農研機構研究報告
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原著論文
畝立て同時二段局所施肥機によるキャベツの減肥栽培
岡 紀邦 佐野 智人千葉 大基深山 大介関 正裕
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2025 年 2025 巻 21 号 p. 9-

詳細
要旨

畝立て同時二段局所施肥機(野菜用高速局所施肥機)によるキャベツの減化学肥料栽培を試みた.高度化成肥料(14-14-14)を使用して,全面全層の標準量(N-P2O5-K2O各250 kg ha-1,基肥200 kg ha-1,追肥50 kg ha-1)と30%減(基肥140 kg ha-1,追肥35 kg ha-1),二段局所施肥の30%減(追肥なし)を設け,春まき夏どり作型,夏まき年内どり作型,各2作,計4作実施した.二段局所施肥では上層(深さ0~5 cm)に施肥全量の1/5,下層(深さ15cm付近)に4/5を条施肥した.また高度化成肥料を用いた二段局所施肥の50%減,下層に混合堆肥複合肥料を用いた30%減または50%減とした区も春まきと夏まきで1回ずつ試した.キャベツ品種は「おきなSP」を用い,茨城県つくば市(土壌の種類は淡色アロフェン質黒ボク土)で栽培した.収穫後,結球重,球径,球高を測定した.その結果,全面全層で施肥30%減とすると標準施肥に比較して結球重が有意に減少するのに対して,二段局所施肥では30%減でも全面全層の標準施肥と同等のキャベツ結球重を得ることができた.また50%減では春まきでは結球重が減少したが,夏まきではやや低下したものの有意差はなかった.

Summary

Banding fertilization supplies nutrients to plant more effectively than broadcast fertilization. However, when fertilizer is too close to the plants, the high concentration of salts affects them adversely. On the other hand, when it is too far from the plants, plant growth is delayed. Coated fertilizers have solved these problems. Many researchers have shown that band placement of slow-release coated fertilizers increases nitrogen use efficiency and cabbage (Brassica oleracea var. capitata) yields, making possible a reduced application of fertilizer. But coated fertilizers leave microplastics in the soils, which is a disadvantage. We should refrain from using coated fertilizers containing plastic. Therefore, we cultivated cabbage by using a newly developed double layer banding applicator and compound fertilizer. Using this machine, a small amount of NPK is fertilized in the upper layer and the rest in the lower layer, perhaps making possible a reduced application of fertilizer.

Four field experiments were conducted at the National Agriculture and Food Research Organization (NARO) farm in Tsukuba between 2021 and 2023, to examine the effects of double banding fertilization (upper and lower layers) and reduced application of fertilizers on spring sowing (2022 and 2023) and summer sowing (2021 and 2023) cabbage yields. A newly developed, combined high speed ridger and double banding fertilizer applicator was used (upper layer 0-5 cm depth and lower layer about 15 cm depth). The current recommendation (N-P2O5-K2O) for cabbage in Ibaraki prefecture indicates a 250-250-250 kg ha-1 split application (preplanting broadcast of 200 kg ha-1 and top dressing of 50 kg ha-1 on the row several weeks after planting). It was treated as a control. In the experiments we used a NPK compound fertilizer (14-14-14) and the cabbage variety ‘Okina SP’ (Takii & Co., Ltd.). The soil was classified as Allophanic andosols. The test treatments of fertilizer application reduced by 30% were: broadcast (four-fifths of total fertilizer before planting and one-fifth after planting); and double banding (one-fifth of total fertilizer in the upper layer and four-fifths in the lower layer). As additional treatments, a 50% reduction of double banding application using 14-14-14 or a manure containing chemical fertilizer ‘Ecolet’ (Asahi Agria Co., Ltd.) in the lower layer were included in the 2023 spring and summer sowings. All treatments had three replicated plots. Cabbage seedlings grown for five weeks were transplanted. Spacing between rows was 0.6 m and spacing within rows was 0.4 m. At harvest, 15 or 16 plants per plot were sampled. Cabbage head weight, height, and diameters of the long and short axes were measured. Multiple comparisons between treatments were made by Tukey-Kramer test.

