2024 年 2024 巻 19 号 p. 17-
「ふくあかね」は,2005年秋に独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター作物機能開発部大豆育種研究室(現 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター暖地水田輪作研究領域作物育種グループ)において,九州地域での栽培に適する赤大豆品種の育成を目標として,大分県で収集された在来の赤大豆「竹田在来87E」を母に,晩生の大粒黄大豆育成系統「九交980-11」を父として行った人工交配から育成された系統であり,2022年に品種登録された.「ふくあかね」は西日本の主力品種「フクユタカ」と比較して粒が大きく,種皮は“褐赤”に分類される.「ふくあかね」は「フクユタカ」と比較して収量が低い,青立が多く,倒伏に弱い等の欠点があるが,初めて品種登録された赤大豆で,2022年には32 haの作付け実績があり,生産面積が徐々に拡大している.
‘Fukuakane’ was developed at Kyushu Okinawa Agricultural Research Center, NARO, from 2005 and was registered in 2022. This cultivar was selected from the progeny derived from the cross ‘Takeda Zairai 87E’, which was collected in Oita prefecture, and ‘Kyuko 980-11’, to develop brown red seed cultivar suitable for cultivation in Kyushu region. The seeds of ‘Fukuakane’ is brown red, and larger than that of ‘Fukuyutaka’, which is the leading cultivar in Western Japan. ‘Fukuakane’ is inferior to ‘Fukuyutaka’ in several agricultural traits, such as seed yield, lodging tolerance and green stem disorder tolerance. However, ‘Fukuakane’ is expected to be used for the production of well-characterized soybean food, because ‘Fukuakane’ is the first registered soybean cultivar with brown red seed coat color. The production field of ‘Fukuakane’ was 32 ha in 2022, and expected to expand.
大豆の種皮色は多様性に富んでおり,最も生産が多い黄大豆に加え,黒大豆,青大豆,赤大豆等がある.普及品種のほとんどが,豆腐,煮豆,納豆等に加工される黄大豆であり,それに続いて正月用の煮豆として主に消費される黒大豆の栽培が多い.近畿地域で約2700 ha栽培されている「丹波黒」系の品種や,北海道で約2800 ha栽培されている「いわいくろ」の栽培が盛んである(農林水産省 2024a).また,青大豆には東北地域で栽培されている「青丸くん」や,九州および中国地域で栽培されている「キヨミドリ」などの育成品種に加え,地域で栽培されてきた在来品種も活用されている(農林水産省 2024b,高田ら 2004,高橋ら 2006).
その一方で,赤大豆は各地域で非常に小規模に栽培されている事例があるが,いずれも由来がはっきりしない在来品種であり,栽培特性が劣悪な場合も多い.在来品種は,育成品種と違い均一性に問題があることも多く,種苗の維持・生産が不安定であるため,生産規模拡大の妨げとなっている.熊本県においても,赤大豆の在来品種が生産され,炒り豆や豆菓子に加工されて道の駅などで販売されているが,収量が低い上に,倒伏や青立などの生育障害も発生しやすいため,生産面積が拡大していない.
本報告では,赤大豆として初めて品種登録された「ふくあかね」について報告する.「ふくあかね」は,その最大の特色である種皮色を活かした商品開発が行われ,生産面積が徐々に拡大傾向にあり,2022年には32 haの作付け実績があった.本報告は「ふくあかね」の育成の来歴・経過,品種特性や栽培上の留意点を紹介し,今後の新たに栽培を始める生産者,商品開発を行う実需者に参考となる情報を提供することを目的とする.「ふくあかね」の育成従事者は,高橋将一,大木信彦,高橋幹,河野雄飛,中澤芳則,小松邦彦の6名である.
「ふくあかね」は,2005年秋に独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部 大豆育種研究室(現国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 暖地水田輪作研究領域 作物育種グループ)において,大分県竹田市で収集された在来の赤大豆「竹田在来87E」(農業生物資源ジーンバンク JP 253657)を母に,晩生の大粒黄大豆育成系統「九交980-11」を父として行った人工交配から育成された品種である.育種目標は暖地での栽培に適し,地域特産品として利用可能な赤大豆品種の育成であった.2006年夏に圃場でF1を養成し,F2,F3は単粒系統法に準じ,全個体から等量(2~3莢)採種して世代を進め,2009年のF4世代で種皮色が赤~赤褐色の種子のみ播種し個体選抜を実施した(表1 ).2010年のF5世代以降は系統育種法により選抜,固定を進めた.2013年に「九系470」の系統名を付し,生産力検定予備試験,系統適応性検定に供した.その試験成績が良好であったので,2015年に「九州171号」の地方系統名を付し,生産力検定本試験および奨励品種決定調査に供してきた.
