農研機構研究報告
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原著論文
アブラナ科野菜の生育と積算気温および積算受光量との関係
―収穫適期簡易判定法の開発に向けて―
石川 葉子 岡 紀邦深山 大介中島 隆博
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2024 年 2024 巻 19 号 p. 1-

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Abstract

本研究では,圃場試験から入手したデータと積算気温および積算受光量を用いて,加工・業務用野菜の主要品目であるダイコンとキャベツの収穫適期簡易判定を試みた.ダイコンについては,根の生体重と積算気温の関係,そして,乾物重と積算受光量の関係,一方,収穫部位の目視が可能なキャベツについては,生育量の代わりに結球の成熟度を把握する指標として知られる球形比および結球緊度と積算気温の関係に注目した.ダイコンの生体重と積算気温の関係,そして,乾物重と積算受光量の関係を用いる場合,収穫適期の判定結果は概ね良好だったものの,前者を用いた場合には低温年の収穫適期判定に課題が残された.キャベツの球形比と積算気温の関係は,加工・業務用キャベツとして好まれる寒玉系品種の収穫適期,特に,その開始時期を判定するのに適していた.一方,結球緊度と積算気温との関係は収穫適期の終了時期を判定するのに有用であり,球形比と併用することにより収穫適期判定の信頼性が向上することが期待された.これらの結果をもとに,両品目の収穫適期簡易判定法を開発する方向性について考察を行った.

Translated Abstract

Traditional family households in Japan, like the ones with full-time housewife, have been largely replaced by dual-income households as well as single-person households. This trend has changed the way how vegetables are consumed within and outside households. According to the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, nearly 60% of vegetables are now shipped to processing for ready-made meals as well as to food service industry. Unlike households as end users, the commercial users tend to make a strict schedule as to date and quantity of vegetables they aim to purchase, while vegetable growers are requested to prepare the commodities along the schedule. Intermediate wholesalers, who play the coordinating role between commercial users and growers, wish to know in advance the detailed schedule of harvesting for a given region or area. To facilitate the role of the coordinators, it is necessary to develop a practical method to determine the optimum harvest timing, which is currently lacking. The objective of the present study was therefore to investigate potential methods, using field experiment datasets, on Japanese radish (Raphanus sativus L.) and cabbage (Brassica oleracea L. var. capitata), the major vegetables consumed in large quantities in Japan. As for Japanese radish, the crop whose harvestable part is hidden in the soil, two methods were employed based on the relationships between accumulated air temperature and fresh root weight (M1) as well as between cumulative light interception and dry matter weight of the crop (M2). As for cabbage whose harvestable part is visible in the field, alternative two methods were employed based on the relationships between accumulated air temperature and height-to-diameter ratio of head (M3) as well as density of head (M4). M3 gives information as to the formation process of the shape of a cabbage head, which changes gradually from a sphere to an oval sphere-like shape, while M4 shows the degree of its filling. Results are summarized as follows. By using M1, the optimum harvest timing of Japanese radish in two years out of the three-year dataset, was estimated to be 83 and 81 days after sowing (DAS), which were good estimates, considering the state of the roots harvested around those DAS. As for the remaining year, however, it was estimated to be 107 DAS, even though sufficient fresh weight of root was observed at 95 DAS already in the field experiment. This discrepancy between the estimated and the observed DAS was largely attributable to relatively low temperature during growth period in that particular year. Contrary to M1, M2 gave similar estimates for three years including the specific year previously mentioned, i.e., 86, 84 and 83 DAS. M2 is thus considered to excel M1. To further improve the accuracy of M2-based decision making, it is desirable to estimate a leaf area index (LAI) curve, the essential part to derive M2, for every year, which is without doubt labor intensive and costly. Taking several patterns of LAI curves, for example, for usual, cool and warm years could be a practical compromise to handle the issue. As for cabbage, M3 gave a good estimate as to the optimum harvest timing, i.e., 86 and 75 days after planting (DAP) in two years of the field experiment, while M4 gave greater values, 104 and 87 DAP in the same two years. The estimated harvest timings resulting from M3 and M4 were both plausible, judging from the state of the cabbage heads harvested around those DAP. An interesting point was that M3 was suited for determining the beginning of harvest window, and M4 for giving information as to the end of harvest window, as cabbage heads were observed to start bursting after the density of head reached the threshold value of 0.68 g cm−3. Combining M3 and M4 is therefore suggested to practically determine the optimum harvest window of cabbage.

緒言

わが国では高齢者世帯,共働き世帯,単身世帯の増加などを背景として「食の外部化」が進み,飲食店での外食や総菜など中食で用いられる加工・業務用野菜の需要が高まりをみせている(野菜流通カット協議会 2018).野菜の国内消費量における6割弱が加工・業務用といわれており(農林水産省 2022),その消費量ランキング上位を根菜のダイコン(Raphanus sativus L.)や葉茎菜のキャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata)などのアブラナ科野菜が占めている(農林水産省 2022).ダイコンについては,漬物用原料としての需要が減少したものの,外食や中食に対応したサラダ,刺身のツマ,おろし,おでん用の需要が伸びている(小林 2018).キャベツについては,カットや加熱の際にボリューム感が出にくいサワー系より,結球の巻きが硬く,加工歩留まりが高い寒玉系が重宝されるなど好まれる品種にも変化が生じている(高田 2022).加工・業務用野菜を利用する加工業者や外食チェーンといった実需者は,決められた日時に決められた数量を安定的に入手することを望むため,産地では契約栽培にもとづく定時・定量出荷の存在感が増している(佐藤 2007小林 20062018).ところが,露地野菜の生育は天候によって大きく左右されるため,商品の過不足が生じることは避けられない.需要と供給のミスマッチが価格の変動によって調整される市場出荷とは異なり,契約栽培にもとづく定時・定量出荷の場合,商品が不足する際には調達先を調整して不足分を補うほかない.キャベツについては収穫2~3日前に出荷量の過不足が判明しても手の打ちようがなく,収穫前の2週間から1ヶ月の間に調達先の調整を行う必要があることが報告されている(岡田,佐々木 2016).そのような産地間での出荷調整がうまく機能するには,実需者と産地をむすぶコーディネーター役を担う中間事業者が産地ごとの収穫適期を把握していることが必要となる.