The results showed that when the amount of fertilizer applied was reduced by 30%, double banding (regardless of lower fertilizer type) produced equal cabbage yields in spring and summer sowing as that of the control treatment in four experiments, although broadcast fertilization decreased yields in three experiments. When fertilizer application was reduced by 50%, the spring sowing yield decreased significantly but the summer sowing yield did not decrease, regardless of the lower fertilizer type. In summary, the double layer banding application of NPK compound fertilizer improved the efficiency of fertilizer use and made it possible to reduce the amount applied by 30% and to omit a split application in cabbage cultivation.

緒言

施肥法については,適切な収量が得られ,環境負荷が少なく,より経済的(高い施肥効率),かつ操作が容易(簡便)なものが望ましい.そのため,肥料種類,施肥量,施肥回数,施肥位置,施肥機械をどうするかを検討することになるが,これらの要素は互いに影響するので調整して最適な方法を見いださなければならない.本研究では,施肥位置を比較検討して,キャベツ栽培で施肥量を削減する技術について試験を行った.

キャベツはおよそ34 300 ha(2021年)で作付けされており(農畜産業振興機構 2023),全国でリレー栽培することで周年供給されている.キャベツの施肥は定植前に全面全層施肥を行い,定植後に追肥を数回行うのが一般的である.比較的多肥を要する作物であることから濃度障害が生じにくい全面全層施肥が普及している(大川,林 1998).しかし全面全層施肥では,作物根が届かないところにも施肥されるため作物に利用されずに環境中に流出する肥料の割合が高くなることが指摘されており(小川,酒井 1986高橋 2001),より施肥効率が高いとされる局所施肥や,肥料成分の溶出がコントロールされた肥効調節型肥料を利用した減肥技術がこれまで多く開発されてきた(小野寺ら 2000大川,林 1998森山ら 20042005進藤ら 2001).

施肥位置の問題は古くから議論されているが(藤沼,鈴木 1964),葉菜類など生育期間の短い作物では通常の全面全層施肥に比べて局所施肥による施肥効率向上の効果が大きいとされている(Cooke et al. 1956).局所施肥には様々な方法があるが,機械化で主に利用されているのは畝内条施肥と畝内部分施肥である(農研機構 2024).畝内条施肥は培土器で畝を成形しながら肥料をすじ状に流し落とす方式(大川,林 1998),畝内部分施肥は畝を作る部分に肥料を落としながらロータリーで混和し続けて培土器で畝を立てる方式である(屋代 2008屋代ら 2009).

条施肥では作物根が多くの肥料に素早く接触できることに加えて,アンモニア態窒素が高濃度になり硝化作用が抑制されること(Broadbent et al. 1957, Wetselaar et al. 1972, Harada and Kai 1968)から窒素肥効が持続することが古くから指摘されている(日下ら 1970栗原 1985).また,リン酸肥料は土壌に接する部分が減少するのでリン酸が固定されにくくなり肥効がより持続し,それによってリン酸についても条施肥では全面全層施肥よりも施肥効率が上がることが知られている(Randall and Hoeft 1988, Sanchez et al. 1990).

しかし,条施肥で速効性肥料を用いる場合,肥料が集中する箇所では肥料濃度が高まるので作物に近すぎると濃度障害の生じる恐れがある.その反面,施肥位置が作物から遠すぎると初期生育の遅延の恐れがある(大川,林 1998諸岡 1985).この問題に対しては,初期生育確保のために表面施肥を組み合わせることや(三國ら 2023森山ら 20042005),速効性肥料と肥効調節型肥料を混ぜて条施肥すること(大川,林 1998森山ら 20042005進藤ら 2001)などの対応が検討されてきた.追肥を省略できるメリットもあるため,肥効調節型肥料の利用研究は多い.