さらに,2017年には主要な形質について個体間および系統間の変異について検討した結果,「ふくあかね」の主要形質における変異は「フクユタカ」とほぼ同程度で,実用的に支障ないと認めた(表2 ).一方,2015年から2016年にかけて,東北農業研究センターにおいてダイズモザイクウイルス抵抗性,岩手県農業研究センターにおいてダイズ黒根腐病抵抗性,長野県野菜花き試験場においてダイズシストセンチュウ抵抗性の特性検定を実施した.
これらの試験成績にもとづいて,「九州171号」が暖地の赤大豆として優良性が認められ,2018年3月に「ふくあかね」の名称で種苗法にもとづく品種登録を出願し,2022年7月に「ふくあかね」(登録番号29280号)として登録された(写真1 ,写真2 ).
注1)播種は2016年7月6日,栽植密度は畦幅70 cm,株間14 cm で1 株1 本立て(10.2 本/m2). 2) ○印を付した系統番号が最終的に選抜された系統.
左から,「ふくあかね」,「クロダマル」,「フクユタカ」.
左から,「クロダマル」,「ふくあかね」,「フクユタカ」.
本報告で示される「ふくあかね」の形態的,生態的および子実の成分・加工特性を,主に「農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年10月)」に示された分類基準に準じて分類した(表3 ,表4 ,表5 ).分類は育成地における試験により,「ふくあかね」の形態的および生態的特性の詳細を,「クロダマル」を標準品種,「フクユタカ」を比較品種として調査した結果を示した.
注1)「 農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年10月)」により,育成地・標播での調査に基づいて分類した. また,審査基準国際統一委託事業調査報告書(2004 年3 月)を参考にした.2)斜体は当該特性について標準品種になっていることを示す. 3)△印は当該特性について標準品種になっているが,育成地での調査結果を優先して記載した.
注1)「 農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年10月)」により, 育成地・標播での調査に基づいて分類したが,病害虫抵抗性については特性検定 試験成績に基づき分類した.また,審査基準国際統一委託事業調査報告書(2004年3月)を参考にした. 2) 斜体は当該特性について暖地での標準品種になっていることを示す. 3) カッコ付きの判定は,過去の試験による評価.
注1)「 農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年10月)」により,育成地・標播での調査に基づいて分類した. また,審査基準国際統一委託事業調査報告書(2004年3月)を参考にした. 2)斜体は当該特性について暖地での標準品種になっていることを示す. 3)* 印は審査基準外の形質であるが,品種の特性把握の参考になるよう記載した. 4)品質は上の上,上の中,上の下,中の上,中の中,中の下,下の7 段階で評価.
1.形態的特性
形態的特性の分類を表3 に示す.「ふくあかね」の胚軸のアントシアニンの着色の有無は“無”で,花色は“白”,側小葉の形は“鋭先卵形”で,毛じの色は“白”である.茎の長さは“長”で「クロダマル」,「フクユタカ」より長く,茎の節数は“やや多”で「クロダマル」,「フクユタカ」より多い.分枝の数は“中”,最下着きょう節位の高さは“中”である.伸育型は“有限”で,草姿は“直立~斜上”で,“斜上”の「クロダマル」とは異なる.熟さやの色の濃淡は“中”で「クロダマル」より淡く,「フクユタカ」より濃い(写真1 ).
子実の形は「クロダマル」と同じ“偏球”で,「フクユタカ」の既往の評価“球”とは異なる.子実の大きさは一般群の分類で“かなり大”で,一般群の分類で“やや大”の「フクユタカ」より大きく,極大粒での分類で“小”の「クロダマル」より小さい(写真2 ).種皮の地色は“褐赤”で,へその色は“暗褐”で,子葉の色は“黄”である.
