農研機構研究報告
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原著論文
大規模稲作経営の規模拡大と作業構造の変化 ―100 ha を超える家族経営を事例として―
清水 ゆかり 石川 哲也梅本 雅
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2023 年 2023 巻 14 号 p. 19-28

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Abstract

農業労働力の減少や米価下落等を背景に,日本の稲作経営数は大きく減少し,水田農業における担い手は従来にない速度での規模拡大が進み,100 haを超える大規模稲作経営も全国各地で成立してきている.それら大規模経営では,圃場枚数の増加や作型の多様化に伴い,適期内での作業遂行や的確な栽培管理が困難となりやすく,繁忙期における作業競合の回避と共に,労働力や農業機械の適切な配置が重要となる.本研究は,茨城県の規模拡大事業及び農水省スマート農業実証事業に参画した大規模稲作家族経営 2 法人を対象として,規模拡大過程の 3 年間における農地の集積状況と労働力,春作業の作業構造の変化を検討し,急激かつ大幅な規模拡大への対応方策を明らかにする.事例分析の結果,急速かつ大幅な規模拡大が想定される場合の方策として,(1)データ活用型の作業・栽培管理の実施,(2)スマート農機・スマート技術の活用による従業員の技能の補完・向上とそれによる労働力体制の再編,(3)農地の集約化等,土地条件の高度化を進めること等の新たな取り組みが重要であると考えられた.

問題の背景と課題

農業労働力の減少や担い手の高齢化,米価下落等を背景に,日本の稲作経営数は大きく減少している.2000 年以降,水田農業における担い手は,従来大きな割合を占めていた5 ha未満の規模階層から,10 ha 以上の階層へと急速に移行し,100 ha を超える大規模稲作経営も全国各地で成立している(八木 2017).梅本(2015)は,このうち先進的な大規模稲作経営の規模拡大状況を整理し,1990 年代までは年間 50 a~1 ha 程度であったものが,2000 年以降,毎年 2 ha 以上と規模拡大の速度が増したことを示している.そうした場合,圃場枚数の増加や作型の多様化に伴い,適期内での作業遂行や的確な栽培管理が困難となりやすい.そのため規模拡大局面では,繁忙期における作業競合の回避,労働力や農業機械の適切な配置が重要となる.

規模拡大過程における作業構造の変化と経営対応については,これまでも多くの研究がある(八巻 1988梅本 1997茅根,木村 2009).しかし,そこで分析対象とされた大規模稲作経営の経営規模は,北海道や多数の雇用を入れた法人経営の事例を除き,規模拡大後においても多くは 20~40 ha前後であった.これに対して,今日の規模拡大は,従来と比較にならないほど急激かつ大幅である点と,規模拡大を図る経営が既に 20~40 haといった耕作規模にある点で,既存研究の背景と大きく異なる.規模拡大への対応の中で,雇用型経営へと展開する経営が生じてきている一方,家族労働力を基幹としつつ,2~3人の雇用労働力を導入して地域の地権者からの耕作依頼に対応しようとする大規模家族経営もまた,近年の規模拡大の中核を担っているが,そのような雇用労働力の短期間での熟練労働力化は困難な課題であり,雇用労働力に家族労働力と同等の面積を任せるのは難しいとされていた(安藤 2013).しかし,昨今の規模拡大の状況や農業労働力の減少を踏まえると,オペレータや機械施設装備の増強,作業期間の拡大といった対応に加えて,今後はさらに,スマート農機等を用いて雇用労働力を最大限に活用できる作業体制の構築や,作業・栽培データを活用した品種・作型の再検討など栽培・作業管理の高度化,そして,作業遂行を大きく効率化させる土地条件の高度化(農地の面的集積)が必要となると考えられる.

そのため,本研究では,大規模稲作経営の短期間での規模拡大過程における,春作業の作業構造の変化の検証に基づき,今日の大規模化に要請される経営対応の方向を考察する.

