2024 年 2024 巻 19 号 p. 43-
ダリアは切り花の日持ち性に劣るため,2014年から日持ち性の向上を目標としたダリア育種を開始した.22品種を育種材料として品種間交雑を行い,日持ち日数による選抜とその選抜系統間での交雑を,2014年から2021年まで4世代繰り返した.2021~2022年に系統適応性検定試験を実施した結果,白色花色の第4世代系統909-4,および花色が観賞中に明赤色からアプリコット色に変化する第3世代系統916-34の2系統が新品種候補として有望と判定され,2023年7月に,それぞれ「エターニティムーン」および「エターニティサンセット」として品種登録出願した.2品種の最大の特徴は,優れた日持ち性である.2021~2022年の調査で,2品種の日持ち日数は,蒸留水で8.4~12.1日(切り花用主要品種「かまくら」の1.5~2.2倍),品質保持剤のGLA液で8.8~11.9日(「かまくら」の1.5~1.9倍)であった.2021~2022年に全国5カ所で栽培時期の異なる作型で栽培した切り花も同様の良日持ち性を示したことから,2品種の優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.
As the vase life of cut dahlia (Dahlia variabilis) flowers is very short, we initiated a research breeding program in 2014 to improve it. We chose 22 commercial cultivars as initial breeding materials, and repeatedly crossed and selected promising offspring with long vase life for four generations, from 2014 to 2021. Fourth-generation selected line 909-4, which has white flower color, and third-generation selected line 916-34, whose flower color gradually changes from bright red to apricot color after harvest were judged to be the most suitable as new cultivars with long vase life. We registered these cultivars with Japan’s Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries and released them as ‘Eternity Moon’ and ‘Eternity Sunset’. These two new dahlia cultivars had genetically determined long vase lives of 8.4 to 12.1 days (1.5 to 2.2 times the vase life of a standard cultivar, ‘Kamakura’) in distilled water, 8.8 to 11.9 days (1.5 to 1.9 times the vase life of ‘Kamakura’) in GLA (10 g·L−1 glucose, 0.5 ml·L−1 kathon CG, and 50 mg·L−1 aluminum sulfate) under 23°C, 12-h photoperiod, and 70% RH conditions in 2021 and 2022. Cut flowers cultivated at five locations nationwide with different cultivation seasons in 2021 and 2022 also showed similar long vase life, clearly indicating that the long vase life of our two cultivars were not due to the environment but the characteristics of cultivars.
日持ち性は,花きにおける最も重要な育種目標の一つである.消費者に切り花の購入で重視することは何かについてアンケート調査すると,「日持ちの良い花がほしい」,「どのくらい日持ちするのか知りたい」など,購入後の観賞期間に高い関心があることが示されている( https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/hosin09/pdf/shir51.pdf, 2024年5月2日参照).
消費者の日持ちに対するニーズを充足させるため,近年では切り花の日持ち日数を明示してそれを保証する日持ち保証販売の取り組みも広がりをみせている(市村 2016,松島 2015).収穫後の日持ちが良い品種を育種すれば,商品としての切り花に高い付加価値を与えることができ,消費拡大にもつながる.したがって,育種により日持ち性を改良する意義は極めて大きい.
ダリア(Dahlia variabilis)は,メキシコやグアテマラなど中南米の高地原産のキク科ダリア属に属する球根植物である(奥村,藤野 1989).その切り花は,大きく豪華な巨大輪から清楚な小輪まで大きさや花型のバリエーションに富み,多彩な花色を有することから,結婚式や各種のイベントで使われるなど人気の高い花き品目である(小野崎 2018,2023).(株)大田花き花の生活研究所の推定によると,2020年のダリアの生産額は28.2億円と推定されており,今後も切り花の重要品目としての成長が期待されている.
ダリアの花の老化には,エチレンの作用,活け水内の細菌増殖,糖質の不足(Azuma et al. 2019),エチレンの作用による小花と子房の境界部における離層形成(Yang et al. 2021)等が影響する.ダリアの品質保持技術について,出荷前および湿式での輸送中におけるグルコースなどの糖質と抗菌剤による品質保持剤処理(市村 2016),サイトカイニン類の6-ベンジルアミノプリン(6-benzylaminopurine, 以後BA)の花弁全体への散布処理(Shimizu-Yumoto and Ichimura 2013),品質保持剤とBA処理の併用(辻本ら 2016)などが検討され,いずれもダリアの日持ち延長に効果があり,品種や季節に関わらず利用することが可能である.
しかしながら,品質保持剤を用いた場合の保証可能日持ち日数は,ダリアの一般品種では常温(23°C)で5日,高温(30°C)で不可(5日未満)と,主要切り花のキク,バラ,カーネーション,ユリ,トルコギキョウ等に比較すると切り花の日持ち性に劣り,ダリアは1週間の日持ち保証が困難な品目であった(市村ら 2011,農研機構花き研究所 2014).一般消費者の8割強は,1週間以上の日持ちを求めている( https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/hosin09/pdf/shir54.pdf, 2024年5月2日参照)ため,ダリアの日持ち向上が必要である.そこで著者らは,ダリア切り花の家庭向け,輸出向け等への用途拡大に向けて,交雑育種によるダリアの日持ち性向上の研究を2014年から開始した.
2020年に良日持ち性ダリア品種エターニティシリーズの先行3品種(「エターニティトーチ」,「エターニティロマンス」および「エターニティルージュ」)が育成された(小野崎,東 2022).2023年から商用苗の民間種苗会社2社による本格販売が始まり,全国への普及が進んでいる.さらに,2023年には,桃色に中心白色で複色花色の「エターニティピーチ」,濃桃色で落弁しにくく輸送後の日持ち性にも優れる「エターニティシャイン」の2品種を育成した(小野崎ら 2024).2024年夏から商用苗の民間種苗会社2社による販売が開始される予定であり,先行3品種と同様に,全国への普及が期待される.農研機構では,さらなる日持ち性の向上とともに,花色についても,ダリアの使用用途拡大に向けて,慶弔のセレモニーで利用可能な白色や,花色が変化するなどのこれまでのダリアにはない特性を有する品種について,育成を進めてきた.
ダリアの需要は,2020年の新型コロナウイルス感染拡大前には結婚式用などイベントの業務用需要が主であったが,コロナ禍でその需要が減少し,ホームユース向けへと移行した.大手小売店では,秋になるとダリア祭り,ダリアフェアなどの販促イベントが開催されるなど,小売店,専門店の店頭での取扱いが増加している.ダリア切り花の家庭用需要の増加に伴い,日持ち性に優れた品種が強く望まれている.ダリアを業務用だけでなく家庭での観賞向けの切り花として定着させるためには,日持ち性を重視した品種選定,さらには良日持ち性品種開発を進める必要がある.