一方,畝内部分施肥では,畝内に肥料が混和されるため土壌中の肥料濃度は全面全層施肥と条施肥の中間である.慣行施肥(全面全層の基肥と追肥)に比較して30~50%の施肥削減が可能としている(屋代 2008屋代ら 2009).しかし,畝内施肥機は畝内の土壌に肥料をロータリー成形機によって畝立てしながら混和するので作業速度は2 km h-1以下である(屋代 2008).

このような状況の中,最近,新たに畝立て同時二段局所施肥機(野菜用高速局所施肥機)が開発された(千葉 2018三國ら 2023農研機構 2024).本機は畝立てと同時に二段局所施肥を行う施肥機である.畝の上層(深さ0~5 cm)に初期生育を確保するために少量の肥料を条施肥し,下層(深さ15 cm付近)に残りの肥料を条施肥することで従来の条施肥の不安定さを解決している(図1).したがって,高価な肥効調節型肥料でなく,速効性肥料を使用しても濃度障害の恐れがなく,また条施肥の特徴である肥効の持続性も期待できるので追肥も省略可能と考えられる.その上,ロータリーを用いないで培土器で畝立てを行うことから畝内部分施肥機よりも高速(最高速度 5 km h-1)で作業を行える(農研機構 2024).しかしながら,開発から間もないため本機を用いた減肥栽培の実証事例は限られている.以上のことから,本研究では二段局所施肥機と速効性肥料を利用して,キャベツ栽培で施肥削減かつ追肥省略が可能であるかを検討し,それによって本機の有効性と二段施肥法の有用性を実証することを目的とした.具体的には,高度化成肥料を用いて全面全層施肥と追肥を行う慣行施肥法を対照とし,処理区には施肥量を30%減として全面全層と追肥を行う区、施肥量を30%減または50%減として二段局所施肥を行う区を設けた.さらに二段施肥の下層に堆肥入り肥料を用いる場合も検討した.

図1. 畝断面図(全面全層と二段局所施肥の比較)

方法

1.栽培

茨城県つくば市にある農研機構の圃場でキャベツ(Brassica oleracea var. capitata)の栽培試験を春まき夏どり作型で2回,夏まき年内どり作型で2回,計4回行った.各作の前作,播種,定植,追肥,収穫を行った年月日,及び定植から収穫までの日数は表1の通りである.また堆肥の施用は行わなかった.試験圃場の土壌は,淡色アロフェン質黒ボク土に分類され作土層の土性は軽埴土であった.土壌の化学性を把握するため栽培前に作土層から対角線採土法(安西 1997)により圃場の5カ所で土壌を採取して混合したのち,十勝農業共同組合連合会農産化学研究所に分析を依頼した(表2).キャベツ品種は「おきなSP」(タキイ種苗株式会社)を使用した.育苗は128穴セルトレイを用い,野菜養土M-250(ヤンマー株式会社)を詰めて播種した後,バーミキュライトを覆土した.ハウス内で4~5週間育苗した後,野菜移植機(井関農機PVH100)を使用して畝間60 cm株間40 cmの間隔で定植した.栽培中は適宜,薬剤散布を行った.

表1.キャベツ栽培の概要


a) 追肥は全面全層区のみで実施した,b) 定植から収穫までの日数.

 

表2.供試土壌の化学性


a) トルオーグ法,b) 105℃ 1h 抽出後にケルダール分解,c) 0.1 mol L-1 塩酸抽出法,d) ヒドロキノン含有1 mol L-1 酢酸アンモニウム液抽出法,e) アゾメチンH法.

