農研機構研究報告
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原著論文
蒸切干が淡橙色で外観・品質が良好なサツマイモ品種 「ほしあかね」の育成
西中 未央 藏之内 利和片山 健二高田 明子藤田 敏郎
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2022 年 2022 巻 11 号 p. 1-13

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Abstract

蒸切干(干しいも)は,サツマイモを蒸して乾燥させた農産物加工品で,重要な地域特産物となっている.現在蒸切干に用いられている品種の多くは黄肉であり,色調に区別性のある品種が求められているが,橙肉の既存品種「ヒタチレッド」は,いもの形状や栽培特性に問題があり,これらの欠点を改良した品種の育成が望まれていた.そこで,蒸切干の色調が淡橙色で従来の黄色とは異なる蒸切干加工用品種「ほしあかね」を育成した.「ほしあかね」は既存の橙肉品種「ヒタチレッド」で問題となっているいもの裂開や形状の乱れが少なく,苗床での萌芽性やサツマイモネコブセンチュウ抵抗性が「ヒタチレッド」よりも優れる.「ほしあかね」は淡橙色で透明感のある蒸切干に加工でき,蒸切干の食味は,ねっとりした食感と甘味の強さで人気の高い「べにはるか」並に優れる.

緒言

蒸切干(干しいも)はサツマイモを蒸して乾燥させた農産物加工品である.2020 年に全国で加工食品に使用されたサツマイモの約 43%(36,673 トン)の用途は蒸切干であり,茨城県はその 9 割近くを占める蒸切干の主産地となっている(農林水産省 2021).蒸切干に用いられる品種には「タマユタカ」(小野田ら 1970)が長年利用されてきたが,蒸切干に「シロタ」(中白)と呼ばれる品質障害が発生しやすいことが問題となっていた(中村ら 2007).近年育成された食味が優れる「べにはるか」(甲斐ら 2017)や蒸切干の外観が優れる「ほしこがね」(藏之内ら 2015)等の品種は,「シロタ」の発生が少ないため蒸切干としての利用が進んでいるが,これらの品種はいずれも肉色が黄色で外観による差別化は難しい.蒸切干が黄色でない品種には商品多様化のための需要があり,肉色が橙色の既存品種「ヒタチレッド(ヘルシーレッド)」(樽本ら 1995)が蒸切干に利用されているが,「ヒタチレッド」はいもの裂開が多いことや萌芽性がやや劣るなどの問題があり,これらの欠点を改良した品種の育成が待たれていた.そこで,蒸切干の色調が淡橙色で従来の黄色とは異なる特徴があり,いもの形状や萌芽性にも優れる蒸切干加工用品種「ほしあかね」を育成した.本稿では「ほしあかね」の育成経過と特性概要を紹介する.

育成経過

「ほしあかね」はカロテンとアントシアニンを含有し比較的病虫害抵抗性が優れる「関東 136 号」を母親,でん粉糊化開始温度がやや低く蒸切干品質が優れる「ほしキラリ」(藏之内ら 2012)を父親とする交配組合せ(交配番号 11090)から選抜した (図 1).

交配および採種は 2011 年に農研機構九州沖縄農業研究センターで実施し,2012 年以降は農研機構作物研究所(現 中日本農業研究センター)で選抜した(表 1).交配種子は 2012 年の実生個体選抜試験に用い,いもの外観および結しょ性の選抜を行った.選抜個体は 2013 年に系統選抜予備試験に供試し,選抜系統に「作 11090-15」の系統番号を付与し,以後,2014 年に系統選抜試験,2015 年に生産力検定予備試験に供試した.その結果,収量性およびいもの外観が優れていたことから「作系 55」の系統番号を付与し,2016 年より生産力検定試験,黒斑病抵抗性特性検定試験(長崎県農林技術開発センター),立枯病抵抗性特性検定試験(徳島県農林水産総合技術支援センター),系統適応性検定試験(鹿児島県農業総合開発センター大隅支場)に供試した.これらの試験成績より「作系 55」が総合的に有望であると判断し,2017 年 12 月に「関東 152 号」の系統名を付与し,2018 年より関係機関における奨励品種決定試験等に供試し蒸切干用品種としての実用性を検討した.その結果,茨城県で普及が見込まれることとなり,2020 年 3 月に「ほしあかね」として品種登録出願を行った.

