2023 年 2023 巻 15 号 p. 1-52
斑点米カメムシ類は東北地域のみならず全国で依然として水稲の最重要害虫である.日本海側地域で分布と被害を拡大しているアカスジカスミカメに加えて,近年では東北太平洋側地域で温暖化によると思われるクモヘリカメムシの分布拡大も報告されている.このため,被害発生リスクは高止まりのままであり,今後の発生状況に注視していかなければいけない.斑点米カメムシ類による被害への将来的な研究展開や技術開発に資するため,2014 年から 2021 年にかけて東北地域において調査された斑点米カメムシ類と斑点米被害の発生状況を取りまとめ,主要種の変遷や開発された対策技術を概観した.また,斑点米カメムシ類が全国的に問題となった 1990 年代後半から現在までの主要種の全国的な変遷,被害状況や注意報・警報発表の推移,予察手法,斑点米被害に影響する要因とその対策研究,今後懸念される問題点について解説し議論した.
斑点米被害が 1999 年に全国的な問題となってから,20 年以上が経過した.全国の斑点米カメムシ類の発生面積,延べ防除面積ともに 1999 年前後に大きく増加した後も依然上昇傾向にあり(図 1),防除面積が最大の水稲害虫となっている.また,過去 10 年の発生面積推移を見ると東北地域のみが増加傾向にあり(図 2,農林水産省 2019),一方で他の地域では横ばいから微減の状況であることから(図 2),全国的な発生面積の増加は東北地域によることがわかる.東北地域では 2000 年頃より,カスミカメムシ類 2 種(アカスジカスミカメ(以下,アカスジ) Stenotus rubrovittatus (Matsumura),アカヒゲホソミドリカスミカメ(以下,アカヒゲ) Trigonotylus caelestialium(Kirkaldy))を中心とした斑点米被害が多発し,深刻な損失が起こった.また,2000 年代半ば頃から,東北日本海側地域で,それまでに加害種として問題となっていなかったアカスジの発生と被害が問題となった.これらのことから,2004 年と 2015 年に東北6県の試験研究機関と東北農業研究センターの協力により,被害の原因や開発された対策技術,発生予察のモニタリングデータについて資料が取りまとめられた(菊地ら 2004,田渕ら 2015).菊地ら(2004)では 1999年~2002 年の 3 年間を対象に発生要因の解明と気象条件などが整理され,田渕ら(2015)では斑点米被害が多発した 2003 年~2013 年に東北各県で開発された被害対策技術を集約して整理するとともに,データに基づいてアカスジが分布と被害を東北日本海側地域で広げた経緯について示した.
カメムシ類による斑点米被害軽減対策は東北地域をはじめ全国で相当の労力をかけて技術開発が進んだ.これらの対策技術や防除の徹底もあって全国的な被害面積(図 1)は横ばい傾向であり,落等比率(図 3)においても 2000 年頃に起きたような 10%を超える甚大な被害が比較的安定して避けられる状況となっている.2014 年に秋田県から警報が発表されて以降,2022 年まで全国で警報の発表はなく,深刻な被害が想定されるような多発は起こっていない.一方,過去 10 年においても注意報の発表は全国平均で 19.4 回行われており(JPP-NET 2022),行政の指導普及機関において斑点米被害発生に対する意識が高く維持されていることが垣間見える.斑点米カメムシ類を主体とする着色粒を理由とした,2 等以下への玄米格付け割合は約 3%前後で推移し続けており(図 3,農林水産省 2023),この間の 2 等以下への格付けによる差額を 600 円/60 kgとするとその被害額は年間 20 億~30 億円と見積もられる.これだけの被害が 1999 年以降,全国的・恒常的に起こっており,栽培環境の変化や温暖化に伴う加害種の変化や分布拡大なども考慮すると,深刻な被害の発生を警戒すべき状況は変わっていない.東北地域に目を向けると,2000 年代半ば以降,これまでアカヒゲが加害主体だった日本海側地域ではアカスジが加害主体に置き換わる一方,アカヒゲの減少は確認されず(田渕ら 2015),カスミカメムシ類 2 種の混発による被害リスクが高まっている.また,東北太平洋側地域では温暖化に伴うと想定されるクモヘリカメムシ(以下,クモヘリ)Leptocorisa chinensis Dallas の分布拡大が確認され(田渕ら 2020,田渕 2021,松木ら 2021a),被害リスクの高まっている地域が増加している.
近年の社会的な情勢においても斑点米被害を取り巻く状況は変化しつつある.内閣府が主導する規制改革の動き,また生産者や各種団体からの要望を受けて,斑点米の調査方法や基準の見直しについては長らく議論がなされてきた.過去数年間での大きな変化として,(1)2019 年(令和元年)7 月に,検査事務の効率化のため検査機関から農政局への報告内容の見直しが行われて着色粒の内訳(「カメムシ類」と「その他」)が不要となり,着色粒は合計値での報告となった.また(2)2020 年には穀粒判別機の精度向上により,これまでの目視による等級の検査に加えて機械による検査が容認された.そして,(3)2022 年 2 月にこれまでの農産物検査規格が見直され,機械鑑定を前提とした規格「水稲うるち玄米(二)」が新設された(農林水産省 2022).これは,着色粒など 9 項目について,単一の基準値のみを示すもので,着色粒に関しての基準値は 0.3%とされている.この新たな農産物検査規格は 2022 年産米から現行の 1 等~3 等による規格と並行して適用されたことから,生産現場でも大きな変化が起こることが見込まれる.
このように,様々な技術対策を講じた上でさらに被害発生リスクが高まっていること,また生産者の高齢化や農業従事者の減少による人手不足の状況下で,より効率的な発生予察や被害対策,被害発生リスクの評価手法が求められている.このことから,東北地域全体として今後の斑点米カメムシに対する防除対策の地域戦略を構築するため,今回 2014 年から 2021 年にかけての東北 6 県の斑点米カメムシ類の発生と被害の実態をとりまとめ,総説として報告することとした.
本稿ではまず各県ごとの状況を示し,最後に東北 6 県全体を概観して,斑点米被害の現状や課題を集約し,全国的な予察データから加害種の変遷についても集約した.また斑点米カメムシ類は水稲の病害虫防除体系の立案に大きな影響を与え続けてきた.斑点米カメムシ類の防除対策はその他の水稲害虫の復興や衰退にも大きく影響したと考えられることから,斑点米カメムシ類が問題となって以来 20 年にわたるこれらの対策とその他の水稲害虫の問題についても各県ごとに取りまとめた.本稿が斑点米カメムシ類の現状を報告し,地域の防除対策研究の戦略策定に活用されることにとどまらず,将来の斑点米カメムシ類の全国的動向や水稲害虫管理対策を検証する際の基礎資料となることも期待したい.実際,2003 年~2013 年に集約されたデータ(田渕ら 2015)は,その後の解析から,アカスジが東北日本海側地域で増加した原因解明等に利用される(Osawa et al. 2018a,b;大澤 2019;Yamasaki et al. 2021;Tamura et al. 2022)など,取りまとめ時点では想定していなかった活用がなされている.本稿が東北地域の農業病害虫研究者や普及・行政関係者のみならず,東北地域以外の関係者にも広く活用していただければ幸いである.
1 2014 年~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要カメムシ種の動向
(1)青森県における主要種
青森県における斑点米カメムシの主要種はアカヒゲとアカスジの 2 種である.近年,東北太平洋側の地域を中心に分布を拡大させているクモヘリ(田渕ら 2020,松木ら 2021a)の定着は 2022 年現在確認されていない.2003 年~2013 年においてアカスジの発生未確認地域は青森県中南地方や西北地方を中心に存在していた(田渕ら 2015).2021年までの調査から市町村合併前の旧区分 67 市町村のうち,57 の市町村で分布が確認されており,アカスジが概ね青森県内全域に分布を拡大させたことが明らかとなった(図 4).青森県病害虫防除所が調査した畦畔および休耕田のすくい取りによるアカヒゲとアカスジの発生地点率とすくい取り虫数(図 5)を比較すると,発生地点率の平年値はアカスジが 10~40%前後であり,アカヒゲの 50~70%と比較してその割合が低い.年次変動はあるものの,アカヒゲの発生地点率はアカスジの 2 倍程度であり,2021 年を除けば,すくい取り虫数もアカヒゲが上回っている年が多いことから,青森県における優占種は依然としてアカヒゲであると考えられる.
2)カメムシ類の発生推移
(1)予察灯
青森県では津軽地域 3 地点(青森市,黒石市,つがる市)と,県南地域 2 地点(十和田市,八戸市)の計 5 地点に予察灯が設置されていたが,十和田市の観測地点は設置していた(地独)青森県産業技術センター農林総合研究所藤坂稲作部の廃止に伴い 2018 年で調査終了となっている(図 6).いずれの地点においても,アカスジよりアカヒゲの誘殺数が多いものの(図 7),八戸市以外の地点においてアカヒゲの誘殺数は,近年やや減少傾向にあるようにも見受けられる.アカスジは青森市,つがる市で他の調査地点と比較して誘殺数が多い.
(2)すくい取り・フェロモントラップ
2019 年~2021 年の青森農林総合研究所水田圃場における,アカヒゲおよびアカスジ幼虫・成虫の畦畔すくい取り虫数(20 回振り),本田内成虫すくい取り虫数(同),本田内でのフェロモントラップ誘殺数の推移を図 8,9に示した.本田内の成虫のすくい取り虫数は両種とも 2019 年以外はピーク時でも 2~3 頭程度と少なく,発生消長は判然としなかった.一方,畦畔では越冬世代幼虫が両種とも 5 月上旬からすくい取られる年次もあった.畦畔のすくい取りではアカヒゲの成虫が 5 月下旬~6 月上旬頃と 7 月中旬,8 月中下旬さらに 9 月中下旬の 4 回発生しており,本田内のフェロモントラップには畦畔あるいは本田内のすくい取り虫数が増加するのと概ね同時期に多数が誘殺された.これに対し,アカスジ成虫の発生回数はすくい取り,フェロモントラップいずれにおいても発生盛期が判然としないものの,本田内の盛期は概ね 8 月上中旬頃であり,8 月下旬以降に発生量が増加する傾向がみられた.2014 年~2021 年までの青森農林総合研究所内牧草地におけるアカヒゲとアカスジの 1 齢幼虫および成虫の発生消長を図 10 に示した.アカヒゲの 1 齢幼虫は年 4 回の発生が確認され,5 月上旬~下旬と 6 月中下旬,7月下旬に盛期があり,8 月下旬に小さな発生ピークが認められた.アカヒゲ成虫も 1 齢幼虫の発生から 4~5 半旬後に 4 回発生した.アカスジの 1 齢幼虫は年 3 回,5 月下旬,7 月中旬~ 8 月上旬と 8 月下旬~9 月上旬に発生盛期があった.年次によっては 9 月下旬~10 月上旬に数頭程度の発生が確認される場合もあり,1 齢幼虫の発生は最大で年 4 回確認できる.しかし,成虫は 6 月下旬,7 月下旬と 9 月中旬~10 月中旬の年 3 回の発生である.さらに,越冬世代と考えられる 5 月下旬~6 月上旬の 1 齢幼虫の発生盛期が一山であるのに対し,その後の 7 月第 3 半旬以降の第 1 世代,第 2 世代と考えられる発生盛期がいずれも 2~3 半旬の間で二山になることから,年次変動が大きいことが読み取れる.これらのことから,青森県におけるアカスジの発生は基本的に 3 回であるが,気象条件等が増殖に好適であった際には 4 回となる可能性もある.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
表 1 に 2014 年から 2021 年までの主要品種作付け割合を示した.2014 年の作付け品種割合は“まっしぐら” 59.6%,“つがるロマン” 38.1%,その他 2.3%だった.翌 2015 年からは“青天の霹靂”の作付けが始まったが,作付け地域が津軽地域に限定されていることに加え,生産量や栽培目標が厳しく制限されていることなどから,2021 年に至るまで全体の 4%前後と低水準で推移している.2019 年までは概ね“まっしぐら” 60~70%に対し,“つがるロマン” 30%前後の割合で推移していたが, 2021年にかけて“つがるロマン”の割合が 14.3%まで減少し,“まっしぐら”が 79.0%まで増加している.“つがるロマン”は“まっしぐら”と比較して収量性,耐倒伏性,いもち病抵抗性が劣り,さらに胴割れ米が発生しやすいなどといった品種特性がある.このような品種特性などによって“つがるロマン”から“まっしぐら”への切り替えが進んでいるものと推察される.現在青森県で作付けされている主要 3 品種について 2014 年以降の割れ籾率を表 2 に示した.年次変動は大きいものの,割れ籾率の平均値は“まっしぐら” 20.5%,“つがるロマン” 11.0%,“青天の霹靂” 16.9%と,他県の主要品種と比較しても割れ籾率の高い品種が作付けされており,その中でも最も割れ籾を生じやすい“まっしぐら”が作付け面積の大半を占めている.
2)玄米の検査成績
2014 年~2021 年の一等米比率と着色粒率を表 3 に示した.一等米比率が最も低かったのは 2014 年で 88.5%だった.ただし,2 等以下の格付け理由として最も高い割合を占めていたのは充実度不足(5.3%)であり,次点で着色粒(4.0%)であった.当該年は 8 月上旬~下旬まで平年より低温で推移したため,着色粒よりも充実度不足による落等が多かったと考えられる.2015 年以降の一等米比率は 90%以上で推移しているが,中でも着色粒の割合が高かった 2019 年は着色粒が 5.5%,形質(=皮部の厚薄,充実度,質の硬軟,粒ぞろい,粒形,光沢並びに肌ずれ,心白及び腹白)が 1.7%,被害粒(=発芽粒,病害粒,芽くされ粒,斑点米以外の虫害粒,胴割粒,奇形粒,茶米,砕粒等の損傷を受けた粒)が 1.7%となっており,着色粒による落等が他の要因の占める割合よりも多かった.
3)過去の被害多発年の概況
(1)斑点米カメムシ種の変遷,拡大
1972 年~1975 年に行われた調査では,青森県内には斑点米カメムシが 5 科 19 種分布していた(土岐ら 1976).この中でアカヒゲは県内全域で,アカスジは下北半島の一部地域のみで発生が確認されていた.この 2 種のほか,コバネヒョウタンナガカメムシ Togo hemipterus(Scott)は津軽地域を除く全ての地帯で,ナカグロカスミカメ Adelphocoris suturalis(Jakovlev)は太平洋沿岸地帯,アカヒメヘリカメムシ Rhopalus maculatus(Fieber)は八甲田山系沿,オオトゲシラホシカメムシ Eysarcoris lewisi(Distant)は津軽半島中央部分を走る中山山系沿と日本海沿岸地帯で多く確認されていた.この頃からわずかに斑点米被害は確認されていたが,部分着色粒の主要因となることはなく,ほとんど問題視されていなかった.
青森県内で斑点米が問題となったのは 1997 年からで,蓬田村,蟹田町,平舘村といった東青地域北部の町村で部分着色粒が多発し,平均で 6.9%もの被害が確認された.特に蓬田村では斑点米被害による落等が全数量の 17.0%と多く,翌年も被害が多発した.同時に,この地域ではアカスジの発生も確認され,下北地域以外におけるアカスジ被害の初記録となった.
1999 年には県内全域に斑点米被害が拡大し,県全体の一等米比率は 79.8%まで低下した.着色粒による落等比率は 51.4%と,ほぼ半数を斑点米被害が占めた.1997 年から 1999 年に至るまで優占種はアカヒゲであり,アカスジは陸奥湾沿岸部で局所的な発生が認められるに過ぎなかった.
2002 年になると秋田県境に近い深浦町と,岩手県境に接する田子町で飛び地的にアカスジの発生が確認され,翌 2003 年には津軽地方内陸部1市 2 町と西北地域1町でもすくい取られた.しかしながら,以降津軽地域では 2010 年代まで本種は捕獲されず,本格的な分布拡大は認められなかった.対照的に,県南地域では 2006 年に八戸市で本種の発生が確認されて以降,毎年のように新たな発生確認地点が増加し,2012 年までに県南地域旧区分 24 市町村のうち,12 の市町村で発生が認められ,県南地域のほぼ全域にアカスジが分布拡大した.