2.施肥

畝立て同時二段局所施肥にはグランビスタ KUT-360-GP(株式会社タイショー)を使用した.二段局所施肥区の施肥は定植前日に畝立てと同時に行った.全面全層区では畝立て前に肥料を散布してロータリー耕起後に二段局所施肥機を利用し,肥料散布を停止して畝立てのみを行った.肥料は高度化成肥料オール14(窒素14%,リン酸14%,カリ14%,日東エフシー株式会社,窒素はすべてアンモニア態窒素)を使用した.全面全層施肥で,基肥窒素 200 kg ha-1,追肥窒素 50 kg ha-1を施用する区を対照(全層標準)とし,全面全層施肥の30%減区では基肥窒素140 kg ha-1,追肥窒素 35 kg ha-1とした(全層30%減).二段局所施肥は全量基肥とし30%減肥区の上層は窒素 35 kg ha-1,下層は窒素 140 kg ha-1とした(二段30%減).また2023年の2作では二段局所施肥の50%減区も設け,上層窒素 25 kg ha-1,下層窒素 100 kg ha-1とした(二段50%減).さらに下層肥料をオール14から混合堆肥複合肥料エコレット808(窒素8%,リン酸10%,カリ8%,朝日アグリア株式会社)に置き換えて30%減(二段30%減下層堆肥入り)および50%減(二段50%減下層堆肥入り)とした区も設けた(上層はオール14を使用).試験区は1.8×10 mで3畝からなり,各処理とも3反復を設けた.処理区の概要を表3に示す.

表3.処理区の概要


a) 高度化成:オール14 (14-14-14),b) 混合堆肥複合肥料:エコレット808 (8-10-8),c) ○:処理区有り,-:処理区なし.

3.収量調査

各区とも3畝の中央畝から16株(2021年夏まきでは15株)を刈り取って,結球重,球径,球高を測定した.このとき虫害によって正常な結球が得られなかった株,定植後の活着が不良で生育が明らかに遅れた株は調査から除外した.球径は2方向から測定して平均直径を求めた.球体積は2つの直径と球高から楕円体として計算し,結球緊度は結球重を球体積で除して求めた.処理間の多重比較にはJMP 13.2.1(SAS Institute inc.)を用いてTukey-KramerのHSD検定を行った.

4.気象データ

栽培試験期間中の気象データは,農研機構農業環境研究部門総合気象観測データを使用した.平年値のデータは,気象庁のホームページ(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php,2023年12月5日参照)から入手した.

結果

1.供試圃場の土壌化学性

減肥可能性は圃場の土壌化学性の影響を受けることから,試験ごとに利用する圃場の土壌化学性を依頼分析によって入手した(表2).分析項目のうちpH (H2O)は6.5~6.9,交換性カリは378~929 mg kg-1,交換性苦土は583~844 mg kg-1で「やや高い」または「高い」と診断された.反対に,有効態リン酸は12~54 mg kg-1,可給態窒素の指標である熱水抽出性窒素は32.3~38.2 mg kg-1,熱水可溶性ホウ素は0.10~0.24 mg kg-1 であり,「やや低い」または「低い」と診断された.可溶性亜鉛は2023年の春まきと夏まきの圃場でやや低く,塩基飽和度は2023年の春まきの圃場でやや低かった.その他の項目は適正範囲にあった.

2.栽培試験期間の気象

栽培期間中の旬ごとの平均気温と降水量を平年値とともに図2に示した.平年値からの外れに着目すると,2022年6月下旬から7月上旬の気温が高く降水量がほとんどなかったこと,2023年6月上旬に300 mmを超える降水量があったこと,2023年8月から9月の気温が高かったことなどが認められる.特に2023年の夏まきでは,定植後に高温の日が続いたため苗の活着が不良となる株,および虫害により結球できなかった株が合わせて2割を超えたが調査予定株数は確保できた.

図2. 栽培試験期間中の気温と降水量

3.キャベツの生育と収量

いずれの栽培試験においても定植後の活着不良と虫害の影響はあったものの,それ以外は特段キャベツの生育に異常は認められなかった.各試験の調査結果を表4~7にまとめた.

1)2021年夏まき年内どり栽培(表4

対照の全層標準のキャベツ結球重平均値は1.70 kg,全層30%減は1.53 kgで有意に低下した.これに対して二段30%減は1.73 kgであり全層標準と有意差はなかった.直径,球高,結球緊度をみても二段30%減では全層標準とほぼ同等のキャベツ結球が得られた.

表4.2021 年夏まき年内どりキャベツ栽培試験


同一文字を付した処理間には有意差(5%水準)なし(Tukey-Kramer の HSD 検定).