2021~2022年に,農研機構で育成した日持ち性に優れる有望系統について,夏秋期出荷作型の系統適応性検定試験場所として秋田県農業試験場(秋田県秋田市; 以後,秋田農試),冬春期出荷作型の系統適応性検定試験場所として奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市; 以後,奈良農研セ),高知県農業技術センター(高知県南国市; 以後,高知農技セ)および宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市; 以後,宮崎総農試)の4場所で,有望系統の全国的な系統適応性評価を実施した.
その結果,育成地(茨城県つくば市)を含む全国5カ所のどこで栽培しても優れた日持ち性を示す上に,シリーズ初の白色品種である「エターニティムーン」,および,切り花の観賞中に花色が明赤色からアプリコット色へ変化する,夏期高温期(7~8月)採花の日持ち性や高温下(28°C)の日持ち性にも優れるなどの特徴を有する「エターニティサンセット」の2品種を育成したので,その育成経過と品種特性の概要について報告する.
1.本研究における日持ち日数の評価方法
外花弁が水平状態に達した開花ステージで切り花を収穫し,日持ち日数の調査に供した.切り花は茎長40 cmに切り揃えた後,最上部の葉以外は除去し,蒸留水,抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)およびGLA液(1% グルコース,kathon CG 0.5 mL・L-1および硫酸アルミニウム50 mg・L-1から構成される品質保持剤,Ichimura et al. 2006)を入れた300 mLまたは500 mL容のコニカルビーカーに1~3本ずつ挿し,気温23°C(GLA・28°C区は気温28°C),相対湿度70%,蛍光灯(光強度:10 µmol・m-2・s-1)で12時間日長に調節した恒温室内に置き,花全体の1/3以上の花弁に萎凋や褐変が確認された日までの日数を調査した.BA処理区に用いるBA剤としては,市販のミラクルミストff(クリザール・ジャパン(株))を切り花収穫・調整後,収穫当日の花弁全体に散布した.
2.ダリアの日持ち性向上を目標とした交雑育種
本研究では,育種材料とした22品種間の交雑後代を「第1世代」,第1世代選抜系統間の交雑後代を「第2世代」,第2世代選抜系統間の交雑後代を「第3世代」,第3世代選抜系統間の交雑後代を「第4世代」と定義して,ダリアの育種研究を進めてきた.育種材料,第1世代,第2世代,第3世代,第4世代の育成経過,交雑組合せおよび選抜については,既報(Onozaki and Azuma 2019,小野崎,東 2022,Onozaki and Fujimoto 2023)に詳細に記載したので,以下に概要のみを記載する.
2014年秋に,切り花用ダリア22品種間で45組み合わせの品種間交雑を行った.2015年春に交雑種子を播種して開花した314実生の日持ち日数を調査し(第1世代),2015年10月に日持ち日数5.1日以上の64系統を一次選抜した(第1世代選抜系統).2015年10月に第1世代選抜系統間で29組合せの交雑を行い,2016年に開花した308実生の日持ち日数を調査し(第2世代),2016年10月に日持ち日数6.0日以上の73系統を一次選抜した(第2世代選抜系統).さらに,2016~2018年10月に第2世代選抜系統間で28組み合わせの交雑を行い,2017~2019年春に交雑種子を播種して開花した229実生の日持ち日数を調査し(第3世代),2017~2019年10月に日持ち日数6.1日以上(2017年),6.2日以上(2018年),6.0日以上(2019年)の合計80系統を1次選抜した(第3世代選抜系統).2018~2020年10月に第3世代選抜系統間で26組み合わせの交雑を行い,2019~2021年春に交雑種子を播種して開花した233実生の日持ち日数を調査し(第4世代),2019~2021年10月に日持ち日数6.5日以上(2019年),6.4日以上(2020年),7.5日以上(2021年)の合計58系統を1次選抜した(第4世代選抜系統).
実生の日持ち日数の調査は,ダリアの日持ちが低下しやすい7月~9月中旬の夏季高温期に行った.切り花を抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)入りのコニカルビーカーに2~3本ずつ挿し,恒温室(気温23°C,相対湿度70%,12時間日長)内で日持ち日数を調査した.
3.「エターニティムーン」(系統909-4)および「エターニティサンセット」(系統916-34)の育成系譜
系統909-4は2019年秋に第4世代53実生から一次選抜した15系統の一つであり,種子親の第3世代系統810-8に花粉親の第3世代系統803-55を交雑した後代である(図1 ).実生時の定植後の到花日数は97日,平均日持ち日数は9.5日(抗菌剤液,n=2)であった.
系統916-34は2019年秋に第3世代74実生から一次選抜した20系統の一つであり,種子親の第2世代系統601-49に花粉親の第2世代系統606-7を交雑した後代である(図2 ).実生時の定植後の到花日数は64日,平均日持ち日数は7.0日(抗菌剤液,n=2)であった.
2019年秋に一次選抜した第3,第4世代系統を,2020年に夏秋期・露地栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培で日持ち性を再評価し,2020年秋に第3世代3系統,第4世代7系統を二次選抜した.2020年7月30日定植の冬春期・施設・土耕栽培での生育状況,日持ち調査結果から,2021年2月に2021年度系統適応性検定試験の新配布系統として,系統909-4および系統916-34を三次選抜した.
各品種・系統名の括弧内は花色を示す.
各品種・系統名の括弧内は花色を示す.
4.「エターニティムーン」および「エターニティサンセット」の最終選抜および品種登録出願
系統909-4および系統916-34について2年間の系統適応性検定試験を実施した結果,育成地だけでなく,秋田農試,奈良農研セ,高知農技セおよび宮崎総農試の栽培環境下でも良日持ち性を示し,その他の形質も対照品種と同等の特性を示したことから,良日持ち性のダリア品種として有望と判断した.2023年7月6日に,それぞれ,「エターニティムーン」(品種登録出願番号:第36948号,出願公表:2023年10月30日),「エターニティサンセット」( 品種登録出願番号:第36949号,出願公表:2023年10月30日)として品種登録出願した.
1.栽培概要
2021年,2022年は「エターニティムーン」(系統909-4)および「エターニティサンセット」(系統916-34)を供試し,対照品種としては切り花用ダリアの代表品種である「ミッチャン」,「黒蝶」,「かまくら」の3品種を用いて,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培の2作型で栽培し,特性調査を行った(表1 ).