その後,2016 年に行われた青森県全域を対象とした水田周辺でのすくいとり調査から,アカスジが津軽地域のほぼ全域で確認され,青森県内の全域に分布を拡大した(石岡,對馬 2017).一方,アカスジの分布拡大によるアカヒゲの発生量の減少などは確認されず,アカスジが分布を拡大させた地域では 2 種が混発し,斑点米カメムシの総量が増加して,かつ発生期間も長期化する状況となった.
アカスジの分布拡大が全県的になった 2016 年前後からは,6 月中下旬以降に平年より気温が高く推移する状態が継続しているが,その中でも特に高温が続いた 2021 年は過去に例がないほど水稲の出穂も早まり,そして,7 月巡回調査時点での発生種も初めてアカスジが優占的となった.隣接する秋田県や岩手県では既にアカスジが優占種となっているが(田渕ら 2015),今後も高温傾向が続き,さらに強まっていった場合は青森県においても優占種の入れ替わりが生じる可能性がある.
(2)防除体系の変化
1997 年に斑点米被害が多発する以前の病害虫防除は,有人ヘリや生産者による個別散布が主であった.防除対象はいもち病,紋枯病及びニカメイガ Chilo suppressalis(Walker)・コバネイナゴ Oxya yezoensis Shirakiで,出穂直前と,穂揃期の 2 回のみ防除が実施され,斑点米カメムシ類を対象とした防除は行われていなかった.
斑点米被害が多発した翌 1998 年からは,畦畔等の草刈りの徹底に加え,斑点米カメムシを対象とした穂揃期と穂揃 7~10 日後(多発時は 2 回目散布の 7~10 日後に追加散布)の防除が指導された.しかし,使用されていた殺虫剤がエトフェンプロックス剤やシラフルオフェン剤等であり,ネオニコチノイド系殺虫剤と比較して残効が短い薬剤であったため,中山間地や休耕田が多い地域など,斑点米カメムシの発生量が多い地点では依然として斑点米被害が散見された.
2007 年にネオニコチノイド系殺虫剤が生産現場で使用されはじめ,穂揃 7~14 日後の 1 回散布によって被害を充分に抑えられるようになった.また,この頃から無人ヘリによる散布が盛んに実施され,2011 年には県内のほぼ全域で水稲作付け期間中に 1 度は無人ヘリによる防除が行われた(図 11).
近年は,穂揃 7~14 日後頃にネオニコチノイド系殺虫剤を散布したにも関わらず被害を抑えきれない事例が散見されており,そのような地域では 1 回目の散布から 7~10 日後の再散布が必要となっている.実際に,2013 年~2020 年まで,水田面積に占める無人ヘリの散布面積(延べ面積)が 100%を超える年次が連続している.2 回の散布が必要な地域が増加してきた時期と,アカスジが県内各地に分布を拡大させた時期とが概ね一致することから,青森県における従来の斑点米カメムシであるアカヒゲを対象とした穂揃期の防除と,アカスジを対象とした穂揃 7~10 日後防除の 2 回の防除が必要となったと考えられる.
(3)被害多発年の特徴
1997 年に斑点米カメムシによる被害が顕在化して以降,米穀検査において総検査数量に占める斑点米カメムシによる着色粒率が 5%超となるほどの多発となったのは 1999 年,2005 年,2010 年,2019 年の 4 カ年であった.斑点米カメムシによる被害多発と夏季の高温との関連についての報告は既に複数あるが(石岡ら 2000,杉浦ら 2002,横田ら 2012),県内で斑点米被害が多発した 4 カ年はいずれも 8 月第 1 半旬~第 4 半旬までの半旬別平均気温の積算値が 100℃を超えており,穂揃期~穂揃 20 日後頃まで高温が続いていたことが窺える(図 12).対照的に,着色粒率が比較的少なかった年次(1998 年,2001 年,2017 年,2018 年)はいずれも同時期の積算温量が 90℃前後と,夏季低温年であった.夏季低温年はその他の生育障害に起因する着色粒も増加するため,これにより斑点米カメムシによる着色粒の割合が押し下げられた可能性があること,また防除の成否,色彩選別機の導入割合など,考慮すべき点は数多くあるが,青森県においても穂揃期前後の高温が斑点米被害の多発をもたらしている可能性が高いように思われる.
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)発生消長
アカヒゲホソミドリカスミカメとアカスジカスミカメの発生消長(2019 年(地独)青森県産業技術センター農林総合研究所 平成 31 年度技術情報資料)
近年の温暖化傾向からアカヒゲとアカスジの発生消長を 2015 年~2018 年にかけて県内複数地点で再度調査した結果,アカヒゲは 2004 年当時と同じく年 4 回,6 月第 2 半旬,7 月第 4 半旬,8 月第 3 半旬,9 月中旬に発生盛期があった.一方,アカスジは発生回数こそ 3 回のままであったが,第 1 世代発生盛期は 8 月第 2 半旬から 7 月第 6 半旬へ,第 2 世代の発生盛期は 9 月第 3 半旬から 9 月上旬へと,第 1 世代以降の発生盛期が早まっていた.
2)割れ籾
品種別の割籾率と直播栽培における割籾率(2021 年(地独)青森県産業技術センター農林総合研究所 令和 2 年度技術情報資料)
2014 年~2020 年にかけて県内主要 3 品種(“つがるロマン”,“まっしぐら”,“青天の霹靂”)の割れ籾発生率を枝梗別,栽培様式別に比較した結果,“まっしぐら”(21.4%),“青天の霹靂”(16.9%),“つがるロマン”(11.8%)の順に割れ籾率が高かった.枝梗別の比較では,いずれの品種も 1 次枝梗より 2 次枝梗で割れ籾が多かった.栽培様式別の比較では,移植栽培が最も割れ籾を生じやすく,V 溝乾田直播栽培や鉄コーティング湛水直播栽培の割れ籾率は移植栽培の 3 割~5 割程度の低い値であった.
3)殺虫剤防除
水稲の直播栽培における斑点米カメムシの殺虫剤散布適期(2022 年 (地独)青森県産業技術センター農林総合研究所 令和 3 年度技術情報資料)
近年,青森県内では無人ヘリによる計画散布が普及しており,移植栽培と直播栽培で同時期に殺虫剤散布を行う事例が散見されていた.現地事例に合わせ,移植栽培の穂揃 7 日後,14 日後,穂揃 21 日後に鉄コーティング直播栽培,V 溝乾田直播栽培圃場にジノテフラン剤を散布した結果,移植栽培では穂揃 7 日後以降,徐々に防除効果が低下する傾向であったのに対し,直播栽培では穂揃 7 日後以降,徐々に防除効果が高まる傾向が見られ,移植栽培の穂揃 21 日後にあたる時期,すなわち直播栽培の穂揃 10~14 日後頃に該当する 8 月下旬散布の効果が最も高かった.
4)雑草管理
斑点米被害の低減に有効な水稲出穂前に行う畦畔除草時期の晩限(2022 年(地独)青森県産業技術センター農林総合研究所 令和3年度技術情報資料)
青森県内で斑点米カメムシの耕種的対策の一環として推奨されていた水稲の出穂 14 日前の畦畔除草と,安田ら(2013)を参考に,より出穂期に近づけた出穂 7 日前の畦畔除草とで斑点米カメムシの発生量,斑点米混入率と畦畔イネ科雑草の出穂数を比較した結果,出穂 7 日前除草の方が斑点米カメムシの発生量,斑点米混入率,畦畔イネ科雑草の再出穂数いずれも減少する傾向が見られ,畦畔イネ科雑草の再生時期も遅くなることが示された.
4 今後の課題
斑点米カメムシ防除に欠かせない存在となったネオニコチノイド系殺虫剤に対する風当たりが年々強まっている.代替として使用可能な薬剤はあるが,非ネオニコチノイド系殺虫剤のより一層の充実が求められる.色彩選別機の普及によって斑点米カメムシの防除が不要になるのでは,との声も聞かれるが,仮に無防除で斑点米が 10%程度発生した場合,色彩選別機によってその 10%が除外され,収量減へと直結することとなる.これまで,斑点米カメムシは品質に対する害虫であったが,多発の程度次第では,収量に対する害虫へと変わっていく可能性がある.また,2021 年になりようやく県内においても優占度を上げてきたアカスジや,県境付近まで分布を拡大させつつあるクモヘリの動向についても注意し,防除対策を検討していく必要があると思われる.
1 2014 年~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要カメムシ種の動向
(1)岩手県における主要種
岩手県における斑点米カメムシの主要種はアカスジとアカヒゲである.田中ら(1988)の調査において,アカスジは滝沢村(現滝沢市)以南の内陸部で分布が確認され,アカスジがすくい取られた水田における斑点米発生率が高いことから,岩手県ではアカスジが最重要種とされた.アカスジは 2000 年代に入ってから岩手県北部,沿岸部でも発生が確認され,岩手県全域に分布することが確認されている.
近年もその分布傾向は変わらず,岩手県病害虫防除所による 8 月上旬(出穂期)の水田すくい取り調査では,アカスジが優占している(図 13).
(2)クモヘリカメムシの発生と分布拡大
太平洋側におけるクモヘリの分布北限は宮城県南部の沿岸部(大江ら 2017)とされており,岩手県病害虫防除所によるすくい取り調査においても過去に捕獲事例がなかったが,2019 年に陸前高田市で行った水田でのすくい取り調査において,クモヘリの発生が確認された.
本種の越冬場所はスギなどの常緑針葉樹林内である(横須賀 2001)ことが知られ,2 月上旬の日最高気温の平均が 4.7℃を超える地域で越冬可能(大江ら 2017)とされている.近年,本県沿岸部の宮古市以南では,その条件を満たしている年次が複数回出現していた.
田渕ら(2020)が 2018 年,2019 年に岩手県陸前高田市小友町から採集した稲を用いて行った斑点米調査において,斑点米被害に占めるクモヘリ加害の割合は,アカスジと比較して低いことが確認されている.2021 年に岩手県気仙地域(大船渡市,陸前高田市,住田町)から採集した稲を用いた斑点米被害調査でも,カスミカメ被害が 0.48%に対してクモヘリ被害が平均 0.02%と同様の結果であった(吉田ら 2022).
これらのことから,クモヘリの発生地域が岩手県沿岸部で拡大しているものの,斑点米被害の主要種はアカスジであり,クモヘリによる被害は少ないと考えられる.
2)カメムシ類の発生推移
(1)予察灯(図 14)
県北の二戸市の現地および県央の盛岡市の現地に設置した予察灯では,アカヒゲの誘殺数がアカスジよりも多い.2003 年~2013 年のデータ(田渕ら 2015)では,アカスジの誘殺数が多い年次もみられたが,近年はそのような年はない.
一方,県南の奥州市の現地に設置した予察灯では,県北,県央とは異なり,アカスジの誘殺割合が高く,誘殺数の約 6 割を占める.
また,2003 年~2013 年の報告(田渕ら 2015)と同様に,予察灯における年間総誘殺数は県南が最も多く,県央,県北の順に少なくなる.
岩手県北上市の雑草地におけるカスミカメムシ類の発生消長は年次により変動が認められるが,アカヒゲ成虫は 5 月中旬~下旬,アカスジ成虫 は 6 月上旬~中旬からすくい取られ始める.その後,アカヒゲは 7 月上旬~中旬,8 月上旬~中旬,アカスジは7月中旬~下旬,8 月中旬~下旬にすくい取り虫数が多く,それぞれ第 1 世代及び第 2 世代成虫の発生盛期と考えられる.近年は,9 月中旬~下旬にすくい取り虫数が多くなる年もある.
水田のすくい取りでは,どの地域でもアカスジの割合が高い.また 2003 年~2013 年のデータでは,県北ですくい取り虫数が多い傾向がみられた(田渕ら 2015)が,そのような傾向はなく,年次により発生量に差が見られる.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
岩手県における 2000 年代以降の水稲作付け主要品種は“ひとめぼれ”であり,2012 年以降は作付け割合が 70%を超えている.“あきたこまち”は約 15%で推移し,両品種あわせた作付け面積割合は約 90%である.近年は,2016 年に一般栽培が始まった岩手県育成品種“銀河のしずく”の作付け割合が増加してきている(図 17).
斑点米被害にはアカスジやアカヒゲ等の斑点米カメムシ類の本田内発生に加えて,割れ籾による側部加害の影響が極めて大きいことが指摘されている(菅,斎藤 2009;田村ら 2017).割れ籾の発生は,早生品種で多いことが知られ,内・外穎が発育する減数分裂期における低温や日照不足,玄米が肥大する登熟期間の高温が影響するとの報告がある(京谷 2002;松浦ら 1967,1968;結城ら 2006).
本県で中生の“あきたこまち”では,出穂後の積算温度 600 ℃以降から割れ籾率が急激に増加するとされているが(松田ら 2001),出穂期が“あきたこまち”と同時期の中生である“銀河のしずく”は,晩生の“ひとめぼれ”同様,割れ籾の発生が少ない(図 18).
2)玄米の検査成績
米の品質は玄米の検査等級で示され,落等原因としては,着色粒が上位に入る場合が多い.着色粒にはカメムシ類による加害によって生ずる斑点米が含まれるが,近年,検査業務の効率化等により,着色粒に占めるカメムシ類による被害は公表されていない.従って,ここでは一等米比率と全検査数量に占める着色粒の割合を示す(表 4).
岩手県の等級検査結果を見ると,1990 年代後半~2000 年代前半には,一等米比率が 90%を下回った年もあったが,2010 年代以降は,90%を下回る年はなく,最も低かったのは 2010 年の 90.5%であった.次いで 2014 年の 93.7%,2017 年の 94.0%,2020 年の 94.4%となっており,一等米比率は,全国でも上位に入る.
しかし,田渕ら(2015)で指摘されたように,岩手県病害虫防除所が実施している斑点米調査では,斑点米発生圃場率は高位安定で推移し,2020 年は非常に多くの斑点米被害が発生した.岩手県においては,主要な農業協同組合の米穀集荷場では色彩選別機が導入されているが,2020 年は落等が懸念される米が多かったため,例年以上に色彩選別機を利用する割合が高く,調製に時間がかかったとの声が普及指導員や農業協同組合職員から聞かれた.
このように,現段階でも斑点米被害を正確に把握することは難しく,加えて,岩手県沿岸部ではクモヘリの発生が確認されるなど,被害を詳細に把握することは,より一層,難しくなっている.
3)過去の被害多発年の概況
岩手県での斑点米被害を見ると,過去 30 年で被害面積が 10,000 ha を超えたのは,1999 年,2005 年,2020 年である(図 19).田渕ら(2015)は,過去の被害多発事例として,1999 年と 2005 年を取り上げている.ここでは,全県での多発年として,2020 年の概況を報告する.
(1)2020 年の概況
この年は,減数分裂期に当たる 7 月下旬が低温で経過したが,8 月中旬以降はかなりの高温となり 9 月まで平年よりも気温が高く,少雨となった.岩手県病害虫防除所が行った 8 月の巡回調査では,本田におけるカスミカメムシ類の発生圃場率は平年並であったが,9 月収穫期は 47.7%(平年 34.2%)と平年より高く,すくい取り虫数が 3 頭を超えた圃場も 26.1%(平年 13.9%)であった.また,例年割れ籾の発生が少ない“ひとめぼれ”でも,斑点米の助長要因である割れ籾が非常に多く,側部加害粒の発生割合が高くなり(図 20),全県的な多発にいたったと考えられる.
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)殺虫剤防除
本県の斑点米カメムシ類の防除は,穂揃期 1 週間後の防除を基本に,周辺に牧草地などの発生源がある場合や本田内にノビエ(イヌビエ)Echinochloa crus-galli (L.) P. Beauv. var. crus-galli,イヌホタルイ Schoenoplectiella juncoides (Roxb.) Lye,シズイ Schoenoplectus nipponicus (Makino) Soják が多発している場合,割れ籾の多い品種(“あきたこまち”等)では穂揃期 2 週間後に追加防除を指導している.また,ジノテフラン剤の残効期間は約 2 週間であることが確認されており,ジノテフラン剤を穂揃期1週間後の防除に使用した場合は,追加防除の時期はその 2 週間後(穂揃期 3 週間後)とした.しかし,ジノテフラン剤以外の殺虫剤については,残効期間が明らかでなかったため,ジノテフラン剤との比較を行い,斑点米を抑制する期間及び追加防除時期を整理し,研究成果「水稲出穂期以降のアカスジカスミカメ防除対策(追補)」,「水稲出穂期以降のアカスジカスミカメ防除対策(追補 2)」がまとめられ,ジノテフラン剤以外の殺虫剤の残効期間は 1 週間程度であることが示された.
