栄養精神医学
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資料
  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 6-14
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル オープンアクセス

    [背景]⽇本栄養精神医学研究会は2016 年の創⽴以来「メンタルヘルスは⾷事から」を学術的理念に掲げてきた。2025 年に創⽴10 周年を迎え、同年10 ⽉12 ⽇の創⽴10 周年学術総会で正式に学会へ名称変更し、「栄養精神医学(Journal of the Japanese Society of Nutritional Psychiatry:JJNP)」を創刊したが、その後の経緯は、まだ⼗分に記録されていない。

    [⽬的]学会への移⾏から法⼈化、認定制度の構築、教育体制の整備、国際的な学術交流の開始に⾄る約⼀年間の歩みを、⽇本における栄養精神医学の歴史的記録として整理する。

    [内容]2026 年4 ⽉1 ⽇、学術活動と認定の最終判断を担う⽇本栄養精神医学会(JSNP)と、教育・⼈材育成を担う⽇本栄養精神医学協会(JANP)を構築した。認定制度は、医師・⻭科医師を対象とする栄養精神医学認定医・指導医、医療系・栄養系国家資格者を対象とする認定師・指導師を含む専⾨資格と、サポーター・アドバイザー・カウンセラーの普及資格、そして医療機関型・カウンセリング型の認定施設からなる。本学会では、所定の教育課程および認定要件を満たしたサポーター以外の資格者を、学会が掲げる「⾷と⼼(Food & Mind)」の考え⽅を臨床・教育・⽀援・地域活動において適切に活⽤する「⾷と⼼の専⾨家」と位置づけ、原則3年ごとの更新制を採る。2026 年6 ⽉時点で会員数は1,000 名を超える。また、認定施設は83 施設(医療機関型44・カウンセリング型39)、認定資格者はサポーターを除いて281 名(認定医129 名、指導医73 名、認定師88 名、指導師36 名、アドバイザー32 名、カウンセラー47 名の資格保持者のべ405名)に達した。国際的には、筆者が2025年より国際栄養精神医学会(ISNPR)公式機関誌『Nutritional Psychiatry』の編集委員兼査読者を務め、本学会は2026 年11 ⽉に台湾で併設開催されるマインド・ボディ・インターフェース国際シンポジウム/ISNPR 地域会議(MBI 2 026)でシンポジウムを企画予定である。

    [結論]法⼈化と認定制度の構築は、栄養精神医学の信頼性・継続性・社会的責務を担保する基盤となる。ただし、規模の拡⼤と臨床の質の担保とは別の課題であり、本制度はなお「確⽴」ではなく「構築・始動」の段階にある。栄養医学的アプローチを補完として位置づけ、質の保証、⽇本⼈を対象としたエビデンスの国際発信を次の課題とする。

総説
  • 堀 輝
    2026 年2 巻1 号 p. 15-18
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    精神疾患では同⼀診断名であっても治療反応性や経過に⼤きな個⼈差が存在し、その背景には⽣物学的・⼼理学的・社会的要因に加え、⽣活習慣要因が関与していると考えられる。本論⽂では、従来のBio-Psycho-Social モデルに⽣活習慣(Lifestyle)を明⽰的に組み込んだBio-Psycho-Social-Lifestyle(BPSL)モデルを概説し、個別化精神医療における意義を論じた。特に栄養精神医学は、抗炎症作⽤、神経可塑性、腸脳相関などを介して、薬物療法や精神療法といった既存治療の効果を⾼める「⼟台作り」として位置づけることが合理的である。近年、疫学研究や介⼊研究の蓄積により、⾷事パターンと精神疾患との関連が⽰されつつあるが、現時点では補完的治療としての慎重な臨床応⽤が求められる。BPSL モデルに基づく⽣活習慣評価の統合は、今後の個別化精神医療の発展に重要な視座を提供すると考えられる。

  • ⾺場 元
    2026 年2 巻1 号 p. 19-22
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、「うつ病診療ガイドライン2025」における栄養精神医学的視点の位置づけを概説したものである。ガイドラインはシステマティックレビューに基づき作成され、サプリメントや⾃然⾷品に関するエビデンスも検討された。軽度うつ病ではオメガ3 脂肪酸など⼀部に有効性の報告があるが、明確な推奨には⾄らず、積極的使⽤は推奨されていない。中等度/重度では⾃然⾷品単独治療は提案されず、児童・思春期でもエビデンスは不⼗分である。⼀⽅、⽼年期や後続治療ではオメガ3 脂肪酸の補助療法としての⼀定の有⽤性が⽰され、選択肢の⼀つとされるが、全体として栄養介⼊のエビデンスは不⼗分であり、安全性評価も含めた質の⾼い研究の蓄積が今後の課題と結論づけている。

  • 河邉 憲太郎
    2026 年2 巻1 号 p. 23-31
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    トゥレット症候群は運動チックおよび⾳声チックを主症状とし、不安障害や強迫症などの併存症を⾼頻度に伴う神経発達症である。標準治療として薬物療法および⾏動療法が⾏われるが、⼗分な効果が得られない症例も少なくない。このため近年、栄養状態や⾷事内容に着⽬した補助的栄養学的介⼊への関⼼が⾼まっている。本総説では、栄養補助⾷品や⾷事療法を中⼼とした補完代替医療の現状を概観した。既存研究の多くは症例報告や観察研究であり、無作為化⽐較試験や⼤規模研究は乏しいが、グルテンフリー⾷、L-テアニン、マグネシウム、ビタミンB6、オメガ3脂肪酸などによりチック症状や⽣活の質の改善が⽰唆されている。具体的な介⼊としては、タンパク質摂取の確保、野菜・果物の増量によるビタミン・ミネラル補充、⿂油摂取の強化、マグネシウムやビタミンB 群の補充、カフェインや⾼糖質⾷品の制限などが挙げられる。また、⾷選択性への対応や⾷環境の調整も重要である。⼀⽅で主観的評価や併⽤治療、選択バイアスなど研究上の限界があり、因果関係は明確ではない。現時点では標準治療として推奨する根拠は⼗分でなく、補助的選択肢として慎重に位置づける必要がある。今後は病態仮説に基づく⾼品質研究の蓄積が求められる。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 32-67
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]精神疾患の病態には、全⾝のエネルギー代謝異常、慢性低度炎症、酸化ストレス、栄養素の過不⾜が関与すると考えられる。漢⽅は古来これを「気・⾎・⽔」の乱れとして捉え、倦怠感・意欲低下・のぼせなどの不定愁訴を、操作的診断基準とは異なる軸で全⼈的に評価してきた。これらの病態は加点式の診断スコアにより半客観化されており、各症状を栄養医学・⽣化学の視点から読み解く余地がある。

    [⽬的]本稿は、気虚・気滞(気鬱)・気逆・⾎虚・瘀⾎・⽔滞の六病態と、その診断スコアを構成する⾝体症状を栄養精神医学および⽣化学の知⾒と対応づけて筆者の作業仮説として提⽰し、多職種臨床への意義と限界を整理する。

