日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
小豆子葉細胞の示差走査熱量測定
細胞内デンプンの糊化に関する研究(第2報)
藤村 知子釘宮 正往
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1993 年 40 巻 10 号 p. 702-707

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抄録

小豆の子葉細胞内デンプンと単離デンプンの糊化について,示差走査熱量測定により比較検討した.その結果,単離デンプンは約71℃をピーク温度とする単一な吸熱曲線を示したが,子葉細胞は約70℃をピーク温度とし,78℃付近をショルダーとする高温部に大きくテーリングした吸熱曲線を示した.子葉細胞で認められた70℃付近の吸熱反応は単離デンプンと同じ機構で生じる糊化に基づくものと考えられた.子葉細胞内デンプンの糊化のエンタルピーは単離デンプンのエンタルピーと同じであったことから,高温部の吸熱はより高温でのデンプンの糊化を反映したものと考えられた.子葉細胞をあらかじめ細胞壁分解酵素で処理することによって,加熱の際に細胞が崩壊しやすくなった試料を調製した.この試料の吸熱曲線は,細胞で認められた高温部の吸熱が消失し,単離デンプンの吸熱曲線とほぼ一致した.また,単離デンプンの吸熱曲線は小豆タンパク質の添加(デンプンの約40%添加)によってほとんど影響を受けなかった.これらの結果から,小豆細胞内デンプンの糊化は,単離デンプンに比べて高温で完了することから,抑制されることが明らかとなった.この糊化抑制にはタンパク質はほとんど関与せず,細胞壁の強靭さが糊化時の膨潤を抑制すること,また糊化に必要な水の供給が不十分になることが関係するのではないかと推察した.

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