2)2022年春まき夏どり栽培(表5

対照の全層標準のキャベツ結球重平均値は2.22 kg,全層30%減は1.93 kgで有意に低下した.これに対して二段30%減は2.35 kgであり全層標準をやや上回ったが有意差はなかった.直径,球高をみても二段30%減では全層標準とほぼ同等のキャベツ結球が得られた.結球緊度は処理間に差があり二段30%減で最も高まった.

表5.2022 年春まき夏どりキャベツ栽培試験


同一文字を付した処理間には有意差(5%水準)なし(Tukey-Kramer の HSD 検定).

3)2023年春まき夏どり栽培(表6

対照の全層標準のキャベツ結球重平均値は1.93 kg,全層30%減は1.63 kgで有意に低下した.これに対して二段30%減は1.88 kgであり対照区よりやや低下していたが有意差はなかった.直径,球高,結球緊度をみても全層標準と二段30%減の間に有意な差はなく,ほぼ同等のキャベツ結球が得られた.しかし二段50%減の結球重平均値は1.69 kgで有意に低下していた.また,下層肥料を高度化成から混合堆肥複合肥料に変更した二段30%減下層堆肥入りは1.88 kgでやや低下したが対照区と有意な差はなく,二段50%減下層堆肥入りは1.72 kgで有意に低下した.一方,結球緊度は二段50%減と二段50%減下層堆肥入りで全層標準より有意に高まった.

表6.2023 年春まき夏どりキャベツ栽培試験


同一文字を付した処理間には有意差(5%水準)なし(Tukey-Kramer の HSD 検定).

4)2023年夏まき年内どり栽培(表7

二段50%減の3反復のうちの1反復で肥料が落下していなかったため,この試験区の値は平均値の計算には使用しなかった.対照の全層標準のキャベツ結球重平均値は1.89 kg,全層30%減は1.71 kg,二段30%減は1.92 kgであった.全層標準と比較すると全層30%減も二段30%減も有意差は認められないが,全層30%減と二段30%減には有意差があり,全層30%減で結球重が低下傾向であるのに対して,二段30%減では低下傾向は認められなかった.直径,球高,結球緊度をみても二段30%減は全層標準とほぼ同等のキャベツ結球であった.一方,二段50%減は1.82 kgとやや低下していたが有意差はなかった.下層肥料を高度化成から混合堆肥複合肥料に変更した二段30%減下層堆肥入りの結球重平均値は1.95 kgで全層標準よりやや増加したが有意な差はなかった.二段50%減下層堆肥入りは1.86 kgでやや低下したが有意差はなかった.結球緊度は二段50%減下層堆肥入りで他の処理区より有意に高まっていた.

表7.2023 年夏まき年内どりキャベツ栽培試験


同一文字を付した処理間には有意差(5%水準)なし(Tukey-Kramer の HSD 検定).a)「二段 50%減」では3反復のうち1試験区で肥料が落下していなかったので,この区は解析から除外した.

考察

本試験で使用した圃場は表2に示したように土壌化学性に多少の過不足はあったが,キャベツ生育に生理障害等の異常はなく,試験に問題はなかったと考えられる.気温と降水量については,2023年の夏まき栽培では生育初期に高温の日が続いたため,活着が遅れた株がやや増え,また虫害制御がやや難しく虫害のため結球できなかった株が見られた.しかし,最終的には予定していた調査株数を確保することができた.それ以外の作では若干平年から外れるところもあったが,キャベツ作に特段の影響はなかった.