分析の対象と方法

研究の対象事例は,茨城県の規模拡大事業及びスマート農業実証事業に参画し,大幅かつ急速な規模拡大に対し,農地の面的集積とスマート農業技術を活用した作業体制の構築により対応した大規模稲作家族経営2法人である(表1).両法人とも,2019 年と比較して3年間で,A法人で 29 ha(1.6 倍),B法人で 58 ha(2.2 倍)の規模拡大を実現している. 2 法人とも茨城県「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」に採用され,農地の集積・集約化とスマート農業技術の導入を通して,3 年間で 100 ha 超の規模拡大達成を目指している.「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」とは,茨城県が 2018 年に水稲経営を対象として創設した県の独自事業で,公募により選定された稲作経営に対し,農地中間管理事業の活用による農地の集積・集約化,効率的な農業経営を実現する省力化作業体系の確立に向けた支援が行われる(山田 2020).A 法人は 2019~2022 年,B 法人は 2018~2021 年の選定経営体である.2 法人は,2019 年には農林水産省「令和元年度スマート農業実証プロジェクト」(実証課題名「関東平坦部における栽培管理支援システムとスマート農機の連携による大規模水稲作営農体系の実証」)に実証経営として参画し,自動運転田植機・ロボットトラクタ等のスマート農機や栽培管理支援システム,営農管理システム等のスマート農業技術を導入した.

ここで,A 法人・B 法人に導入されたスマート農業技術について説明する.自動運転田植機とは,オペレータが外周を移植して圃場形状を認識させることにより,残りの部分の作業経路を生成して自動で移植する田植機である.オペレータは動作状況を監視できれば他の作業にも対応可能で,苗の補給等の必要に応じて機体を遠隔で制御する.自動運転時の作業速度はあらかじめ設定が可能である.自動運転田植機は,2021 年現在も A 法人・B 法人において共同で利用されている.栽培管理支援システムとは,農研機構メッシュ農業気象データと作物生育予測モデル等を利用し,農業気象災害の早期警戒情報と作物の栽培管理に役立つ情報を作成・配信して農業生産者の意思決定を支援する情報システムである.営農管理システムは,ここでは圃場・農機・管理作業等,営農全般の情報を管理するためのシステムツールの総称として使用している.実証事業で導入されたこれらの農業機械・システムの他,B法人では2021年に湛水直播用アタッチメント付の直進アシスト田植機(以下,直進アシスト機と略記)が新規導入された.

分析に当たって,まず,対象事例の土地と労働の状況について確認する.

A 法人の水稲作付面積は 2019 年 48 ha,2020 年 55 ha,2021 年 76 ha である.県の事業の活用により,圃場は既存農地の周辺,ほぼ2 km四方に集積されている(図 1).規模拡大に併せて圃場の連坦化を進めているが,土地に高低差があり作土層も薄いため,大規模な合筆が難しい状況にある.作業場と圃場が近く,苗補給のための移動は容易である.2021年におけるA法人の労働力は,経営主夫婦(40 歳代)と従業員(常勤・パート)3 人の計 5 人である.

B 法人の経営面積は 2019 年の 48 ha から 2020 年 65 ha,2021 年 106 ha に大きく拡大した.同じく県の事業を活用して,それまでの自宅周辺の経営耕地を整理し,約 10 km 離れた場所へと所在エリアを大きく変更すると共に(図 2),圃場を面的に集積し,畔抜きによる大区画化や,品種の団地化等を通して作業の効率化を図った.このように圃場の集約化は可能となったが,自宅(育苗ハウス)からは遠いため,苗運搬には時間を要している.労働力は経営主(30 歳代)とその両親,従業員(常勤)1 人の計 4 人である.この他,播種・移植作業時期に日雇いを 2 人入れている.

以下では,対象 2 法人の春作業の実施状況について,2019~2021 年の 3 年間の経年変化に関するデータから,作業時期・作業実施日数及び農機,オペレータの配置を追うことにより具体的に明らかにする.分析にあたっては,各経営の営農管理システム(ヤンマー・スマートアシスト,ソリマチ・FaceFarm,クボタ・KSAS)データ,作業日誌記録,聞き取り調査結果等を資料とする.