加工・業務用野菜の主要品目であるダイコンとキャベツは,いずれもアブラナ科に属する長日作物である.長日作物であるにもかかわらず,根や葉茎といった収穫部位の生育に開花を伴う必要がないため,短日条件を含む様々な作型で栽培されている(川城 2001a2001b).むしろ,本来の生育時期である冬至から夏至に向かう長日条件下での栽培において,抽苔の発生を防ぐ,あるいは,遅らせる手立てを講じる必要があるほどである(Kitashiba and Yokoi 2017Takada et al. 2021).いかなる作型で栽培するにせよ,ダイコンやキャベツの場合,トマトやキュウリなどの果菜で観察される開花という栄養生長期から生殖生長期への生育相の変化という手がかりなしに収穫適期を見いださなくてはならない.しかも,ダイコンは収穫部位が地中にあるため収穫適期の把握が困難であり(建部ら 2010石川 2021),収穫部位の目視が可能なキャベツでさえ収穫期が正確に把握されているとはいえず(武田 1998),結球の成熟度についての判定は生産者の勘に頼っているとの指摘もある(笹尾ら 1994).一般に,種苗会社が販売する野菜の種子には栽培暦が添付され,推奨される播種もしくは定植と収穫の時期が1〜1.5ヶ月程度の幅をもって示されることが多いものの,野菜産地と実需者をむすぶ中間事業者にとっては,より明確,かつ,栽培される地点ごとに簡便に収穫適期を把握できることが望ましい.栽培暦より正確に収穫適期を把握しうる実用性の高い方法として,積算気温を用いるアプローチが知られている.石内ら(1988)は,寒冷地である岩手県盛岡市と暖地である福岡県久留米市において秋作ダイコンの圃場試験を行い,積算気温を説明変数とする2次関数によって根の生体重を説明している.吉本,原薗(1993)は,茨城県つくば市で10月中旬に播種したダイコンの圃場試験を行い,マルチやトンネルなどの簡易被覆の有無にかかわらず,積算気温を説明変数とした双曲線正接関数によって根の乾物重を説明している.これらの回帰式から収穫の目安とする生体重ないし乾物重に対応する積算気温を求め,その積算気温に達するために必要な播種後日数(DAS)から収穫適期を判定しうる.

上述した積算気温に加え,積算受光量を用いるアプローチも考えられる.農学分野の作物生育シミュレーションという研究領域では,気温,日長,日射量などといった気象データならびに作物のフェノロジーから作物の生育量が推計されている.海外で普及しているAPSIM(McCown et al. 1996, De Silva et al. 2021)やDSSAT(Jones et al. 1998)といった作物生育予測モデルでは,子実作物に加えて収穫部位が茎葉や塊茎である作物の生育量も推計されており(Anar et al. 2019, Pokhrel et al. 2022, Wang et al. 2023),わが国でも水稲を対象としたSIMRIW(Horie et al. 1995)や多作物を対象としたCYGMA(Iizumi et al. 2017, 2018),そして,キャベツの結球重増加モデル(岡田,佐々木 2016)などが開発されている.これら作物生育予測モデルの適用場面は,主に,気候変動下における作物収量や人口扶養力の予測といった学術的な研究課題が多く(Van Ittersum et al. 2013, Ishikawa et al. 2020),対象作物の収穫適期を簡易判定するという実際的な課題解決のためにはやや敷居が高いといえるかもしれない.というのも,実際の生産現場で採用される多様な品種,作型,肥培管理などに対応するよう作物生育予測モデルを調整するには,圃場試験にもとづく栽培データの入手に加えて,科学技術計算に向いたFortranやPythonといったプログラミング言語の習得が求められるためである.しかし,多くの作物生育モデルで共通して採用されているShibles and Weber(1966)Monteith(1977)による知見――植物群落の同化産物生産量,すなわち,乾物重は群落の積算受光量とほぼ正比例の関係にある――を収穫適期簡易判定に活用することについては検討する余地がある.ダイコン収穫の目安とする乾物重に対応する積算受光量を求め,その積算受光量に達するために必要なDASから収穫適期判定を試みるというものである.