本試験では畝立て同時二段局所施肥機を使用して畝内の上層と下層に高度化成肥料を局所施肥することで,化学肥料を30%削減かつ追肥を省略しても全面全層の標準施肥(追肥有り)と同等のキャベツ結球重が得られるかどうかを春まき夏まきそれぞれ2作で検討した.その結果,高度化成肥料(オール14)を用いた場合は,対照の全層標準に比べて全層30%減では結球重が低下したのに対して,二段施肥(二段30%減)では対照と同等のキャベツ結球重が得られることが確かめられた.また,二段施肥の下層に堆肥入り肥料を用いた場合も同様に30%減(二段30%減下層堆肥入り)でも対照と同等のキャベツ結球重が得られることを認めた.以上のように二段局所施肥法は,全面全層施肥に比べて施肥効率が優れているため施肥削減と追肥省略が可能であり,キャベツ栽培において有用であることが確認された.本施肥機を使用した全面全層との比較については,鹿児島県での夏まき年内どり栽培試験で同様の結果を得ているが(農研機構 2024),本機が広く普及するためにはより多様な条件での実証例が積み上げられることが望まれる.したがって本試験により茨城県での事例を追加し,畝立て同時二段局所施肥機の有効性を確認できたことは意義があると考えられる.

局所施肥による減肥栽培では,肥効調節型肥料が使われる場合が多かった.肥効調節型肥料の中でも,樹脂系被覆肥料は多様な溶出パターンを持つ肥料が作成できるため,局所施肥や追肥省略の技術で広く利用されてきた(郡司掛 2015).キャベツ栽培の研究でも,速効性肥料に樹脂系被覆肥料を組合せて条施肥することで,2割程度の施肥削減および追肥省略が可能とする報告がある(森山ら 20042005).また,上記の畝立て同時二段局所施肥機を使用した鹿児島県の試験でも,樹脂系被覆肥料(被覆尿素)がブレンドされたBB肥料が使用されていた.しかし,近年は樹脂系被覆肥料によるマイクロプラスチックの環境負荷の懸念が広がっており(勝見ら 2023永井 2022Rochman and Hoellein 2020),今後は利用を控える動きも予想される.本研究では高度化成肥料のみの二段局所施肥で減肥かつ追肥省略が可能であり,この結果は樹脂系被覆肥料によらない技術としても期待できる.

二段局所施肥では上層の施肥濃度が高すぎると濃度障害の恐れがある(大川,林 1998諸岡 1985).本研究では上層施肥の窒素は35 kg ha-1としたが,キャベツに特段の異常は観察されなかった.しかし上層施肥の最適濃度についてはまだ事例が限られているので,今後,研究蓄積が必要と考えられる.キャベツが耐塩性の高い作物であること(大沢 1961)や火山灰土壌では沖積土壌に比べて肥料による濃度障害が出にくいこと(鈴木,藤沼 1966)などを考えると,今回の試験では上層の肥料濃度の影響を受け難い条件であったとも言える.なお,二段局所施肥ではないが,条施肥の試験で草川ら (1999) は畝上部にりん硝安加里で窒素140 kg ha-1を施用しても障害がなかったと報告している.ただし,彼らの方法では,畝の上面にすじ状に散布した後に土壌と軽く攪拌しており,肥料はやや拡散していたと推察されるので,通常の条施肥とはやや異なっていたと考えられる.

下層施肥では施肥量全体の80%をすじ状に施肥しているので,肥料は高濃度になっていたと考えられる。アンモニア態窒素が高濃度になることで硝化作用が抑制されることはすでに述べたが,全く停止するということではない.施肥位置に近いところはアンモニア態窒素濃度が高く硝化作用が抑制されるが,施肥位置から離れるとアンモニア態窒素濃度はやや低下し,そこでは硝化作用が進行する(Wetselaar et al., 1972).また,時間の経過に伴ってアンモニア態窒素は徐々に拡散するので(石塚ら 19621965),硝酸化成も徐々に進行する.一方,根への影響を小麦の例でみると,初めは条施肥することで生じる高濃度のアンモニア態窒素の部分を避けて生育するが,生育が進むにつれてその阻害面積は小さくなり,その後は初めに根が生育を避けた部分の周辺で逆に根の生育が良好であったことが観察されている(石塚ら 1965Passioura and Wetselaar 1972).また,高濃度施肥の影響は硝化作用に対しては比較的長く続くのに対して,植物への影響はそれに比べて小さかった(石塚ら 1965Passioura and Wetselaar 1972).キャベツでも根は肥料濃度の薄いところに伸張することで地上部の生育が維持されたことが観察されている(森崎 1993).

