次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
2025 名古屋
セッションID: 2025.2_AG2
会議情報

座長:東島 佳毅(宮崎大学 テニュアトラック推進室)
ボトムアップ創薬によるグラム陰性菌外膜タンパク質を標的とした抗菌薬開発
*塩田 拓也Germany Edward丸野 友希Thewasano Nakajohn今井 賢一郎阿蒜 侑佳Shen Hsin HuiLithgow Trevor塩見 大輔
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

グラム陰性菌は、WHOによる「喫緊に対策が必要な微生物感染症リスト」の実に70%を占めるグループである。グラム陰性菌に対する薬剤治療は、外膜というバリアの存在が問題である。外膜は、内側がリン脂質、外側がLPSからなる非対称膜に、リポタンパク質と外膜タンパク質が存在して形成されている。外膜タンパク質は外膜の主たる構成因子であると同時に、全ての外膜の構成要素の生合成に関与しており、そのバリア機能にとって最も重要な分子である。外膜タンパク質は、膜貫通領域がβバレル構造をとり、この立体構造形成を伴った膜挿入(アセンブリー)が機能を発揮するためには必須のプロセスである。アセンブリーは、グラム陰性菌の外膜に広く存在するBeta-barrel Assembly Machinery (BAM)複合体と呼ばれる分子装置によって行われる。BAM複合体はグラム陰性菌の生育に必須であるため、魅力的な抗菌薬の標的である。事実、BAM複合体への効果的な阻害剤が天然物や化合物ライブラリーから探索するトップダウン創薬により単離されている。しかしながら、これらの化合物は全てBAM複合体のラテラルゲートと呼ばれる触媒部位を標的としている。トップダウン創薬では、最も効果が強い部位にヒットが集中し、耐性菌に対して多様な選択肢を生むための、より広範な部位を標的とする創薬ができない可能性がある。より広範な部位をそれぞれ標的とするためには、詳細な分子機構の解析をもとに標的部位を増やした上で、それらに対して個別に阻害剤を見出していくボトムアップ創薬が求められる。

我々は、グラム陰性菌から単離した膜画分を用いたin vitro再構築系として、EMMアセンブリーアッセイを開発した。この方法は検出感度が高く、変異体や阻害剤によるアセンブリーの影響を敏感に捉えることができる。この方法を用いることで、新規の薬剤標的として輸送される外膜タンパク質内に存在する内部シグナルとBAM複合体中の受容体BamDの関係性を明らかにした。さらに、抗菌薬が実際に作用する環境に着目することで、BAM複合体の生体内での必須遺伝子を発見した。これらは、重要な標的部位の拡大、さらには新規抗菌薬の開発に資するものである。

著者関連情報
© 2025 本論文著者
前の記事 次の記事
feedback
Top