収穫部位の目視が可能なキャベツについては,結球の成熟度によっても生育状況を把握することが可能である.結球の成熟度については,機械的に圧縮深さを測定することで結球部の締まり具合を把握する方法(笹尾ら 1994)が報告されている一方,高額な機材を必要とせず,より簡便に結球の成熟度をあらわす指標として,結球緊度(山本ら 2017)や球形比(農研機構 2020)が知られている.結球緊度とは結球の充填度ないし密度を意味し,結球の重量を結球の体積で除したものであり(山本ら 2017),球形比は結球の球高を球径で除することにより得られる(農研機構 2020).結球緊度は収穫適期が近づくにつれて結球が締まっていくこと,そして,球形比は収穫適期が近づくにつれて結球が扁円の球形に移行する性質を定量化するものであり,特に後者については実際にキャベツを収穫することなく,非破壊的に計測することが可能な点に特長があるといえる.これまで球形比や結球緊度は,キャベツ圃場試験において収穫時の生育量に付加的な情報として示されるにとどまっていたが,これらを経時的に測定し,積算気温との関係を用いることで収穫適期の簡易判定を行うことも考えられる.つまり,収穫の目安となる球形比や結球緊度に対応する積算気温を求め,その積算気温に達するために必要な定植後日数(DAP)から収穫適期を判定するという試みである.

本研究の目的は,加工・業務用野菜の主要品目であるダイコンやキャベツの収穫適期簡易判定法が十分に確立していないという認識のもと,5年間のダイコン圃場試験と2年間のキャベツ圃場試験ならびに4年間のキャベツ追試用試験から得られたデータを用いて収穫適期簡易判定を試みることである.ダイコンについては根の生体重と積算気温の関係(M1),そして,乾物重と積算受光量の関係(M2),キャベツについては球形比と積算気温の関係(M3),そして,結球緊度と積算気温の関係(M4)に注目する(Table 1).M1~M4にもとづく収穫適期の判定結果をもとに,これらアブラナ科野菜の収穫適期簡易判定法を開発する方向性について考察する.

Table 1.List of methods to estimate the optimum harvest timing for Japanese radish and cabbage


材料および方法

1.圃場試験

M1~M4を統計的に解析するために用いる栽培データは圃場試験から収集し,積算気温および積算受光量の算出には農研機構・農業環境研究部門の総合気象観測データから取得した日別平均気温と日別日射量を用いた.

1)ダイコン

2017~2020年と2022年の5年間,農研機構中央農業研究センター(現,中日本農業研究センター,茨城県つくば市)の圃場において,秋冬どり作型のダイコン圃場試験を実施した(Table 2 ).品種は「献夏37号」(サカタのタネ)を供試し,栽植密度は畝間60 cm,株間25 cmとした.2017年の試験(R1)と2018年の試験(R2)では複数の施肥区を設定し,そこから生育についてのデータを入手した.R1,R2についての詳細は施肥処理を含め既報であり,施肥条件が根の生体重に及ぼす影響は限定的だった(石川 2021).さらに,異なる施肥条件が生育に及ぼす影響を減じるため,本研究では根の生体重としてすべての施肥区から得られたデータの平均値を用いた.なお,ダイコンの根とされる部分には,厳密には茎を含むが,ここでは根と記述した.R1については遅収穫(R1-LH)も実施した.2019年の試験(R3)は,R1,R2と同様の設計であったもののネキリムシによる食害を受けたため,欠株部分に追播し,別途,追播部分のみの収穫調査(R3-LS)も行った.2020年の試験(R4)は,化学肥料による慣行施肥区のみを設置した.R1~R4では収穫期のみ調査を行い,葉と根の生体重を測定した後,70 ºCに設定した乾燥機で一定重になるまで乾燥して試料の乾物重を測定した.2022年の試験(R5)では,化学肥料による慣行施肥区のみを設置し,経時的に隣接する2個体を抜き取るサンプリングを各区で行った.サンプリング後,ダイコンを葉と根に分け,それぞれの生体重を測定した.そして,各葉上面から撮影した画像をImageJ(Schneider et al. 2012)を用いて解析することにより葉面積を実測し,単位土地面積あたりに存在する葉面積の総和である葉面積指数(LAI)を求めた.その後,70ºCに設定した乾燥機で一定重になるまで乾燥し,試料の乾物重を測定した.各サンプリング日および収穫調査日におけるダイコンの調査数などの詳細はTable 2に示すとおりであり,いずれの試験も3反復で実施した.

M1の解析に用いるデータはR1,R1-LH,R2,R3,R3-LSから入手した(Table 2).上述したように,同日にサンプリングないし収穫した試料については,すべての施肥区から構成されるようにし,それらの試料から得られたデータの平均値をそのサンプリング日ないし収穫日の代表値として用いた.一方,M2の解析に用いるデータはR1,R2,R4,R5の化学肥料による慣行施肥区から入手した(Table 2).ここでR3の慣行施肥区から入手したデータを用いなかったのは,上述したネキリムシによる影響から十分なサンプル数を確保することが出来ず,生育量を収量ベースで把握するM2の解析に適さなかったためである.なお,圃場試験を行った年の気温について,R1の年はR2やR3の年と比較して低温年なことが確認された(Fig. 1a ).

Table 2.Details of field experiments for Japanese radish


LH: late harvest, LS: late sowing, DAS: days after sowing.

Figure 1. Accumulated air temperature (AT) observed during field experiments for Japanese radish (a) and during field experiments for cabbage (b)

DAS, days after sowing; DAP, days after planting; See Tables 2 for details of field experiment R1–R5 and Table 3 for C1 and C2.