特性の概要

特性調査は,農林水産植物種別審査基準「かんしょ種」(農林水産省 2016)に従い,かんしょ種苗特性分類調査報告書(農林水産技術情報協会 1981)を参考にして行った.なお,地上部および地下部の特性は,無マルチ標準栽培における特性値を基準とした.

「ほしあかね」の苗床特性については,萌芽の遅速は“早”,萌芽揃の整否は“整”,伸長の遅速は“早”,萌芽の多少は“多”である(表 2).「ほしあかね」の萌芽性は“良”であり,「べにはるか」および「ヒタチレッド」より優れる.

「ほしあかね」の地上部特性については,草姿は“開張”,茎の先端の毛の粗密は“粗”,茎および節のアントシアニンの着色は“無又は極弱”である(表 3).「ほしあかね」の茎の一次側枝の長さは“長”,節間長は“やや長”で「べにはるか」および「ヒタチレッド」より長い.「ほしあかね」の茎の太さは“やや細”で「べにはるか」および「ヒタチレッド」より細い.「ほしあかね」の葉身の裂片の数は“3”であり,「べにはるか」および「ヒタチレッド」の“無”と異なる.「ほしあかね」の葉身の表面の色は“緑”, 葉身の大きさは“中”,葉身の裏面の葉脈のアントシアニン着色の大きさは“無又は極小”で強弱は“極弱”,蜜腺のアントシアニン着色は“無又は極弱”である.

「ほしあかね」の地下部特性については,しょ梗の長さは「べにはるか」および「ヒタチレッド」と同じ“中”である(表 4図 2 ).「ほしあかね」のいもの形状は“楕円形”で,形状整否は「べにはるか」と同じ“やや整”で「ヒタチレッド」より優れる.「ほしあかね」のいもの大小は「ヒタチレッド」と同じ“やや大”で「べにはるか」より大きく,いもの大小整否は“中”である.「ほしあかね」のいもの外観は「べにはるか」と同じ“やや上”で「ヒタチレッド」より優れる.「ほしあかね」のいもの皮色の主な色は“赤”,二次色は“紫”で「ヒタチレッド」と同じであり, いもの皮色の主な色が“紫赤”である「べにはるか」よりも薄い.「ほしあかね」の肉色は“淡黄”に二次色の“橙”を帯び,「べにはるか」の“黄白”とは色調が明らかに異なり,「ヒタチレッド」より橙色は薄い.「ほしあかね」のいもの条溝は“無”で「べにはるか」および「ヒタチレッド」より少なく,いもの裂開は「べにはるか」と同じ“無”で「ヒタチレッド」より少なく,いもの皮脈は“無”である.冬期無加温の貯蔵における「ほしあかね」の貯蔵性は“やや易”で「べにはるか」の“中”や「ヒタチレッド」の“やや難”より優れる.貯蔵90日後のいもの腐敗率は,「ほしあかね」は 11.7%,「べにはるか」は 32.0 %,「ヒタチレッド」は 71.7%であった.

品質特性調査成績

蒸切干の品質について,無マルチ標準栽培での「ほしあかね」のシロタの発生は「ヒタチレッド」と同じ“無~微”で「べにはるか」の“微”よりやや少ない(表 5).マルチ標準栽培での「ほしあかね」のシロタ発生は“無~微”で,「ヒタチレッド」並かやや多く,「べにはるか」の“少”より少ない.「ほしあかね」の蒸切干の肉色は「ヒタチレッド」と同じ“淡橙“で,「べにはるか」の“黄白”と明らかに異なる(図 3).「ほしあかね」の蒸切干の肉質は「べにはるか」と同じ“やや粘”で「ヒタチレッド」の“中”とは異なり,食味は「べにはるか」とほぼ同じ“上”で「ヒタチレッド」の“やや上”よりやや優れる.無マルチ標準栽培での「ほしあかね」の蒸切干の糖度は「ヒタチレッド」より高く,「べにはるか」と同程度である.

「ほしあかね」の蒸しいもの肉色は「ヒタチレッド」と同じ“淡橙”で,「べにはるか」の“黄白”と異なり,肉質は“やや粘”である(表 6).「ほしあかね」の蒸しいもの繊維は「べにはるか」と同じ“中”で「ヒタチレッド」の“やや多“より少なく,黒変は「べにはるか」と同じ“やや少”で「ヒタチレッド」の“中~やや多”より少ない.「ほしあかね」の蒸しいもの食味は「べにはるか」と同じ“やや上”で「ヒタチレッド」の“中”より優れる.