    [内容]筆者は六病態の主たる機序を次のように整理する。気虚はミトコンドリアのATP 産⽣効率の低下、気滞はメチレーション代謝の停滞を背景とする慢性炎症・キヌレニン経路シフトとモノアミン合成低下、気逆は交感神経の過緊張と⾎管運動の調節失調、⾎虚は鉄やタンパク質などの基質枯渇による組織機能の低下、瘀⾎は⾎管内⽪機能障害・酸化ストレス・慢性低度炎症を背景とする微⼩循環障害、⽔滞は低タンパク⾎症や膜輸送障害による体液分布の異常と考える。とくにメチレーション代謝の停滞を共通のハブとみなし、機能⾯の失調である気滞が⻑引いて循環⾯の瘀⾎へ移⾏し、利⽤障害性の⾎虚を併発する連関を⽰した。また六病態の診断スコア、評価項⽬、⾷材、併存パターンを表に整理した。

    [結論]こうした対応づけは確⽴した診断基準ではなく今後の検証を要する作業仮説だが、多職種が⾝体所⾒を評価し代謝的弱点に基づく栄養医学的介⼊を検討するための共通⾔語を提供しうる。ただし中等症以上のうつ病や希死念慮を認める例では薬物療法・精神療法を最優先し、栄養医学的介⼊は標準的精神科医療を補完する位置づけにとどめる。栄養を理由に標準治療が遅れることがあってはならない。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 68-80
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]鉄⽋乏症は、⼦どもと有経⼥性で頻度が⾼い。精神科臨床では、不眠、疲労、不安、集中困難、落ち着きのなさなどが主訴となりうるが、⾮貧⾎性鉄⽋乏や、炎症によりフェリチン⾼値である機能的鉄⽋乏と絶対的鉄⽋乏との併存例(混合型鉄⽋乏)が⾒逃されやすい。 [⽬的]広義の鉄⽋乏の概念を定義し、貧⾎の有無に関わらず鉄⽋乏症と上記の症状との関係を批判的に整理し、精神科実臨床への導⼊可能性と限界を明らかにする。 [内容]①⾮貧⾎性鉄⽋乏と②⾮貧⾎性の鉄利⽤障害、③鉄⽋乏性貧⾎と④炎症性貧⾎を合わせて、「鉄⽋乏状態」の4 つの臨床的表現型を⽰し、広義の鉄⽋乏の概念と病態解説をまとめた。評価は、フェリチン、TSAT、TIBC、CRP、MCV などの鉄関連指標に加えて、症状、⽖や冷えなどの⾝体所⾒、性別や年齢、⾷⽣活、腸管の状態を含めて多⾯的に⾏う。その上で、鉄補充の適否を判断し、鉄代謝の改善を⽬指す⽣活指導を⾏うことが重要である。CRP が上昇しないような微細な炎症でもフェリチンは上昇しうるため、臨床ではこうした炎症に反応するTS AT、TIBC、Cu/Zn 等の数値も参考にする。観察研究では、⽉経のある若年⼥性や周産期⼥性を中⼼に、鉄⽋乏症と抑うつ症状、疲労、怒り・易刺激性、QOL 低下との関連が⽰唆される。介⼊研究とメタ解析では、貧⾎のない鉄⽋乏症の集団で疲労、⾝体的な主観的健康感、⼀部の不安・認知指標の改善が⽐較的⼀貫しているが、抑うつ症状に対する直接的な改善効果は限定的である。 [結論]精神科臨床では、説明しにくい不眠や疲労、落ち着かなさを伴う患者で鉄⽋乏を系統的に疑う意義がある。臨床では混合型鉄⽋乏の場合は、まずは炎症の原因を探り、可能な限り炎症の問題に対処してから、絶対的鉄⽋乏に対処するべきであり、安易な鉄剤の投与は慎むべきである。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 81-101
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]亜鉛は多くの酵素反応と神経伝達・免疫に関与する必須微量元素であり、⾷事性摂取の不⾜は世界⼈⼝の相当な割合に及ぶ。観察研究では、⾎清亜鉛の低値がうつ病をはじめとする精神症状の重症度と関連し、とくに重症例や⼊院例でその差が⼤きいと報告されている。亜鉛は精神科臨床で⾒落とされやすい修正可能な因⼦として注⽬される。

    [⽬的]本稿は、亜鉛と精神症状との関連について、基礎・観察・介⼊・メタ解析の各証拠を確実性の段階を区別して整理し、想定される作⽤機序、⾎液検査の解釈を含む実践的な位置づけ、ならびに限界を明確にすることを⽬的とする。

    [内容]亜鉛はNMDA受容体・GPR39・脳由来神経栄養因⼦・視床下部-下垂体-副腎系・炎症調節を介して気分制御に関与しうる。メタ解析では抑うつ群で⾎清亜鉛が有意に低く、補助的な亜鉛投与は抑うつ症状を軽減したが、効果量は⼩〜中等度で異質性が⼤きい。不安症・注意⽋如多動症・統合失調症でも亜鉛異常が報告されるが⼀貫しない。さらに、亜鉛⽋乏と銅過剰はそれぞれ別の経路で攻撃⾏動に寄与しうるが、知⾒は動物実験が中⼼でヒトでの因果は仮説の段階にとどまる。⾎液検査の解釈には注意を要する。⾎清亜鉛は中枢の亜鉛状態を直接には反映しない。炎症で肝へ再分布し、低アルブミン⾎症・⽇内変動・溶⾎でも変動するためであり、早朝空腹時に採⾎し、炎症指標・アルブミンと併せて読む必要がある。⾎清銅の⼤半が結合するセルロプラスミンは急性期蛋⽩で、炎症やエストロゲンで上昇する。炎症・加齢では銅亜鉛⽐が上昇し抑うつとの関連も報告されるが相関にとどまり、標準化されたカットオフはない。⾼⽤量亜鉛は銅⽋乏を招くため、亜鉛・銅・銅亜鉛⽐は背景因⼦と経時変化を踏まえて読む。実務への応⽤として、鉄と亜鉛の吸収競合を避ける「朝亜鉛・⼣鉄」プロトコルを⽤いた低亜鉛⾎症の20 歳代⼥性の成功例を提⽰する。

    [結論]亜鉛⽋乏の同定と是正、および標準的精神科治療への補助は、潜在的⽋乏・治療抵抗性・⾼齢者で現実的な選択肢となりうるが、亜鉛は単独で標準治療を置き換えるものではなく、バイオマーカー異常が直ちに症状改善を意味するわけでもない。現時点で全症例への⼀律推奨を⽀持する段階にはなく、個別の栄養評価に基づく併⽤が妥当である。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 102-117
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]マグネシウム(Mg)は中枢神経の恒常性や気分調節に関与する必須ミネラルである。精製加⼯⾷品への偏重や慢性的な⼼理社会的ストレスによる尿中排泄増加により、⾎液検査では⾒えにくい潜在的Mg ⽋乏が⽣じやすい。精神科臨床では、難治性の漠然とした消化器症状、慢性疲労、易刺激性、眼瞼痙攣、便通異常などの⾮特異的⾝体症状の背景に、Mg 不⾜が関与する可能性がある。