2)キャベツ

2021年と2022年の2年間,ダイコン圃場試験R1~R5と同じ区画内の圃場において,秋冬どり作型のキャベツ圃場試験を実施した(Table 3).品種は寒玉系の「おきなSP」(タキイ種苗)とサワー系の「浜岬」(タキイ種苗)を供試した.2021年の試験(C1)と2022年の試験(C2)ともに,約1ヶ月の育苗後に畝間60 cm,株間40 cmで定植した.施肥については,栽培指針(千葉県 2019茨城県 2011)に準拠した化学肥料による慣行施肥区を3反復で設置した.サンプリングは経時的に約2週間隔で行い,隣接する2個体を各区で採取し,収穫調査では20個体を各区で収穫した.各サンプリング日および収穫調査日における調査数などの詳細はTable 3に示すとおりであり,サンプリングおよび収穫後,結球を取り出して球径,球高,生体重を測定し,球形比および結球緊度を求めた.ダイコンの圃場試験と同様に,同日にサンプリングする試料から得られたデータの平均値をそのサンプリング日の代表値として用いた.なお,収穫には3日を要したものの(Table 3),球形比および結球緊度の変化は微小であったため,その期間におけるすべての試料から得られたデータの平均値を収穫調査の代表値として用いた.これらC1とC2から入手したデータをM3およびM4の解析に用いた(Table 3).なお,圃場試験を行った年の気温について,C1の年はC2の年と比較して低温年なことが確認された(Fig. 1b ).

C1,C2とは別途,2019~2023年のうちの4年間,農研機構中央農業研究センター(現,中日本農業研究センター,茨城県つくば市および茨城県つくばみらい市)の圃場においてキャベツ圃場試験CS1~CS8を実施した(Table 4).CS5,CS7は,C1,C2と同様に,秋冬どり作型であるものの,CS1,CS2,CS3,CS4,CS6,CS8は初夏どり作型(4月に定植し6~7月に収穫)とした.供試した品種は,CS1,CS3,CS5に寒玉系の「おきな」(タキイ種苗),CS2,CS4に寒玉系の「YR天空」(タキイ種苗),そして,CS6,CS7,CS8に「おきな」の後継品種である「おきなSP」とした.施肥については,栽培指針に準拠した化学肥料による慣行施肥とした.収穫時における結球の球径,球高,生体重から球形比と結球緊度を求め,追試用データとして用いた.

Table 3.Details of field experiments for cabbage


DAP: days after planting

Table 4.List of supplemental field experiments for cabbage


2.回帰モデル

M1の解析には,石内ら(1988)にならい,次の2次関数を用いた回帰分析を行った.

X = α 0 + α 1 A T + α 2 AT 2 + ε       (Eq. 1)

ここで, X および AT は,それぞれ,播種後 t 日目の根の生体重(g 株−1)と積算気温(°C)であり, α 0 α 1 α 2 は推定すべきパラメータ,そして, ε は誤差項である.根の生育に対する有効下限温度は,石内ら(1988)に準じて0°Cとした.Eq. 1の推定式から X が最大になる AT を求め,その値に達するために必要なDASを求めた.また,Eq. 1の推定結果と比較するため, AT の代わりにDAS自体を説明変数とする回帰分析も実施した.

M2の解析のために,作物生育予測モデルにおける中心的要素であるMonsi and Saeki(19532005)の知見を利用した.すなわち,植物群落に入射する日射量は,群落上層から下層に至るまでに葉面で吸収されるなどして指数関数的に減衰し,その様子はLAIを変数とするBeer-Lambert式により表現されるというものである(Hirose 2005).Monsi and Saeki(19532005)の知見を用いてダイコンの受光量を推定するため,まず,次の多項式を用いた回帰分析によりLAIの推移を推定した.

L A I = β 0 + β 1 A T + β 2 AT 2 + + β n AT n + ε     (Eq. 2)

ここで, LAI および AT は,それぞれ,播種後 t 日目の葉面積指数と積算気温(°C,有効下限温度0°C)であり, β 0 β 1 β 2 β n は推定すべきパラメータ,そして, ε は誤差項である.経時的なLAIのデータをR5から求め,R5の収穫時における葉面積と葉の生体重の比から比葉面積(SLA)を算出した.そのSLAの値とR1,R2,R4の収穫時における葉の生体重から,R1,R2,R4の収穫時における葉面積,そして, LAIを推定した.このように求めたR1,R2,R4,R5におけるLAIのデータをEq. 2の推定に用い,その推定式を用いてR1,R2,R4の各年における日ごとの LAI を求めた.次に,生育期間を通じたダイコンによる日ごとの受光量を推計するために,Beer-Lambert式から導かれた次式に上記で求めた LAI を代入した.

L I = S R { 1 exp ( κ L A I ) }       (Eq. 3)

ここで, LI は播種後 t 日目のダイコンの受光量(MJ m−2), SR は播種後 t 日目の日射量(MJ m−2)である. κ は吸光係数であり,高田(2022)を参考に0.7とした.日ごとの LI を生育期間にわたって積算することにより,R1,R2,R4の各年における積算受光量を求めた.そして,Shibles and Weber(1966)Monteith(1977)による知見――植物群落の同化産物生産量,すなわち,乾物重は群落の積算受光量とほぼ正比例の関係にある――にもとづき,次の線形関数を用いた回帰分析を行った.