また,病害虫防除の作業軽減が期待できる無人マルチローター(ドローン)の利用が拡大してきたことから,水稲の病害虫防除における無人マルチローターの実用性を検討し,斑点米カメムシ類の防除では,産業用無人ヘリと同等の防除効果が期待できることを研究成果「無人マルチローター(ドローン)による薬剤散布特性の把握」として示した.
岩手県では,殺虫剤散布による斑点米カメムシ類の防除が一般的に行われる.防除においてはネオニコチノイド系殺虫剤,特にジノテフラン剤の使用割合が高く,県内各地で連年使用されている(図 21).斑点米カメムシ類の一種であるアカヒゲでは,有機リン系の MEP 剤や MPP 剤に対する抵抗性(石本 2004;吉村,越智 2010)が確認されている.近年は,新潟県においてクロチアニジン剤およびジノテフラン剤に低感受性のアカヒゲの発生が確認され,その要因として,同一の殺虫剤または,同一系統の殺虫剤の連用が挙げられている(石本,岩田 2020)ことから,岩手県でもネオニコチノイド系殺虫剤の効果低下には注視する必要がある.また,ネオニコチノイド系殺虫剤以外の斑点米カメムシ類に効果の高い薬剤の探索も急がれる.
2)割れ籾
前述の通り 2020 年は斑点米被害が多発し,側部加害粒の割合が高かった(図 20).菅,斎藤(2009)において,斑点米被害発生量を抑制するには 8 月下旬以降の水田でのカメムシ類密度を抑制することが重要であり,カメムシの発生程度が同等の場合は,割れ籾の発生が斑点米発生程度に影響するとした.田村ら(2017)は,側部型斑点米発生は,出穂期および登熟期後半のカメムシ類と割れ籾の発生がリスク要因であり,特に割れ籾率との間には緊密な関係があるとした.2020 年は,8 月のカスミカメムシ類の本田での発生圃場率は平年並だったが,9 月収穫期には発生圃場率が上昇し,例年割れ籾の発生が少ない“ひとめぼれ”でも割れ籾が多く発生した.岩手県の斑点米カメムシ類の防除指導では“あきたこまち”等,割れ籾の多い品種では,穂揃期1週間後の防除に加えて,穂揃期 2 週間後に追加防除を指導している.しかし割れ籾の発生予測は行われておらず,“ひとめぼれ”では追加防除の実施割合が低かった.そこで“ひとめぼれ”での追加防除指導に資するため,“ひとめぼれ”での割れ籾の発生についてリスク要因を分析し,減数分裂期の低温と登熟期間の高温が発生リスクになることを明らかとした(吉田ら 2021)ことから,発生予察や防除指導等での活用が期待される.
3)クモヘリカメムシ
岩手県では 2019 年に陸前高田市の水田で行ったすくい取り調査でクモヘリの発生が確認され,病害虫発生予察情報特殊報を発表した.2021 年現在,宮古市以南の沿岸部まで発生地域は拡大しているものの,上記の通りクモヘリによる斑点米被害の割合はアカスジより低いことが確認されている(田渕ら 2020,吉田ら 2022).一方,クモヘリが多発した場合には品質被害だけではなく,不稔やしいな等の収量被害も懸念される.また,クモヘリは宮城県北部での発生が確認されており(宮城県古川農業試験場 2021),成虫は長距離移動する能力を有することから(Tsunoda and Moriya 2008),岩手県の水稲主産地である県南部への侵入,定着が危惧される.しかしながら,岩手県内におけるクモヘリの発生消長等,詳細は不明であり,防除対策を示すことができていないため,発生地域での発生消長の解明に加え,県南部での調査を実施予定である.
4)チャイロナガカメムシ
チャイロナガカメムシ Neolethaeus dallasi(Scott)は岩手県沿岸部山沿いを中心にしばしば局地的に多発して斑点米被害を起こすことが知られており(田渕ら 2015),過去に宮城県でも局地的な多発が報告されている(藤崎 1982).本種の多発に影響する要因は明らかになっていない.2018 年 8 月下旬には岩泉町で本種の成虫が多数確認された.多発圃場で県病害虫防除所が 9 月 7 日にすくい取り調査(20 回振り)を行ったところ,山側に面した水田内で 260 頭を超えるチャイロナガカメムシが捕獲された.また,9 月 27 日に当該圃場から稲を採集し斑点米被害を調査したところ,斑点米混入率は 0.13~3.57%(岩手県における 2018 年の平均斑点米混入率 0.36%)であった.
4 今後の課題
近年,雑草地のすくい取り調査において,アカスジ成虫は 6 月上旬から確認され,9 月中旬以降のすくい取り虫数が多い(図 15).岩手県では,アカスジの各世代の成育ステージは,重久(2004)の発育零点,有効積算温度を基に推定した時期と概ね一致することが知られ(横田,鈴木 2008;横田ら 2012),病害虫防除所では,有効積算温度を用いて各世代の成育ステージ別到達時期を推定している(表 5).各世代の成虫羽化盛期の平均日について 1991 年~2000 年と 2011 年~2020 年を比較すると,越冬世代は 7 日,第 1 世代は 9 日,第 2 世代は 16 日早く到達している.また,第 3 世代については,2000 年代前半には積算温度を満たさず,羽化盛期に到達しない年も見られていたが,2010 年は 9 月 5 日に,それ以降の年は概ね 9 月中旬頃に羽化盛期に到達している.岩手県のアカスジ個体群では,休眠卵産下臨界日長は 14.5 時間であり(飯村 2004),岩手県での 8 月 19 日の日長時間にあたる.しかし,アカスジ,アカヒゲは高温条件では,休眠卵の産下割合が低いことが確認されている(樋口ら 2005,重久 2008).2021 年にアカスジがすくい取られる雑草地のイタリアンライグラス(ネズミムギ Lolium multiflorum Lam.)穂に産下されていた卵を採集,孵化状況を調査したところ,休眠卵率の発生推移は図 22 のとおりであった.2021 年のアカスジ第 2 世代成虫の羽化盛期は 8 月 10 日と推定され,休眠卵産下臨界日長の前に羽化盛期を迎えていることから,この時期に産下された卵の休眠卵率は低く,8 月 19 日頃には臨界日長を迎えるが,2021 年 8 月下旬の岩手県北上市の平均気温は 24.4℃であったため,その後も休眠卵の産下割合が低かったと考えられる.
岩手県でも温暖化の影響により長期的に気温の上昇が続いている(図 23).アカスジの発生は早期化し,休眠卵産下臨界日長を迎えても,高温の影響を受け休眠卵率が低下することで,雑草地等でアカスジの発生密度が高まっている可能性が高い.現在,斑点米カメムシ類の薬剤防除は,穂揃期 1 週間後の防除を基本としているが,アカスジによる斑点米形成時期は,穂揃期 7 日後から 35 日後まで長期に及ぶことから,雑草地等で多発したアカスジが水田に侵入し,8 月下旬以降の水田内での発生密度が高まった場合は,斑点米被害の多発が懸念される.さらに,岩手県の将来の気温は,秋が高温となっていくと予想されており(仙台管区気象台 2020),割れ籾が発生しやすい気候となる可能性もある.
武田(2017)は,出穂期時点におけるアカスジのすくい取り虫数から二等落等確率を推定し,出穂期のすくい取り虫数が 0 頭の場合は,割れ籾発生の多少に関わらず,落等率は高くならず被害発生リスクに応じた防除を提案できるとし,田渕(2018)は,害虫の発生数を使わず,土地利用データを用いて斑点米被害を予測し,ハザードマップとして示した.石本,岩田(2019)は,アカスジ及びアカヒゲで空間分布に違いがあるものの,両種は出穂したイネ科植物が繁茂する畦畔に分布し,その畦畔の位置や面積は,カスミカメムシ類 2 種の地域的な発生予察や被害リスク評価に利用できるとした.
現状,水稲では特別栽培米等,あらかじめ農薬の使用回数などが制限されている栽培も多く,出穂期以降に斑点米カメムシ類が多発し,追加防除が必要と考えられた場合でも,実施できないことも想定される.あらかじめ潜在的な斑点米発生リスクを評価し,効果的な防除対策を提示できれば,斑点米被害の多発を未然に防ぐことができるかもしれない.
5 その他,(斑点米カメムシ以外で)問題となった水稲害虫
1)初期害虫(イネミズゾウムシ,イネドロオイムシ)
岩手県での初期害虫の発生は少なく推移している.イネミズゾウムシ Lissorhoptrus oryzophilus Kuschel は,食害度の高い圃場が見られているが,発生圃場率は 2011 年をピークに減少し近年は 20%前後となっている.イネドロオイムシ(イネクビボソハムシ)Oulema oryzae(Kuwayama)はさらに発生が少なく,一部地域で発生がみられる程度である.岩手県での初期害虫の防除は,箱施用剤が中心で殺虫成分クロラントラニリプロールの使用割合が高い.近年,少発生となっている要因としては,広域でのクロラントラニリプロール剤による防除が考えられる.
2)コバネイナゴ
岩手県でのコバネイナゴの発生は,多くの圃場でみられるが,1圃場当たりのすくい取り虫数は 10 頭未満の年が多く,収量被害等は見られていない.コバネイナゴのみを対象とした防除はほとんど実施されておらず,一部で箱施用剤による初期害虫との同時防除が行われている.
3)コブノメイガ
岩手県ではコブノメイガ Cnaphalocrocis medinalis(Guenée)の発生は稀であり,病害虫防除所の調査でも,ほとんど発生は確認されない.しかし,2020 年は県北,沿岸部を中心に広く止葉への食害が確認され,特に葉色の濃い圃場では圃場全面で食害が発生した.また,内陸部でも食害が見られた.
1 2014 年~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要なカメムシ種の動向
宮城県における斑点米カメムシ類の主要種は,アカスジとアカヒゲであり,特にアカスジが最も重視すべきカメムシ種である.これらのカスミカメムシ類の発生源は水田周辺の牧草地や雑草地,畦畔などであり,県内の発生源における動向について図 24 に示した.6 月下旬~7 月上旬はアカスジの越冬世代成虫の発生時期であり(小野 2006),アカスジの成虫が 3~7 割を占めている(図 24 左下).また,7 月中旬になるとカスミカメムシ類幼虫の発生が主体となることから(図 24 中央下)アカスジの発生密度を抑制するため草刈りによる発生源対策を行う時期としている(小野ら 2007).水田への侵入前である 7 月下旬はアカスジの第1世代成虫の発生時期であり(小野 2006),本種の成虫の割合が高くなっている(図 24 右下).発生密度の推移について,図 24 の上図に1地点あたりの 20 回振りすくい取り虫数で示した.6 月下旬~7 月上旬の発生密度は低く,いずれの年次も 40 頭以下であり(図 24 左上),7 月中旬~下旬に密度が高くなっている(図 24 中央上,右上).これらの発生源における斑点米カメムシ類の発生推移においてある程度の年次変動は見られるが,アカスジを主体として推移しており,2003 年~2013 年の調査結果(田渕ら 2015)と比較して大きな変化は見られなかった.
水田における斑点米カメムシ類の発生状況を図 25 に示した.7 月下旬に最も発生密度が高くなった年次もあるが,一般的に 7 月中旬~下旬の密度は低く(図 25 左上,中央上),8 月中旬~下旬に高くなる傾向が見られた(図 25 右上).宮城県内の出穂状況として,7 月下旬に出穂している水田は少なく,8 月上旬頃に多くの水田において出穂期に達していることから(表 6),水稲の出穂がアカスジ成虫の水田内への侵入を促したと考えられる.また 8 月中旬~下旬はカスミカメムシ類幼虫の割合が高かった.これは,イヌホタルイが残草し,7 月中旬からアカスジ成虫が侵入した後に次世代が本田内で発生した結果だと考えられる(加進ら 2009).
近年,分布域の拡大が懸念されているカメムシ種として,クモヘリが挙げられる.これまで,クモヘリの東北太平洋側における生息北限は宮城県南部とされていたが,2020 年以降の宮城県中部以北の沿岸部(気仙沼,石卷地域)のすくい取り調査において生息が確認されている(図 26,27).また,フェロモントラップを用いた調査においても,2020 年に宮城県中部以北の沿岸部(気仙沼,石巻,登米地域)で確認され(宮城県古川農業試験場 2021),2021 年には県北部の内陸部(栗原,大崎地域)でも確認された(宮城県古川農業試験場 2022a). クモヘリは,2019 年に岩手県沿岸南部で確認されていることから(田渕ら 2020),確実に分布域を広げていると考えられる.
2)カメムシ類の発生消長
(1)予察灯における誘殺消長
2001 年以降,病害虫発生予察事業として宮城県古川農業試験場(宮城県大崎市,図 27)において水稲害虫の発生時期の調査を実施している.当試験場内の予察灯におけるアカスジとアカヒゲの年間誘殺数を図 28に示した.両種ともある程度の年次変動は見られるが,2014 年~2021 年の発生動向において明瞭な傾向や変化は認められなかった.
次に,予察灯におけるカスミカメムシ類の誘殺消長を図 29 に示した.アカスジの越冬世代成虫による初誘殺は 6 月上旬~中旬に見られ,その後誘殺数は 7 月下旬頃まで増加傾向にあり,越冬世代と第 1 世代の連続的な発生となったため,両世代を明確に区別できない年次が多かった.また,8月以降の誘殺消長についても,第 1 世代と第 2 世代の連続的な発生となった.一方,アカヒゲについては,越冬世代の初誘殺が 5 月中旬~6 月上旬に見られ,アカスジよりも発生時期が早いと考えられた.また,2021 年を除く年次において越冬世代の山と見られる発生もあった.しかし,第1世代以降は,アカスジ同様,世代の山を明確に区別できない年次が多かった.
(2)牧草地における発生消長
宮城県古川農業試験場内の牧草地(草種:イタリアンライグラス)における年間すくい取り虫数(6 月第 1 半旬~8 月第 6 半旬の半旬ごとの 20 回振りすくい取り調査)の年次推移を図 30 に示した.アカスジ成虫は 1,000 頭~2,000 頭程度の発生で推移していたが,2021 年に 4,000 頭を超えた.一方,アカヒゲ成虫は 2014 年に 3,000 頭を超えたが,以降 300 頭~1,400 頭で推移した.全般的にはアカヒゲよりアカスジの発生が多い傾向があった.
牧草地におけるカスミカメムシ類の発生消長を図 31 に示した.この牧草地における発生消長のデータを主体に,予察灯における誘殺消長を補完的なデータとしてアカスジの越冬世代と第 1 世代の発生盛期を推定した(表 7).第 2 世代成虫の推定に関しては,明瞭な発生の山が認められないことが多いため,一般社団法人日本植物防疫協会が HP 上で運用する「有効積算温度計算シミュレーション version2」を利用し,発育零点と有効積算温度は重久(2004)の値を用いた.その結果,越冬世代成虫の発生盛期は 6 月第 3~6 半旬と年次変動が大きかったが,第 1 世代成虫と第 2 世代成虫の発生盛期はそれぞれ 7 月第 4~5 半旬,8 月第 4~5 半旬であると推定された.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
宮城県の水稲作付け品種は“ひとめぼれ”が 70%以上を占める(表 8).“ひとめぼれ”の特徴として,通常の気象条件下において割れ籾の発生が少なく,カスミカメムシ類による側部加害が少ないことが挙げられる(田渕ら 2015).それ以外の品種では,“つや姫”の作付け面積割合が増加しており,2021 年は 8.5%を占め 2 番目に多かった.また,“ササニシキ”は 6%前後,“まなむすめ”は 5%前後で推移した.
2)玄米の検査成績
宮城県産米における一等米比率と着色粒による落等割合の推移を図 32 に示した.ただし,着色粒について,2018 年以前はカメムシ類によるものであるが,2019 年以降はカメムシ類以外のものも含んでいる.一等米比率は,2019 年が最も低く 70.6%であったが,それ以外の年次は 84~94%で推移した.また,落等の要因として,形質(充実度,心白粒及び腹白粒)や着色粒によるものが多かった.例年,着色粒による落等は全検査数量の 1~4%であるが,2020 年は 5%を超えており,過去 20 年間で 2005 年,2003 年に次いで 3 番目に多かった(菊池ら 2004,田渕ら 2015).
