[背景]マグネシウム(Mg)は中枢神経の恒常性や気分調節に関与する必須ミネラルである。精製加⼯⾷品への偏重や慢性的な⼼理社会的ストレスによる尿中排泄増加により、⾎液検査では⾒えにくい潜在的Mg ⽋乏が⽣じやすい。精神科臨床では、難治性の漠然とした消化器症状、慢性疲労、易刺激性、眼瞼痙攣、便通異常などの⾮特異的⾝体症状の背景に、Mg 不⾜が関与する可能性がある。
[⽬的]本総説は、Mg 不⾜と抑うつ、不安、不眠との関連を、栄養精神医学の観点から病態⽣理、基礎研究、観察研究、介⼊研究に分けて整理し、標準的治療と整合する多職種連携型の補助的介⼊を⽰す。
[内容]基礎研究では、Mg ⽋乏がHPA 系の過活動、慢性軽度炎症、腸内細菌叢の多様性低下、腸管バリア障害に関与する可能性が⽰されている。分⼦レベルではNMDA 受容体の機能抑制やGABA 受容体を介した神経興奮の調節が想定されるが、ヒトでの臨床効果は確⽴していない。観察研究ではMg 摂取量と抑うつリスクに⾮線形な関連が報告される⼀⽅、因果は証明されない。介⼊研究での効果は限定的で、⽋乏が疑われる層で臨床的意義が⽰唆される。⾎清Mg 値が正常でも細胞内⽋乏は否定できず、PPI や利尿薬の⻑期使⽤は薬剤性低Mg ⾎症の要因となる。複数の向精神薬が細胞内Mg 濃度に影響する報告もあり、薬物療法との相互作⽤と安全管理が重要である。
[結論]潜在的Mg 不⾜は軽症の抑うつ、不安、不眠の増悪因⼦となり得るため、⽋乏状態への⾷事指導や補充は補助的⼿段として意義がある。ただし、標準的な精神科治療を置き換えるものではない。⽇常診療ではFood first(⾷事を第⼀とする)を原則に、⾮特異的な⾝体症状、⾷事歴、併⽤薬を確認し、看護師による症状把握、薬剤師による薬剤確認、管理栄養⼠による⾷事⽀援を組み合わせることが現実的である。補充の可否は腎機能や過量摂取リスクも踏まえて判断する。