Y = γ Z + ε          (Eq. 4)

ここで, Y は葉と根の乾物重の和である全乾物重(g m−2), Z は積算受光量(MJ m−2 Z = t LI ), γ は推定すべきパラメータ,そして, ε は誤差項である. γ は日射利用効率(RUE,g MJ−1)とよばれ,日射エネルギーを乾物に変換する効率,すなわち,生産の効率性をあらわす指標である(白岩,橋川 1993).本研究では,RUEの推定後,Eq. 4の推定式から収穫の目安とする Y に対応する Z を求め,その Z に達するために必要なDASを求めた.

M3とM4の解析には,最もシンプルな非線形関数として,次の2次関数を用いた回帰分析を行った.

R = λ 0 + λ 1 A T + λ 2 AT 2 + ε       (Eq. 5)

D = θ 0 + θ 1 A T + θ 2 AT 2 + ε       (Eq. 6)

ここで, R D は定植後 t 日目の球形比と結球緊度(g cm−3), AT は積算気温(°C,有効下限温度0°C), λ 0 λ 1 λ 2 および θ 0 θ 1 θ 2 は推定すべきパラメータ,そして, ε は誤差項である.寒玉系品種の「おきなSP」とサワー系品種の「浜岬」では成熟時における結球の形状が明らかに異なることから,Eq. 5は品種別に推定した.Eq. 5とEq. 6の推定式から,収穫の目安とする R D に対応する AT を求め,それらの値に達するために必要なDAPを求めた.そして,作型の違いがEq. 5とEq. 6の推定結果に及ぼす影響を検討するため,秋冬どり作型から構成されるC1,C2から得られたデータに初夏どり作型を含むCS1~CS8から得られたデータを追加し,Eq. 5とEq. 6の再推定を試みた.Eq. 5の再推定については,寒玉系品種である「おきなSP」のみを対象とし,C1,C2,CS6,CS7,CS8からデータを入手した(Table 4).

本研究における統計解析にはSPSS Statisticsバージョン28(IBM)を使用し,パラメータの推定には最小二乗法を用いた.なお,パラメータの推定値に記載する***,**,*は,パラメータがゼロという帰無仮説が,それぞれ, p < 0.001 p < 0.01 p < 0.05 基準で棄却されること,そして,nsは p < 0.05 基準で棄却されないことを示す.また, R 2 は自由度調整済み決定係数をあらわす.

結果

Eq. 1の推定結果は,以下のように良好だった.

X = 20.82 × 10 3 + 32.47 A T 11.90 × 10 3 AT 2   (Eq. 7)

     (***)   (***)    (***)    ( R 2 = 0.86 )

Eq. 7で X AT が1364 ºCのとき最大となった(Fig. 2a ).そして,積算気温が1364 ºCになるまでに要するDASは,R1,R2,R3の年で,それぞれ,107日,83日,81日だった.一方, AT の代わりにDAS自体を説明変数として用いた回帰分析では,遅播き(R3-LS)のデータが推定式から乖離し,十分に説明できなかった(Fig. 2b).

Eq. 2の推定結果は,R1,R2,R4,R5に対応する積算気温の範囲において良好だった(Fig. 3).Eq. 4の推定結果も以下のように良好であり,RUEは1.57 g MJ−1と推定された(Fig. 4).

Y = 1.57 Z         (Eq. 8)

  (***)   ( R 2 = 0.95 )

畝間(60 cm),株間(25 cm),そして,圃場試験から得られた葉と根の乾物重比率(46 %と54%),根の水分率(97%)から,収穫の目安とするダイコンをL規格(900~1200 g 株−1)とすると,根の乾物重は27~36 g 株−1,葉の乾物重は23~31 g 株−1,そして,全乾物重は50~67 g 株−1,面積あたりでは333~447 g m−2と計算される.これらの数値をEq. 8の Y に代入することにより, Z は212~285 MJ m−2と算出された.収穫の目安を,より具体的に,LL規格(1200 g 株−1~)の1356 g 株−1とすると, Y は507 g m−2に相当し,これに対応する Z は323 MJ m−2だった.そして,積算受光量が323 MJ m−2になるまでに要するDASはR1の年で86日,R2の年で84日,R4の年で83日だった.

Eq. 5の推定結果は,以下のように,「おきなSP」が「浜岬」より良好だった.

「おきなSP」  R = 3.79 3.76 × 10 3 A T + 1.09 × 10 6 AT 2    (Eq. 9)

           (***)  (***)       (***)    ( R 2 = 0.92 )

 「浜岬」   R = 2.20 1.62 × 10 3 A T + 0.44 × 10 6 AT 2   (Eq. 10)

           (**)  (ns)      (ns)    ( R 2 = 0.64 )

Fig. 5a にプロットしたデータが示すとおり, AT が増加するにつれて R は両品種ともに低下したものの,約1500ºC以降,大きく変化することはなかった.「おきなSP」について結球が観測され始めた時点における球形比はC1で1.08,C2で0.86であり,結球は球形に近かったが,収穫時にはC1で0.56,C2で0.63となり,結球が扁円の球形となったことが観察された.一方,「浜岬」における球形比の変化は「おきなSP」と比較して小さかった(Fig. 5a ).収穫の目安とする「おきなSP」の R を0.60とすると,Eq. 9から AT は1505ºCと計算された.そして,積算気温が1505ºCに達するために必要なDAPは,C1の年で86日,C2の年で75日だった.また,C1,C2,CS6,CS7,CS8から得られたデータを用いたEq. 5の再推定の結果,作型の違いにかかわらず良好だった(Fig. 6a ).