    [⽬的]本総説は、Mg 不⾜と抑うつ、不安、不眠との関連を、栄養精神医学の観点から病態⽣理、基礎研究、観察研究、介⼊研究に分けて整理し、標準的治療と整合する多職種連携型の補助的介⼊を⽰す。

    [内容]基礎研究では、Mg ⽋乏がHPA 系の過活動、慢性軽度炎症、腸内細菌叢の多様性低下、腸管バリア障害に関与する可能性が⽰されている。分⼦レベルではNMDA 受容体の機能抑制やGABA 受容体を介した神経興奮の調節が想定されるが、ヒトでの臨床効果は確⽴していない。観察研究ではMg 摂取量と抑うつリスクに⾮線形な関連が報告される⼀⽅、因果は証明されない。介⼊研究での効果は限定的で、⽋乏が疑われる層で臨床的意義が⽰唆される。⾎清Mg 値が正常でも細胞内⽋乏は否定できず、PPI や利尿薬の⻑期使⽤は薬剤性低Mg ⾎症の要因となる。複数の向精神薬が細胞内Mg 濃度に影響する報告もあり、薬物療法との相互作⽤と安全管理が重要である。

    [結論]潜在的Mg 不⾜は軽症の抑うつ、不安、不眠の増悪因⼦となり得るため、⽋乏状態への⾷事指導や補充は補助的⼿段として意義がある。ただし、標準的な精神科治療を置き換えるものではない。⽇常診療ではFood first(⾷事を第⼀とする)を原則に、⾮特異的な⾝体症状、⾷事歴、併⽤薬を確認し、看護師による症状把握、薬剤師による薬剤確認、管理栄養⼠による⾷事⽀援を組み合わせることが現実的である。補充の可否は腎機能や過量摂取リスクも踏まえて判断する。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 118-136
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]ビタミンD ⽋乏と抑うつ症状の関連は観察研究で⼀貫して⽰唆される⼀⽅、介⼊研究では結果が不⼀致である。

    [⽬的]本稿は、このギャップの背景を整理し、低ビタミンD 値を単⼀の病因ではなく、⽇照不⾜、活動低下、⾷⽣活の乱れ、慢性炎症等が重なった「⽣活機能低下の指標」として捉え直す。多職種が⽇常診療で共有・実践できる評価枠組みを提⽰する。特に、観察上の相関と介⼊による因果を厳密に区別した。そのうえで、25(OH)D 値の⽣化学的上昇を直ちに精神症状の改善と同⼀視する短絡的解釈を戒めることを重視した。

    [内容]2023–2026 年を中⼼とする主要メタ解析、RCT、国際ガイドライン等を参照し、測定基準の揺れや対象集団の異質性の観点から批判的に統合した。さらに、外来診療で直ちに導⼊可能な「3 点チェック(屋外活動、⾷事、サプリ)」や「⽣活リズムのタイムライン化」などの実践的介⼊も検討した。加えて、意志⼒に依存せず⾃然な⾏動を促す環境調整などを体系化した。最新メタ解析では抑うつ尺度の改善が⽰唆されるが、⼀般集団への⼀律の⻑期予防的補充の利益は乏しく、⽋乏層を同定した標的介⼊が合理的である。また、気分低下そのものよりも、疲労感、起床困難、睡眠不良が前景に⽴つ患者において、ビタミンD 低下を伴う複合的な栄養リスクが重積しやすいことが確認された。⾃施設の精神科⼊院⼥性では、⽪膚合成が最⼤となる盛夏でも全例が25(OH)D ⽋乏域にあった。

    [結論]精神科診療では、標準治療を優先しつつ、⽣活歴から⾼リスク群(屋内⽣活、偏⾷、肥満等)を丁寧に⾒極め、検査適応を絞るべきである。サプリメントによる気分症状の改善のみを過⼤に期待せず、⾷事や⽣活リズムの再構築を基盤とし、疲労を含む⽣活機能全体の回復を補助する視点が不可⽋である。単⼀の栄養素への還元主義を排し、医学的正確性とエビデンスに基づく評価を徹底したい。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 137-153
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⼤うつ病性障害は再発性で機能障害が⼤きく、過敏性腸症候群(IBS)などの機能性消化管障害や便通異常をしばしば併存する。両者は双⽅向的に関連し、抑うつ患者ではIBS の併存・新規発症リスクが約2 倍に⾼まる。腸-脳相関への関⼼は⾼いが、既存総説は分⼦機序に偏り、外来で便通と⾷事をどのように評価し⽀援するかという臨床的視点は⼗分でない。

    [⽬的]腸内マイクロバイオームと⾷事に関する基礎研究、観察研究、介⼊研究、メタ解析、ガイドラインを批判的に整理し、抗うつ薬の消化器副作⽤(消化器症状、消化管出⾎、体重変化)と対応、腸内細菌との相互作⽤を含め、外来で⽤いやすい評価・⽀援の枠組みを提⽰する。

    [内容]腸-脳相関は迷⾛神経、免疫・炎症、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系、短鎖脂肪酸、トリプトファン代謝物、胆汁酸などを介すると想定されるが、多くは動物実験や横断研究に基づき、ヒトでの因果は限定的である。観察研究では健康的⾷事パターンと低い抑うつリスク、超加⼯⾷品と抑うつの正の関連が⽐較的⼀貫するが、相関は因果を意味しない。介⼊研究では、管理栄養⼠による地中海⾷型⽀援(SMILES、AMMEND)が抑うつを改善しうる⼀⽅、予防⽬的のMooDFOOD は陰性であり、単⼀栄養素補充(オメガ3)の効果は限定的である。サイコバイオティクスは⼀定の可能性を⽰すが、菌株・製剤は不均⼀で、糞便微⽣物移植は実験段階にとどまる。SSRI は消化管出⾎リスクをわずかに⾼め、NSAIDs 併⽤で増⼤する。実践⾯では、14 項⽬地中海⾷遵守スクリーナー(MEDAS)とブリストル便性状スケールによる短時間評価、多職種による協働ケア、動機づけ⾯接、⾏動計画、セルフモニタリング、和⾷を活かした段階的⽀援、消化器症状への具体的対応、特殊集団への配慮が現実的である。