2.生態的特性
生態的特性の分類を表4 に示す.「ふくあかね」の開花期は「フクユタカ」,「クロダマル」と同じ“やや晩”で,成熟期は「フクユタカ」より遅く「クロダマル」より早い“晩”である.生態型は「クロダマル」,「フクユタカ」と同じ“秋大豆型”である.裂きょうの難易は“やや易”である.ダイズモザイクウイルス抵抗性はA系統,B系統に“抵抗性”,C系統,D系統に“感受性”である.ダイズ黒根腐病抵抗性は“中”,ダイズシストセンチュウ抵抗性は“かなり弱”である.
3.品質特性
品質特性の分類を表5 に示す.「ふくあかね」の子実粗タンパク質含有率は“やや高”に分類され,“中”の「クロダマル」より高く,「フクユタカ」と同等である.粗脂肪含有率は「クロダマル」,「フクユタカ」と同じ“中”である.7Sタンパク質サブユニットの有無は,「クロダマル」,「フクユタカ」と同じ“全有”で,11Sタンパク質サブユニットの有無は,「ふくあかね」はⅡa欠で,「クロダマル」,「フクユタカ」は“全有”である.
2015年から2017年の普通畑(九州沖縄農業研究センター合志拠点)で,標準栽培(7月上中旬播種,以下,標播と略す)および早播栽培(5月下旬~6月上旬播種,以下,早播と略す)で生産力検定試験を実施した(表6 ,表7 ).栽植条件は畦幅70 cm,株間14 cm,1株1本立てとし,栽植密度は1020 株/aとした(表8 ,表9 ).標準播種は3反復で,早播は2反復とした.肥料は豆化成(3-10-10)10 kg/a,苦土石灰10 kg/a,よう燐10 kg/aを施用した.
「ふくあかね」の開花始期は標播では8月20日,早播では8月4日で,「クロダマル」,「フクユタカ」と同じ“やや晩”で,成熟期は標播では11月7日,早播では11月1日で“晩”に分類され,「クロダマル」の“かなり晩”より早く,「フクユタカ」の“中”より遅い.
主茎長(茎の長さ)は標播では「クロダマル」より18 cm長く,「フクユタカ」より10 cm長い.早播では「クロダマル」より15 cm長く,「フクユタカ」より14 cm長い.主茎節数(茎の節数)は標播では「クロダマル」より2.5節多く,「フクユタカ」と同等である.早播では「クロダマル」より1.6節多く,「フクユタカ」と同等である.分枝数(分枝の数)は標播では「クロダマル」,「フクユタカ」とほぼ同じであるが,早播では「クロダマル」,「フクユタカ」よりやや多い.最下着きょう節位高(最下着きょう節位の高さ)は標播では「クロダマル」より0.9 cm高く,「フクユタカ」より1.7 cm高い.早播では「クロダマル」より1.4 cm高く,「フクユタカ」より1.2 cm低い.
子実重は標播では24.7 kg/a,早播では19.1 kg/aで,ともに「フクユタカ」より劣り,「クロダマル」より標播では劣り,早播では同等である.倒伏の発生は,標播では3品種とも同程度であるが,早播では「クロダマル」,「フクユタカ」よりやや多い.また,青立株の発生は標播では“少”,早播では“微”で,標播で「クロダマル」,「フクユタカ」よりやや多く,早播ではほぼ同等である.百粒重は標播では38.8 g,早播では34.9 gで「クロダマル」より軽いが,「フクユタカ」より重い.裂皮粒の発生は「クロダマル」,「フクユタカ」より多く,子実の外観品質は「クロダマル」や「フクユタカ」よりやや劣る.
「ふくあかね」の子実の幅と長さ,厚さと幅の比は,2016年から2017年までの平均で0.90および0.84であり,粒形は,「クロダマル」と同じ“偏球”に分類される(表10 ,表11 ).また,粒度分布は,標播および早播の両方において,7.9 ㎜のふるい目上に70%以上が分布しており,大粒規格の条件を満たす(表12 ,表13 ).
「ふくあかね」の子実成分のうち,粗タンパク質含有率と粗脂肪含有率を近赤外分析装置により2015年から2017年の標播および早播で3年間測定した(表14 ,表15 ).その結果,「ふくあかね」の粗タンパク質含有率は,栽培年次間でやや変動したものの標播の平均値が44.4%であり,「フクユタカ」と同程度であった.一方,粗脂肪含有率は標播の平均値が19.3%であり,「フクユタカ」,「クロダマル」よりもやや低い傾向にあった.