結果

1.A 法人・B 法人における春作業の作業構造の変化

図 3に,2 法人における水稲作付面積,代かき及び移植・播種作業の作業期間,作業機及び担当オペレータ,作業実施日数,作業実施割合,一日当り平均作業面積を年次ごとに示す.なお,作業期間とは,代かきや移植等の各作業の開始日から終了日までの日数,作業実施日数は実際に作業を実施した日数,作業実施割合は作業期間中における作業実施日数の割合,一日当り平均作業面積とは,作付面積を作業実施日数で除した値である.各機械,オペレータによる機械稼働時間,作業効率(h/10 a)に着目して経営効果を検証する方法もあるが,本研究では一日当り平均作業面積に注目し,経営全体における作業期間中の作業の進め方や労働力配分を把握することを重視した.

図 3からは,2 法人とも 2019 年に 48 ha の作付面積だったが,その後の規模拡大においては,作業実施日数を増加することで対応していることがわかる.

一方,一日当り平均作業面積は,機械稼働ユニットが 2 倍,3 倍になっているにも関わらず,2 法人とも大きくは変化していない.これは,2 法人とも一日の作業面積に目標値を設定しているためである.A 法人は後述するようにオペレータの育成段階にあり,一日の移植作業面積の目標を 2019 年の経営主の実績値 2.4 ha に設定している.また,B 法人は,前述したように圃場を集積したエリアが育苗ハウスのある作業場から離れているため,移植作業時は作業前日か当日の最初にその日予定している面積分の苗を複数台の補給用トラックに分けて全て積載し,補給時には空のトラックで作業場に戻り,積載済みのトラックに乗り換えて圃場に戻るという方法で対応している.B 法人では 10 a 当り約 10 箱の苗を使用しており,移植作業を田植機 1 台体制で行う場合は 1 日当り 3.6 ha を目標として補給用トラック 1 台当り 120 箱を 3 台分,田植機 2 台体制で行う場合は 1 日当り 4.8 ha を目標として同じく 4 台分を用意する.計算上は 2 台体制では 1 台体制の倍の 7.2 ha/日可能であるが,補給用トラックを 4 台しか保有していないこと,移植作業後に新たに苗を積み直して作業すると時間的にロスが生じることから,時間に余裕が生じたとしても,1 日当り最大 4.8 haの目標面積は変更せずに作業を実施している.

このように,2法人は,今ある労働力を活用し,予定した作業期間中に最大限の作業実施日数を確保して,急激な規模拡大に対処しようとした.次項では,2 法人による規模拡大への対応を,特にスマート農業技術の導入及びそれを活用した雇用労働力を中心とする作業体制の観点から検討する.

2.A 法人による規模拡大への対応

A法人では,3 年間で 1.6 倍に水稲作付規模が拡大した.それに対処する上で一番の課題となったのは,代かき作業を担当できる熟練オペレータの不足であった.

図 3でA法人の作業体制の変化を見ると,2019 年においては,代かきはトラクタ 2 台,移植作業は既存の 8 条田植機(以下,慣行機と略記)1 台体制で実施していた.A 法人の圃場は代かき後に土が固まりやすく,移植作業を 2,3 日中に済ませる必要があり,A 法人では基本的に,代かきと移植作業を同時並行で進める方式を採用してきた.代かき作業は経営主とその父が主なオペレータを務め,従業員Fが補完する形を取り,移植作業は経営主をオペレータとしてほぼ経営全体の 4~5 人組で実施していた.

その後,熟練オペレータである従業員 F が離職し,代かきの主担当であった父も怪我で離脱した.そのため,2020 年は経営主がほぼ1人で代かきを担当した.一般に,代かき作業は移植作業よりオペレータに高い技術が求められ,難易度が高いと言われている.移植作業についてはそれまで経営主が担当していたが,オペレータ 2 人の離脱により,代かき作業が可能なオペレータが経営主のみとなった.そのため,作業体制を見直し,新規採用した移植オペレータ経験のある従業員 S を慣行機のオペレータに配置するとともに,B 法人と共同で導入した自動運転田植機を移植オペレータ未経験の女性パート従業員 A の練習機として活用した.

