抄録
n-パラフィンを炭素源として培養したCandida属酵母の乾燥粉末を用い,それから抽出される各タンパク区分の乳化力(EC)および乳化安定性(ES)を測定し,次の結果を得た。
(1)水抽出液のEC, ESは,タンパク質の等電点領域(pH4.5付近)で低下することなく,酸性からアルカり性に向ってゆるやかに増加した。また,抽出液の加熱処理および乳化時の食塩濃度によって,水抽出液のEC, ESはほとんど影響を受けなかった。
(2) 0.125Nアルカリ溶液による常温抽出液から等電点沈殿させたタンパクのEC, ESは,等電点領域でやや低下するが,全体的に酸性からアルカリ性に向って増加した。乳化時のタンパク濃度とともにECは減少し,ESは増加した。この挙動は熱アルカリ抽出タンパクにおいても同様に認められた。乳化時の食塩濃度によってEC, ESとも著しい変化を示さず,やや低下する傾向が認められた。
(3) 0.125Nアルカリ溶液による85℃抽出液,およびこれからpH4.5で沈殿するタンパクを除いた上澄液のEC, ESは,ともに等電点領域においてピークを示した。一方,等電点沈殿タンパクのEC, ESは,等電点領域において最低値を示した。
(4) 本酵母タンパクの乳化特性は,大豆タンパクに比べて同等以上の水準にあり,とくに中性から弱酸性にかけて相対的に高い値を示すことが食品利用の観点から注目された。
終りに,本実験を行なうに当って御指導,御鞭撻を賜った東大名誉教授山田浩一先生,および試料をお分け頂いた鐘淵化学工業株式会社に対し,深く感謝の意を表します。