1)障害の程度は無(0),微(1),少(2),中(3),多(4),甚(5)の6段階で数値化して評価. 2) 品質は上の上(1),上の中(2),上の下(3),中の上(4),中の中(5),中の下(6),下(7)の7段階で数値化して評価.
1)障害の程度は無(0),微(1),少(2),中(3),多(4),甚(5)の6段階で数値化して評価. 2)品質は上の上(1),上の中(2),上の下(3),中の上(4),中の中(5),中の下(6),下(7)の7段階で数値化して評価.
注)試験材料は育成地産,生産力検定試験30 粒× 2 反復の平均値.粒形の判定は「農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年10月)」 による.球:幅/長さ比0.85 以上で,厚さ/幅比0.85以上.偏球:幅/長さ比0.85以上で,厚さ/幅比0.84以下.斜体は当該形質の標準品種.
裂きょうの難易は“やや易”で,“やや難”の「クロダマル」より弱く,“易”の「フクユタカ」よりやや強かった(表16 ).既往の評価では,「クロダマル」は“難”,「フクユタカ」は“易”であり,全体に裂きょうしやすい結果となっていた.ダイズ黒根腐病抵抗性は“中”で,“中”の「フクユタカ」と同等程度の抵抗性であった(表17 ).ダイズシストセンチュウ抵抗性は“かなり弱”である(表18 ).ダイズモザイクウイルス抵抗性は「フクユタカ」と同様にA,B系統に抵抗性,C,D系統に感受性である(表19 ).
注1)「農林水産植物種類別審査基準(大豆種,2018年 10月)」により,育成地・標播での調査に基づいて判定した. また,審査基準国際統一委託事業調査報告書(2004年3月)を参考にした. 2)斜体は当該特性について暖地での標準品種になっていることを示す.
1)同一株に供試系統と「Harosoy」を混播し,供試系統と「Harosoy」の根の表面及び内部の病徴を観察し, 下記に従って指数化した.発病程度0:発病が認められない,1:地際部に褐変が認められる, 2:褐変が地際部全体を取り巻いている,3:褐変が地際部を中心に長く伸びている,4:主根が腐朽,5:枯死. 2)調査は2015 年は8月28日から9月24日にかけて約10日おき,2016年は8月28日から9月27日にかけて約10日おきに計4回行った. 3)発病度同一株内「Harosoy」対比は混植した「Harosoy」の発病程度に対する供試系統の発病程度の比率を表し, 発病株率は発病程度2 以上の株の割合(%)を表す. 4)発病対比>平均発病程度>発病株率の順に優先して判定した.
育成地における豆腐加工適性試験の結果,「ふくあかね」の豆腐破断強度は塩化マグネシウム0.25%で66.3 g/cm2,0.30%で85.8 g/cm2であり,「クロダマル」より大幅に高く,「フクユタカ」より低い(表20 ).大豆食品メーカーM社における納豆加工適性試験の結果,「ふくあかね」は利用可能の評価となった(表21 ,22 ).大豆食品メーカーF社における煮豆加工適性試験の結果,「ふくあかね」は「トヨムスメ」より評価が低く,皮切れが多く“不適”となった(表23 ).
注)表21 で作成したものをM社基準で評価.官能評価:各項目を,5(とても良い)~ 1(とても悪い) の5段階で評価し,合計を100点に換算し,80点以上を“優”,79~70点を“良”と判定した. また,3点未満が1つでもあれば不可.
1.奨励品種決定試験
2015年から2017年の3年間,佐賀県および熊本県の奨励品種決定試験に供試された.試験条件は各県の標準的な栽培基準に基づいて実施された(表24 ).「ふくあかね」の収量は「フクユタカ」よりも低い傾向にあり,また,青立,倒伏が多く発生していた.百粒重については,40 g前後であり,「フクユタカ」よりも10 g程度重かった(表25 ).佐賀県での評価は“やや劣る”で,熊本県での評価は2015年と2016年が“再検討”であり,2017年が“やや劣る”であった.
注1)障害程度は無(0),微(1),少(2),中(3),多(4),甚(5)の6段階で数値化して評価. 2)品質は上の上(1),上の中(2),上の下(3),中の上(4),中の中(5),中の下(6),下(7)の 7段階で数値化して評価.3)概評 ◎:有望,○:やや有望,◇:再検討,△:やや劣る,×:劣る.