このうち従業員 S は慣行機での移植オペレータは問題なく担当できるが,代かきオペレータは 2020 年から取り組みを開始した.従業員Aは,移植オペレータは未経験であるものの,2019 年以前から A 法人に勤めて移植作業では補助を担当しており,圃場作業については熟知していた.自動運転田植機の導入により作業機は 2 台に増えたものの,未熟練者によるオペレータということもあり,慣行機と自動運転田植機のどちらか 1 台のみを使用し,移植作業を実施した.自動運転田植機は,圃場内部の直進及び旋回が自動で行われるため,オペレータは乗車してハンドルを持たずに旋回のタイミングや苗の植付姿勢等を確認・学習することができる.これにより,2021 年には従業員 A が慣行機での移植オペレータが可能なまでに成長したことから,前年に慣行機での移植オペレータを主に担当していた従業員 S が代かきにほぼ専念できるようになり,代かき 2 台体制に戻して代かき実施済み面積を確保した.ただし,2021 年時点でも 2019 年の代かきの 1 日当り平均作業面積は達成できていない.

A 法人の 2019 年の移植作業は 5 月 14 日に終了しており,この地域の移植期間としてはまだ余裕がある.そのため,育成中のオペレータに無理をさせて田植機を 2 台同時に動かし 1 日当り平均作業面積を増やすより,まず作業期間を拡大することで規模拡大への対応がなされ,代かき及び移植作業の作業期間は 18 日拡大した.その際,作業期間の拡大,収量性の確保が可能な飼料用米の導入が模索され,2019 年の 5 品種から,2021 年には導入予定品種で病気が発生して他経営から苗を調達した事情もあり,8 品種に増加した.A 法人・B 法人の品種構成の変化については,付録 1,2 に示す.

A法人は,既存農地周辺へのさらなる圃場の集積,新品種の導入による作業時期の拡大,スマート農機を用いた従業員の技能の補完・育成とそれを通した労働力の再配置により規模拡大を達成した.

3.B 法人による規模拡大への対応

B 法人の水稲作付面積は,48 ha から 106 haと,3 年間で 2 倍以上に拡大した.B 法人では,2019 年において既に移植・播種の作業期間は 42 日,最終日は 5 月 24 日で,これ以上の作業期間の延長はできない.そのため,規模拡大の際には,作業期間をこれ以上延長せず,オペレータを増やさず,どのように作業を実施するかが課題となった.

B法人の場合,圃場の土が固まりにくく,代かきの後,移植作業開始まで間を空けることができる.そのため,複数の機械で作業して代かき実施済み面積をストックしておき,移植・播種作業をそれぞれ集中して行うという作業体制を取ってきた.

図 3で作業体制についてみると,B 法人では 2019 年には代かきをトラクタ 2 台,移植・播種作業を既存の 8 条田植機(以下,慣行機)で実施していた.2020 年からは自動運転田植機を本格導入した.これにより,A 法人と同様,オペレータ経験の浅い従業員が移植オペレータを務めることが可能となった.さらに,自動運転田植機はオペレータが作業機体の監視と苗補給等を並行でき,組人数が削減できるため,4 月中旬と 5 月中旬は,前年とほぼ同じ労働力数で,慣行機との 2 台体制で移植・播種作業を実施した.1 日当たり 3.6~4.8 ha の移植面積を目標に,それを可能とする代かき実施済みの圃場を確保するため,100 psトラクタを導入し,代かきはトラクタ 3 台で,各オペレータが離れて別々の圃場ブロックを分担し,移植・播種作業前に集中して実施する体制を継続した.

大きく規模拡大が進んだ 2021 年には,圃場の団地化が進み,代かきは同一または近隣ブロックの圃場を経営主と父及び従業員の 3 台で同時に作業する方法に変更した.作業実績において 2021 年には自動運転田植機・慣行機共に従業員が経営主を上回り(図 4),慣行機でのオペレータも十分担当できるようになった.そのため,移植・播種作業が本格化する 5 月中旬以降は,経営主父が代かきオペレータをほぼ専任するようになり,代かきと移植・播種作業を同日に実施する体制へと変化した.図 3で代かきの一日当り平均作業面積を確認すると,2 台体制を取っていた 2019 年の 372 a から,3 台で同時に集中して代かきを実施した 2020 年には 593 aに向上し,3 台体制を取りつつも作業期間中盤からほぼ経営主父による専任となった 2021 年は 461 a と前年に比べてわずかに低下している.2021 年は鉄コーティング湛水直播作業機として直進アシスト機が追加導入された.直播作業は育苗作業の手間がなく,組作業人員も削減できることから,B法人の鉄コーティング湛水直播面積は 2019 年 1,054 a,2020 年 1,538 a,2021 年 2,730 a と拡大している.図 3からは,2021 年 5月下旬に従業員オペレータによる慣行機と,経営主オペレータによる直進アシスト機での移植・播種作業の 2 台同時体制も確認できる.