    [結論]外来で便通と⾷事を評価し⽀援することは実⾏可能で臨床的意義がある。ただし、⾷事・腸内細菌への介⼊は薬物療法や精神療法を補助するものであり、代替ではない。エビデンスの確実性と相関・因果の区別を明⽰した慎重な運⽤が求められる。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 154-168
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]統合失調症の病態は、中枢のモノアミン不均衡を中⼼とする枠組みを超え、低度の全⾝性炎症や腸脳相関の異常を基盤とする免疫・代謝性の側⾯が注⽬されている。少なくとも⼀部の患者では、腸管透過性亢進や腸管由来の免疫活性化を⽰唆する所⾒が報告される⼀⽅、バリアの漏出が直ちに栄養素や経⼝薬の吸収不良を意味するとの過度の⼀般化や、相関と因果の混同も⽣じている。

    [⽬的]本稿は、統合失調症における腸管バリア機能障害のエビデンスと限界を、関連バイオマーカーを通して批判的に整理する。その上で、粘膜の低度炎症・ディスバイオシス・消化管運動異常が栄養素利⽤と向精神薬の薬物動態に及ぼす影響を機序的に論じ、栄養精神医学的アプローチの臨床的意義と多職種での実践的ノウハウを提⽰することを⽬的とする。

    [内容]ゾヌリン、LBP、LPS、I-FABP、ラクツロース/マンニトール⽐などの指標は、⼩腸粘膜上⽪傷害・内毒素⾎症・肝急性期応答という異なる過程を反映し、喫煙・罹病ステージ・代謝症候群に交絡される。傍細胞経路の漏出は経細胞経路の輸送体障害と同義ではないが、炎症性サイトカインは栄養素トランスポーターやCYP 代謝酵素を抑制し、ディスバイオシスはタンパク発酵や神経伝達物質前駆体の代謝を変容させうる。酪酸産⽣菌の減少、Candida 優位の真菌叢、糞便移植による動物での再現は因果を⽰唆するが証明はしておらず、抗精神病薬⾃体も微⽣物叢を再編するため因果推定は容易でない。あわせて、フェリチンやトランスフェリン飽和度などの⾎液検査所⾒を基準範囲内の潜在的不⾜まで踏み込んで読み解く具体的な解釈の視点と実例を、多職種での実践とともに⽰す。

    [結論]腸管バリア機能障害は、統合失調症の免疫炎症性サブグループにおいて⽐較的⼀貫して報告されている。しかし、これを臨床的な吸収不良と同⼀視することはできず、両者を結び付ける直接的なエビデンスは⼗分ではない。栄養素の⽣物学的利⽤能や向精神薬の薬物動態を、バリア機能と関連づけて直接測定した研究はなお存在しない。腸を標的とする栄養精神医学的介⼊は標準治療を補完しうるが代替はせず、その有効性は今後の縦断研究・介⼊研究による検証を要する。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 169-181
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]うつ病は世界的な疾病負荷の⼤きな部分を占めるが、既存の治療では疾病負荷の半分以下しか軽減できないとされ、修正可能な危険因⼦への関⼼が⾼まっている。栄養精神医学のなかでも、超加⼯⾷品(UPF)の摂取と抑うつとの関連が注⽬されている。UPF はNOVA ⾷品分類の第4 群に相当し、⼯業的に製造され家庭の調理では⽤いない添加物を含み、世界的に摂取が増加している。

    [⽬的]本稿は、UPF摂取と抑うつ症状の関連について、病態⽣理学的背景・想定される分⼦機序・臨床研究のエビデンス・精神科臨床への実践的⽰唆を整理し、観察研究の相関と介⼊研究の因果を厳密に区別したうえで、現時点での到達点と限界を明確にすることを⽬的とする。

    [内容]観察研究のメタ解析では、UPF ⾼摂取群で抑うつ症状のオッズ⽐1.44、不安症状で1.4 8、両者を合わせた⼀般精神症状で1.53 と有意な関連が⽰され、前向き研究の統合では抑うつ発症のハザード⽐は1.22 であった。アンブレラレビューでは、⼀般精神疾患との関連が「確信できる」、抑うつ発症が「極めて⽰唆的」と分類された。60 か国の⼤規模調査でも⽤量依存的な関連が⽰唆されている。想定される機序として、低⾷物繊維・⾼添加物による腸内細菌叢の変調と腸管バリアの破綻、全⾝性の低度炎症、HPA 軸の調節不全、乳化剤や⼈⼯⽢味料の作⽤が挙げられるが、その多くは動物モデルや横断研究に基づき、ヒトでの因果は確⽴していない。横断的神経画像研究では、UPF摂取量が中脳辺縁系の灰⽩質容積の低下と関連することも報告されている。⽇本⼈集団の前向きエビデンスは乏しく、⼥性で関連がより明確という性差も報告されている。

    [結論]UPF摂取と抑うつの関連は観察研究として頑健だが、逆因果や交絡を排除できず、因果は未確⽴である。⾷事改善は標準治療の代替ではなく併⽤しうる現実的な選択肢であり、⾷事アセスメントの導⼊、多職種連携、公衆衛⽣レベルでの⾷環境改善が重要な⽅向性となる。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 182-197
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]オキシトシン(oxytocin:OXT)は視床下部で産⽣される神経ペプチドで、分娩・授乳に加え、社会的認知・愛着・信頼・ストレス応答・報酬・摂⾷・エネルギー代謝を横断的に調整する多機能的な調節因⼦として理解されている。栄養精神医学では、⾷事・微量栄養素・腸内細菌叢によるOXT 系の修飾が注⽬される。

    [⽬的]本稿は、OXT と栄養の接点を、受容体薬理・⽣合成・腸脳相関・摂⾷と代謝・精神疾患の観点から、確⽴・⽰唆・仮説の段階を明確に区別して整理し、医療者が実践できる具体的な臨床的⼯夫を⽰すことを⽬的とする。

    [内容]OXT 受容体はG タンパク質共役受容体としてGq/11‒ホスホリパーゼC 系を介して作⽤し、そのリガンド親和性はマグネシウムや亜鉛などの⼆価陽イオンに依存する。成熟OXT のC末端アミド化には銅とビタミンC が必須である。腸管上⽪はセクレチン依存的にOXT を分泌し、特定の乳酸菌が中枢のOXT 放出を促しうる。外因性OXT は報酬性の摂⾷や固形物の摂取をある程度抑制するが、総エネルギー摂取への効果は⼀貫せず、肥満度・投与法・⾷事組成によって修飾される。⾃閉スペクトラム症や統合失調症に対する経⿐OXT 単独投与は、中核症状への⼀貫した有効性を⽰していない。これらを踏まえ、精神科外来・訪問看護・⼼理カウンセリングなどの各場⾯で多職種が実践できる具体的な臨床的⼯夫を、安全性とエビデンスの確実性に配慮して整理した。