病害虫防除所において実施している斑点米カメムシ類による被害粒の調査結果を図 33 に示した.2014 年以降,2020 年の斑点米の被害粒率が最も高く,東北農政局発表の落等割合と同様の結果であった.しかし,本調査結果(図 33)では例年の 2 倍以上の斑点米被害が出ていた一方,東北農政局発表の着色粒による落等割合(図 32)は例年よりやや高かった程度で被害の増加程度は一致しなかった.調査方法自体が大きく異なることが要因として考えられるが,色彩選別機が広く普及していること(神名川,綾井 2019)も一因だと考えられた.
また,2020 年に斑点米カメムシ類による被害が多発した要因として,割れ籾率が高く側部被害の割合も高いことから,割れ籾の発生が大きく影響したと考えられた(図 33).
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)震災復興関連
2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震に伴い発生した大津波により,沿岸部の農地は甚大な被害を受けた.こうした被災農地における病害虫の発生実態調査を 2011 年に実施した(佐藤ら 2013).営農再開後の被災水田と被災していない一般の水田を比較した結果,斑点米カメムシ類による被害に大きな違いは認められなかった.しかし,津波被災により休耕した水田においてイヌビエとコウキヤガラ Bolboschoenus koshevnikovii (Litv. ex Zinger) A.E.Kozhevn.が繁茂し,アカスジやアカヒゲ等の発生が確認された.また,イヌビエとコウキヤガラの穂にアカスジ等が産卵していることが確認され,このような休耕田は斑点米カメムシ類の発生源になると考えられた.
2012 年~2014 年に宮城県名取市の復旧水田において,被災程度の違いによる斑点米カメムシ類への影響を調査した(大江ら 2020).被災程度は海岸部からの距離により異なり,海岸部に近い農地ほど被害は甚大であり復旧まで時間を要した.こうした海岸部に近い水田において,水田雑草と斑点米被害の関係を調査したところ,イヌホタルイの有無にかかわらず斑点米被害が発生していることが明らかになった.要因として,水田周辺にノビエとコウキヤガラを主としたイネ科・カヤツリグサ科雑草が繁茂した休耕地が点在しており,こうした休耕地内において発生した斑点米カメムシ類が復旧後の水田に侵入したと推測された.
2)カメムシ類の発生動向
雑草地や牧草地などの発生源における斑点米カメムシ類の発生実態について,2014~2016 年に県内全域の調査が行われた(大江ら 2018).県内全域の発生実態調査は 1970 年代と 1980 年代にも行われており,1970 年代に斑点米カメムシ類の主要種とされたオオトゲシラホシカメムシ,ホソハリカメムシ Cletus punctiger(Dallas),クモヘリ,コバネヒョウタンナガカメムシ,アカヒゲから,1980 年代にはアカスジ,アカヒゲ,フタトゲムギカスミカメ Stenodema calcarata(Fallén),ホソハリカメムシへと大きく変化した(藤崎 1982,永野ら 1992).大江ら(2018)の調査結果から,永野ら(1992)と同じ 4 種が主要種であり,最重要種はアカスジであった.また,クモヘリの発生には 1970 年代の調査(藤崎 1982)において確認されたが,1980 年代の調査(永野ら 1992)では確認されなかった.しかし 1998 年以降,県南部において発生が確認されており(菊池ら 2004;永野 2000;永野,梅津 1999;田渕ら 2015),今回の調査においても確認された.
3)クモヘリカメムシの分布域拡大
2014 年~2016 年に県内各地に設置したフェロモントラップによるクモヘリの分布域調査において,誘殺の有無と冬期間の気温の関係を解析した結果,厳寒期である 2 月上旬の最高気温が本種の発生の有無に関係していると考えられた(大江ら 2017).また,県北部においても発生可能と推定された地域があったことから,2020 年から県南・県北地域におけるフェロモントラップ調査を開始した.その結果,前述のとおり県北部においても分布域が拡大していることが明らかになった(宮城県古川農業試験場 2021,2022a).
また,クモヘリの分布域については,越冬場所である針葉樹林からの距離が影響することが知られている(石川県農林総合研究センター 2015).前述のフェロモントラップの調査結果を解析したところ,クモヘリの発生確率と総捕獲数に対して針葉樹林との距離が影響していた(宮城県古川農業試験場 2021).
4)水田雑草によるリスク評価
水田雑草のイヌホタルイが発生した水田において,アカスジの発生密度が高まり斑点米被害が助長されることから(加進ら 2009),イヌホタルイの発生量に基づいた斑点米被害リスクの評価手法を構築した(宮城県古川農業試験場 2013).このリスク評価手法において,6 月下旬のイヌホタルイ株数から落等する確率を推定できることから,中後期除草剤を用いた斑点米被害抑制技術の確立が期待される(加進 2014,宮城県古川農業試験場 2022b).
5)殺虫剤防除
2016 年,2017 年に水田内のイヌホタルイに起因してアカスジが高密度に発生した条件下において,主要な殺虫剤の防除効果を検討した(小野ら 2018).ジノテフラン液剤 1,000 倍,エチプロール水和剤 1,000 倍,クロチアニジン水溶剤 4,000 倍を供試した結果,アカスジの発生密度に対してジノテフラン液剤とエチプロール水和剤の防除効果が認められ,特にジノテフラン液剤は残効性に優れた.また,頂部被害の抑制に対しても,ジノテフラン液剤とエチプロール水和剤の効果が認められた.
2018 年にもイヌホタルイによるアカスジ高密度条件下において,新規殺虫剤スルホキサフロル水和剤(2,000倍)の効果試験を実施したところ,アカスジに対する防除効果は散布7日後まで高く,散布 20 日後まで認められた(宮城県古川農業試験場 2019).また,斑点米被害の抑制に対しても,スルホキサフロル水和剤(2,000 倍)の効果が認められた.
6)発生予察
水稲害虫の発生予察において,代表的な調査手法として予察灯が使用されており,予察灯の光源として白熱電球が使用されている.しかし,白熱電球は将来的に製造と販売が終了する見通しであるため,LED 光源を利用した予察灯の実用化を検討した(小野ら 2019).その結果,斑点米カメムシ類の主要種アカスジとアカヒゲ,ならびにフタオビコヤガ Naranga aenescens Moore に対して,LED 光源は白熱電球と同等以上の誘引性を示し,実用性は高いと思われた.
4 今後の課題
2002 年に宮城県において斑点米カメムシ類による被害が多発して以降(菊池ら 2004),防除対策として発生源における草刈りや穂揃期以降の殺虫剤散布が生産現場において積極的に行われてきた.特に無人ヘリを利用した殺虫剤散布は,広域的な一斉防除が可能であることから広く普及してきた(田渕ら 2015).生産者が斑点米カメムシ類による被害を認識できるのは,収穫後の米の等級検査において落等した場合であり,栽培期間中に斑点米カメムシ類の発生やその被害をモニタリングすることは困難である.従って,斑点米カメムシ類に対する対策として,県内一律に殺虫剤散布を講じてきた経緯がある.しかし,水田周辺の発生源や水田雑草の影響,また割れ籾の発生などにより多発する場合を除き,被害の発生が少ないケースも見られることから,斑点米カメムシ類の発生状況に応じた防除対策の実施は生産現場においても求められている.今後は,無人ヘリによる広域的な殺虫剤散布に対しても適切な実施に向けた検討が必要である.また,農林水産省による「みどりの食料システム戦略」において,化学農薬の使用量を低減することを目標に掲げており,これまでの殺虫剤散布を基本戦略とした防除のあり方について議論する必要が生じてくると考えられる.
宮城県では地球温暖化等の気候変動や脱炭素社会などに対応した環境政策に取り組んでおり,農業の試験研究分野においても気候変動適応技術の開発に 2021 年から取り組んでいる.生息域を拡大しているクモヘリについては,現時点において局所的な発生に留まっているが,気候変動などの気象的要因や地理的要因などを解析するとともに,そのリスクの評価と被害を低減するための技術を開発する必要がある.こうした環境に適応した生産管理技術の開発は喫緊の課題であり,技術開発とともに社会実装を進めていくことが重要である.
5 その他,(斑点米カメムシ以外で)問題となった水稲害虫
(1)イネドロオイムシ
近年,県内の一部の地域においてイネドロオイムシの多発事例が確認された.当該地域は,殺虫成分チアメトキサムを含む育苗箱施用剤を約 10 年以上連用しており,薬剤感受性検定の結果から本薬剤に対して感受性低下が認められた(宮城県古川農業試験場 2019).当該地域の農業協同組合は,2020 年以降,異なる育苗箱施用剤も含めた防除対策を講じているが,チアメトキサム剤を施用し続けている圃場において多発している.
(2)コバネイナゴ
近年,発生量の多い害虫種として,コバネイナゴが挙げられる.本種の水田内への侵入盛期は通常 7 月第 2~3 半旬であり,7 月中旬~下旬の密度が最も高い.2011 年以降の 7 月中旬,下旬のすくい取り調査において,2020 年の 1 地点あたり平均すくい取り虫数が最も多くなり,両時期とも 30 頭を超えた.また,2020 年のこの時期の発生地点率は 100%であった.コバネイナゴの発生量が多くなった要因として,本種に対して適用登録のない育苗箱施用剤が広く普及していることが考えられた.
1 2014年~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要カメムシ種の動向
秋田県における主要種はアカスジとアカヒゲである.県内 6 か所に設置されている予察灯におけるアカスジとアカヒゲの総誘殺数の年次推移を図 34 に,同データの両種の割合を図 35 に示した.いずれの年も誘殺数はアカスジよりアカヒゲが多く,アカヒゲの割合は約 60~90%で推移した.
病害虫発生予察事業の調査において,秋田県内 80~100 地点の水稲圃場を対象に,畦畔では捕虫網による 40 回振り調査,水田内では 20 回振り調査を実施している.畦畔におけるアカスジとアカヒゲの平均すくい取り虫数の年次推移を図 36 に,水田内におけるアカスジとアカヒゲの平均すくい取り虫数の年次推移を図 37 に示した.7 月上旬と 7 月下旬の畦畔でのアカスジとアカヒゲは,同調した推移を示したが,9 月中旬の畦畔では 2018 年を除いてアカスジがアカヒゲを上回った.一方,水田内では 8 月上旬,8 月中下旬,9 月中旬のいずれもアカスジがアカヒゲを上回る傾向であった.
以上のように秋田県における斑点米カメムシ類の主要種は,2010 年頃を境に完全にアカヒゲからアカスジへの置換が起こって以降(田渕ら 2015),依然として水田内ではアカスジの割合が高く,斑点米被害の原因種と考えられる.
2)カメムシ類の発生推移
(1)予察灯
秋田県内 6 か所に設置されている予察灯の中で最もカスミカメムシ類の誘殺数が多い大仙市(東北農業研究センター大仙研究拠点内)の予察灯に誘殺されたアカスジとアカヒゲの消長を図 38 に示した.いずれの年次もアカスジはアカヒゲと比べて誘殺数が少なく,各世代の誘殺ピークが判然としない場合が多かった.アカスジの初誘殺は早い年次で 5 月第 6 半旬であったのに対し,アカヒゲの初誘殺は早い年次で 5 月第 4 半旬であった.アカヒゲの越冬世代の誘殺は早い年次で 5 月下旬,遅い年次では 6 月上旬に認められた.第 1 世代の誘殺は早い年次で 6 月第 6 半旬頃から認められ,7 月中旬に誘殺ピークとなる場合が多かった.8 月以降は誘殺数が少なくなり第 2 代以降の誘殺ピークは判然としない年次が多かったが,2016年,2017 年のように 8 月第 2 半旬に誘殺ピークが認められる場合があった.
(2)すくい取り
大仙市(東北農業研究センター大仙研究拠点内)の牧草地(イタリアンライグラス)におけるすくい取りによる捕獲消長を図 39 に示した.アカスジのすくい取り虫数はアカヒゲのすくい取り虫数より少ない年次が多く,各世代の発生ピークは判然としなかった.アカスジの越冬世代幼虫の初確認日は早い年次で 5 月第 4 半旬であり,アカヒゲの 4 月第 5 半旬より 5 半旬遅かった.捕獲ピークが比較的明瞭な 2014 年ではアカヒゲのピークは越冬世代で 6 月第 2 半旬,第 1 世代は 7 月第 2 半旬に認められたのに対し,アカスジでは越冬世代の捕獲ピークは確認されず,第 1 世代は 7 月第 3 半旬にピークが認められた.8 月以降はアカスジ,アカヒゲともすくい取り虫数が少なく,第 2 世代以降の捕獲ピークは判然としなかった.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
2014 年~2021 年の品種別作付け割合は,“あきたこまち”が 71.4~74.0%で,次いで“ひとめぼれ”が 7.3~8.4%,“めんこいな”が 6.4~8.3%となっている(表 9).“あきたこまち”は秋田県内全域で栽培され,“ひとめぼれ”は由利地域を中心とした沿岸南部での栽培が多い.“めんこいな”は多収性品種の位置づけで,主に業務用米として栽培されている.
病害虫防除所の抽出圃場調査における地域ごとの割れ籾率の年次推移を表 10 に示した.作付け品種では“あきたこまち”の割合が高いことから,ほぼ“あきたこまち”の割れ籾率と考えられるが,県中央部では比較的割れ籾率が低い“ひとめぼれ”の作付けが多い由利地域を含むことから,県中央部の割れ籾率は相対的に低いと考えられる.年次間差も大きく,2016 年,2020 年のように全県平均で 30%を超える年次もあれば,2021 年のように 8 月中旬の低温・寡照により極端に割れ籾率が低い年次もあり,斑点米被害の発生量に大きく影響していると思われる.
2)玄米の検査成績
2014 年以降の一等米比率では 2019 年が 86.0%で比較的低く,その他の年次は 90%程度を確保している.一等米比率低下の主な原因は,2017 年,2018年,2020 年では形質(充実度)であり,その他の年次は着色粒(カメムシ類)であった.総検査数量に対するカメムシ被害で落等した割合は,2019 年が 5.9%,2020 年が 6.5%,2021 年が 4.9%で比較的高かった(表 11).2020 年は畦畔及び水田内でのカメムシ類の発生量が比較的少なかったにもかかわらず落等率が高く,割れ籾率が高かったことが影響したと推察された.一方,2021 年は畦畔及び水田内でのカメムシ類の発生量がかなり多かったにもかかわらず,落等率が 2020 年より低くなり,割れ籾率が非常に低かったことが影響したと考えられた.
3)被害の地域性
病害虫防除所の抽出圃場調査における斑点米混入率の分布について,玄米の検査で落等率が比較的高かった 2019 年,2020 年,2021 年を見ると,2019 年は県北部と県南部で多い傾向があるが,その他の年次は県全域で被害が発生しており地域的な偏りは小さい(図 40).
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)本田薬剤散布後の畦畔草刈りの実施
2013 年まで秋田県では,稲の出穂 10~15 日前から収穫 2 週間前までを畦畔の草刈禁止期間として指導してきたが,その間に雑草が繁茂してアカスジの発生源となっている事例が確認された.
そこで,本田薬剤散布後の畦畔の草刈り効果について検討した結果,殺虫剤散布後 7 日以内に畦畔の草刈りを実施すると,登熟後期の畦畔におけるアカスジの発生量を抑制することができた.また,水田内へのアカスジの侵入量も少なくなり,側部加害を主体とした斑点米発生量を低減することができた(高橋,菊池 2015).
秋田県では,この研究成果から 2014 年に 8 月の畦畔管理方法を変更し,殺虫剤散布 7 日後までの間に積極的に草刈りを行うよう指導している.
2)後期除草剤散布がアカスジの発生に及ぼす影響
イヌホタルイの多発圃場において,後期除草剤として 7 月上旬にシハロホップブチル・ベンタゾン液剤を散布した場合(CB 区)はイヌホタルイの小穂がほとんどなくなり,アカスジの発生量が少なくなった(図 41).さらに,効果の高い殺虫剤を適期に散布することにより,斑点米混入率を無処理区の 1/4 程度に低下させた(図 42).一方,ペノキススラム水和剤を散布した場合(P 区)はイヌホタルイの小穂が多く残存してアカスジの発生量も多くなり,効果の高い殺虫剤を適期に散布した場合でも斑点米混入率は無処理区の 1/2 程度であった.