Eq. 6の推定結果は,以下のように良好だった.

D = 1.09 + 1.65 × 10 3 A T 0.38 × 10 6 AT 2    (Eq. 11)

   (***)  (***)      (**)    ( R 2 = 0.92 )

Fig. 5b にプロットしたデータが示すとおり, AT が増加するにつれて D は上昇した.「おきなSP」 について,結球が観測され始めた時点での結球緊度はC1で0.24 g cm−3,C2で0.32 g cm−3であったものが,収穫時にはC1で0.56 g cm−3,C2で0.54 g cm−3と上昇し,その後,結球緊度の増加率は低減するも,圃場試験C2において結球緊度が0.68 g cm−3の時点で裂球する個体が観察された.収穫の目安とする D を0.60 g cm−3とすると,その時点における AT はEq. 11から1655ºCと計算された.そして,積算気温1655ºCに達するために必要なDAPは,C1の年で104日,C2の年で87日だった.また,C1,C2,CS1~CS8から得られたデータをプロットしたところ,初夏どり作型の「YR天空」がトレンドから乖離した.そこで,「おきなSP」についてのみEq. 6の再推定を行ったところ,作型の違いにもかかわらず,良好な結果が得られた(Fig. 6b ).

Figure 2. Fresh matter weight of root (X) for Japanese radish plotted against accumulated air temperature (AT) (a) and plotted against days after sowing (DAS) (b)

R1, R1-LH, R2, R3 and R3-LS indicate the field experiments from which the plotted data were collected. See Table 2 for details of the field experiments.

Figure 3. Leaf area index (LAI) of Japanese radish plotted against accumulated air temperature (AT)

R1, R2, R4 and R5 indicate the field experiments from which the plotted data were collected. See Table 2 for details of the field experiments.

Figure 4. Estimated cumulative light interception (Z) plotted against observed dry matter yield of leaf and root for Japanese radish (Y)

R1, R2 and R4 indicate the field experiments from which the plotted data were estimated and collected. See Table 2 for details of the field experiments.

Figure 5. Height-to-diameter ratio of head (R) (a) and density of head (D) (b) for cabbage plotted against accumulated air temperature (AT) presented for C1 and C2

C1 and C2 indicate the field experiments from which the plotted data were collected. See Table 3 for details of the field experiments.

Figure 6. Height-to-diameter ratio of head (R) (a) and density of head (D) (b) for cabbage plotted against accumulated air temperature (AT) presented for C1, C2 and supplemental experiments CS1–CS8

C1, C2 and CS1–CS8 indicate the field experiments from which the plotted data were collected. See Table 3 and 4 for reference.

考察

1.ダイコン

M1のように,ダイコンの生育量を積算気温によって説明することは先行研究においても行われてきた(石内ら 1988吉本,原薗 1993).本研究では,温暖地である茨城県つくば市で行った圃場試験にもとづくデータを用いて,根の生体重が積算気温の2次関数によって,遅収穫(R1-LH)や遅播き(R3-LS)の場合も含め,良好に説明されること(Fig. 2a ),その説明力はDAS自体を説明変数とする場合よりも高いことを示した(Fig. 2b ).根の生体重が最大となる積算気温に到達するDAS,すなわち,R1,R2,R3の年でそれぞれ107日,83日,81日を収穫適期と判定した.なお,同一の推定式(Eq. 7)を用いて実需者が望む生体重に対応する積算気温から収穫適期を判定することも可能である.M1を用いる収穫適期判定について懸念すべき点として,高温域における作物の生育停滞が考慮されないことが挙げられる(堀江,中川 1990吉本,原薗 1993).作物の生育スピードと気温の関係をあらわす指標として発育速度(DVR)が知られており,水稲の場合,日長を問わず日平均気温が30 °Cを超えるとDVRが停滞することが報告されている(堀江,中川 1990).一般的に,ダイコンの生育適温は17~21 °C,生育最高気温は32 °Cとされているのに対し(川城 2001b),本研究で対象とした茨城県つくば市におけるダイコン圃場試験では,播種を行った9月の日平均気温は25 °Cを概ね下回っていた(気象庁 2023).そのことから生育期間を通じて高温による生育停滞を懸念する必要性は必ずしも高くないと考えられた.むしろ,気温が低く推移する場合に注意が必要といえるかもしれない.実際,R1の年はR2やR3の年と比べて低温年であったことが確認されており(Fig. 1a ),そのことがR1の年にR2やR3の年より遅い時期が収穫適期として判定された大きな要因であると考えられた.たしかにR1ではR2やR3よりも生育が遅い傾向が観察されはしたものの,そのR1でもDASが95日の時点でLL規格に相当する1433 g 株−1の平均根重が得られたことから,DASが107日という収穫適期判定は現実から乖離しているといわざるを得ない.そのため,M1にもとづく収穫適期判定は,平年並みの気温で推移する年における秋冬どり作型を対象とする場合には有用な方法といえるものの,気温が平年並みからはずれて推移する場合,その運用には注意が必要と思われる.

