eternity Torch)はオリンピックの聖火のような花色・花型であることから,‘エターニティロマンス’(Eternity Romance)は美しい桃色花色なので「永遠の恋」という意味で,‘エターニティルージュ’(Eternity Rouge)は口紅のような深赤色の花を咲かせることから,それぞれ命名した.

育成従事者

本品種の育成については,小野崎は 2014 年 4 月~2020 年 3 月まで,東は 2016 年 4 月~2017 年 3 月に担当した.

考 察

2020 年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり,花き需要の主軸が業務需要からホームユースへ移行している.家庭等におけるダリアの消費をさらに拡大するためには,日持ち性の向上が必須であり,遺伝的な日持ち性が向上したダリア品種の利用は,ダリアの消費拡大に大きく貢献する.

本研究では,日持ち性に優れる品種を開発するために,日持ち性による選抜と交雑を 2 回繰り返すことで,‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’を育成したが,その育種親をたどると,比較的日持ち性の良い品種である‘ミッチャン’が共通して育種材料に用いられていた(図 2).日持ち性による選抜とその選抜系統間での交雑を第 1 世代から第 3 世代まで繰り返し行うと,各世代の平均日持ち日数は第 1 世代の 4.4 日,第 2 世代の 5.2 日から第 3 世代では 6.1日へと増加した.また,日持ち日数を指標として選抜した各世代一次選抜系統中の‘ミッチャン’の後代の割合は,第 1 世代の 32.8%,第 2 世代の 89.0%から,第 3 世代では 100%へと,世代を進めるに伴い増加した(Onozaki and Azuma 2019小野崎 2021).さらに,第 2 世代の交雑組み合わせのうち,平均日持ち日数が 4.7 日未満の日持ち性に劣る 4 交雑組み合わせ(交雑番号 618,621,625 および 624)は,‘ミッチャン’が親系統の育成に使用されていない組み合わせであった(表 2).したがって,‘ミッチャン’にはダリアの良日持ち性に関与する遺伝子が存在し,その良日持ち性は後代に遺伝することが強く示唆された.

日持ち性のような環境要因の影響が大きい形質に関与する遺伝子を効率的に導入するためには,マーカー利用選抜の活用が極めて有効である.‘ミッチャン’由来の良日持ち性に連鎖する DNA マーカーの開発について,今後検討する必要がある.

ダリアの日持ち性については,糖質と抗菌剤の併用処理が品質保持に有効である(市村 2016)が,著者らは,ダリアの糖質処理や抗菌剤の効果は品種によって異なること,これらの違いは茎中の細菌増殖量や糖質含量の品種間差に起因する可能性が高いことを明らかにした(Azuma et al. 2019).また,中嶋ら(2019)はダリア 21 品種の茎中糖含量と日持ち日数との関係を検討し,茎中の糖含量が多い品種ほど日持ち日数が長い傾向があることを報告している.さらに,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’および良日持ち性系統 512-2 等では,茎長別の日持ち日数調査において,茎長が増加するにしたがい日持ちが向上する傾向があり,その良日持ち性への茎中の糖質等の影響が示唆されている(小野崎ら 2018藤本, 小野崎 2021).

今後は,日持ち性による選抜と交雑の世代をさらに進めることにより,交雑育種によるダリアの日持ち性向上の効果を検証するとともに,エターニティシリーズ 3 品種の茎中糖含量の分析等を行い,良日持ち性ダリア品種の老化抑制メカニズムの解明を進め,今後の品種開発に活かしていきたい.

謝辞

本研究は,農林水産省委託プロジェクト研究「国産花きの国際競争力強化のための技術開発」(課題番号 15653424)(2015~2019 年)により実施した.本品種の系統適応性検定試験に当たり,秋田県農業試験場(秋田県秋田市),奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市),高知県農業技術センター(高知県南国市),宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市)の担当研究員各位の協力を得た.また,研究の遂行に当たり,農研機構野菜花き研究部門 非常勤職員の吉丸しづ香氏,本郷真弓氏,中村真菜美氏,および農研機構管理本部技術支援部つくば第 6 業務科藤本・大わし技術チーム野菜花き班の職員各位には本品種の育成に関して,多大なる協力を得た.ここに記してお礼申し上げる.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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