3)飼料用イネ栽培圃場における斑点米カメムシ類の発生実態
慣行栽培と比較して,病害虫管理が省力的になる飼料用イネ栽培圃場においては,主食用栽培圃場と比較して斑点米カメムシ類の発生量が多く,発生量には殺虫剤の不使用と水田雑草密度が強く影響していると考えられた(新山 2017).
4)マルチローターを用いた防除対策
近年,マルチローターを用いた農薬散布が実施されるケースが増加している.秋田県では,2016 年から斑点米カメムシ類に対する,マルチローターを用いた農薬散布の防除効果を検討し,ジノテフラン剤を散布した場合は無人ヘリによる散布と同等の効果があることを明らかにした(高橋,藤井 2017;新山ら 2018).
2021 年には,ジノテフラン剤の他に,本県の防除薬剤として使用されているエチプロール剤とスルホキサフロル剤の防除効果を検証し,両剤ともジノテフラン剤よりやや効果が劣るものの,十分な防除効果が得られることを確認した(図 43).
5)アカスジとアカヒゲのジノテフラン剤に対する感受性
近年,新潟県においてネオニコチノイド系のジノテフラン剤とクロチアニジン剤に低感受性のアカヒゲ個体群が報告されている(石本,岩田 2021).秋田県では,2006 年以降,ジノテフラン剤が基幹防除剤として使用されていることから,新潟県と同様に感受性低下の懸念がある.そのため県内の複数地点において主要種であるアカスジとアカヒゲ個体群のジノテフラン剤に対する感受性検定を行った結果,両種ともジノテフラン剤に対する感受性の低下は確認されず,高い殺虫効果が期待できると考えられた(新山,高橋 2021).
4 今後の課題
秋田県における斑点米主要加害種のアカスジは,水田内に発生するイヌホタルイやノビエ(イヌビエ)の影響を強く受けることから,斑点米カメムシ類対策として除草の徹底が重要である.近年は,代かきから移植時期までの気温が高く経過する年が多いことから,雑草の生育速度が速くなり,除草剤散布時にはすでに抑草可能な葉齢を超えている事例が多い.特に大規模生産法人では,代かき等の一つの作業に多くの時間を要することから,代かきと移植作業を重ねた進行を実施するなど,除草剤の散布適期を確保できる作業体系の導入が必要である.
また,2021 年 5 月に農林水産省が示した「みどりの食料システム戦略」では,低リスク農薬への転換,総合的な病害虫管理体系の確立・普及に加え,現在,斑点米カメムシ類の基幹防除剤であるネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬使用量を 50%低減することと,耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を 25%(100 万 ha)に拡大することを目標としており,今後,斑点米カメムシ類の研究をどのように展開していくか,関係機関一体となった検討が必要と考えられる.
5 その他,(斑点米カメムシ以外で)問題となった水稲害虫
(1)イネヒメハモグリバエ
イネヒメハモグリバエ(イネミギワバエ)Hydrellia griseola(Fallén)は 2013 年に秋田県沿岸部一帯で第 1 世代幼虫が大発生し,水稲の初期生育に影響を及ぼした(新山ら 2014).2013 年の株当たり卵数は 2.02 個と 2008 年~2010 年の平均値(0.02)の約 100 倍,産卵株率も 49.6%と高く,要防除水準(株当たり卵数 1.5 個,産卵株率 50%)を超える,もしくは迫る値だった.その余波は翌年以降も継続し,2014 年と 2015 年は 2013 年ほどではないが平年より発生が多かった.
秋田県病害虫防除所が 2014 年 5 月 19 日に実施した県中央部での巡回調査では多くの圃場で産卵が確認され,株当たり卵数は 0.74 個で 2008 年~2010 年の平均値(0.02 個)と比較して 30 倍以上多かった.産卵株率は 26.5%で 2008 年~2010 年の平均値(1.5%)と比較して高かった.要防除水準(株当たり卵数 1.5 個,産卵株率 50%)を超える圃場もあったことから,5 月 21 日に注意報が発表された.その後の 2014 年 5 月 26 日に行った巡回調査と合わせてみると,株当たり卵数の分布は 2013 年と同様に内陸部に比べて沿岸部の方が多い傾向が認められた(図 44).6 月第 2~3 半旬の抽出圃場調査における食害株率は 8.7%(平年 1.6%),食害度は 2.2(平年 0.4)でいずれも高かった.被害許容水準(食害株率 50%)を超える圃場も見られた(図 45).また,同調査における第 2 世代の株当たり卵数は 0.03 個と,平年(0.01 個)より多かった.2014 年は 4 月の気温は平年並であったが,5 月の気温が高かったため越冬世代成虫の発生時期と稲の移植時期の一致は少なかった.しかし,前年の発生量が多かったため越冬世代成虫の発生量が多くなり,平年と比べて産卵量が多くなったと考えられた.その後,アメダスポイント(秋田)の 5 月下旬の気温が 17.8℃(平年差+1.8℃)と平年より高く,また 6 月上旬が 23.4℃(平年差+5.4℃)とかなり高く推移した.降水量は 5 月下旬の降水量が 39.5 mm で平年比 103%と平年並み,一方 6 月上旬が降水量 1.5 mm で平年比 6%とかなり少なかったため,卵からのふ化や幼虫の生存に不適となり,平年より食害程度は高いものの 2013 年のような大きな被害には至らなかったと考えられた.
その翌年の 2015 年は 2014 年より産卵数が多く,また食害株率も高く,平年と比べると発生量が多かった(図 45).
1 2014~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要カメムシ種の動向
1988 年の山形県における斑点米カメムシ類の主要種は,アカヒゲとオオトゲシラホシカメムシの 2 種であった(渡辺ら 1991).2007 年以降はアカスジの確認地点が増加し(川崎ら 2009),2013 年には全調査地点で確認され(田渕ら 2015),アカヒゲとアカスジの 2 種が主要種となっている.
2003 年以降の巡回調査地点の水田周辺において行った 5 月後半から 9 月前半の計 8 回のすくい取り調査の年間総すくい取り虫数の推移を図 46 に示した.アカヒゲは,年次間差はあるものの期間を通じて一定数以上捕獲されており,2011 年以降はそれに加えて約 1,000 頭以上のアカスジが捕獲された.特に,2019 年以降はアカスジが多く,アカヒゲの約 2 倍のすくい取り虫数となっている.次に,巡回調査地点におけるアカスジ優占地点率の年次推移を図 47 に示した.優占地点率は,前述の水田周辺のすくい取り調査結果ついて,各地点の斑点米カメムシ類の総すくい取り虫数のうちアカスジのすくい取り虫数が 5 割を超えた地点を本種優占地点とし,全調査地点に対する優占地点の割合を年次毎に求めたものである.優占地点率は,2009 年から 2013 年にかけて高まり,その後は,地域間差はあるものの県全体で約 40%から約 60%の間で推移した.
すくい取り虫数で比較した場合は,2016 年以降アカヒゲに比べてアカスジが多く推移しているが,アカヒゲが優占する地点も 40%程度あることから,山形県における主要加害種はこれまでと同様にアカスジとアカヒゲの 2 種であると考えられる.
2)カメムシ類の発生推移
(1)予察灯
山形県では山形市(農業総合研究センター)と鶴岡市(水田農業研究所)の水田圃場脇に予察灯(60 W 白熱灯)を設置し,誘殺数の調査を行っている.アカスジは山形市で 2012 年から,鶴岡市で 2013 年から誘殺されるようになった.初誘殺年から 2021 年までの各年の総誘殺数は,山形市で 2~127 頭と年次間差が大きく,鶴岡市ではいずれの年次も 10 頭未満と少なかった(図 48).アカヒゲは,田渕ら(2015)の報告にある 2003 年~2013 年については,山形市において年間総誘殺数が 100 頭を超える年次が複数あったが,2014 年以降はいずれも 100 頭未満であった.
カスミカメムシ類 2 種の総誘殺数が 100 頭を超えた 2017 年,2021 年の山形市の誘殺数推移を図 49 に示した.2017 年はアカスジが多く誘殺されており,7 月上旬から下旬のピークが第 1 世代成虫,8 月中下旬のピークが第 2 世代成虫であると考えられた.2021 年は 6 月上旬に誘殺されたアカスジが越冬世代,6 月下旬~7 月中旬のピークが第 1 世代成虫と考えられた.2021 年は 2017 年に比べて 3 月が高温で経過したため,越冬世代,第 1 世代の発生が早まったと推測される.アカヒゲについては 2017 年,2021 年ともに 6 月下旬~7 月中旬にかけて第 1 世代成虫とみられるピークがあり,2003 年~2013 年と大きな違いはみられなかった.
(2)すくい取り
2014 年~2021 年の病害虫防除所巡回調査地点の水田内におけるすくい取り調査結果を図 50 に示した.アカスジはイネが出穂する 8 月以降に水田内の密度が高まる傾向があり,2021 年以外の 7 カ年は 8 月以降の確認地点率,平均すくい取り虫数が最も高かった.2021 年はスズメノテッポウ Alopecurus aequalis Sobol. var. amurensis (Kom.) Ohwi やイヌホタルイの発生した圃場が1圃場あり,6 月後半,7 月前半の虫数が多かった.一方,アカヒゲは第1世代成虫発生盛期となる 7 月前半にすくい取り虫数が多く確認地点率が高く,8 カ年中 5 カ年は 8 月前半にも密度が高まっていた.この発生推移は 2003 年~2013 年の状況と同じ傾向であった(田渕ら 2015).なお,カスミカメムシ類 2 種以外の確認はわずかであったことから,これまでと同様にこの 2 種のカスミカメムシ類が斑点米被害の主要種であると考えられた.
(3)フェロモントラップ
アカスジ,アカヒゲの水田内に設置したフェロモントラップ(粘着板垂直設置式)への誘殺数調査は,2012 年から病害虫防除所で予察灯と同じ 2 地点で行っている.各半旬別の誘殺数について,2021 年と平年値の推移を図 51 に示した.いずれの地点,いずれの種についても誘殺数は少なく,平年値の推移から各世代の発生時期を把握するのは困難であった.2021 年の山形市では,9 月第 1 半旬にアカスジの第 3 世代とみられるピークが,6 月第 5 半旬にアカヒゲの第 1 世代とみられるピークが確認された.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
山形県における水稲の主要品種は中生品種の“はえぬき”であり,2001 年から継続して作付け面積の約 6 割を占めている.2014 年と 2020 年の品種作付け面積割合を比較した場合,晩生品種の“つや姫”が 5%以上増加した一方で中生品種“ひとめぼれ”,晩生品種“コシヒカリ”,早生品種“あきたこまち”が 2~3%減少した(表 12).また,2018 年に本格デビューした中生品種の“雪若丸”の 2020 年の作付け面積割合は 6%であった.作付け上位 6 品種で比較すると,2020 年は 2014 年と比べて晩生品種が 2.1%増えた分,早生品種が減っている.
地域別にみた場合,最上地域は山形県内の中でも中山間地域が多く冷涼な気候であるため,“あきたこまち”等の早生品種の作付け面積割合が他地域に比べて高く,県内の“あきたこまち”の約 50%は最上地域に作付けされている.ただ,近年は温暖化が進んでいることもあり,最上地域でも平坦部を中心に“はえぬき”や“雪若丸”,“つや姫”の作付け面積が徐々に拡大している.
2)玄米の検査成績
2014 年以降は 1999 年のような斑点米カメムシ類の被害が多発する年次はなく,一等米比率は 90%以上で推移した(図 52).アカスジの増加に伴い,特に 2011 年以降のすくい取り虫数は多く推移しているにもかかわらず(図 46)一等米比率が高く維持されたのは,斑点米カメムシ類に効果の高い殺虫剤の使用面積が増加したためと考えられ,その詳細については後述する.しかし,2019 年は着色粒による落等割合が 4%となり,直近で最も一等米比率が低かった 2010 年以来の落等割合となった.地域別のカメムシ類による落等割合については,庄内地域が安定して低く,最上地域がやや高い傾向にある(表 13).この要因としては先の報告(田渕ら 2015)にあるように,最上地域では他地域に比べて山間部,中山間部の水田の割合が高く,割れ籾が発生しやすい“あきたこまち”の作付け面積割合が高いこと,庄内地域では他地域と比べて割れ籾率が低い傾向にあることなどが影響していると考えられる.なお,農産物検査において 2019 年に着色粒の内訳が不要となったが,山形県ではこれまでと同様に「カメムシ類」と「その他」に分けた数量について集計している.
3)過去の被害多発年の概況
過去 30 年間のうち,山形県産米の検査数量に占める着色粒(斑点米)による落等割合が 5%を超えたのは 1999 年,2002 年,2003 年,2005 年である.その後,落等割合は 2%以下の低い水準で推移したが,2010 年,2019 年は 4%となった.2013 年までの多発事例については,菊地ら(2004),田渕ら(2015)の報告のとおりである.2003 年を除いたいずれの年次でも夏季の高温や少雨により斑点米カメムシ類の発生量が多くなった.また,年次によっては 7 月の日照不足により籾殻が小さくなり最終的には割れ籾が多発して被害が多発した.2010 年はこれまで主要種だったアカヒゲにアカスジの発生が加わり,斑点米カメムシ類の全体としての発生量が多くなって被害も多くなった.
2014 年~2021 年で最も被害が多かったのは 2019 年で,斑点米による落等割合は 9 年ぶりの 4%となった.5 月は気温が高く推移し,特にアカスジの発生時期がやや早まり,6 月前半の発生量はやや多かった.6 月,7 月は梅雨らしい天候で推移したものの斑点米カメムシ類の発生量はやや多く推移した.7 月下旬の梅雨明け以降は高温で推移し,8 月も日最高気温の最高値を更新する地点が複数確認されるような状況であった.8 月,9 月のアカスジ,アカヒゲの密度は過去最高の確認地点率で推移し,捕獲虫数も平年に比べて多かった.さらにこの年は代かきから移植期となる 5 月の気温が高く水田内雑草の生育が早まったため,一部圃場でノビエやイヌホタルイ等の残草が見られ,例年よりも出穂後の水田内で斑点米カメムシ類が多く確認される状況にあった(山形県病害虫防除所業務年報より抜粋).
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)気象要因
アカスジ,アカヒゲにおいては,気温や降水量がその発生量に及ぼす影響について考察されている報告が多くある.前述の被害多発年についても 2003 年を除きいずれも梅雨明け以降に高温少雨傾向で経過した年となっている.特に 1999 年の斑点米被害多発については,6 月,7 月の気温が高く降水量が多くなかったためアカヒゲの増殖に好適であり(新山 2000),8 月の高温が個体数の増加を引き起こして,少雨がそれを助長したとされている(石岡ら 2000).
また,川崎ら(2007)は 1998 年から 2006 年までの 9 年間のデータを用いて 8 月第 2 半旬の水田内におけるアカヒゲ成虫のすくい取り虫数と気象データとの関係について解析し,7 月第 4 半旬の平均気温とは正の相関,7 月第 4~6 半旬の積算降水量とは負の相関がみられたことを報告している.そこで,アカスジとアカヒゲが主要種となった 2011 年以降の 7 月下旬の平均気温および積算降水量と 8 月前半の水田内のカスミカメムシ類のすくい取り虫数の状況について表 14 に示した.7 月下旬の平均気温が 27℃を超えた年次は,2015 年,2018 年で平年値の 25.2℃に比べて 2℃以上高かった.また両年とも 7 月下旬の積算降水量は平年値より少なかった.2011 年から 2021 年のカスミカメムシ類平均すくい取り虫数は両種と も 0.6 頭であったが,7 月下旬が高温,少雨だった前述の 2 カ年については 2 種のカスミカメムシ類がそれぞれ平均 1 頭以上捕獲されていた.気象と発生量の関係についてはより詳細な解析が必要であるが,高温少雨の気象条件はその後のカメムシの水田内の発生量にプラスに働くと推測される.ただし,8 月後半,9 月前半のカスミカメムシ類のすくい取り虫数と気温や降水量の間に一定の傾向はみられなかった.この時期の発生量は気象だけでなく殺虫剤散布等の影響が大きくなるためと推測される.