2.現地実証試験
2015年に熊本県山鹿市,2017年に熊本県合志市,菊池市で現地試験を行った(表26 ).2017年の試験では,「ふくあかね」に加えて,熊本で約4 ha栽培され置き換え対象品種として想定している在来品種の「赤大豆」についても調査を実施した.2015年は生育期間中に台風の被害があったことに加え,生育後半~収穫時期にかけて平年より気温が高く,雨が多かったため成熟が遅れ,品質が大きく低下し,低収となった.2017年は生育期間中に台風による影響や,9~10月の寡照,多雨の影響があったが,生育中に目立った障害もなく,収量,品質は良好であった.収量では「ふくあかね」が合志市Aで坪刈り収量が25.6 kg/a,合志市Bで坪刈り収量が32.2 kg/aとなった一方で,合志市Cの「赤大豆」は水分不足による着莢不良,強風による全面倒伏により圃場全体で青立が発生し,合志市Dでは湿害による生育不良のため,収穫はいずれも皆無となった.
九州地域の大豆生産は,豆腐加工適性に優れる「フクユタカ」の寡占状態にあり,他の品種の作付けは限られている.「フクユタカ」は全国で最も栽培面積が大きい品種であり,安定して原料を確保できるため実需からのニーズも大きい.その一方で,中山間地など,大面積での栽培が難しい地域の一部では,「クロダマル」や「キヨミドリ」のような色大豆を,高付加価値な特産品として生産している.
赤大豆は煮豆,炒り豆に加工すると種皮色の特色を生かしやすく,また,豆腐に加工すると薄いピンク色になり,商品としての差別化ができる.しかし,全国でも生産量が特に少ないため原料確保が課題となり,利用の障害となっている.さらに,登録品種でなく在来品種であり,遺伝的に均一でないため,栽培を続けるうちに形質が変わってしまうリスクや,種苗が消失するリスクがある.「ふくあかね」は赤大豆として初めての登録品種で,遺伝的に均一であり,種苗が消失するリスクもないため,普及させやすい新品種として期待される.「ふくあかね」の百粒重は40 g近くあり,大粒と赤色の種皮色という特性を活かした商品開発に貢献できる.さらに粗タンパク質含有率が高く豆腐加工適性も優れるため,種皮色を活かした豆腐商品にも利用できる.現在,「ふくあかね」は主に納豆に加工されているが,今後は豆腐などの商品開発も期待されている.
「ふくあかね」は九州で徐々に生産面積が拡大しつつあり,今後もさらなる普及が期待される.栽培上の留意点として,本報告で紹介したように,「ふくあかね」はやや倒伏に弱いため,極端な早播や密植は避けることが望ましい.また,「フクユタカ」と同等程度に裂きょうが起きやすいため,適期に収穫できるように,作業準備を整えることが重要である.加えて,青立の発生が「フクユタカ」と比べてやや多いため,青立の原因となるカメムシの被害を抑制するため適期に防除を行うことが望ましい.
「ふくあかね」の収量性や,耐倒伏性などの栽培特性を改善するため,後続系統の育成を開始している.耐倒伏性の強化には,主茎長を抑制することが効果的と考えられる.これまでに,節間を短くする遺伝子を発見しており,導入により倒伏に強く,収量が安定した新品種育成に寄与できる(Oki et al. 2018).また,裂きょうのしやすさを改善するには,DNAマーカー選抜による難裂きょう性の導入が有効である(羽鹿 2022).難裂きょう性は,タイ国で育成された品種「SJ2」に由来する特性であり,導入すると裂きょうが明らかに少なくなり,収量ロスを低減することが可能である(Funatsuki et al. 2014).「ふくあかね」の後継品種育成では,選抜にDNAマーカーを用いて難裂きょう性を有する系統を選抜し,特色ある種皮色を有しながら,収量性,栽培特性に優れる系統を選抜していく方針である.
本品種の育成にあたり,奨励品種決定試験,系統適応性検定試験,特性検定試験等を実施していただいた関係公立農業試験研究機関の各位に感謝する.さらに,技術支援部九州沖縄技術支援センター九州第1業務科の工藤大吾,中原康高,中山 了,福盛茂憲,宮川竜二,織方真治,南正覚博,嶌崎二朗の職員各位には園場管理および調査等にご尽力いただいた.ここに記して深く感謝する.
全ての著者は開示すべき利益相反は無い.