    [結論]確実に⾔えるのは、OXT が摂⾷・代謝・社会⾏動・ストレス応答に関与し、その受容体機能が微量栄養素環境に依存しうること、そして腸内細菌叢と双⽅向に相互作⽤しうることである。⼀⽅、特定栄養素の補充がヒトの中枢OXT 系を介して精神症状を改善するという因果は未確⽴である。栄養⽋乏の補正と⾷事の質の改善は標準治療を補完しうるが、OXT を単⼀の治療標的とみなす過度な単純化は避けるべきであり、むしろOXT が機能する⽣物学的・社会的基盤を多職種で整えることにこそ臨床的意義がある。

  • 井⼾ 由美⼦, 李 美栄, 熊取⾕ 知征, 清⽔ 勇雄, 川村 匡宏, ⽔野 智津⼦, 稲葉 真由, 三好 裕之, 岩根 奈緒美, 河中 由 ...
    2026 年2 巻1 号 p. 198-209
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    うつ病は世界で約3 億3 千万⼈が抱える主要な精神疾患であり、再発や慢性化も少なくない。近年、⾷事の質や栄養状態が精神症状に関与する可能性が⽰され、⾷事療法の有効性が注⽬されているが、精神科⼊院期に体系的な栄養介⼊を導⼊し多⾯的に評価した報告は限られている。本研究では、栄養強化⾷「デイジー⾷」と栄養教育が精神症状、栄養指標および腸内細菌叢に及ぼす影響を検討した。ストレスケア病棟⼊院患者に栄養強化⾷と毎⾷時の説明カード配付および個別栄養指導を実施し、解析対象71 名について単群前後⽐較を⾏った。その結果、QIDS-J およびGAD-7 は有意に改善し、⾎清亜鉛・葉酸は⼼理尺度と負の相関を⽰した。腸内細菌叢では Bifido bacterium 属の増加傾向に加え、多様性の改善もみられた。以上より、本介⼊は精神症状の改善とともに、栄養状態、腸内環境に好ましい変化をもたらす可能性が⽰唆された。

解説
  • 斎藤 糧三
    2026 年2 巻1 号 p. 210-215
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    精神症状の発症および遷延には、低度慢性炎症が関与することが近年明らかになりつつある。炎症性サイトカインは⾎⾏性経路に加え、求⼼性迷⾛神経をはじめとする神経性経路を介して中枢へ情報を伝達し、神経炎症、⾃律神経調節異常、神経伝達物質代謝の変調を惹起する。神経伝達物質仮説に基づく標準的な薬物療法のみでは⼗分な改善が得られない症例も少なくない中、精神症状を全⾝性炎症の中枢神経系への波及として再解釈する視点が求められている。本稿では、慢性炎症の原因因⼦を16 項⽬に体系化した『インフラマトリックス16(Inflammatrix 16)』の概念を提⽰し、各項⽬の病態機序と精神症状およびメンタルパフォーマンス低下との関連を解説する。さらに、個々の炎症⼊⼒因⼦を可視化し、⾷事内容の改善や栄養素の適正化を通じた栄養介⼊を薬物療法と補完する治療戦略として位置づけ、栄養精神医学における臨床的意義を論じる。

  • 宗⽥ 哲男
    2026 年2 巻1 号 p. 216-220
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    ヒトの脳の発達におけるエネルギー代謝の特異性について、周産期の臨床データと分⼦⽣物学的知⾒を基に新しい視点を提案する。筆者らが測定した胎児・新⽣児の臍帯⾎と絨⽑間腔⾎のケトン体濃度は、成⼈の基準値を⼤きく上回る⾼値(数百〜数千µmol/L)を⽰した。これは、胎児や新⽣児がグルコースだけでなく、ケトン体も主要なエネルギー源および脳の構造を作るための脂質合成材料として利⽤していることを⽰唆している。β-ヒドロキシ酪酸が単なる代替燃料ではなく、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害やNLRP3 インフラマソームの抑制を通じて、神経細胞の抗炎症作⽤、抗酸化作⽤、そしてシナプスの可塑性維持に寄与する「シグナル伝達物質」である。現代の過剰なグルコース依存モデルは、この「⽣理的ケトーシス」を妨げ、神経発達障害や将来の精神疾患リスクを⾼める可能性がある。周産期の代謝環境が精神的なレジリエンスにどのように影響するかというDOHaD(発達に基づく健康の決定因⼦)説の観点から、栄養精神医学の原点を再考する。

  • 深作 秀春
    2026 年2 巻1 号 p. 221-226
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    眼球は、中枢神経系の⼀部が体表に露出し、微⼩循環障害や酸化ストレスなど全⾝の代謝異常を⾮侵襲的に観察しうる唯⼀の器官である。糖尿病性網膜症の本態は平均⾎糖値よりも「⾎糖変動(グルコーススパイク)」によるミトコンドリアでの活性酸素種産⽣と⾎管損傷にあり、⾷事療法による厳格な変動抑制が不可⽋である。また、緑内障の多くは眼圧異常よりも視神経の虚⾎および⾎管内⽪機能不全に起因するため、アルギニン等を⽤いた⼀酸化窒素(NO)産⽣による⾎流改善が奏功する。さらに、加齢⻩斑変性や⽩内障に対する抗酸化・抗糖化(AGEs 抑制)アプローチや、網膜⾊素変性への抗炎症治療も詳述する。これら網膜⾎管と視神経を守る栄養医学的戦略は、同様の組織学的背景を持つ⾎液脳関⾨(BBB)およびニューロンの保護と直結しており、⾒⽅を変えると、眼科と精神科が共有すべき次世代の統合的治療指針とも⾔える。そこで本稿では、眼科領域における先駆的な栄養学的介⼊が、精神科臨床における脳保護戦略にいかなる⽰唆を与えるかを論じる。

  • 御川 安仁
    2026 年2 巻1 号 p. 227-229
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    栄養精神医学は、⾷事・栄養・腸内環境が精神機能に及ぼす影響を解明し、標準治療を補完する学際領域である。本領域においては、精神症状を脳の局所的異常としてではなく、全⾝機能の統合的な結果として捉える視点が重要となる。栄養状態と精神症状の関連を⽰す報告もあり、 精神機能が⽣化学的基盤の影響を受けることが⽰唆されている1),2)。腸脳相関(gut–brain axis)を中核概念とし、「全⾝から精神を診る」視点を提⽰するとともに、腸管バリア、炎症、微⽣物叢、粘膜免疫、栄養代謝、⽣活習慣を統合的に捉え、腸内環境に対して包括的に介⼊する実 践的枠組みを⽰す。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 230-244
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]統合失調症では、陰性症状、認知機能障害、薬剤性副作⽤、⽣活機能低下、⾝体疾患リスクが重なり、⾷⾏動の偏りや消化管症状が⾒逃されやすい。便秘、腹部膨満、⾷欲低下、慢性下痢、胃もたれなどは、患者本⼈から⾃発的に訴えられにくく、鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンD の不⾜または利⽤低下として臨床上問題化することがある。

    [⽬的]本稿では、統合失調症診療において⾒逃されやすい消化吸収障害を、鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンD の評価を中⼼に整理し、精神科外来で使⽤可能な問診、検査、解釈、介⼊⼿順と、多職種で⽀える栄養・消化管ケアの考え⽅を提⽰する。