夏秋期・露地栽培については,基肥としてBMようりん(朝日工業(株),N:P2O5:K2O=0:20:0)を16 kg・10a-1,苦土入りCDU複合燐加安(ジェイカムアグリ(株),N:P2O5:K2O=12:12:12)を N施用量が20 kg・10a-1となるように施用した.2021年5月11日または2022年5月12日に農研機構野菜花き研究部門(茨城県つくば市;以下,野花研)露地圃場の幅60 cmの畝に株間40 cmで挿し芽苗を定植し,両年とも6月17日に1回目の摘心を行い,2021年7月15日または2022年7月14日に2回目の摘心を行った(表1 ).
冬春期・施設・土耕栽培では,基肥として,BMようりん(朝日工業(株),N:P2O5:K2O =0:20:0)を40 g・m-2,被覆燐硝安加里エコロング413-180(ジェイカムアグリ(株),N:P2O5:K2O=14:11:13)を170 g・m-2施用した.2021年8月2日または2022年8月1日に挿し芽苗を野花研温室内の幅60 cmの畝に株間40 cmで定植した.定植から9月14日または9月9日までは遮光下で栽培した.両年とも8月19日から赤色LED(DPDL-R-9W,鍋清(株))で5:00~7:00,16:00~19:30に電照を行い,14.5時間日長とした.2021年8月23日または2022年8月22日に1回目摘心を行い,両年とも9月22日に2回目摘心を行った.10月下旬から最低夜温10°Cで加温した(表1 ).なお,2022~2023年の栽培では,温室天窓の老朽化のため,天窓を常時閉じた状態とし,側窓のみの開閉で栽培を行った.
2.日持ち性
日持ち調査については,前項の特性調査の栽培で採花した切り花に加えて,夏秋期・ハウス・鉢栽培の切り花を供試して行った(表1 ).鉢用土には市販の基肥入り培養土(ロイヤル培養土,刀川平和農園(株))を用いた.夏秋期・ハウス・鉢栽培では,5~10月には寒冷紗(クールホワイト45-50% 遮光,ダイオ化成(株))で遮光を行い,無加温,自然日長条件のハウス内で栽培した.それぞれの栽培から採花した切り花を,前述の「本研究における日持ち日数の調査方法」に基づいて,日持ち日数の調査を行い,切り花用主要品種「かまくら」,「黒蝶」,「ミッチャン」の日持ち日数と比較した.
1)「エターニティムーン」
3年間にわたり様々な条件で日持ち性評価を行ったが,概して日持ちに季節変動,年次変動は比較的少なく,安定して優れていた.
2020年の栽培時期,栽培法の異なる2区(夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培)での日持ち性再調査において,「エターニティムーン」(系統909-4)の日持ち日数は,蒸留水区で6.4~8.2日(「かまくら」の1.2~1.6倍),GLA処理区で8.8~12.6日(「かまくら」の1.5~2.0倍),GLA+BA処理区で12.0~12.6日(「かまくら」の1.3~1.5倍)と優れていた(データ略).
市場関係者や生産者等の実需者から多くの要望が寄せられている白色花色の良日持ち性系統であり(図3 ),咲き始めの花色はクリーム白色であるが,切り花を生けて数日経過すると純白に近づく,花色は季節や場所を問わず安定しており,白色花色に色混じり等も観察されず,茎が硬く曲がりにくいなど,日持ち性以外の形質にも優れていたことから,第4世代系統909-4を品種候補の一つとして,2021~2022年度の2年間,系統適応性検定試験に供試した.
2021年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる4回の日持ち調査(夏期高温期(7~8月),夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した.「エターニティムーン」は,蒸留水区では8.4~11.3日(「かまくら」の1.6~1.7倍),抗菌剤区で7.6~10.8日(「かまくら」の1.6~1.9倍),GLA区では8.8~11.3日(「かまくら」の1.5~1.6倍),GLA+BA区では12.0日(「かまくら」の1.4~1.6倍)と安定した日持ち性を示した(表2 ).夏期高温期(7~8月)採花の抗菌剤区では7.6日(「かまくら」の1.9倍),GLA・28°C区では8.2~8.9日(「かまくら」の1.5~1.6倍)であり,いずれも対照品種を上回った(表2 ).
2022年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる3回の日持ち調査(夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した.「エターニティムーン」は,蒸留水区では8.9~10.8日(「かまくら」の1.8~2.0倍),抗菌剤区では8.2~9.8日(「かまくら」の1.6~1.8倍),GLA区では10.1~10.5日(「かまくら」の1.5~1.7倍),GLA+BA区では10.7~13.7日(「かまくら」の1.4~1.9倍),GLA・28°C区では7.5~9.1日(「かまくら」の1.4~1.7倍)と安定した日持ち性を示した(表3 ).
図4に,「エターニティムーン」と一般品種「かまくら」を同じ日に収穫してGLA液に生けて,0,3,6,8,11,14日目の切り花の様相を示した.「エターニティムーン」は14日目まで花弁に萎凋は発生せず,11日目から外花弁の褐変化によって観賞価値を失い,「かまくら」の約2倍の良日持ち性を示した(図4 ).
撮影日:2023 年6 月19 日,撮影場所:農研機構野花研(茨城県つくば市).
日持ち日数は,気温23℃(GLA・28℃区は気温28℃),相対湿度70%,蛍光灯で12 時間日長に調節した恒温室内で評価した.a「かまくら」の日持ち日数を 100 とした相対値.抗菌剤:kathon CG 0.5 mL・L-1,GLA:1%グルコース + kathon CG 0.5 mL・L-1 + 硫酸アルミニウム 50 mg・L-1 .BA:市販のミラクルミストff(クリザール・ジャパン(株))を0 日目に花全体に散布.
日持ち日数は,気温23℃(GLA・28℃区は気温28℃),相対湿度70%,蛍光灯で12 間日長に調節した恒温室内で評価した.a「かまくら」の日持ち日数を 100 とした相対値.抗菌剤:kathon CG 0.5 mL・L-1, GLA: 1% グルコース + kathon CG 0.5 mL・L-1 + 硫酸アルミニウム 50 mg・L-1 .BA:市販のミラクルミストff(クリザール・ジャパン(株))を0日目に花全体に散布.
GLA 液に切り花を生けて,23℃,70% RH,12 時間日長条件の恒温室内で評価.(実験期間:2024 年1 月9 日~ 23 日)
2)「エターニティサンセット」
3年間にわたり様々な条件で日持ち性評価を行ったが,概して日持ちに季節変動,年次変動は比較的少なく,安定して優れていた.