「ほしあかね」のでん粉の糊化開始温度は 67.5℃であり,「べにはるか」より 2.2℃,「ヒタチレッド」より 4.4℃低かった(表 7).

「ほしあかね」の生いも,蒸しいもおよび蒸切干において,フルクトース含量とグルコース含量は「べにはるか」および「ヒタチレッド」より高く,スクロース含量は「べにはるか」および「ヒタチレッド」より低い(表 8).蒸しいもおよび蒸切干における「ほしあかね」のマルトース含量は「べにはるか」より低く「ヒタチレッド」と同程度である.遊離糖含量から換算した「ほしあかね」の甘味度は,蒸しいもでは「べにはるか」より低く「ヒタチレッド」と同程度であり,蒸切干では「べにはるか」,「ヒタチレッド」と同程度である.

病虫害抵抗性調査成績

「ほしあかね」のサツマイモつる割病抵抗性は“中”で「べにはるか」および「ヒタチレッド」と同程度である(表 9).「ほしあかね」のサツマイモネコブセンチュウ抵抗性は,育成地では“やや強”,現地試験では“強”であり,「べにはるか」と同程度で「ヒタチレッド」より強い.「ほしあかね」のサツマイモ黒斑病抵抗性は,育成地では「ヒタチレッド」と同じ“やや強”で「べにはるか」の“中”よりやや強く,長崎県農林技術開発センターによる特性検定試験では“やや弱”である(表 10).「ほしあかね」のサツマイモ立枯病抵抗性は,育成地では“中~やや弱”で「べにはるか」および「ヒタチレッド」と同程度で,徳島県立農林水産総合技術支援センターによる特性検定試験では“中”である(表 11).

収量および関連特性

育成地における無マルチ標準栽培では,「ほしあかね」の上いも重(1 個重が 50 g 以上のいもの収量)の 4 カ年平均値は「べにはるか」比では 113%,「ヒタチレッド」比では 110%であった(表 12).「ほしあかね」の上いも平均 1 個重の 4 カ年平均値は 226 g で「べにはるか」の 147 g より重く「ヒタチレッド」の 265 g と同程度であった.「ほしあかね」の株当たり上いも数の 4 カ年平均値は 3.0 個/株で「べにはるか」の 4.0 個/株より少なく「ヒタチレッド」の 2.5 個/株より多かった.「ほしあかね」の切干歩合の 4 カ年平均値は 29.2%で「べにはるか」の 34.4%および「ヒタチレッド」の 31.8%より低かった.「ほしあかね」のでん粉歩留の 4 カ年平均値は 14.8%で「べにはるか」の 19.7%および「ヒタチレッド」の 16.3%より低かった.

マルチ標準栽培では,「ほしあかね」の上いも重の 4 カ年平均値は「べにはるか」比では 112%,「ヒタチレッド」比では 127%であった.「ほしあかね」の上いも平均 1 個重の 4 カ年平均値は 258 g で「べにはるか」の 188 g よりやや重く「ヒタチレッド」の 272 g よりやや軽かった.「ほしあかね」の株当たり上いも数の 4 カ年平均値は 3.5 個/株で「べにはるか」の 4.1 個/株より少なく「ヒタチレッド」の 2.7 個/株より多かった.「ほしあかね」の切干歩合の 4 カ年平均値は 31.1%で「べにはるか」の 36.1%より低く「ヒタチレッド」の 31.5%と同程度であった.

マルチ多肥栽培では,「ほしあかね」の上いも重の 3 カ年平均値は「べにはるか」比では 94%,「ヒタチレッド」比では 108%であった.「ほしあかね」の上いも平均 1 個重の 3 カ年平均値は 255 g で「べにはるか」の 242 g と同程度で「ヒタチレッド」の 309 g より軽かった.「ほしあかね」の株当たり上いも数の 3 カ年平均値は 3.6 個/株で「べにはるか」の 3.8 個/株と同程度で「ヒタチレッド」の 2.7 個/株より多かった.「ほしあかね」の切干歩合の 3 カ年平均値は 29.6%で「べにはるか」の 33.4%より低く「ヒタチレッド」の 29.3%と同程度であった.