    [内容]鉄⽋乏は疲労、集中困難、易刺激性などと臨床的に重なりうるが、フェリチンは炎症の影響を受けるため、⾎算、MCV、⾎清鉄、TIBC、TSAT、CRPと合わせて解釈する必要がある。亜鉛は味覚、⾷欲、⽪膚症状、創傷治癒と関連するが、⾎清亜鉛のみで体内状態を断定することはできない。マグネシウムは神経筋機能、電解質、便通、薬剤相互作⽤の観点から重要であるが、統合失調症症状への直接効果については確⽴した根拠が乏しい。ビタミンDは⾻、筋⼒、⽇光曝露、⾝体活動、代謝リスクの観点から評価する意義があるが、補充による精神症状改善効果は⼀貫していない。

    [結論]統合失調症患者における疲労、意欲低下、認知機能低下、⾝体活動低下、⾝体不調は、精神症状、薬剤性副作⽤、⽣活機能低下のみならず、消化吸収障害や栄養⽋乏によって修飾されている可能性がある。精神科臨床では、⾷事内容、便通、消化器症状、服薬、⾝体疾患、⾎液検査を組み合わせて評価し、医師、看護師・訪問看護、薬剤師、管理栄養⼠、精神保健福祉⼠などが役割を分担し、必要に応じて内科・消化器内科と連携する多職種アプローチが望ましい。便通や腸内環境への配慮を含む多職種の⾷事⽀援は、標準治療を補完する補助的⽀援となりうる。

  • 奥平 智之
    2026 年2 巻1 号 p. 245-277
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]メンタルヘルス領域では、抑うつ・倦怠感・不眠・易怒性・認知機能低下といった⾮特異的な症候が、気分症や不安症の中核症状であると同時に、鉄・亜鉛・マグネシウム・ビタミンD・ビタミンB 群などの栄養素不⾜、⾎糖変動、腸内環境の乱れ、慢性炎症といった⾝体的要因によっても修飾されうる。これらはヘモグロビンや⼀般的な⾎液検査が基準範囲内に⾒える場合を含め、標準的な精神科診断で⾒落とされやすく、問診から採⾎検査への適切な導線は⼗分に体系化されていないのが現状である。

    [⽬的]本稿は、問診を起点に⾝体・栄養要因を拾い上げ、検査オーダーへ橋渡しする奥平式栄養精神医学チェックリスト(10領域・計150項⽬)を提⽰し、その背景にある⽣化学的機序と臨床エビデンスを、相関と因果を区別しつつ批判的に整理することを⽬的とする。

    [内容]各領域は上流(原因・⽣活習慣)8 項⽬と下流(⾝体症候)7 項⽬の対⽐で構成し、下流の⾝体症候から上流要因を遡って評価する運⽤を想定した。神経伝達物質合成の補因⼦、ミトコンドリアのエネルギー代謝、神経炎症、腸脳相関、視床下部−下垂体−副腎系などの機序を、確⽴した知⾒と仮説段階を区別して記述した。⾷事パターンや⼀部の栄養素では介⼊研究やメタ解析が存在するが、効果量は概して中等度以下であり、効果はベースラインの⽋乏者で明瞭になりやすい。観察研究の相関と介⼊研究の因果は明確に区別する必要があり、バイオマーカーの是正が必ずしも症状改善に直結しない点にも留意した。例えば、ホモシステイン低下が認知機能改善に結びつかない事例や、鉄補充における無作為化⽐較試験と前後⽐較の効果量の乖離が挙げられる。

    [結論]本チェックリストは診断ツールではなく、⾒逃されやすい治療可能な要因を拾い上げるトリアージ補助であり、標準的精神科医療を補完するものである。鉄⽋乏のスクリーニングや⾷事の質への配慮など現時点で妥当な対応と、効果を過⼤評価すべきでない領域を区別して運⽤することが要点である。多職種連携のもとで⽤い、本ツールの計量⼼理学的検証と栄養介⼊の予後への効果を検証する前向き研究が今後の課題である。それまでの間、本ツールは問診と多職種連携の構造化に資するものであり、ルーチンのサプリメント投与を正当化するものではない。

症例シリーズ
  • 原 成輝
    2026 年2 巻1 号 p. 278-287
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]薬物療法に⼗分反応しない癇癪や不登校を呈する⼩児において、⾎糖動態の変動が症状に関与する可能性を検討した症例シリーズである。

    [症例]症例1は、⾃閉スペクトラム症と診断されている12歳男児であり、⼊眠まで数時間を要する重度の⼊眠困難と⽇中の激しい癇癪を反復していた。朝⾷はパンのみ、⼣⾷は素ラーメン中⼼という炭⽔化物偏重の⾷事であった。低⾎糖が疑われる時間帯に症状が集中していたため、⼣⾷の麺を⾖由来麺へ変更し、⾁や卵を追加するなど主⾷量および栄養構成を調整したところ、数⽇で⼊眠困難が改善し、起床時のぐずりおよび⽇中の癇癪頻度も明らかに減少した。症例2は対⼈過敏と登校渋りを呈した⼩学5年の男児で、⼣⾷後にケーキを1ホール摂取する習慣があった。菓⼦摂取を中⽌し主⾷量を⾒直したところ、不安感および突発的な怒りは速やかに軽減した。症例3は起床困難、頭痛、⽴ちくらみを伴う中学1年⽣男児で、朝⾷後数⼗分で腹痛や冷汗、強い眠気が出現していた。⼣⾷後の⼤量菓⼦摂取を中⽌し⾷事内容を調整したところ、⽇中の眠気と起床困難が改善し、継続的な登校が可能となった。

    [結論]3 例において⾷事内容調整後に症状改善を認め、⾎糖動態異常の関与が⽰唆された。薬物療法抵抗性⼩児症例における評価視点として⾎糖動態を検討する臨床的意義が考えられた。

  • 伊藤 隆
    2026 年2 巻1 号 p. 288-291
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    現代⽇本において漢⽅診療は⻄洋医学治療の困難な様々な分野で使⽤されているが、鉄⽋乏症と亜鉛⽋乏症における治療効果が低下していることは知られていない。貧⾎例と⾮貧⾎例の鉄⽋乏症2 例を提⽰する。貧⾎を伴わない鉄⽋乏症は、倦怠感、息切れ、動悸、めまい、咽喉頭異常感等の症状があっても、⼤半の症例は診断されていない。フェリチン値の正常値が正しく認識されていないのである。亜鉛⽋乏症では⽪膚、粘膜の脆弱に関連した症状を呈する症例が多い。亜鉛製剤に反応する例は演者の経験では⾎清亜鉛値低下例の約2 割程度である。亜鉛製剤により関節痛と紅斑が改善した例と頭痛薬内服量の減少により亜鉛値が回復した例を提⽰する。原因としては、栄養不良(含鉄⽋乏)、下痢、発汗過多、⻄洋薬の⻑期服⽤があるが、不明も多い。亜鉛⽋乏症においては原因の検討が重要である。