2020年の栽培時期,栽培法の異なる2区(夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培)での日持ち性再調査において,「エターニティサンセット」の日持ち日数は,蒸留水区で8.0~8.4日(「かまくら」の1.5~1.7倍),GLA処理区で9.8~11.2日(「かまくら」の1.6~1.9倍),GLA+BA処理区で11.4~12.4日(「かまくら」の1.1~1.6倍)と優れていた.さらに,夏季高温期(7~8月)採花の抗菌剤に生けた日持ち日数は10.0日(「かまくら」の2.5倍),高温下(GLA・28°C)の日持ち日数は7.4日(「かまくら」の1.3倍)と,高温下における日持ち性も比較的優れていた(データ略).
鮮やかな明赤色の早生系統であり(図5),夏季高温期(7~8月)採花や高温下(GLA・28°C) を含めて日持ち性に優れる,茎が硬く,栽培中,日持ち調査中の茎曲がりが発生しないなど,日持ち性以外の形質にも優れていたことから,第3世代系統916-34を品種候補の一つとして,2021~2022年度の2年間,系統適応性検定試験に供試した.
2021年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる4回の日持ち調査(夏期高温期(7~8 月),夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した.「エターニティサンセット」は,蒸留水区では9.5~12.1日(「かまくら」の1.7~1.9倍),抗菌剤区で9.6~11.4日(「かまくら」の1.7~2.8倍),GLA区では10.2~10.7日(「かまくら」の1.6~1.7倍),GLA+BA区では11.0~11.5日(「かまくら」の1.3~1.6倍)と安定した日持ち性を示した(表2 ).夏期高温期(7~8月)採花の抗菌剤区では11.3日(「かまくら」の2.8倍),GLA・28°C区では9.1~9.5日(「かまくら」の1.6~1.8倍)であり,いずれも対照品種を大きく上回った(表2).
2022年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる3回の日持ち調査(夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した.「エターニティサンセット」は,蒸留水区では8.5~11.2日(「かまくら」の1.5~2.2倍),抗菌剤区では9.6~11.2日(「かまくら」の1.9~2.0倍),GLA区では9.8~11.9日(「かまくら」の1.4~1.9倍),GLA+BA区では12.0~15.4日(「かまくら」の1.5~2.1倍),GLA・28°C区では8.7~10.1日(「かまくら」の1.6~1.9倍)と安定した日持ち性を示した(表3).
撮影日:2023 年1 月2 日,撮影場所:農研機構野花研(茨城県つくば市).
3.一般的特性
1)「エターニティムーン」
夏秋期・露地作型では,夏季の高温の影響により摘心後の萌芽が遅れて,開花が遅延した.2021年夏秋期・露地では9月28日に開花し,早生品種「かまくら」より14日開花が遅かった.2022年夏秋期・露地では10月2日に開花し,「かまくら」より18日開花が遅かった(表4).一方で,2021年冬春期・施設では12月11日に開花し,「かまくら」よりも9日開花が早く,2022年冬春期・施設では12月22日に開花し,「かまくら」よりも3日早かった(表4).生産性については,夏秋期・露地では高温による摘心後の萌芽遅延が影響し,2021年は2番花収穫前に気温が大きく低下したため収穫本数が少なかったが,2022年は対照品種「ミッチャン」と同等の収穫本数であり,問題ないレベルであった.冬春期・施設については,2022~23年は天窓を常時閉としたため,高温の影響で2021~22年に比べ,全般に収穫本数が減少したが,2021~22年,2022~23年とも5/31までの総収穫本数で「かまくら」を上回った.露心程度は,自然日長の夏秋期・露地では,5~20% であったが対照品種と比較すると問題ないレベルであった.14.5時間電照の冬春期・施設では0% であり,2年間の調査を通じて露心は発生しなかった.最大花径は,夏秋期では9.2~10.5 cm,冬春期では12.1~12.9 cmと,中輪の花径であった.挿し芽発根率は,2021年では44.0% と対照品種と同等であり,2022年では78.2% と対照品種「ミッチャン」,「かまくら」を大きく上回り,「黒蝶」と同等であり,苗生産の点でも問題はない.花色はRHSカラーチャートによると夏秋期が157D(Greenish White),冬春期がNN155A(Yellowish White)であり,クリーム白色にアントシアニンなどの色混じりは全く発生せず,花色の季節差異も僅かであった(表4).採花後数日でほぼ純白となる(図6 ).
a収穫開始から11/18(2021年)または11/21(2022年)までの株当たり全収穫本数.bʻ黒蝶’の茎径,切り花調製重は茎長40 cm で測定. その他の品種・系統は茎長60 cmで測定.c収穫開始から5/31までの株当たり全収穫本数.d露心花率:採花3日後までに露心した花の発生率. e最大花径:GLA 処理における採花3日後の花径.f5回の試験の平均値.72 穴プラグトレーにダリア挿し芽専用用土を充填し, 発根剤(オキシベロン液剤2 倍希釈液)に挿し穂基部を10 s浸漬.ミスト下で,室温,赤色LED で暗期中断4 h で管理. 評価:◎最有望,○有望,△要検討,×不適.
(23℃,相対湿度70%,12 時間日長,撮影日: 2023 年3 月13 日~ 27 日)
2)「エターニティサンセット」
夏秋期には夏季の高温の影響により開花始期がやや遅かった.2021年夏秋期・露地では9月21日に開花し,早生品種「かまくら」より7日開花が遅かった.2022年夏秋期・露地では9月20日に開花し,「かまくら」より6日開花が遅かった.一方で,2021年冬春期・施設では11月23日に開花し,「かまくら」よりも27日早く,2022年冬春期・施設では12月13日に開花し,「かまくら」よりも12日早かった.生産性については,夏秋期・露地では,2021年は収穫本数が12.2本/株と豊産性の「かまくら」に比較すると少なかったが,「黒蝶」と同等で,「ミッチャン」より多かった.2022年は収穫本数が16.4本/株と「黒蝶」,「かまくら」より少なかったが,「ミッチャン」よりも多く,問題ないレベルであった.冬春期・施設については,2021~22年,2022~23年とも5/31までの総収穫本数で「かまくら」を上回った.露心程度は,自然日長の夏秋期・露地では,2021年には20% であったが,対照品種「かまくら」の40%,「ミッチャン」の80% と比較すると問題ないレベルであり,2022年には0% であった.14.5時間電照の冬春期・施設の露心程度は,2021~22年には10% であったが,2022~23年には0% であった.最大花径は,夏秋期では11.3~12.2 cm,冬春期では11.9~12.5 cmと中輪の花径であり,花径の季節変動が少なかった.挿し芽発根率は,2021年には68.8%,2022年には78.8% といずれも対照3品種の発根率を上回っており,苗生産面での問題はない.開花時の花色はRHSカラーチャートによると夏秋期が53B(Strong Red)または45B(Vivid Red),冬春期が42A(Vivid Reddish Orange)または43A(Vivid Reddish Orange)であった(表4 ).冬春期では日持ち調査中に色が変化し,日持ち調査期間後半になると,花弁色が淡色化してアプリコット色へ徐々に変化する特徴がある(図7 ).
