日本食品工業学会誌
Print ISSN : 0029-0394
苺の加工に関する研究(第4報)
苺の生育中ならびに追熟中のペクチンおよびアントシアンの消長
萩沼 之孝水田 昂三浦 洋
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1962 年 9 巻 2 号 p. 63-68

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抄録

1. 苺生育中ならびに追熟によるペクチンの変化:含量では生育中において,全ペクチン,塩酸可溶性ペクチンは生育するにしたがって減少し,ポリリン酸可溶性ペクチンは大体一定しているが,水溶性ペクチンは果実が色づき始めるまで増加し,のち減少の傾向にある。追熟によっては水溶性ペクチン,ポリリン酸可溶性ペクチンは増加し,塩酸可溶性ペクチンは減少の傾向にある。その変化は未熟果ほど多い。
このときペクチンの質(粘度)は,生育中において水溶性ペクチン,ポリリン酸可溶性ペクチンは低下がみられるが,塩酸可溶性ペクチンはあまり変化しない。追熟によってはNo. 1の塩酸可溶性ペクチンは増加するが,他のものはいずれも低下する。各ペクチンの質は生育中では水溶性ペクチン,ポリリン酸可溶性ペクチン,塩酸可溶性ペクチンの順によく,追熟すると水溶性ペクチン,塩酸可溶性ペクチン,ポリリン酸可溶性ペクチンの順になる。
ペクチンの質と量をあわせ考えたペクチン・ユニットでは,全ペクチン,塩酸可溶性ペクチンは生育するにしたがい,また追熟によりともに減少する。ポリリン酸可溶性ペクチンは生育中,追熟中ほとんど変化がない。水溶性ペクチンは生育するにしたがい,果実が色づき始めるまで(No. 3まで)増加し,のち減少の傾向にある。また追熟によってNo. 1, 2は増加し,No. 3, 4は減少する。
以上のことから水溶性ペクチンは成熟の過程において量の増加に伴う質の劣化はそれほど大きくなく,No. 3においてもっともすぐれた品質となり,のち劣化の傾向にある。また塩酸可溶性のプロトペクチンは,成熟に伴って分解がすすみ量的に減少するので,ペクチン・ユニットはかなり急激な減少の傾向を示すが,質的にはそれほど劣化は考えられない。全ペクチンが減少するのは,プロトペクチンの影響を強くうけるためである。また追熟によってはペクチンの品質は低下の傾向にある。
2. 苺のアントシアンは生育中および追熟により,果実の色が白くなってから以後は増加の傾向にある。
市販苺(ダナー)のアントシアン含量は17.4~43.5mg%であった。
3. 実際加工に利用される苺は色づき始めた以後のものである。これらのペクチンは生育するにしたがい,また追熟により含量はあまり変化しないが,品質の劣化がみられる。しかしアントシアンは反対に熟するにしたがって増加する。アントシアンとペクチンは反対の傾向にあり,このことは加工に際し熟度を考慮する必要を示している。
4. 乾燥苺の吸水性(復元率)は水溶性ペクチンに関連のあることを知った。
5. 乾燥苺のアントシアンは,凍結乾燥によれば製造時の分解はほとんどなく,貯蔵中も非常に安定である。

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