2)殺虫剤による防除
斑点米カメムシ類の防除に使用される殺虫剤は,その被害が多発した 1999 年前後は有機リン剤や合成ピレスロイド剤が中心であったが,その後,ネオニコチノイド系殺虫剤のジノテフラン剤やフェニルピラゾール系のエチプロール剤の使用面積が増加した.いずれの殺虫剤も,アカヒゲ及びアカスジに対して防除効果が高いとされている(新山,糸山 2004;石本 2007,2016;中野 2020).
山形県における有人ヘリおよび無人ヘリの薬剤別散布面積の推移を図 53 に示した.航空防除では,ネオニコチノイド系殺虫剤は 2004 年から使用され,2006 年にかけて増加し,その後は 2010 年まで継続して 30,000 ha で散布された.また,フェニルピラゾール系殺虫剤は 2008 年から使用され,2009 年,2010 年は 20,000 ha で散布された.この時期の水稲作付け面積に占める航空防除実施面積は 5 割前後であるが,地上防除でも同じようにこれらの殺虫剤の使用面積は増加傾向にあったと推測される.山形県の着色粒による落等割合は,2006 年以降は 5%以下で推移しており(図 52),ネオニコチノイド系,フェニルピラゾール系殺虫剤の普及がこの時期の被害低減に影響したと考えられる.また,水田周辺における斑点米カメムシ類総すくい取り虫数は,アカスジの発生拡大により 2003 年から 2021 年にかけて明らかに増加傾向であるにもかかわらず(図 46),斑点米の被害は増加しておらず(図 52),これらの殺虫剤による防除が一因であると推測される.
2020 年には,山形県の水稲作付け面積のうち約 7 割で無人ヘリによる薬剤散布が行われており,斑点米カメムシ類を対象として平均 2.1 回の防除が行われている.防除時期は 7 月下旬~8 月上旬と 8 月中旬~下旬に 1 回ずつの場合が多く,ジノテフラン剤,エチプロール剤,エトフェンプロックス剤の使用面積が多い.延べ防除面積に占めるこの3剤の散布面積割合はそれぞれ 39%,34%,25%となっている.
3)雑草管理
畦畔や農道等といった水田周辺の雑草は斑点米カメムシ類の生息場所となるため,草刈り等の除草管理の徹底により生息密度を下げるよう指導されている.また,出穂以降の草刈りは斑点米カメムシ類の水田への侵入を助長するため原則行わないように指導してきた.ただ,8 月に草刈り等を行わない場合は畦畔雑草が繁茂し,斑点米カメムシ類の密度が高まる場合もある.
そこで出穂期以降に草刈りをする場合の条件について検討する試験が行われ,ジノテフラン剤,エチプロール剤については,残効が期待できる散布 7 日後までに草刈りを実施すれば,水田内への影響がなく,かつ畦畔を発生源としない管理ができるということが明らかとなった(上野 2018).山形県内でも 1,000 ha 規模の農業協同組合単位で薬剤散布とセットで出穂期以降の草刈りを実施している事例や,個人単位でも共同防除の前後に草刈りを行う事例が増えてきている.
4 今後の課題
近年の稲作農家の経営規模拡大に伴い作業の省力化が求められ,畦畔の雑草管理は除草剤散布により行う事例が増えている.しかし,春に除草剤散布を行った場合,その後一時的に裸地化するため,その後メヒシバなどの夏型の一年生雑草が多くなるとの報告がある(大塚ら 2006).今後,除草剤の使用面積はさらに増加すると想定され,イネ科雑草を優占させないような雑草管理が必要であると考えられる.
また,前述のとおり山形県では 2019 年に 9 年ぶりに斑点米被害が多発し,着色粒による落等割合が 4%となった.この年は前述のとおり 7 月下旬から 8 月は高温で推移し,8 月下旬の水田内の密度が高かった.菅,斎藤(2009)はアカスジが優占種である岩手県において,8 月下旬以降の水田内の斑点米カメムシ類の発生量が斑点米被害の発生に強く影響すると解析している.また,大友(2013)は高温化により 8 月下旬以降の斑点米カメムシ類の密度の増加が懸念されるとしている.これらのことから,山形県においても雑草管理,薬剤散布体系といった防除対策について再検討が必要であると考えている.
また,殺虫剤による防除については,前述のとおり 2006 年以降はネオニコチノイド系殺虫剤に依存した状況となっている.新潟県では感受性低下した個体群が確認されていることから(石本,岩田 2020),本県においても感受性のモニタリングが必要であると考えられる.
さらには,温暖化に伴い,害虫の発生様相が変化していることから,現在の主要種であるカスミカメムシ類以外にもクモヘリなどの今後の発生動向にも注意を払う必要がある.
5 その他,(斑点米カメムシ以外で)問題となった水稲害虫
1)イネキモグリバエ(イネカラバエ:Chlorops oryzae)
イネキモグリバエは,幼虫がイネの生長点付近に食入して傷穂をつくるため,発生が多くなると減収につながる.2016 年は平年に比べて多く,2017 年,2019 年,2020 年は平年に比べやや多い発生量となった.近年発生量が増加傾向にあるのは,本種に対する防除を行っている圃場が少ない状況が続いているためと考えられる.ただ,イネキモグリバエに抵抗性が弱い品種の作付け面積は減少していることから,発生が見られる圃場の大半は,被害程度が軽微であり,2021 年までの時点では収量への影響は非常に小さいと考えられる(病害虫防除所業務年報より一部抜粋).
2)コブノメイガ
コブノメイガが山形県で多発する事例は少ないものの,2020 年は平年に比べて多い発生量となった.病害虫防除所の巡回調査地点における本種被害の確認地点率は,7 月後半で 4.8%,8 月前半で 9.5%,8 月後半で 23.8%,9 月前半で 73.8%と高まった.この年は 7 月の前線通過により,コブノメイガの飛来時期が平年より早まり,その後増殖して 9 月前半の被害に結びついたと推察された.庄内地域の一部ではコブノメイガを対象とした防除が行われた(病害虫防除所業務年報より一部抜粋).
1 2014 年~2021 年のカメムシ類の発生推移
1)主要カメムシ種の動向
福島県は,南北に連なる阿武隈高地と奥羽山脈を境に,東から浜通り・中通り・会津の 3 地方に分けられ,気候風土が異なる(図 54).近年,県全域での水田内における斑点米カメムシ類の主要発生種は,アカスジ,アカヒゲおよびホソハリカメムシである(図 55).浜通りでは,上記 3 種に加え南方系のクモヘリも主要種に含まれる.
アカヒゲとホソハリカメムシの2種は,1990 年以前から県内全域で発生が確認されていた.アカスジは浜通りで 1990 年代中頃から,中通り・会津では 2003 年以降に捕獲地点が増加し,2011 年以降は県内全域で見られる主要種となった(田渕ら 2015,図 56).クモヘリは,1990 年代まで浜通り沿岸部,中通り南部にほぼ限定して発生が認められていた.例数は少ないものの 2000 年代中頃から阿武隈高地での捕獲事例がみられていたが,2020 年には阿武隈高地・中通り地方の多くの地点で捕獲され(図 57),初確認となった市町村も複数あった.
2)カメムシ類の発生推移
(1)予察灯
会津の河沼郡会津坂下町の水田に設置した予察灯による誘殺調査の結果,アカスジ誘殺推移は平年 4 回前後の誘殺ピークがみられ,6 月の誘殺個体は越冬世代成虫,7 月は第 1 世代成虫であると考えられる(図 58).2020 年は,6 月上旬・中旬,8 月中旬~9 月上旬の誘殺数が多かった.アカヒゲでは,平年7月上旬に第 1 世代成虫による大きな誘殺ピークがある(図 58).2020 年,2021 年は,第 1 世代成虫のピークが 6 月第 6 半旬であり,総誘殺数は少なかった.
(2)フェロモントラップ
郡山市の水田内に設置したアカスジとアカヒゲの合成性フェロモン剤を用いた誘殺調査の結果,アカスジ誘殺推移では,平年 2,3 回の誘殺ピークがみられ,2020 年は 7 月下旬,8 月下旬に誘殺ピークがあった(図 59).アカヒゲでは,平年 7 月上旬に第 1 世代成虫,8 月上旬に第 2 世代成虫の誘殺ピークがある.2020 年は 7 月までの誘殺数が少なかったが,8 月下旬に誘殺ピークがあった.
いわき市と中通りの東白川郡矢祭町の水田内に設置したクモヘリの集合フェロモンを用いた誘殺調査の結果,平年 7 月中下旬に越冬世代成虫の誘殺ピークがみられた(図 60).2020 年は 2 地点とも 7 月の誘殺数が多く,矢祭町では,9 月上中旬に第 1 世代と考えられる誘殺があった.
2 斑点米被害の実態と特徴
1)主要品種の作付け状況
2010 年までは,“コシヒカリ”と“ひとめぼれ”に作付けが偏重していた(図 61).2010 年に県オリジナル水稲品種“天のつぶ”が県奨励品種に決定され,既存品種からの転換が進み,2021 年には“コシヒカリ”に次ぐ作付け割合となった.
2)玄米の検査成績
1999 年~2018 年において着色粒(カメムシ類)が理由で 2 等以下に格付けされた玄米の割合が 3%を超えた年次は,2010 年,2013 年であった(菊池ら 2004,田渕ら 2015,表 15).2020 年の着色粒の割合は 6.0%と高く,1 等比率も 90%を下回った.
3)過去の被害多発年の概況
斑点米被害の多かった年次は,上記のとおり 2010 年,2013 年,2020 年であり,その原因として以下の理由が考えられる.
カスミカメムシ類の水田内発生量に加えて,割れ籾の発生が斑点米被害を助長することが知られており(菅,斎藤 2009;田村ら 2017),割れ籾の発生は減数分裂期の低温と登熟期の高温により増加することが報告されている(吉田ら 2021).2013 年,2020 年は減数分裂期である 7 月中下旬の低温と,3 カ年とも 8 月の高温が影響し(図 62),割れ籾の発生が多くなったと考えられる.福島県では割れ籾率の継続的なデータ収集を行っていないが,2020 年は“コシヒカリ”,“ひとめぼれ”,“天のつぶ”の割れ籾率が過去の調査事例に比べ高かった(松崎ら 未発表).
斑点米カメムシ類の発生については,2009 年~2013 年にかけてアカスジの捕獲地点率が急増した(田渕ら 2015).2020 年は,前述のとおりクモヘリの捕獲地域が拡大した年次である.直接的に斑点米被害に影響を及ぼしたと考えられる 9 月上旬のアカスジの水田内捕獲率は 2013 年までに急増し,2020 年はクモヘリの捕獲地点率が高かった(図 56).
斑点米カメムシ類を対象とした防除面積は 1999 年以降増加傾向にある(図 63).2011 年~2013 年は横ばい,2014 年以降は大きく増減しながらも増加傾向にあったが,2020 年はクモヘリが多発した状況下だったにも関わらず前年に比べ防除面積が低下した(図 63).
これらのことから斑点米被害の多かった 3 カ年は,割れ籾の発生,斑点米カメムシ類の発生地域の拡大,防除不足が影響した可能性が考えられた.
4)被害の地域性
クモヘリによる加害は,斑点米の発生に加えて青立ち症状(横須賀 2001),穂発芽(馬場口,瀬戸口 1971)を引き起こすことが知られている.
青立ち症状は,出穂後の集中加害による不稔粒やしいなの発生によって起こる.本県における青立ち症状の発生は,藤田ら(2000)の報告がある.主要品種である“コシヒカリ”に比べて出穂時期が早い品種は越冬世代成虫により,遅い品種は第 1 世代成虫による加害により青立ち症状になる場合が見られている.
穂発芽については,クモヘリ加害により出穂後の全期間を通じて発生の可能性があること,出穂 15 日後の被害が大きい傾向にあることが示唆されており(馬場口,瀬戸口 1971),その発生には胚乳組織の変質が影響していると考えられている(川村,高井 1987).本県では,2019 年に浜通りの双葉郡といわき市で栽培された“ふくひびき”(穂発芽性:やや易)と“里山のつぶ”(穂発芽性:中)の玄米調査から,クモヘリ加害によると考えられる穂発芽の発生が確認された(有賀 未発表).その後,いわき農林事務所では,本種が多発生した“天のつぶ”(穂発芽性:難)の同一圃場で青立ち症状,穂発芽の発生を確認している.
3 カメムシ類と斑点米の発生に影響した要因とその事例
1)気象要因
(1)カスミカメムシ類
温暖化に伴う害虫の越冬時死亡率の減少,世代数増加による個体数の増加,地理的分布域の変化等が懸念されており,その中にカメムシ類も含まれている(桐谷 2007).岸ら(2013)は,気候シミュレーションモデルを利用し,温暖化条件下におけるアカスジ成虫の発生盛期の予測を行ったところ,各世代の発生盛期は温暖化が進むにつれて早まり,イネの出穂時期も前進化するといった結果が得られた.水田内に侵入する世代が第 1 世代から第 2 世代に変化すると予測され,侵入量も増加すると考えられる.このような変化は,同じカスミカメムシ類のアカヒゲにも起こりうると類推される.
(2)クモヘリカメムシ
クモヘリの発生域は,厳寒期の最高気温が深く関与していると考えられる(松木ら 2021b).クモヘリの発生地点が増加した 2020 年の冬(2019 年 12 月~2020 年 2 月)は,気象庁の統計開始以降最も気温の高い暖冬であった(気象庁 2020).2020 年に,それまでほとんどクモヘリの捕獲事例がない中通り北部の水田内調査の結果,複数の地点でクモヘリが斑点米被害の原因となっていることが確認された(松木ら 2021a).中通り北部の伊達市等では越冬を可能とする気象要因を満たしていることから既に定着していると考えられる.中通り北部の福島市から中部の郡山市では,現在までクモヘリ捕獲事例がほとんどないが,今後,その発生と被害の拡大が懸念される.
本県ではクモヘリ越冬後成虫が主に水田内に侵入・加害すると考えられている(松木ら 2010).水稲の作付け品種・出穂期の変化も考慮しなければならないが,温暖化の進行により越冬後成虫の発生が早期化した場合,雑草地で増殖した第 1 世代成虫が水田に侵入するように変化する可能性がある.越冬時死亡率減少に伴う発生量の増加,雑草地で増殖した第 1 世代成虫の侵入が起きた場合,クモヘリの発生量増加により斑点米被害に加えて青立ち症状,穂発芽発生の増加による減収も危惧される.
(3)ホソハリカメムシ
ホソハリカメムシは,前述のとおり 1990 年以前からの主要発生種の一つである.2020 年 9 月上旬の水田内捕獲地点率が高かったが(図 57),同年 8 月上旬の捕獲地点率は平年並であり(データ省略),その理由は不明である.成虫越冬であるホソハリカメムシもクモヘリと同様に温暖化の進行による越冬時死亡率の減少,世代数増加の可能性が類推される.ホソハリカメムシは,アカスジとクモヘリに次いで捕獲地点が多い斑点米カメムシであるが,本種が斑点米被害にどの程度影響しているのか検討が必要である.
2)殺虫剤による防除面積
斑点米カメムシ類を対象とした防除面積は,2000 年代前半は 10,000 ha 前後であったが,2010 年代後半には約 3 倍に増加した(図 63).労働力不足が深刻な問題となっていることから,水稲をはじめとした土地利用型作物の防除機として無人航空機の利用が増加している.近年,無人航空機による水稲殺虫剤の散布は,主に産業用無人ヘリを用いて実施されており,県内の水稲害虫を対象とした実施面積は 2014 年 6,128 ha,2021 年 9,641 ha である(福島県病害虫防除所調べ).2016 年より,機体が小型・廉価であり,労働負担の軽減や作業性の向上が期待される産業用マルチローターの利用が始まった.産業用マルチローターによる防除面積は,2021 年には 4,000 ha を超えたと推測され,今後も増加すると考えられる.
3)割れ籾発生の影響
前述の通り,割れ籾の発生が斑点米被害に影響したと考えられる年次があるものの本県では継続的な割れ籾発生の調査が行われていない.今後,継続的な調査実施が望まれる.