配布先における成績

「ほしあかね」の系統適応性検定試験および配布先における試験成績を表 13 に示した.2016 年の試験においては,茨城県では上いも重が標準品種「タマユタカ」より多く塊根形状に優れたことから“優”,鹿児島県では上いも重は標準品種「高系 14 号」より多いが丸いもが多いため“劣”,沖縄県では上いも重は標準品種「備瀬」より多いが外観に劣ることから“劣”の評価であった. 北海道では,2016 年の試験においては上いも重が標準品種「タマユタカ」並であることから“中”,その後試験を中断し再開した 2018 年においては,「ほしあかね」の上いも重は標準品種「タマユタカ」比で 55%と少ないことから“劣”の評価であった.2018 年に試験を実施した石川県においては,「ほしあかね」の上いも重は標準品種「タマユタカ」並であったが,上いも平均 1 個重が「タマユタカ」よりもやや小さかったため“中”の評価であった.

2017 年から 2019 年の 3 カ年にわたり試験を継続した茨城県農業総合センターでは,「ほしあかね」の上いも重の 3 カ年平均値は標準品種「タマユタカ」比では 120%,比較品種「べにはるか」比では 136%と多く,比較品種「ヒタチレッド」比では 84%とやや少なかった(表 14).「ほしあかね」の上いも平均 1 個重の 3 カ年平均値は 287 g で「タマユタカ」の 280 g および「ヒタチレッド」の 312 g と同程度であり,「べにはるか」の 208 g より重かった.株当たり上いも数の 3 カ年平均値は 3.8 個/株で「タマユタカ」の 3.2 個/株よりやや多く,「べにはるか」の 3.8 個/株および「ヒタチレッド」の 4.1 個/株と同程度であった.「ほしあかね」は,いもに条溝や裂開の発生がなく外観や形状が優れる.「ほしあかね」の蒸切干の食味は“やや上”で「べにはるか」並であり,食味が“中”の「タマユタカ」,「ヒタチレッド」より優れていた.また「ほしあかね」の蒸切干においてシロタの発生は“無”で,「タマユタカ」の“やや多”や「べにはるか」の“微”より少なく,「ヒタチレッド」の“無”と同程度であった.2017 年から 2019 年の 3 カ年にわたり試験を実施したひたちなか市の現地試験では,「ほしあかね」の上いも重,上いも平均 1 個重および株当たり上いも数は標準品種「タマユタカ」並で,上いも重や株当たり上いも数は比較品種「べにはるか」よりやや少なかった.ひたちなか市の現地試験においては,試験圃場で湿害が発生した際に「ほしあかね」の収量が低くなる傾向があった.2018 年から 2019 年の 2 カ年にわたり試験を実施した鉾田市の現地試験では,「ほしあかね」の上いも重は標準品種「タマユタカ」や比較品種「べにはるか」より多く,上いも平均 1 個重や株当たり上いも数は「タマユタカ」や「べにはるか」並であった.茨城県内の 3 箇所で実施した試験のいずれにおいても,「ほしあかね」はいもに条溝や裂開の発生が少なく外観や形状が優れ,また蒸切干の食味が良食味品種の「べにはるか」並に優れ,シロタの発生が少なかった.

「ほしあかね」の育成地における生産力検定試験および配布先における系統適応性検定試験等の耕種概要は表 15 に示した.

考察

蒸切干の加工時には蒸したいもの皮をむく工程があるが,いもに条溝や裂開があると皮がむきにくくなり,発生部位をトリミングする必要があることから,作業に手間がかかり歩留が低下する.既存の蒸切干加工用品種である「ヒタチレッド」は,カロテンを含み蒸切干が橙色の特徴がある製品に加工できるものの,いもに裂開が生じやすいことから加工しにくいことが問題であった.「ほしあかね」は,育成地および普及見込み地域である茨城県による試験のいずれにおいても「ヒタチレッド」よりいもの裂開の発生が少なく,いもの条溝や形状の乱れも少なかった(表 4表 13).したがって「ほしあかね」は「ヒタチレッド」よりもいもの形状に優れ蒸切干の加工時の皮むき作業がしやすく,蒸切干用品種として有望と考えられる.

さらに,「ヒタチレッド」は上記の裂開発生に加え萌芽性が悪いため作付けが伸び悩んできたが,「ほしあかね」は萌芽が早く,揃いも良いため育苗しやすい(表 2).また,「ほしあかね」はサツマイモネコブセンチュウ抵抗性も「ヒタチレッド」より優れ,「ヒタチレッド」の栽培上の欠点が克服されている(表 9).