(23℃,相対湿度70%,12 時間日長,撮影日: 2023 年2 月24 日~ 3 月10 日)
4.「エターニティムーン」および「エターニティサンセット」のエチレン感受性
ダリア切り花の暑い時期の出荷では,輸送中に落弁することがあり,出荷ロスにつながるため(山形 2022),日持ち性に加えて低落弁性を考慮して品種育成を行うことが望ましい.前報の研究で,「エターニティシャイン」は落弁を促進する作用を持つ植物ホルモンのエチレンに対する感受性が低く,エチレン処理による日持ち日数の有意な低下がみられなかった(小野崎ら 2024).さらに,「エターニティシャイン」以外の4品種では,チャンバー内無処理区およびエチレン処理区で落弁が認められたが,「エターニティシャイン」では落弁が生じなかった.
2024年1月下旬に日本最大の花き卸売会社である(株)大田花きで行った聞き取り調査によると,ダリアの夏秋期における長距離輸送では,市場到着時における花散りのクレームが一定量あり,夏秋期産地を中心に輸送中の落弁の生じない,エチレン低感受性品種が望まれている(小野崎 2024).そこで,切り花輸送時に落弁の生じない品種・系統を選抜するため,エチレン処理用アクリルチャンバー内で切り花にエチレン連続処理を行い,落弁の有無,エチレン処理後の日持ち日数を調査した.
2021年1~5月に12品種(表5 )の切り花を供試した.外花弁が水平状態に達した開花ステージで切り花を収穫し,すべての葉を除去した茎長20 cmの切り花を抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)入りのコニカルビーカーに生けた.エチレン処理は70 Lのアクリルチャンバーを用い,10 µL・L-1の濃度となるようにエチレンガスまたは無処理区として空気を注入し,24時間毎にチャンバー内のガスを入れ替え,再びエチレンガスを再導入することにより,10 µL・L-1のエチレン連続処理を行った.切り花を入れたチャンバーは,23°C, 12時間日長下におき,エチレン処理後,花序全体で10枚以上の落弁または1/3以上の花弁に萎凋が生じるまでの日持ち日数と形態を調査した.
チャンバー内無処理区とエチレン処理区における日持ち日数を比較すると,「ミッチャン」,「エターニティルージュ」,「アメジストオーブ」の3品種は,エチレン処理による有意な日持ち日数の低下はみられなかった.一方,「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」では,エチレン処理区ではチャンバー内無処理区に比較して日持ち日数が有意に低下し,日持ち終了時に全ての切り花で落弁が生じた.以上のように,「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」のエチレン感受性は高く,10 µL・L-1のエチレン処理により,3.2~3.6日で落弁した(表5 ).
1.試験概要
系統適応性検定試験を,2021~2022年に秋田農試(以後「秋田」と略す),奈良農研セ(以後「奈良」と略す),高知農技セ(以後「高知」と略す),宮崎総農試(以後「宮崎」と略す)の4場所で実施した.「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」と,対照品種として「ミッチャン」,「黒蝶」,「かまくら」を供試した.各検定場所における試験設計および耕種概要を表6 に示した.
2.日持ち性
2021年度では,秋田の日持ち日数は,対照品種「かまくら」の,蒸留水区で6.7~7.0日,GLA区で7.7~7.8日,GLA+BA区で8.5~10.8日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で11.3~12.3日,GLA区で15.2~15.4日,GLA+BA区で20.4日,「エターニティサンセット」では蒸留水区で13.5日,GLA区で14.0~15.8日,GLA+BA区で16.0~21.2日であった(表7 ).秋田では,28°Cでの日持ち試験を行ったが,GLA・28°Cでの日持ち日数は,「かまくら」の6.8~7.3日に対し,「エターニティムーン」では9.8~11.0日,「エターニティサンセット」では11.6日と優れていた.奈良の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で5.0日,GLA区で6.8日,GLA+BA区で8.0日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で8.3日,GLA区で9.8日,GLA+BA区で14.5日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で11.3日,GLA区で13.8日,GLA+BA区で15.0日であった(表7 ).高知の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で5.1日,GLA区で6.4日,GLA+BA区で7.7日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で10.0日,GLA区で12.8日,GLA+BA区で16.5日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で11.6日,GLA区で12.2日,GLA+BA区で12.8日であった(表7 ).宮崎の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で6.1日,GLA区で4.9日,GLA+BA区で8.0日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で9.4日,GLA区で12.0日,GLA+BA区で14.9日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で11.6日,GLA区で13.2日,GLA+BA区で13.9日と顕著に優れていた(表7 ).
2022年度は,秋田の夏秋期栽培では,対照品種「かまくら」の,蒸留水区で6.0~7.2日,GLA区で6.7~7.7日,GLA+BA区で8.6~9.0日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で10.0~11.5日,GLA区で13.4~14.7日,GLA+BA区で16.3~16.4日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で12.7~14.2日,GLA区で13.3~15.0日,GLA+BA区で15.3~18.5日であった(表8 ).秋田では,GLA・28°C区での日持ち試験を行ったが,「かまくら」の4.7~5.4日に対し,「エターニティムーン」では9.1~10.3日,「エターニティサンセット」では10.2~10.9日であった.奈良の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で4.8日,GLA区で6.3日,GLA+BA区で8.8日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で8.0日,GLA区で10.3日,GLA+BA区で16.0日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で10.0日,GLA区で11.8日,GLA+BA区で16.5日であった(表8 ).高知の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で5.6日,GLA区で7.4日,GLA+BA区で7.8日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で9.7日,GLA区で10.2日,GLA+BA区で13.2日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で11.4日,GLA区で12.0日,GLA+BA区で12.9日であった(表8 ).宮崎の冬春期施設栽培では,「かまくら」の,蒸留水区で5.0日,GLA区で9.0日,GLA+BA区で9.0日に対し,「エターニティムーン」では,蒸留水区で7.0日,GLA区で12.0日,GLA+BA区で16.5日,「エターニティサンセット」では,蒸留水区で8.8日,GLA区で12.2日,GLA+BA区で18.5日と顕著に優れていた(表8 ).