4 今後の課題
以前からの主要な斑点米カメムシ類の種,2011 年以降に県内全域の主要種となったアカスジの発生状況と斑点米対策については,関係団体・生産者へ知識が普及しているものと考える.ただし,クモヘリが新たに侵入・発生した場合には,その地域の生産者に対して速やかに情報を周知する必要がある.また,クモヘリを対象とした防除対策について,本県による試験事例はほとんどなく,主に茨城県の研究成果(横須賀 2001 など)を参考に指導を行っている.そこで,2021 年からアカスジとクモヘリ混発状況での防除適期を明らかにする試験に取り組んでいる.また,生産者の防除意思決定を支援する技術として,土地利用情報を用いたアカスジによる被害発生リスクを可視化する技術(斑点米被害ハザードマップ)が確立されている(田渕 2018).東北農業研究センターと協力し,この技術が本県でも適用可能なのか検証するとともに,クモヘリを対象としたモデルの開発に取り組んでいる.現在,生産者の高齢化・担い手不足等により経営規模の大規模化が進んでいる.将来,大規模経営体の省力化,効率化を目的に,斑点米被害リスクの高い圃場を識別することによって防除意思を決定し,適期に防除を実施するといった体系の構築を目指している.
5 その他,(斑点米カメムシ類以外で)問題となった水稲害虫
(1)イネドロオイムシ
イネドロオイムシは北日本地域の主要な初期害虫の一つで,年間発生回数が少ないにもかかわらず,様々な系統の薬剤に抵抗性を発達させてきた(城所 2018).本県においては,1990 年代後半から中通り中部の広範囲でカーバメート系の育苗箱施用剤に対する感受性低下個体群が確認された.2000 年代後半から中通り北部の一部でフィプロニル剤に対して,2010 年代後半から中通り中部を中心にチアメトキサム剤に対して感受性が低下した個体群が確認された.いずれの場合も,育苗箱施用剤の変更により対応が行われた.
(2)イネクロカメムシ
イネクロカメムシ Scotinophara lurida Burmeister は古くから知られるイネの代表的な害虫で,主に茎葉を加害し,芯枯れや白穂を発生させる(川瀬ら 1959).本県においては,1970 年代後半に捕獲の記録がある.2003 年頃,中通り中部に位置する石川郡浅川町の一部圃場で被害が認められた.2012 年頃から,石川郡石川町,玉川村と隣接する須賀川市東部で被害が目立った(松木ら 2015).殺虫剤の育苗箱処理と散布により防除が実施され,現在,被害は減少傾向である.今後,多発した際に備えてイネクロカメムシの防除対策構築,生理・生態を解明することを目的に,コムギ幼苗を餌とした簡易飼育方法を確立した(鎌田ら 2021).
ここでは,東北各県によって取りまとめられた斑点米カメムシ類の発生動向や被害,研究の動向と進展,今後の課題について概説し,斑点米カメムシ類を中心に将来的な水稲害虫対策の方向性について論点を整理する.
1)東北地域における斑点米カメムシ類の発生動向と斑点米被害
過去の報告から,東北地域における 1990 年~2000 年代前半までの斑点米カメムシ類の主要種を挙げると,青森,秋田,山形ではアカヒゲ,岩手,宮城ではアカスジ,福島ではアカヒゲ,クモヘリ,ホソハリカメムシであった(菊地ら 2004).2000 年代後半~2010 年代前半までの間にはアカヒゲが主要種だった地域でアカスジの発生地域拡大と被害増加が見られ,主要種の置換が起こった(田渕ら 2015).2014 年から 2021 年にかけては青森,秋田,山形でアカスジの発生地域と被害増加が進み,害虫としての重要性がより一層高まった.一時期秋田でアカヒゲ捕獲数の減少がみられたが後に回復し,これら 3 県では 2 種の同時発生による斑点米被害リスクが高まっている.一方,東北太平洋側の岩手,宮城,福島の各県ではクモヘリの分布拡大傾向が顕著である.端緒となったのは 2019 年の岩手県陸前高田市におけるクモヘリの初捕獲(田渕ら 2020, 2021)であり,本種の北限が一気に 100 km 以上北進した.この報告以降にクモヘリ分布地点の調査が精力的に行われ,これまでに分布報告や捕獲事例のなかった福島県中通り北部,宮城県沿岸北部,岩手県沿岸南部で次々と本種が捕獲された(宮城県古川農業試験場 2021,松木ら 2021a,吉田ら 2022).また,日本海側地域においても近年クモヘリの分布状況の変化が知られている.分布北限の新潟県では佐渡地域や,上越・中越地域の海岸寄りを中心に確認されており,佐渡地域を除く北限は新潟市西浦区である(新潟県病害虫防除所 2022).日本海側地域の分布北限に近い富山県においては記録的な少雪となった 2020 年 1 月以降,クモヘリの捕獲地点の増加が報告されている(富山県農林水産総合技術センター 2022).これらクモヘリの分布拡大は近年の温暖化が関与しているとみられ(田渕ら 2020),越冬可否には厳冬期である 1 月下旬(松木ら 2021b)や 2 月上旬(大江ら 2017)の最高気温の平均値が関与していることがわかった.今後のさらなる分布拡大や被害増加が懸念されており,各県で発生地域の拡大に対する重点的な調査体制が敷かれている.このように,斑点米被害リスクは東北全体として高まっており,地域ごとに対象種に応じたきめ細やかな対策を講じることが望まれる.また,後述するように再興害虫であるイネカメムシ Niphe elongata(Dallas)の発生地域や被害が全国的に増加傾向にあり,今後の発生動向を注視していく必要があると考えられる.
東北地域における 2014 年~2021 年までの斑点米被害は,過去の大発生時と比較して比較的安定しており,重大な被害は認められない(図 64).これは斑点米カメムシ類に対する対策が充実し,適切な対応が取られていることを示していると考えられる.一方,農政局が公表する落等率は色彩選別機を利用した後の数値が報告されているため,この数値は過小評価であり,生産者の段階での被害はより大きい値で推移していることが推察される.その中で,2020 年は幼穂形成期である 7 月の日照不足と登熟期に当たる 8 月の高温により東北各県で割れ籾率が多発した(吉田ら 2021)こともあり,被害がやや多い年となった.このように,各種被害対策が行われているにも関わらず,気象条件などによっては斑点米被害が顕在化する可能性がある.
2)注意報・警報数の推移
東北地域と日本全国における斑点米カメムシ類に対する注意報・警報の発表回数を図 65 に示した.全国的に斑点米カメムシ類による被害が多発した 1999 年以降,注意報や警報の発表数は増加し,年により増減があるものの,継続した注意喚起が行われている.1996 年以降の注意報,警報発表の増減は東北地域と全国合計が同じように推移する傾向がある.年間の注意報発表件数は,過去 10 年の平均で全国 19.4 回,東北地域 4.3 回となっており,斑点米被害に対する意識の高さが伺える.
一方,田渕ら(2015)でも指摘された通り,注意報・警報発表数と被害との不一致が見られる状況は続いている.注意報,警報は発生地点率やすくい取り虫数の平年値比較結果を根拠として発表されるが,発表に基づき,普及機関による注意喚起や指導強化によって耕種的,物理化学的な各種防除対策が徹底され,被害が抑制されていると推察される.
3)全国的な主要種の変遷
カメムシ種別の注意報を年代別に見ると,1990 年代から 2000 年代にかけてアカスジとアカヒゲ,ホソハリカメムシ,クモヘリ,シラホシカメムシ類への注意報発表数が大きく増加した(図 66).その中で 2010 年代にかけても増加し続けたのはアカスジに限られた.これは 2000 年代後半から,東北の日本海側地域から北陸地域でアカスジの発生や被害が増加してきた(田渕ら 2015)ことに起因すると考えられる(図 67).東北地域ではアカスジとアカヒゲの 2 種に対する発表数増加が顕著であったが,2010 年代においてはアカヒゲよりもアカスジに対する注意報発表が上回った.2000 年代に注意報発表が増加してきたのがミナミアオカメムシ Nezara viridula(Linnaeus)である(図 66).本種は温暖化に伴って分布を拡大しており(大野ら 2019),太平洋沿岸の都県での発表が増加傾向にあった.また,1980 年以降注意報の発表がなく,2010 年代から注意報の発表数が増えてきたのがイネカメムシである(図 66).本種は 1950 年頃まで水稲害虫として問題であったが,発生量が減ったため害虫としての重要性が低くなっていた(中筋 1973).イネカメムシは再興害虫として注目されているが,長らく害虫として問題になっていなかったこともあり基礎的な生物学的特性の研究が進んでいない.茨城県南部における水田での発生消長(石島ら 2020)や山口県での越冬生態(住田,竹松 2022)が近年明らかになったものの,野外での生活史など未解明の点も多い.イネカメムシはイネに強く依存した生活をしており,規模の大きな経営体が作期分散のために極早生~極晩生まで水稲を作付けし,水稲の穂が長期に存在するようになったことが再興の一因とされている(石島ら 2020).近年では山口県や茨城県を中心に被害が報告されるようになり,関東,東海,近畿,中国地方などでの発生増加が知られる.三重県,愛知県,岐阜県からは注意報の発表,滋賀県,千葉県,京都府,広島県などからは被害に関する防除技術情報が発表されるようになった.イネカメムシに対する防除対策としては出穂期 0 日後と 8 日後の殺虫剤散布が有効とされている(本田ら 2021).現在,公設試や大学等,多くの研究機関で被害対策や加害実態解明の研究が行われており,各地の栽培体系や品種に応じた有効な対策の早期策定が望まれる.
4)斑点米カメムシ類対策に関連した研究と技術の進展
1970 年代に斑点米カメムシによる被害が報告され始めてから,主要なものだけで 287 編の論文が出版されている(2022 年 3 月 28 日現在,和文 267 編:JASI と CiNii で「斑点米」をキーワードにして検索,重複を除いて関連論文のみを計数.英文 85 編:Web of Science で「pecky rice」「rice bugs」をキーワードに検索,日本の斑点米カメムシに関する英文論文のみを計数).田渕ら(2015)の報告にある 2014 年以降 2021 年までの 8 年間に和文では 47 編,英文で 22 編の論文が出版されている.和文では一部公設試の雑誌に加え,2020 年以降発表でデータベースに未登録の論文が多くあって検索対象から漏れている論文も散見するため,実際にはさらに多くの論文が発表されている.
田渕ら(2015)では斑点米被害の発生に影響する要因について,水田内と水田外の要因に分け,さらに生物的要因(カメムシ発生量・侵入量,水田内外の雑草,割れ籾率),非生物的要因(気温,降水量),人為的要因(品種,栽培時期,殺虫剤施用,除草管理),景観的要因(発生源面積)として整理した.2014 年以降も,個別の要因に対して技術開発が行われ,関連論文が多く発表されている.
a)気象要因
斑点米に影響する気象要因については,一般に高温年で被害が多い傾向が見られ(大友 2013,田渕ら 2015),山形県のアカヒゲで 7 月と 8 月の高温や少雨が被害増加に影響する(川崎ら 2007)ことが示されて以降,直接的な研究はなされていない.メッシュ農業気象データが全国で整備され,日々利用可能な項目やその精度が向上しているため,これらのデータを用いた新たな研究を行う事は今後の主要な課題の一つだろう.メッシュ農業気象データを用いて広域で理論的な世代数経過シミュレーションを行った研究(Yamasaki et al. 2021)では,秋田県と岩手県の地域内で年間世代数や羽化盛期などに大きな幅があることが示されており,地域ごとの被害の出やすい時期の予測や殺虫剤散布時期の策定に応用可能なデータが得られている.また,カスミカメムシ類の発生時期とイネの出穂~登熟時期との重複期間の多少が斑点米被害に及ぼす影響に関しても研究が行われている(Tamura et al. 2022).
b)発生予察手法
斑点米カメムシ類に関連した発生予察技術に関しては,大きく 2 つの取組がなされた.1 つは斑点米カメムシ類のフェロモン製剤を用いた簡便な調査手法の開発である.斑点米カメムシ類の化学合成フェロモン剤はアカヒゲ,アカスジ,クモヘリの 3 種を対象とした製剤が販売されている.すくい取りよりも省力的に利用できることから,農林水産省による委託事業において発生予察の手法の改訂事業が取りまとめられ,発生予察事業の調査実施基準(農林水産省 2016)として活用方法が取りまとめられている.その一方で現状の予察調査はすくい取り主体の状態が続いており,フェロモントラップを用いた簡便な予察方法の普及は大きく進んでいない.近年の画像解析技術の発達により,粘着板に捕獲された害虫類の自動認識と計数データの自動送信といった技術への展開は想定されるが,斑点米カメムシ類に対する研究においてそこまでの進展は見られない.農林水産省では発生予察のスマート化に取り組んでおり,病害虫発生動向調査用のアプリケーション(MAFF アプリ)によって生産者や農業協同組合の営農指導員,防除所などを繋ぐ取組が始まっている(越智 2018)ため,これらの取組と連動した省力かつきめ細やかな発生動向把握に繋げられるかもしれない.また,2 つ目の取組として予察灯の代替光源開発が挙げられる.発生予察事業に用いられる予察灯については,光源である白熱灯などの生産中止が見込まれることから LED 光源を用いた予察灯の開発事業が行われ,各種水稲害虫で誘殺数の比較試験や誘殺メカニズムの研究が行われた(遠藤,弘中 2017;市川ら 2018;小野ら 2019).将来的には代替光源が主流になることが想定されるため,現行の予察データとの円滑な橋渡しが出来ることを期待したい.
c)雑草
斑点米カメムシ類の発生源となるイネ科やカヤツリグサ科の雑草に関係した対策にも進展があった.水田内雑草が残草し,カスミカメムシ類が出穂前から定着するような条件下においては,1 回目の殺虫剤散布を出穂直後に前倒しすることで被害が軽減できること(加進 2009),またこのような条件に対応した適切な薬剤とその散布時期が明らかにされており(小野ら 2018),対応した防除体系の普及が進んでいる.水田内に残草するような状況を作り出さないことが前提ではあるが,除草剤抵抗性雑草が報告されてきた経緯もあり,この散布体系が策定されたことは生産現場において非常に重要である.また畦畔雑草については,出穂後,殺虫剤散布直後の残効のある時期に除草管理を行うことで被害軽減につながることが明らかにされ(高橋,菊地 2015),この時期の除草を指導することが標準的になりつつある.
d)マルチローター
近年,UAV のうちマルチローター(ドローン)の開発が相次ぎ,農業における利用も進められている.マルチローターを利用した防除手法については,すでに複数の研究事例があり(高橋,藤井 2017;新山ら 2018),生産現場での利用も拡大しつつある.積載可能な薬量やバッテリーの持続時間の制限があり,広域での散布は無人ヘリ防除が優位であるが,マルチローターは小回りが利き,機動的に殺虫剤を散布できることが利点である.今後個別の圃場等での利用普及拡大も想定され,中山間地をはじめとして圃場ごとに最適なオーダーメードの殺虫剤散布に有用だろう.
e)殺虫剤への感受性低下
斑点米カメムシ類の防除は化学合成殺虫剤が主体であり,各自治体の防除指針で推奨されている殺虫剤はネオニコチノイド系を中心とした数剤に限られている場合が多い.また,2018 年 12 月 1 日施行の改正農薬取締法で全ての農薬についてヒトや環境動植物および家畜に対する毒性,農畜産物への残留など再評価が課され,使用可能な薬剤に変化が生じる可能性もある.そのような中で注意したいのが,殺虫剤への感受性低下事例である.新潟県においては,アカヒゲにおいてネオニコチノイド系のクロチアニジン剤とジノテフラン剤(石本,岩田 2020;岩田ら 2021)への感受性低下が報告された.本種は過去に新潟県や山形県で有機リン系殺虫剤の MEP や MPP に感受性の低下した個体が現れた(石本 2004;吉村,越智 2010)ことから,定期的な感受性のモニタリングが継続されており,その中で感受性の低下した個体群が発見された.石本,岩田(2020)の報告では該当する特定の個体群において両剤への感受性低下が認められ,ジノテフラン剤では常用濃度で十分な効果があったもののクロチアニジン剤に対しては実際の防除効果が低下するレベルであった.