M2では,作物群落に入射する日射量を定量的にシミュレーションするEq. 3や積算受光量と乾物重からRUEを求めるEq. 4を収穫適期判定に用いる.そのため,M2は作物生育予測モデルにもとづく収穫適期判定の簡易版ともいえる(Zhang et al. 2008, Ishikawa et al. 2017).RUEについては既に様々な作物について推定されてきており,例えば,生育期間を通じたC3畑作物ではバレイショで1.6~1.75 g MJ−1,コムギで1.38 g MJ−1,オオムギで1.30 g MJ−1,ヒマワリで1.27 g MJ−1,ダイズで1.1 g MJ−1,ラッカセイで1.12 g MJ−1,ソラマメで1.03~1.45 g MJ−1と報告されている(Sinclair and Muchow 1999).子実中のタンパク質や脂質の濃度が高いマメ科作物で低い値になる傾向が知られていることから,ダイコンのようにタンパク質や脂質の濃度が低い作物については高いRUEが得られることが想定される.実際,本研究で得られたダイコンについてのRUEの推定値は1.57 g MJ−1と上述した炭水化物主体のバレイショの値に近かった.しかし,神奈川県の三浦半島におけるダイコンから求められた2.0 g MJ−1を越える値(高田 2022)には及ばなかった.2017~2022年の5年間における秋冬ダイコンの平均収量は,茨城県で4718 kg 10a−1,神奈川県で7258 kg 10a−1であり,後者は前者より54%も高い(農林水産省 2023).本研究と高田(2022)におけるRUEの推定値の比較から,両県における収量差のかなりの部分がRUEの差によって説明されること,そして,三浦半島というダイコン産地の成立に高いRUEの値が寄与している可能性が推察された.本研究では,LL規格(1200 g 株−1~)に格付けされる1356 g 株−1を収穫の目安とすると,R1,R2,R4の年で,それぞれ,86日,84日,83日となる時点が収穫適期と判定された.M1にもとづく収穫適期の判定結果と異なり,R1の年の判定結果が他の年から大きく乖離することはなかった.ここでM1とM2の関係を整理するために,M1を用いて収穫適期と判定されたDASまでの積算受光量を算出したところ,R1,R2,R4の年でそれぞれ483 MJ m−2,320 MJ m−2,323 MJ m−2であった.つまり,R1の年における積算受光量はR2やR4の年の約1.5倍に相当した.作物の乾物収量は積算受光量とほぼ正比例の関係にあることから(Shibles and Weber 1966, Monteith 1977),R1の年に収穫適期と判定された時点における収量はR2やR4の年よりも50%程度高くなるはずだが,圃場試験でそのような現象は観察されていない.このことからもR1の年におけるM1を用いた収穫適期判定は適切でなかったことが確認され,M1よりもM2にもとづく収穫適期判定の信頼性が高いと考えられた.とはいえM2に懸念点がないわけではない.本研究ではLAIの推移を把握するためR5の栽培データを用いたが,そのデータは平年並みの気温のもと取得されたものであることから(Fig. 1a ),低温で推移したR1の年における葉の展開を過大評価している可能性を否定できない.このような懸念を払拭するには,平常年,低温年,高温年のそれぞれについてLAIの推移を把握することが現実的な対応策といえるだろう.

2.キャベツ

M3やM4で用いた球形比や結球緊度といったキャベツ結球の成熟度を把握するための指標は,これまで収穫時における生体重などの生育量に付加的な情報として提供されるにとどまっていた(山本ら 2017農研機構 2020).そこで,本研究ではそれら指標を経時的に測定し,収穫適期判定に役立てることを試みた.まず,M3に関して,結球が成熟するにつれ球形比はある値まで低下するも,それ以降はほとんど一定のまま,すなわち,結球が肥大しても結球の形状は変化しないことが確認された(Fig. 5a ).そして,球形比とDAPとの関係については,「おきなSP」が「浜岬」よりも良好な推定結果が得られた(Eq. 9,Eq. 10).このことから,M3にもとづく収穫適期判定は,加工・業務用途の主力である寒玉系品種により適していることと考えられた.一方,結球の成熟度が高まるにつれて球形比がある一定の値まで低下するという観察結果から,収穫適期の開始時期を判定するのに向いていると推察された.また,C1,C2,CS6,CS7,CS8から得られるデータを用いたEq. 5の再推定は,作型の違いにかかわらず良好な結果となった(Fig. 6a ).すなわち,M3を用いる収穫適期判定では,同一品種であれば,初夏どりや秋冬どりといった異なる作型についても同一の推定式を利用できる可能性が示唆された.実際の生産現場において複数の作型で栽培されている「おきなSP」のような品種にとって,同一の推定式を利用することが可能な点は実用上の強みといえる.さらに,球形比は収穫することなく非破壊的に測定が可能であり,しかも,測定に必要な道具はノギスやものさしのみという点も実用上の強みといえる.