a茎径:茎長60 cmに調整後の切り花基部で測定.b切り花調整重:茎長60 cmに切り,最上部の葉を残して脱葉後の切り花重. c露心花率:採花3日後までに露心した花の発生率.d最大花径:GLA 処理における採花3日後の花径. GLA:1% グルコース + kathon CG 0.5 mL・L−1 + 硫酸アルミニウム 50 mg・L−1. BA:市販のミラクルミストff(クリザール・ジャパン(株))を0 日目に花全体に散布. 日持ち日数:花全体の1/3以上の花弁に萎凋や褐変などが認められた日までの日数(調査基準は参画機関で統一). 評価:◎最有望,○有望,△要検討,×不適. 秋田,奈良の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度60 ± 10%,12 時間日長の恒温室内で調査した.秋田ではGLA・28℃区を設けた. 高知の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度60%,12 時間日長の人工気象器内で調査した. 宮崎の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度65%,12 時間日長の恒温室内で調査した.
a茎径:茎長60 cmに調整後の切り花基部で測定.b切り花調整重:茎長60 cmに切り,最上部の葉を残して脱葉後の切り花重. c露心花率:採花3日後までに露心した花の発生率.d最大花径:GLA処理における採花3日後の花径.e開花後の花色. GLA:1% グルコース + kathon CG 0.5 mL・L−1 + 硫酸アルミニウム 50 mg・L−1. BA:市販のミラクルミストff(クリザール・ジャパン(株))を0日目に花全体に散布. 日持ち日数:花全体の1/3以上の花弁に萎凋や褐変などが認められた日までの日数(調査基準は参画機関で統一). 評価:◎最有望,○有望,△要検討,×不適. 秋田,奈良の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度60 ± 10%,12 時間日長の恒温室内で調査した.秋田ではGLA・28℃区を設けた. 高知の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度60%,12 時間日長の人工気象器内で調査した. 宮崎の日持ち日数は,気温23℃,相対湿度65%,12 時間日長の恒温室内で調査した.
3.切り花特性
2021年度の「エターニティムーン」については,1番花収穫本数は,冬春期の宮崎では対照品種よりやや少なかったが,秋田,奈良では対照品種と同等であり,高知では対照品種を上回った.開花始期は,秋田では早生品種「かまくら」より3~6日遅かったが,晩生品種「黒蝶」より1~4日早かった.奈良では,「かまくら」よりも3日早く早生であった.高知,宮崎では,「かまくら」よりそれぞれ8日,9日遅く,「黒蝶」よりそれぞれ11日,27日早かった.露心程度は,宮崎で2.3% であったが,秋田,奈良,高知では0% であり,露心の発生がなかった.挿し芽発根率は,高知では55.0% と「かまくら」と同等であり,秋田,奈良,宮崎では,それぞれ100%,100%,87.5% と高い発根率を示した(表7 ).
2022年度の「エターニティムーン」については,一番花収穫本数は宮崎では対照品種よりもやや低かったが,秋田,奈良,高知では,対照品種とほぼ同等であり,生産性について問題なかった.開花始期は,秋田では対照品種とほぼ同等であり,奈良では,「かまくら」と同じで早生であった.高知,宮崎では,「かまくら」より6日遅かった.露心程度は,秋田の露地で9.3%,高知で2.7% であったが,秋田の施設,奈良,宮崎では0% であり,露心の発生がなかった.挿し芽発根率は,75.0~100% と高く,苗生産上の問題はない(表8 ).
2021年度の「エターニティサンセット」については,1番花収穫本数は,秋田の夏秋期・施設では6.0本/株と対照品種より少なかったが,それ以外の秋田の夏秋期・露地,宮崎では対照品種と同等であり,奈良,高知では対照品種を上回った.開花始期は,秋田,奈良では早生品種「かまくら」と同等であり,高知では,「かまくら」よりも8日遅かった.宮崎では,晩生品種の「黒蝶」と同等であった.露心程度は,高知では20.8% とやや高かったが,秋田,奈良,宮崎ではほぼ0% であり,露心の発生がなかった.挿し芽発根率は,高知では65.0% と対照品種と同等であり,秋田,奈良,宮崎では,それぞれ93.3~100%,95.4%,87.5% と高い発根率を示した(表7 ).
2022年度の「エターニティサンセット」については,1番花収穫本数は,秋田の夏秋期・露地,高知では対照品種よりもやや低かったが,秋田の夏秋期・施設,奈良,宮崎では,対照品種とほぼ同等であり,生産性について問題ないレベルと考えられる.開花始期は,秋田の夏秋期・施設では対照3品種よりも早く,秋田の夏秋期・露地では,対照品種とほぼ同等であり,奈良,高知,宮崎では,「かまくら」よりそれぞれ6日,5日,18日遅かった.露心程度は,秋田の夏秋期・露地では0% であったが,夏秋期・施設では電照区で8.5%,無電照区で48.7% であった.また,高知で8.2% であったが,奈良,宮崎では0% と露心の発生がなかった.挿し芽発根率は,70.0~100% と高く,苗生産上の問題はない(表8 ).
1.「エターニティムーン」
花型はフォーマルデコラ咲き(図3 )で,開花直後はクリーム白色であるが,数日経過するとほぼ純白となる(図6 ).花色は季節や場所を問わず安定しており,白色花色に混じり等も観察されない.2年間の評価を通じて不適(×)の評価は1つもなく,最有望,有望がほとんどであった.夏秋期作型で,冷涼な秋田では,露地・施設とも開花始期は「かまくら」とほぼ同等の早生で,採花本数,切り花長,調整重ともに問題なかった.露地でも花弁の傷みが少なく,茎は硬く曲がらず扱いやすいとの評価であった.一方,育成地の茨城県つくば市(以下,「つくば」)の夏秋期作型では,2回目摘心(7/15または7/14)以降の夏季の高温の影響により萌芽が抑制されて開花が遅延した.耐暑性はあまり強くないと思われるので,その点は注意が必要である.冬春期栽培では,奈良では開花期や切り花のバラツキが少なく,茎は硬く曲がりが見られず,高知では収量性,切り花品質に問題なく,宮崎では開花始期が供試系統中で最も早く,花首は真っ直ぐに伸長して硬く,切り花品質に優れた.挿し芽発根率は,2年間を通じて対照品種と同等で,問題ないレベルであり,苗生産上の問題はない.日持ち性については,2年間の評価で安定した良日持ち性を示した.BA処理の効果が非常に高い特徴がある.GLA+BA区について,秋田では16.3~20.4日,奈良では14.5~16.0日,高知では13.2~16.5日,宮崎で14.9~16.5日と極めて日持ち性に優れていた.