斑点米カメムシ類は年に複数世代が経過し,出穂後の一時期のみ水田に侵入した後,周辺へ分散する生活史を持つ種が多い.このため,限られた世代のみが殺虫剤に暴露されて強い抵抗性の発達が起こることは抵抗性発達のメカニズムから考えて想定しにくい.しかしながらアカヒゲは第 1~2 世代が水田へ侵入して水田内で世代を経過し,比較的長く水田で生活することから殺虫剤への暴露頻度が高く,感受性低下が比較的起こりやすい特性を持つ種なのかもしれない.秋田県ではアカヒゲ,アカスジに対する殺虫剤の効果試験が行われ,現状で両種に明瞭な感受性低下は見られない(新山,高橋 2021).また,岩手県での殺虫剤効果試験では,アカスジにおける殺虫剤効果試験から,クロチアニジン剤の処理翌日の死虫率が 28.2%と,比較した薬剤間で効果が低いことが報告されている(中野 2020).過去の岩手県での報告(鈴木 2005)ではアカスジ主体の調査においてクロチアニジン剤とジノテフラン剤,MEP 剤の斑点米混入率に差がないことが示されているが,殺虫効果のデータがないために直接比較が出来ず,中野(2020)による結果が感受性の低下かどうかは不明である.滋賀県における数種薬剤の殺虫効果試験ではアカスジとアカヒゲにおける殺虫効果について上記地域とは異なる試験結果が得られており(重久 2020),地域ごとの殺虫剤使用履歴などの要因が殺虫剤の感受性に影響していることが推察される.石本,岩田(2020)が指摘しているように,感受性の低下に圃場レベルで気づくことは容易ではない.今後,安定して殺虫剤による防除効果を得るためには,斑点米カメムシの主要種について,殺虫剤の感受性低下に対して息の長い監視体制を継続していくことが必要になるであろう.
f)広域スケールからの研究
景観生態学的な手法を用いた広域スケールの研究は複数の取組があり,関係した論文が出版された.静岡県では半径 150 m と 300 m 以内の土地利用を用いたアカスジとアカヒゲの捕獲有無の予測モデル(稲垣ら 2014)が開発され,静岡県内のハザードマップとして視覚化された.アカスジでは宅地と林が少なく,湿潤度(集水域/斜面の角度)の高い場所,またアカヒゲでは傾斜度が低く平坦な場所でそれぞれ捕獲頻度が高いことが示された.一方でホソハリカメムシとクモヘリでは有効なモデルが得られず,扱う空間スケールが 300 m より広いことが示唆されている.また東北太平洋側地域を対象として,アカスジによる斑点米被害予測モデルが開発され(Tabuchi et al. 2017;田渕 2018;Tabuchi et al. 2022;八木沼,田渕 2022),これを用いた被害程度のハザードマップも示されている.この被害予測モデルは土地利用(半径 300 m 以内の発生源(イネ科雑草地+牧草地+畦畔),ダイズ,水稲)面積のみを用いて被害が予測可能であり,害虫発生量の調査を行わずに被害発生程度の予測が可能である.現在は斑点米カメムシ類に対する殺虫剤散布が 1 回,水田内雑草のない条件下で適用可能である.田渕,櫻井(2019)では割れ籾率の影響を考慮することによって品種にかかわらず被害発生程度を予測できることを示しており,これを活用することで国内の主要品種に対してアカスジによる斑点米被害のハザードマップを作成・利用可能である.また,クモヘリに対する発生量や被害予測に関しても福島県を対象に研究が行われている(田渕ら 未発表).
日本海側地域におけるアカスジに関しては,秋田県病害虫防除所による 2003 年から 2013 年までの巡回調査の長期データを用いて,県全体を対象とした広域的なアプローチからその分布拡大メカニズムの解明が取り組まれた(Osawa et al. 2018a,b;大澤 2019).メッシュ農業気象データを用いて 1 km メッシュごとに各発育ステージのシミュレーションを行って理論的な発生日と世代数推定を行った結果,(1)高温により世代数が増加すること,(2)第 1 世代幼虫の孵化が斉一に起こり,地域内の密度が上昇することが翌年の分布拡大に影響したことから,温暖化が分布拡大の一因となったことが示唆された.また分布拡大と土地利用の突合シミュレーションから,アカスジの移動経路は主要道路の法面や耕作放棄地が主体であり,水田(とそれに伴う畦畔)は分布拡大の後半に使われたことが示され,耕作放棄地の増加といった近年の土地利用変化が分布拡大に寄与した可能性も推察された.
g)抵抗性品種の育種
近年では抵抗性品種の育種による斑点米カメムシ類対策の取組が複数なされている(杉浦 2020).これらの研究では斑点米カメムシの被害が少なく,何らかの抵抗性を示していると想定される品種の選抜(杉浦ら 2017;尾崎,小島 2018)や割れ籾に関する QTL 解析(Fujino et al. 2018),選抜した品種による被害程度の検証(中村ら 2017),抵抗性機構の解明(中村ら 2017;Nakamura et al. 2017, 2020;杉浦ら 2022)が行われている.基本的な抵抗性メカニズムは籾の堅さによる物理的な抵抗性とされるが,籾の微細構造や化学成分による忌避など,その他の抵抗性メカニズムが存在する可能性もある.品種開発と栽培・普及へ向けて優良系統のさらなる選抜と育種に期待したい.
h)色彩選別機
色彩選別機については,田渕ら(2015)の報告時よりも普及がさらに進んでいる.宮城県のアンケート調査では農業協同組合が保有する共同乾燥調整貯蔵施設(通称:カントリー)では普及率 100%(n = 25),農業法人で 73%(n = 45)と高い割合で普及している(神名川,綾井 2019).個別生産者では普及率が 28%と高くはなかったが,導入を検討している生産者が 18%おり,今後さらに普及することが予想されている.現在では必要に応じて色彩選別機が利用できる環境は整っているといえるだろう.
色彩選別機は斑点米被害などの着色粒や石などの異物を除去するために有用であり,カスミカメムシ類が加害主体の地域で殺虫剤散布を省略できる可能性は一定程度あるものと考えられる.農林水産省が「みどりの食料システム戦略」策定にあたって生産者,団体,企業等と実施した「第 5 回 みどりの食料システム戦略に係る意見交換会(生産者(水田作))」(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-58.pdf)の中で,生産者の声として「カメムシの被害粒対策に色彩選別機を導入.これにより,カメムシの防除を昨年から行わなくてもよくなった.」との記述があり,実際に斑点米カメムシに対する殺虫剤散布をやめて色彩選別機のみに切り替える生産者も増えているようである.一方で色彩選別機に過度に依存し,栽培期間中の対策を軽視するのは避けるべき場面も想定される.栽培地域にクモヘリやミナミアオカメムシ,イネカメムシなどといった大型で不稔や青立ちなどの被害を起こす種類がいる場合には,殺虫剤散布を省略することによって収量減となることも想定される.このような地域では栽培期間中の殺虫剤散布を含む耕種的・物理化学的対策をしっかり行い,出荷直前の被害軽減対策として色彩選別機を利用するべきであろう.
i)東日本大震災の影響
2011 年 3 月に東北地方太平洋沖地震と発生した大津波により,岩手,宮城,福島の3県を中心に農地に甚大な被害がもたらされた.東日本大震災の影響による津波,地割れ,液状化,埋没,土砂流入等の被害を受けた面積は岩手県 1,209 ha,宮城県 14,558 ha,福島県 5,297 ha であった(農林水産省 2012).海水や土砂の流れ込んだ被災直後の農地ではコウキヤガラやノビエが繁茂し,アカスジなど斑点米カメムシ類の温床となったため,被災地の雑草対策として緊急的に除草剤散布が行われるなどの取組があった(田渕ら 2015).除塩や除草,区画整備,復旧工事と行った農地の復旧過程での斑点米カメムシ発生状況とその対策については大江ら(2020)が詳しい.また,福島県では東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散によって,福島県 12 市町村に避難指示が出された.その後地域ごとに避難指示が解除になり,農地の復旧が進められている.旧避難指示区域等での農地復旧の過程においては水田畦畔管理省力化のためにグランドカバープランツとしてイネ科のクリーピングベントグラス(ハイコヌカグサ)Agrostis stolonifera L.導入が検討され,斑点米カメムシの発生源となるかどうかについて松木,根本(2018)が調査を行っている.震災後 10 年以上が経過したが福島県における旧避難指示区域は未だ農地の復旧途上であり,大規模化されて復旧した農地と未復旧で雑草地化した農地とがモザイク状に入り組んだ様相を呈している.このような状況は今後も続き,復旧した沿岸部の水田では斑点米カメムシ類による被害が多発する可能性があるため,斑点米カメムシ類の発生状況把握や除草管理,薬剤防除の徹底が求められる.
5)今後の問題点と課題
これまでに述べたように,今後も斑点米カメムシ類の発生と被害の動向に注視していく必要があり,いくつか研究や防除対策上の課題も挙げられる.斑点米カメムシ類において直近で対応すべき課題としては,分布を拡大するクモヘリ,イネカメムシ対策が挙げられる.現在,クモヘリの分布北限に近い宮城県北部地域や岩手県において本種の分布は沿岸部に限られており,主要な水稲生産地域に対する影響はほとんどないといえる.しかしながら福島県の中通り地域で本種の分布が拡大しているように,今後内陸部へ侵入していく可能性は十分にありうる.実際に宮城県北部では 2021 年に内陸の登米市で本種成虫が捕獲され,この地域で定着することがあれば北上川流域に広がる水稲作付け地域を経由して岩手県へ侵入し,分布が拡大する可能性がある.田渕(2021)による本種の越冬可能地域の変遷では,現在本種がすぐに定着して分布を拡大する状況にないといえるが,モニタリング体制の強化や発生条件の解明・予測が必要である.これまで加害主体だったカスミカメムシ類 2 種とは大きく異なり,クモヘリの被害は玄米品質の低下のみならず減収につながることから,対策の意識を変えていかねばならない.今後の分布動向を注視しつつ,新規分布拡大域での防除対策開発と普及を行っていくことが必要である.
中国地方から関東地方にかけて被害拡大が続いているイネカメムシについては,東北地域で直近に対応すべき種ではないが,長期的な観点からは注意が必要な種といえる.イネカメムシが問題となっている茨城県では県央以南での捕獲事例が多く(大田ら 2020),県北での捕獲は少ない状況のようである.茨城県に隣接した福島県においては本種の被害動向に注意していく必要があるだろう.先に述べた通り,本種の生活史解明はまだ進んでおらず,越冬可能地域や越冬可能温度などの条件も未解明であるため,今後の研究が望まれる.
水稲栽培は栽培形態や生産物の用途が多様化する傾向にある.これまでの移植栽培に加えて,乾田・湛水直播栽培体系の開発や普及が進んでいることや,経営が大規模化して所有圃場が増えることで,作期分散のために極早生~極晩生までの品種が長期にわたって作付けされる傾向がある.また主食用・加工用米以外の新規需要米(飼料用,米粉用,稲発酵粗飼料用(Whole Crop Silage: WCS),青刈り稲・わら専用(飼料作物),新市場開拓用(輸出用))の栽培が政策的に推奨されており,栽培形態や生産物の用途が多様化する傾向にある.品種によって作期の分散が図られている地域においては,必ずしも各品種の生育時期に即した殺虫剤散布がなされているわけではない.栽培面積が広い主要品種のみに適合した時期に殺虫剤散布が行われている場合もあり,主要品種以外の圃場で適切に被害が抑えられていない実態もある.直播栽培における斑点米カメムシ類に対しては東北各県で移植水稲の生育時期を基準とした防除適期が定められており(大友 2013),移植と直播で防除方法や薬剤に違いがないことから指導方法を変更する必要がなく,各県の防除指導要領で直播に特化した対応はなされていない.また新規需要米では玄米品質は主食用ほど重視されないため多収の品種を低コストに栽培する場合が多く,雑草や病害虫管理が粗放的になる場合が多い.このため,斑点米カメムシ防除が行われず,また水田内雑草の繁茂による斑点米カメムシ類の発生源化が懸念されており,これに対応した研究が複数行われている(新山 2017, 2020;上野,田渕 2020).
斑点米カメムシ類による被害に関連した要因群は,田渕ら(2015)で大まかに整理され,それぞれの要因に対していくつか研究事例が見られる.今後は,個別の問題を解決する研究を継続しつつ,これらの要因を統合し,被害の起こりやすさの予測に繋げる研究が重要になってくると考えられる.被害の予測が様々な地域で可能になれば,一律のスケジュール散布から,より個別の条件に応じた防除圧の設定や,環境負荷の低減に繋げられる可能性がある.斑点米カメムシ類をはじめとした水稲害虫は病害虫防除所の発生予察事業含め調査事例が多く,これら豊富なデータ群を解析することでよりよい予測を行う可能性を秘めている.解析や予測手法が確立すれば,水稲のみならず他の普通作や輪作体系下で問題となる害虫に対しても,被害予測へ発展させられるかもしれない.
これらの問題点と一線を画する大きな課題が,上記でも一部触れた「みどりの食料システム戦略」への対応である.これは農林水産省が 2021 年 5 月に策定した 2050 年までの政策目標であり,2050 年までに目指す姿と取組目標において化学農薬使用量(リスク換算)の 50%低減,耕地面積における有機農業の取組面積の割合を 25%(100 万 ha)に拡大する,という 2 点の数値目標が掲げられている.これを達成するためには,耕作面積の大きな水稲が主に対応することが当然想定され,水稲病害虫対策に大きく関係するだろう.
慣行栽培や特別栽培と比較して,有機栽培下での害虫被害研究については,栽培方法間の収量や被害を単純比較した研究はいくつかある(齋藤ら 2001;玉置ら 2002;荒井,酒井 2005;中島ら 2014;大森 2015)ものの,斑点米カメムシ類による被害発生メカニズムまで迫った研究はほぼ見られない.これまでの斑点米カメムシ被害研究からおおよその原因を類推することは可能になると思われるが,殺虫剤が使えない状況での対応策は限られる.世界規模で慣行栽培と有機栽培の収量比較を行った研究のメタ解析から,米を含む穀物において有機栽培の収量は慣行の約 2 割減であることが示され(Ponisio et al. 2015),収量の差を減らしていくためには多毛作や輪作で農法を多様化すること(Ponisio et al. 2015)や,緑肥利用や肥料分の供給(Knapp and van der Heijden 2018)が有効だとされている.有機栽培に対応した殺虫剤の利用や耕種的,物理的対策でどこまで被害を軽減できるのか,事例を積み重ねていくことが今後の課題となるだろう.
景観生態学的な観点から,被害発生ハザードの低い地域に有機栽培や減農薬の水稲生産圃場を集約することは理想的な解決方法の一つであり,現在の技術をより普及,進展させることで実現可能になるかもしれない.ただし,農地所有権を持つ権利所有者間の調整,被害発生ハザードの高い地域における農地利用方法や,主食用の主要生産地の確保といった競合する農地の利用方法や生産にも折り合いをつけていかなければならなくなるだろう.
農薬や肥料といった農地への化学合成資材の投入を減らし,環境への負荷を軽減する生産圃場と,食糧として確保すべき生産物を栽培する圃場を両立させるのが理想的ではあるが,目標とする収量や被害レベルといった点を明確に分けて対応することも今後の方向性として議論していくべきかもしれない.
斑点米カメムシ類による被害は玄米品質が低下することに加え,0.1%単位のごく少量の被害で玄米買い取り価格が下落する.この少量の被害を扱う点が斑点米カメムシ対策の挑戦的な点であり,大小様々,きめ細やかな対策を積み重ねて被害を最小限に抑えることが重要である.水稲栽培期間の分散・長期化や温暖化に伴う大型カメムシ類の分布拡大に加えて日本海側地域でのアカスジの分布拡大があり,被害発生リスクは確実に高まっている.一方で色彩選別機の普及に伴って出荷前の被害がデータとして残りにくくなっていること,また農政局への被害報告にカメムシ単体の項目がなくなったことから,被害が潜在化して数字に表れにくくなっている可能性がある.この潜在化した被害が見逃されたまま生産者の減収で吸収する事態は避けなければならない.普及指導機関や公設試,病害虫防除所の現場で色彩選別機を利用する前の状態で被害動向を把握する体制を整えつつ,今回挙げた課題に継続して取り組んでいくことが重要だろう.
本稿の発表にあたり,水稲栽培状況や発生予察事業などのデータ収集と整備については東北各県の病害虫防除関係者や関係機関の方々にご尽力頂いた.厚くお礼申しあげたい.
すべての著者は開示すべき利益相反はない.