図4. B 法人における移植・播種作業実績の推移

B 法人は,オペレータを補助者に回すことができる自動運転田植機を活用し,面的集積の効果を活かすには,同一品種を近隣圃場に固めることが苗運搬の観点から効率的であるため,作付品種を集中化した.作業期間を大きく拡大することなく規模拡大を達成するため,作業期間内に移植・播種作業及び収穫作業が適期に収まるような品種・作型配置を模索した.そのため,スマート農業実証プロジェクトで導入した栽培管理支援システムにより,品種・作型の配置を再検討した.具体的には,栽培管理支援システムの生育予測機能を活用し,導入する新品種・新作型について,移植時期による収穫時期の変化を予測し,作業計画を策定した.2019 年の 6 品種から 2021 年には 4 品種に絞るとともに,あきだわらの移植時期の早期化,晩植あきたこまちの新規導入等の大幅な見直しを実施した.

このように,B 法人では,3 年間で約 2 倍という大幅かつ急激な規模拡大に対して,労働者数の増加や作業期間の拡大を行わずに,土地条件の高度化(農地の特定エリアへの面的集積),栽培データの活用による品種・作型の再配置,スマート農機の導入による作業体制の再編により対応した.

考察

規模拡大が進む中での経営者の対応は,水稲を基幹とする家族経営の場合,まずは,作業期間の拡大と,省力化等による作業効率(10 a 当たり労働時間)の向上が中核となる.しかし,本研究の対象事例は既に 48 ha という規模にあり,作業期間も地域の水利慣行下では技術的に可能な限界に近い.既存の機械装備も大型の機種を備えており,それらを更に増強する余地はあるとはいえ,従来の作業期間の拡大と機械の大型化といった方策のみでは,対象事例が直面する急速かつ大幅な規模拡大には対応できない.

対象 2 法人はそのような状況下での規模拡大に対し,以下の 4 つの方策で対応していた.(1)これまでの作業実態や栽培特性に関するデータを踏まえた品種・栽培方式の圃場別再配置等を行うことにより,適切な作業時期・作業期間の中で作業実施日数を確保した.(2)自動化農機の運転アシスト機能等を活用しつつ,十分な熟練技能を持たない雇用労働力の補完・育成を図った.(3)これらを通して作業体制を組み換え,大幅な規模拡大に際して雇用労働力数を増やさず対応した.さらに,(4)県のメガファーム事業により実施された農地の面的集積(集約化)という土地条件の高度化を通して,圃場間の移動時間の削減や圃場内作業の省力化を行った.

したがって,今後,高齢化等の進展から,対象事例のような急速かつ大幅な規模拡大が想定される場合における経営対応の方策としては,以下の3点が重要になると考えられる.すなわち,(1)大規模経営であるがゆえに必要となる,圃場別の品種・作型の再配置や,従業員を含む作業全体の進め方の再構築を図る等,データ活用型の作業・栽培管理を実施すること,(2)スマート農機・スマート技術の活用により,従業員の技能を補完・向上させ,それをもとに労働組織の再編を図ること,(3)農地の集約化等,土地条件の高度化を進めることである.

一方,これらの事例では,スマート農業実証プロジェクトの中で,ロボットトラクタも導入されてきたが,運営面での改善点も多く,実態に伴うロボットトラクタの費用対効果は,まだ十分に検証できていない.さらに,このような急速な規模拡大過程では,販売対応も含め様々な課題が生じてくると考えられるが,その点についての検討は実施できていない.これらについては今後の課題としたい.

付録 1.
付録 2.

謝辞

本研究は JSPS 科研費 20K15619 の助成を受けたものです.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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