蒸切干を加工する際には,いものでん粉の糖化を促進させ,生成した糖類により蒸切干の食味の向上させること等を目的としたいもの低温貯蔵が行われる.しかし,低温貯蔵の期間が長引いたり過度の低温に遭遇したりすると,いもの内部褐変や腐敗等の低温障害が発生しやすくなるため,蒸切干用品種には低温下でのいもの貯蔵性が優れることが求められる.「ほしあかね」の貯蔵性は「ヒタチレッド」よりも優れており,冬期の低温下において無加温で長期間貯蔵した場合の腐敗も少ないことから,「ほしあかね」を利用することで蒸切干加工時の低温障害発生のリスクを低減できると考えられる(表 4).

蒸切干加工の際に発生して問題となっているシロタについては,その発生程度には品種間差があり(藏之内ら 2010),発生には蒸切干加工時のでん粉の糊化不良が関与することが指摘されている(中村ら 2007).「ほしあかね」のシロタ発生は「べにはるか」よりも少なかったが,これは「ほしあかね」のでん粉糊化開始温度が「べにはるか」よりも低く,またでん粉含量が「べにはるか」よりも低いことから,蒸切干加工時にでん粉の糊化不良が生じにくかったことが要因であると考えられた(表 5表 7表 12).一方,糊化開始温度が「べにはるか」よりも高い「ヒタチレッド」のシロタ発生は「ほしあかね」と同程度に少なかった(表 5表 7).これは,「ヒタチレッド」のでん粉含量が「べにはるか」よりも低く,でん粉の糊化不良が生じにくかったためと考えられた(表 12).今後シロタ発生率について,でん粉の糊化開始温度とでん粉含量との関係を詳細に調査する必要がある.

黒斑病抵抗性調査成績において,育成地と特性検定試験で黒斑病抵抗性の評価が大きく異なっていた.これは,育成地では黒斑病菌を接種した苗を植え付けてつるおよび塊根の発病程度を評価する圃場試験判定のみによって評価を行ったが,特性検定試験では更に接種発病率,発病病斑面積等の詳細な調査を実施して総合的な評価を行ったことから評価が異なったと考えられる.

今回育成した「ほしあかね」はカロテンを含有し,加工時の黒変が「ヒタチレッド」よりも少なく,淡橙色で透明感のある美しい仕上がりの蒸切干に加工できる蒸切干用品種であり(図 3),既存の「べにはるか」のような黄肉品種とは明らかに異なる肉色を活かした商品開発への利用が期待される.「ほしあかね」の蒸切干は肉質がやや粘質で糖度が高く,食味はねっとりした食感で甘味の強い「べにはるか」に近い(表 5).また,既存の橙肉品種である「ヒタチレッド」と比較すると,「ほしあかね」の蒸切干は繊維が少なく口当たりが良く,糖度も高いことから,今後の橙色系の蒸切干用品種として普及拡大することを期待している.

適地および栽培上の留意点

「ほしあかね」は関東の蒸切干生産地帯に適していることから,当面は茨城県ひたちなか市を中心とする作付けが見込まれている.栽培にあたっては,立枯病抵抗性が“やや弱~中”であることから,同病害の発生圃場では土壌消毒等の防除に努める.

命名の由来

「ほしあかね」は,蒸切干(干しいも)用で,製品の外観がオレンジ色(あかね)を帯びることから命名された.

育成従事者

「ほしあかね」の育成従事者は,表 16 の通りである.

謝辞

本品種の育成の一部は生物系特定産業技術研究支援センターによるイノベーション創出強化研究推進事業「地域ブランド強化のための高品質食用・加工用サツマイモ品種の開発」(課題番号 27033C)の助成を一部受けて実施した.本品種の育成にあたり,交配は九州沖縄農業研究センター畑作研究領域サツマイモ育種グループのご協力のもと,同センター業務第 3 科(都城研究拠点)において行われた.また,系統適応性検定試験,特性検定試験および奨励品種決定調査の実施については関係各県の農業試験場等の関係各位には多大なご協力をいただいた.また,論文の執筆にあたってご助言いただいた中日本農業研究センター田口和憲博士,育成地の圃場管理,調査業務を担当いただいた農研機構管理本部技術支援部中央技術支援センターつくば第3業務科谷和原畑作技術チームの科員ならびに契約職員,分析業務を補助いただいた契約職員の各位に深く謝意を表する.

利益相反

全ての著者において開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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