  • 橋本 進⼀
    2026 年2 巻1 号 p. 292-302
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [緒⾔]⽚頭痛は⽇本で約1,000 万⼈が罹患する⼀次性頭痛である。治療は進歩したが対症療法が中⼼である。鉄やビタミンD との関連は報告されているが⼀定の⾒解はなく、⽇本⼈に多いビタミンD ⽋乏を踏まえた検討が必要である。

    [症例1]39 歳⼥性。⾮貧⾎性鉄⽋乏(フェリチン16.2 ng/mL)とビタミンD ⽋乏(25(OH)VD 17.6 ng/mL)を伴う。鉄補充と半夏⽩朮天⿇湯で部分改善後、25(OH)VD を40 ng/mL 以上に維持すると⾮⽣理期⽚頭痛と⽉経前症候群(PMS)がほぼ消失。

    [症例2]39 歳男性。鉄は充⾜していたがビタミンD 低値(25(OH)VD 26.6 ng/mL)を認めた。精神症状は漢⽅治療で安定後、ビタミンD 2000 IU/⽇投与により25(OH)VD が40 ng/mL 以上となり、⽚頭痛はほぼ消失しトリプタンは不要となった。

    [症例3]75 歳⼥性。NSAID 多⽤の慢性⽚頭痛例。呉茱萸湯は著効したが肝障害で中⽌。重度ビタミンD ⽋乏(25(OH)VD 13.4 ng/mL)に対し3000 IU/⽇まで増量し47.7 ng/mL に達した時点で、予防薬なしで発作はほぼ消失。

    [結論]本症例では、有経⼥性において鉄⽋乏を評価し鉄補充およびビタミンD 補充を併⽤し、閉経後⼥性および男性ではビタミンD 補充後に⽚頭痛発作頻度の低下を認めた。⾎清フェリチン50 ng/mL 以上、25(OH)VD 40 ng/mL 以上に到達した時点で症状改善がみられた。ビタミンD 補充は、⽚頭痛診療における補助的選択肢として検討され得る。

症例報告
  • 秋根 良英
    2026 年2 巻1 号 p. 303-313
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景] 思春期⼥性では成⻑と⽉経による鉄需要の増加から潜在的な鉄⽋乏を来しやすく、栄養精神医学の観点から気分変動や焦燥感などの精神症状の⼀因となり得る。

    [症例] 17 歳⼥性。気分の変動、焦燥感、無気⼒、頭痛、起床困難、学業成績低下を主訴に受診。ヘモグロビン13.8 g/dL と貧⾎は認めなかったが、フェリチン11.1 ng/mL と著明な鉄⽋乏を認め、まず経⼝ヘム鉄を増量したものの、消化器症状のため継続困難。このためカルボキシマルトース第⼆鉄500 mg を2 回静注し、フェリチンは365.2 ng/mL まで上昇、気分変動・焦燥感・朝の起床困難など⽣活機能は劇的に改善した。その後フェリチンが28.9 ng/mL まで再低下した際にはデルイソマルトース第⼆鉄750 mg を分割静注し、フェリチン184.7 ng/mL への上昇とともに症状は再度速やかに改善した。経過中は動物性タンパク質の摂取強化の⾷事指導をした。

    [結論] 貧⾎を伴わない重度鉄⽋乏に対して、経⼝鉄剤が消化器症状のため継続困難や不応例では静脈鉄投与が有効であり、フェリチン値の動態評価は栄養精神医学的治療に必須である。

  • 細川 真⼸
    2026 年2 巻1 号 p. 314-323
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]即時型⾷物アレルギー児では、腸管過敏や腸管透過性亢進を背景に、情緒不安定や落ち着きのなさなどの精神・⾏動症状を呈することがあり、栄養精神医学の視点による⾷事調整が有効となる場合がある。

    [症例]学童期男児。乳幼児期より多種類の即時型⾷物アレルギーを有し、腹痛、不安感、感覚過敏、落ち着きのなさ、頻回の発疹・⼝内炎を認めていた。休校期間中の⾃然な⾷事変化を契機に⼩⻨・乳製品摂取が減少し、腹痛は数⽇で消失、数週間で情緒の安定を認めた。その後、グルテン・カゼイン制限、⾼タンパク⾷、ビタミンD・亜鉛・ビタミンB 群・グルタミン、プロバイオティクスを段階的に導⼊した。亜鉛値が改善し、尿中有機酸検査で⾼値であったアラビノースも低下した。WISC-IVでは全検査IQ が上昇し、⾔語理解および知覚推理の改善が顕著であった。

    [結語]単⼀症例であり因果関係を断定するものではないが、アレルギー体質や腸管機能の脆弱性を有する⼩児において、⾷事調整と適切な栄養介⼊が情緒・⾏動上の困難の軽減および⼼理検査指標の改善を⽀援し得る可能性が⽰唆された。

  • 鈴⽊ 康弘, ⽵野 良平
    2026 年2 巻1 号 p. 324-329
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]児童思春期の不登校や希死念慮では⼼理社会的要因に加え栄養要因が関与し得るため、⼼理師は栄養精神医学の視点が⽋かせない。

    [症例]17 歳⼥⼦。不登校、抑うつ気分、焦燥感、倦怠感、希死念慮を主訴に⼼理カウンセリング相談あり。⾷事は朝⾷⽋⾷と糖質偏重。氷⾷症。専⾨医療機関に精査を依頼。⾝⻑157c m、体重39kg、BMI15.8、Hb 11.6 g/dL、フェリチン<4.9 ng/mL、亜鉛 75 μg/dL、AST 19 U/L、A LT 9 U/L、TG 79 mg/dL であり、鉄⽋乏性貧⾎と診断された。クエン酸第⼀鉄100mg/⽇、ビタミンC600mg/⽇、総合ビタミン剤、ナイアシンアミド、BCAA を開始。同時に、動物性タンパク質を増やす⾷事指導を中⼼とした⼼理⽀援を⾏った。2 週で抑うつ気分、倦怠感が軽減し、約4 か⽉半で主訴と氷⾷症は消失して登校を再開し、Hb 14.5 g/dL、フェリチン 9.5 ng/mL へ改善した。

    [結論]⼼理⽀援の段階で早期に鉄⽋乏を疑い、医療連携したことで速やかに改善に⾄った⼀例である。児童思春期の不登校や希死念慮の事例において、⾷事歴とフェリチン等を含む栄養評価を⾏うことが有⽤である可能性が⽰唆された。

  • ⿑藤 知加
    2026 年2 巻1 号 p. 330-337
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]思春期の体位性頻脈症候群(POTS)や新型コロナウイルス感染後症状(Long COVID)では、栄養代謝や腸内環境の変化が起⽴性不耐、睡眠障害、認知症状の遷延に関連し得る。