2.「エターニティサンセット」
花型はフォーマルデコラ咲き(図5 )で,花色は「エターニティルージュ」が深赤色であるのに対し,鮮やかな明赤色である.つくばの冬春期栽培では2年とも供試品種中で最も開花が早く,早生性を示した.2021年には,茎径が小さかったが茎は硬く,栽培中,日持ち調査中の茎曲がりは発生しなかった.2022年も栽培特性に大きな問題はなかった.2年間の挿し芽発根率についても,全場所で高い発根率で,苗生産上の問題はない.特に,2022年の宮崎での高温条件での挿し芽試験で2回とも100% の発根率を示し,高温下での発根適性に優れる.
秋田では,2021年施設で大雨による浸水とその後の異常高温により欠株率が83.3% と高かったが,2022年施設での欠株率は0% であり(データ略),問題なかった.花弁数が他の供試系統に比較して少ない傾向があり,高知では露心花率が2021年に20.8%,2022年に8.2% であったため,切り花品質と総合評価が△であった.奈良では,2年とも収穫本数,開花期,切り花長について問題は見られず,2021年は日持ち性と総合評価が最有望の評価であった.2021年,2022年の宮崎では,茎が真っ直ぐで硬く,曲がりが発生しにくく,切り花形質が優れた.2年とも切り花適性に不適(×)の評価はない.
蒸留水,GLA,GLA+BAのどの区でも日持ち性に優れる.舌状花の中央部から褐変が生じるため,日持ち終了時でも老化症状が目立たない.つくばでの評価では,2021年の夏季高温期(7~8月)採花の日持ち性や高温下(GLA・28°C)の日持ち性も優れていた(表2 ).この点は,「エターニティシャイン」と共通する特徴である.良日持ち性以外の本系統の特徴は,観賞期間中の花色変化である.日持ち調査期間後半になると内花弁が淡色化してグラデーションが生じたり,明赤色からアプリコット色へと花色が変化する(図7 ).
系統適応性検定試験の結果から,2品種は全国のダリア生産地で栽培可能と考えられる.ただし,「エターニティムーン」については,冬春期栽培では早生であるが,夏秋期露地の高温条件下では,摘心後の萌芽が遅れて,開花遅延した.夏期に高温となる地域の夏秋期露地作型への適応性については,本品種を本格導入する前に確認する必要がある.また,「エターニティサンセット」については,自然日長の夏秋期露地栽培では,短日条件になると露心が増加するため,電照の利用を奨励する.2品種とも挿し芽発根率は対照品種と同等であり,苗増殖の点での問題はない.
共通して良日持ち性を有し,シリーズ初の白色花色,観賞中に明赤色からアプリコット色へ花色が変化するなど,それぞれに異なる特徴を有している.品種名は,英語で「永遠」を意味する「エターニティ(eternity)」を冠したエターニティシリーズとして命名した.「エターニティムーン」(Eternity Moon)は月光のようなクリーム白色の花色であることから,「エターニティサンセット」(Eternity Sunset)は夕日に似た明赤色からアプリコット色へと夕暮れの空色の移ろいのように花色が変化する品種なので,それぞれ命名した.
本品種の育成については,小野崎は2014年4月~2023年2月まで,藤本は2020年5月~2023年2月まで,東は2016年4月~2017年3月に担当した.
新品種「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」について,育成地のつくばだけでなく,2021~2022年に秋田,奈良,高知,宮崎の栽培時期の異なる作型で栽培した切り花も同様の良日持ち性を示した(表7 ,8 )ことから,その優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.
「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」の日持ち性をエターニティシリーズ既存5品種と比較した.データ欠損処理区のない,2021年度冬春期の総平均値(表2 ),2022年度夏秋期および冬春期総平均値(表3 )で比較すると,「エターニティサンセット」は「エターニティシャイン」と並んでシリーズ中で最も優れた日持ち性を示した.「エターニティムーン」は「エターニティトーチ」,「エターニティルージュ」と同程度の日持ち性であった.一方,「エターニティロマンス」,「エターニティピーチ」の総平均値は,対照品種中で最も日持ちの良い「ミッチャン」を上回っているが,シリーズ中の他の5品種と比較すると,日持ち性が若干劣っていた(表2 ,表3).
2014年秋に日持ち性等の遺伝的な背景の異なった様々な育種素材22品種間の45交雑組み合わせの任意交雑を行い,その交雑後代から日持ち性による選抜と選抜系統間の交雑を繰り返し,日持ち性に関与する遺伝子頻度を高める循環選抜法に準じて,日持ち性に優れるダリア品種の開発を進めてきた.
これまでのダリア育種は,主に虫媒法(受粉を訪花昆虫に任せて種子を得る方法)の放任結実種子で行われてきた(小野崎 2018).日持ち性は量的形質であり,当代だけの選抜では日持ち性に関与する遺伝子の集積は困難であった.本報告で育成した「エターニティムーン」は日持ち性による選抜と選抜系統間の交雑を3世代に渡り繰り返した第4世代から選抜された品種,「エターニティサンセット」は日持ち性による選抜と選抜系統間の交雑を2世代に渡り繰り返した第3世代から選抜された品種であり,日持ち性に関与する遺伝子の集積を図ってきた.
これまでに育成したエターニティシリーズ5品種の研究結果から,「エターニティトーチ」,「エターニティロマンス」,「エターニティルージュ」,「エターニティピーチ」,「エターニティシャイン」の共通親は比較的日持ち性の良い品種である「ミッチャン」であることから,「ミッチャン」は日持ち性に関与する遺伝子を有しており,また,その良日持ち性は遺伝形質であることが示唆されている(小野崎,東 2022,小野崎ら 2024 ).
本研究における「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」の育種親を育成系譜図によりたどると(図1 ,2 ),これまでに育成したエターニティシリーズ5品種と同様に,「ミッチャン」が共通して育種材料に用いられていたため,本研究においても,「ミッチャン」由来の良日持ち性に関与する遺伝子が集積または重複した可能性が示唆された.