M4に関して,結球が成熟するにつれ結球緊度は上昇するも,その上昇幅は次第に低減することが確認された(Fig. 5b ).そして,圃場試験において裂球が観察されはじめた時点の結球緊度が0.68 g cm−3であったことから,その時点を収穫の目安とするのは遅すぎることが示された.このことは,先行研究で報告されている収穫時における結球緊度0.64~0.67 g cm−3山本ら 2017農研機構 2020)とも整合的だった.上述したM3が収穫適期の開始時期を判定するのに適しているのに対し,M4は収穫適期の終了時期を把握するのに向いていると推察された.それゆえ,M3とM4を組み合わせた収穫適期判定を行うことにより,収穫適期の開始時期と終了時期の把握に役立てることができると考えられた.しかも,結球緊度を算出するためのデータから球形比も求められることから,両指標をセットで利用することはデータ利用の効率性の観点からも優れているといえる.また,C1,C2,CS1~CS8から得られる寒玉系品種「おきな」,「おきなSP」,「YR天空」のデータを用いた追試の結果,「おきなSP」については,作型の違いにかからわらず,良好な推定結果が得られ(Fig. 6b ),同一の推定式を利用することが可能と推察された.しかしながら,「YR天空」のデータはトレンドから乖離したことから,M4を用いる収穫適期判定においても,M3の場合と同様,品種別にモデルの推定を行うことで適期判定の精度が向上する可能性があることが示唆された.一方,M3およびM4を用いる収穫適期判定に共通して懸念される点として,説明変数に積算気温を用いていることが挙げられる.実際,C1の年はC2の年と比べて低温年だったことが確認されており(Fig. 1b ),そのことが収穫適期と判定されたDAPがM3を用いる収穫適期判定ではC1の年がC2の年よりも11日多く,M4を用いる収穫適期判定では17日多かった大きな要因であると考えられた.ところが,ダイコンの場合とは異なり,キャベツの収穫適期判定の結果と圃場試験における観察との間に大きな不一致はみられず,C1およびC2の年における判定結果はM1およびM2とも概ね妥当と考えられた.このように両品目で異なる結果となったのは,低温に遭遇するまでに十分な生育を確保できるかどうかという点に一因があると考えられた.9月上中旬に播種されるダイコンに対し,キャベツは約1ヶ月の育苗を経て8月下旬から9月上旬に定植される.育苗期間中の積算気温の蓄積があるため,定植後,比較的すみやかに葉を展開することができ,低温に遭遇するまでに十分な生育を確保しやすい.なお,M1やM2のように被説明変数として生育量そのものを用いるか,M3やM4のように球形比や結球緊度といった比率や密度を用いるかの違いも結果に影響しているかもしれない.これらについては,栽培データを蓄積することによって検証を行う必要がある.

3.収穫適期簡易推定法の開発に向けて

本研究では,加工・業務用の主要なアブラナ科野菜であるダイコンとキャベツを対象に収穫適期簡易判定法の可能性を模索した.収穫部位の目視が困難なダイコンについては,生育量にもとづくM1とM2,そして,収穫部位の目視が可能なキャベツについては結球の成熟度にもとづくM3とM4に注目し,それらを用いる判定法の有効性を圃場試験から入手したデータを用いて検証した.M1とM2にもとづく収穫適期の判定結果は,平年並みの気温の場合は概ね妥当だったものの,高温年や低温年の場合には検討の余地が残された.M2にもとづく収穫適期判定の精度を向上させるため,平常年,低温年,高温年のそれぞれについてLAIの推移を把握することが考えられたが,そのために行う経時的な葉面積の実測はかなりの高コストな作業といえる.近年では,農業用ドローンを用いた空撮にもとづくLAIの非破壊測定法開発の取り組みがなされており(Sandhu et al. 2019, Gong et al. 2021),経時的な葉面積を実測するコストが将来的には下がることになるかもしれない.近年では,冒頭で述べた作物生育予測モデルの園芸分野における適用も進められており(東出 2018宮城県農業・園芸総合研究所 2019岡田,佐々木 2016岡田,菅原 2019高田 2022),さらには,作物生育予測モデルのアプリ開発の取り組みも進められている(岡田,菅原 2019農研機構 2023).作物生育予測モデルのアプリ化はユーザー側の負担を大幅に下げることにつながるため,野菜産地における収穫適期判定の普及にとって有望なアプローチとして期待されている.本研究では,生育量に着目したM1やM2にもとづく収穫適期判定をダイコンに適用したが,それらの方法をキャベツに適用することも当然ながら可能であり,逆に,キャベツに適用したM3やM4を用いる収穫適期判定を,根部を円柱に見立てるなどしてダイコンに適用することも可能といえる.将来的には,作物の成熟度に関する指標と生育量を関連させた収穫適期判定も可能となるかもしれない.しかし,現状においては,互いに補いあう複数の選択肢の中から状況に応じて最も適した判定法を選択する柔軟さを担保することが望ましいと思われる.また,加工・業務用野菜の収穫適期判定の精度を向上させることは,野菜産地側での出荷調整に役立つ以外にも様々な派生的な利点が考えられる.わが国では小規模な分散圃場を活用した野菜産地も多く存在するため,正確な収穫適期判定を作業計画に反映させることで作業効率の向上や収穫遅れの防止に資するなど,派生的な利点も大きいといえる.さらに,本研究のキャベツについては秋冬どり作型と初夏どり作型から得られたデータを用いたが,加工・業務用キャベツの周年供給にとっての大きな課題は端境期にあたる4~5月どり作型にあるといわれており(小林 2006農研機構 2020),今後は4~5月どり作型とそれに関連するマルチやトンネルといった被覆資材を用いる場合の栽培データの蓄積ならびに収穫適期判定の開発に取り組む必要があると考えられる.最後に,収穫適期簡易判定法に用いる関数形について精査することも判定結果の向上にとって有意義といえるだろう.

謝辞

本研究の一部はJSPS科研費23K05201,23K05419の助成を受けたものです.本研究の圃場試験を実施するにあたり協力いただいた管理本部,技術支援部,中央技術支援センターの皆様に感謝します.

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
著者は自身の論文の著作権を保持し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に対し農研機構研究報告からの論文の出版を許諾する。
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