日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
苺の加工に関する研究(第3報)
Pelargonidin-3-monoglucosideの分解に及ぼす苺の成分の影響
萩沼 之孝
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1962 年 9 巻 2 号 p. 58-63

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抄録

1. 苺より抽出,精製したpelargonidin-3-monoglucoside (P-3-G)の結晶を使用し,モデル実験を行なった結果,苺の組成アミノ酸のうち,システインが激しく分解し,退色の一因子であることを知った。
システインの存在下で,P-3-Gはシステイン量に比例して分解する。このときシステインもまた分解し,液中でシスチンとなって存在する。すなわちP-3-Gの退色はシステイン(SH基)による還元と考えられる。
また苺ジュース中にても同様の消長のあることをたしかめた。苺のシステイン含量は3.1~3.3mg%であった。
2. strawberry synthetic juiceを考案し,苺の含有成分がP-3-Gの分解におよぼす影響を総合的に検討した結果,システインをのぞいたアミノ酸(21種),糖類(6種),有機酸(2種)および塩類(5種)は混在してもP-3-Gの分解にはほとんど関係ない。苺ジュースの退色に関係する成分は,V.C,システイン(SH基)で,ともに還元性物質であることは興味深い。
3. 苺ジュースおよびstrawberry synthetic juiceの酸化還元電位は,rH 13.2~14.7で,この電位を支配するものは,主にV.Cと考へられる。V.Cの少ない苺ジュース,V.C,システイン欠のsynthetic juiceでは電位が高く,電位の低いものは,高いものにくらべてP-3-Gの分解速度が早い。これはV.C,システインの標準電位を考えればとうぜんといえよう。
酸化還元電位は貯蔵中に上昇するが,これは還元性物質(V.C,システインなど)の酸化によるためと考えられる。
また貯蔵温度の低いものは高いものより,貯蔵中の電位変化は少なく,P-3-Gの分解もまた少ない。

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