「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」の共通親には,「ミッチャン」以外に,「スーパーガール」,「パールライト」,「ポンポンショコラ」,「紅風車」がある(図1 ,2 ).2014,2015年に実施した育種材料の日持ち性調査結果では,「スーパーガール」,「パールライト」は日持ち性良,「ポンポンショコラ」,「紅風車」は日持ち性並に分類された(Onozaki and Azuma 2019).これらの品種が持つ日持ち性に関与する遺伝子座の対立遺伝子(アリル)の組み合わせが,「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」の良日持ち性の表現型に寄与している可能性も考えられる.
従来は葬儀用の花として白輪ギクが多く使用されてきたが,近年では,葬儀に使用する花が多様化している.ダリアは,バラ,トルコギキョウ,カーネーションとともに,葬儀の祭壇や供花によく使われる花に挙げられ(日本経済新聞,2023年6月6日),葬儀への使用量が増加している.また,近年の葬儀の簡素化にしたがい,故人を偲ぶ会の開催が増えているが,偲ぶ会は葬儀よりも華やかに盛大に開催する流れがあり,ダリアを含む洋花が使用される.白色花色のダリア品種は葬儀や偲ぶ会などを含めた慶弔のセレモニーで利用可能であることから,需要が大きく重要な商材である.(株)大田花きにおけるダリア切り花の色別入荷量でも,白色は15.8%と,桃色(22.6%),赤色(21.8%)に次いで重要な花色である(多田 2024).白色花色の代表的ダリア品種の「彩雪」,「かまくら」は,(株)大田花きの2023年の品種別入荷量でそれぞれシェア2位,4位を占めている(多田 2024)が,両品種の日持ち性は市販の品質保持剤(ブルボサス)を前処理および後処理に使用の条件でも7日程度であり(東 2019),良日持ち性を有する白色品種が求められている.エターニティシリーズ初の白色花色でかつ良日持ち性の「エターニティムーン」は,蒸留水で良日持ち性を示すだけでなく,GLAなどの糖を含む品質保持剤や,特にBA散布処理の効果が高いことから,今後の普及が期待される.欠点としては,夏秋期露地の高温条件下では,摘心後の萌芽が遅れて,開花が遅延する点であり,この点は注意が必要である.
ダリアの白色は劣性ホモ型で発現すると考えられており(斉藤 1969),ダリア白色品種と有色品種を交雑する場合,ダリア白色花の選抜は孫の世代以降で可能となる.2014年から開始した農研機構の日持ち性向上を育種目標としたダリア育種プログラムにおいて,育種材料の交雑親22品種中に2品種(「パールライト」,「かまくら」)の白色品種が含まれていた(小野崎,東 2022)が,品種間交雑後代の第1世代,その選抜系統間交雑後代の第2世代では,白色花色実生割合はそれぞれ0.64%,0.97% と,白色花色の出現頻度は極めて低かった(データ略).しかしながら,第3世代,第4世代では,それぞれ7.86%(229実生中18実生),9.01%(233実生中21実生)の白色実生が出現し(データ略),白色花色でかつ良日持ち性の第4世代系統909-4を「エターニティムーン」として品種化することができた.「エターニティムーン」の育種系譜をたどると,「エターニティムーン」の種子親系統810-8はラベンダー色,花粉親系統803-55は赤紫色の花色であるが,その交雑後代27実生中9実生(33.3%)で白色が出現した(データ略).したがって,「エターニティムーン」の両親系統とも劣性の白色遺伝子をヘテロで持っていることが推測された.
ダリアの園芸品種は,同質異質8倍体(2n = 8x = 64)であり(Gatt et al. 1998),ヘテロ性が高く,様々なアリルパターンを生み出す可能性がある.日持ち性や花色などの目的形質と関連する遺伝子座の同定,アリルの組み合わせを明らかにすることは,今後の課題である.
「エターニティサンセット」は,良日持ち性を示すだけでなく,観賞中に明赤色からアプリコットへ花色が変化する特徴がある(図7 ).ダリアにおける花色変化については,「熱唱」などの赤系品種で,夏秋期には濃赤色の花色が,冬春期には品種本来の濃赤色ではなくオレンジ色に変化することが報告されている(岡田ら 2020, 北村 2021).しかしながら,観賞期間中に花色が変化するダリア品種については,著者らの知る限りでは,報告がない.「熱唱」の濃赤色花弁ではオレンジ色花弁よりアントシアニン量が多くフラボン蓄積量が少ない等,色素組成に違いがあり,その季節的花色変化は,温度依存性のflavone synthase 1の転写後遺伝子サイレンシングにより制御されていることが報告されている(加瀬ら 2024).「エターニティサンセット」の観賞中における花色変化メカニズムについても,色素組成や遺伝子発現等の面から,今後,研究を進める予定である.
2020年に育成した「エターニティトーチ」,「エターニティロマンス」,「エターニティルージュ」の普及拡大が進んでいる(小野崎 2024).(株)大田花きの品種別入荷量データによると,2023年1~12月の全ダリア入荷量は約162.4万本であったが,品種別入荷量で「エターニティルージュ」が23 270本(品種別シェア13位),「エターニティロマンス」が20 375本(同17位)であり(多田 2024),本格普及1年目から全国への普及拡大が進んでいる.2023 年に追加された「エターニティピーチ」,「エターニティシャイン」についても2024年夏以降に商用苗販売が開始される予定であり,エターニティシリーズ全体のシェア拡大が期待される.本報で育成経過を報告した「エターニティムーン」,「エターニティサンセット」についても,2025年春以降に苗販売が開始される見込みで,2025年夏には一般生花店の店頭に並ぶ予定である.これまでに開発した良日持ち性ダリアエターニティシリーズ7品種の普及によって,切り花の日持ち性に劣るというダリア最大の欠点が解消されて,様々な花色を持つ良日持ち性ダリア切り花の安定供給につながり,ダリア切り花全体の消費拡大と市場規模拡大,消費者ニーズ向上が期待される.
本研究は,農林水産省委託プロジェクト研究「国産花きの国際競争力強化のための技術開発」(課題番号15653424;2015~2019年),農林水産省農産局「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進」(2021年,2022年)により実施した.本品種の系統適応性検定試験に当たり,秋田県農業試験場(秋田県秋田市),奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市),高知県農業技術センター(高知県南国市),宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市)の担当研究員各位の協力を得た.また,研究の遂行に当たり,農研機構野菜花き研究部門 非常勤職員の吉丸しづ香氏,本郷真弓氏,中村真菜美氏,本橋里江子氏,三橋治美氏および農研機構管理本部技術支援部つくば第6業務科藤本・大わし技術チーム野菜花き班の職員各位に多大なる協力を得た.ここに記してお礼申し上げる.
すべての著者は開示すべき利益相反は無い.