本試験で使用した品種は早生種であり,試験では定植から収穫までは75~87日であった(表1).農研機構の標準作業手順書では,定植から収穫まで90日以上を要する中晩生種では緩効性肥料を利用するのが基本であるとしている(農研機構 2024).高度化成肥料のみで栽培する場合は,圃場での生育期間が長い作型で窒素肥効がどの程度持続するのか事前の調査が必要だろう.なお窒素に加えてリン酸やカリウムについても条施肥で施肥効率が上昇することが報告されている(Randall and Hoeft 1988, Sanchez et al. 1990).本試験ではリン酸やカリウムを窒素に合わせて減肥したが,全面全層の標準施肥と同等の結球重が得られたので,これらの養分の利用についても条施肥の効果があったと推察される.

本研究では春まき夏まきとも1回だけであるが施肥を50%削減した区も設けた.50%の施肥削減では二段局所施肥でもキャベツ結球重は対照に比較してやや低下した.今回使用した圃場は,有効態リン酸や可給態窒素の指標である熱水抽出性窒素が低かったことから,土壌肥沃度がそれほど高い圃場ではなかったといえる.したがって,50%の化学肥料削減を達成するためには,土壌からの養分供給がある程度以上必要なのかもしれない.過去に草川ら (1999)は,基肥にリン硝安加里を用いて条施肥・無追肥で50%の施肥削減でも全面全層と同等のキャベツ収量を得たことを報告している.試験圃場の土壌化学性についての情報がないので判断は難しいが,土壌肥沃度の高い圃場であったと推察される.堆肥の連用や緑肥作物の利用によって土壌肥沃度が高まった圃場では標準的な施肥法でも減肥可能であることが報告されている(日置ら 2020山本ら 2019佐藤ら 2019).なお土壌肥沃度が高い場合は全面全層施肥と条施肥の施肥効率の差異がなくなることが報告されている(Everaarts and Moel 1998, Randall and Hoeft 1988).

キャベツの結球緊度についてみると,2021年夏まきでは処理間に差異はなかったが,他の3作では処理間に差異が認められた.石川ら (2024) は,結球緊度について,結球が成熟するにしたがって上昇するが収穫適期になると上昇幅は次第に低減すること,結球緊度が0.68 g cm-3で裂球が観察され始めたと報告している.本試験では0.51~0.64 g cm-3の範囲にあり,収穫適期を過ぎての収穫はなかったことがわかる.また,全体的にみると減肥や二段局所施肥によって結球緊度がやや高まり成熟が進んでいた傾向があるように見えるが,明確な結論を得るにはデータの蓄積が必要と考えられる.

本研究では,堆肥入り肥料(混合堆肥複合肥料エコレット)を下層に施肥する区も設けた.近年の法改正で堆肥と普通肥料を混合造粒した肥料の販売が可能になり,圃場へ有機物を容易に供給できることから利用拡大が期待されている(一般財団法人畜産環境整備機構 2023農研機構 2020).高度化成肥料に比べて養分含量が低いが,本機の肥料繰り出し量の範囲内であり,必要量を下層に施肥することができた.本試験で,高度化成肥料と同様にキャベツの減肥栽培が可能であることを実証できたことは意義があると考えられる.本例のように上層と下層で様々な肥料の組合せを試すことでより有効な施肥技術を開発できる可能性があり,今後の研究課題といえる.

謝辞

キャベツの播種,育苗,栽培管理,収穫調査では,農研機構管理本部技術支援部の森江昌彦氏,中村貴紀氏,和田裕太氏,雨貝和幸氏,また,農研機構中日本農業研究センターの樽谷有子氏にご援助いただきました.この場を借りて深く御礼申し上げます.

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
著者は自身の論文の著作権を保持し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に対し農研機構研究報告からの論文の出版を許諾する。
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