    [症例]13 歳男性。⽇中の過眠傾向、全⾝倦怠感、起⽴時の動悸・息切れ、ブレインフォグ(思考緩慢・集中困難)を主訴。ASD とADHD の傾向を伴い、起⽴試験で⼼拍数上昇(HR+57 bpm)を認めPOTS と診断。初診時ALT 9 U/L、BUN 8.1 mg/dL、フェリチン37.9 ng/mL。鉄・ビタミンB 群に加え、⿂油、ビタミンD・A・C、CoQ10 を補給し、X 年8 ⽉の25(OH)D は23.2 ng /mL。さらにグルテン/カゼイン約7 割減、朝光曝露、酪酸塩600 mg/⽇、N-アセチルシステイン500 mg/⽇、アルファリポ酸100 mg/⽇、亜鉛カルノシン16 mg/⽇、マグネシウム400 mg/⽇を追加し、同年10 ⽉にHR+45 bpm となり登校可能となった。COVID-19 罹患後に再燃したが、タンパク質増量、野菜・キノコ摂取、乳製品制限、補⾷導⼊に加え、クルクミン300 mg/⽇と抑肝散エキス7.5 g/⽇を⽤い、睡眠が安定し再度登校可能となった。

    [結論]多⾯的な栄養および⽣活調整を含む介⼊の経過において、思春期POTS とLong COVID に関連する⾃律神経症状および⽣活機能の変化が時間的に対応して観察された。

  • 今野 裕之
    2026 年2 巻1 号 p. 338-342
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]アルツハイマー病は多因⼦性であり、遺伝的素因に加えて栄養不⾜・糖代謝異常・環境要因など可逆的要因を評価し、多⾯的に介⼊することが重要である。

    [症例]59 歳⼥性。軽度認知障害を呈し、MMSE 27 点、NCI 10 点で受診。APOE ε3/ε4、ホモシステイン 13.7μmol/L、25OH ビタミンD 11.1ng/mL などの栄養関連異常やHOMA-R1.93 の糖代謝異常を認めた。ReCODE protocol(リコード法)に基づき、低GI ⾷・12 時間絶⾷・砂糖およびグルテン/カゼイン制限、タンパク質1.5g/⽇以上の摂取を指導し、ビタミンB 群・ビタミンD・鉄・α リポ酸などの補充、週3 回の有酸素運動、睡眠衛⽣指導、有害物質対策(空気清浄機、浄⽔器、エアコン清掃)を⾏った。6 か⽉後、MMSE では24 点と低下したが、NCI は89 点へ著明に改善し、ホモシステイン8.3μmol/L、25OH ビタミンD 66.4ng/mL など複数指標が改善した。

    [結論]軽度認知障害に対し、遺伝的素因と可逆的要因を評価した多⾯的な介⼊後、複数の認知機能指標に変動が認められた。

  • 藤脇 聡
    2026 年2 巻1 号 p. 343-347
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]亜鉛⽋乏症と味覚障害については広く知られるところではあるが、実際の臨床現場では⾒過ごされていることが多い。

    [症例]84 歳、⼥性。アルツハイマー型認知症に被毒妄想とそれに伴う拒⾷、拒薬を認め⼊院治療を⾏った。⼊院中の本⼈の嗜好から味覚障害を疑い⾎清亜鉛を測定したところ40μg/dL と著明な低下を認めた。硫酸亜鉛の内服を併⽤することにより被毒妄想は消失し、精神症状も改善し向精神薬の減量も⾏うことができた。

    [結論]認知症疾患において拒⾷、拒薬や被毒妄想などの症状はBPSD と判断され向精神薬による薬物療法を⾏われることが多い。しかしその背景には栄養学的な異常が存在している可能性もあり、今回は亜鉛⽋乏症からの味覚障害が毒という表現をもって妄想という形で出現しており、拒⾷にもつながっていた。⾼齢者は基礎疾患も多く常に栄養学的視点をもって診察にあたることが重要と考えられる。

  • ⼤森 みさき
    2026 年2 巻1 号 p. 348-355
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⾼齢者では慢性疼痛や活動性低下を契機に抑うつ気分と⾷欲低下が⽣じ、低栄養を伴う悪循環に陥ることがあり、栄養精神医学の視点からの実践的介⼊が求められている。

    [症例]73 歳独居⼥性。関節リウマチ発症後、抑うつ気分と意欲低下を主訴とし、6 か⽉で約10kg の体重減少を認めた。介⼊時、体重47kg、BMI19.1、簡易栄養状態評価(MNA-SF)5 点、⽼年期うつ評価尺度(GDS-15)8 点、サルコペニア簡易スクリーニング(SARC-F)8 点、⾎清アルブミン 3.2g/dL、CRP 7.08mg/dL であった。⻭科メインテナンス通院の場で管理栄養⼠と連携し、⾼エネルギー経腸栄養剤187.5mL/⽇と、調理負担の少ない⾼タンパク⾷品を中⼼とした⾷事提案を継続した。介⼊後、体重57kg、BMI 23.1、MNA-SF 13 点、GDS-15 2 点、SARC-F 3 点、⾎清アルブミン 4.0g/dL へ改善し、抑うつ気分の軽快とともに栄養剤は中⽌可能となり、その後も再悪化を認めなかった。

    [結論]⻭科メインテナンスを基盤とした多職種による栄養精神医学的介⼊は、⾼齢独居関節リウマチ患者における抑うつ気分と低栄養の改善に関連する可能性が⽰唆された。

  • ⼀杉 剛央
    2026 年2 巻1 号 p. 356-360
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]認知症では中核症状に加え、アパシーや⾷欲低下などの⾏動⼼理症状が⽣活機能を⼤きく損なう。⾼齢者では味覚異常や微量ミネラル不⾜が併存しやすく、栄養精神医学の観点からの評価が重要である。

    [症例]80 歳代⼥性、アルツハイマー型認知症。橋右側脳梗塞後の尿路感染症治療を契機に、⾷思不振および意欲低下が増悪した。初診時、⾝⻑145 cm、体重44 kg、体格指数(BMI)21、M ini-Mental State Examination(MMSE)5/30 点、⾎清アルブミン2.8 g/dL、⾎清亜鉛65 μg/dL と低亜鉛⾎症を認めた。味覚異常を背景とした⾷思不振を疑い、抗認知症薬の導⼊に加えてポラプレジンク150 mg/⽇を追加したところ、2 週間で⾷事摂取量は0〜2 割から10 割へ改善し、活気および表情の回復を認めた。

    [結論]認知症患者に⾷思不振とアパシーを認める場合、味覚症状と⾎清亜鉛などの栄養関連指標を評価し、亜鉛補充を含む介⼊を検討することが⽰唆された。栄養精神医学的介⼊はポリファーマシー抑制にも寄与し得る実践的な治療選択肢である。

  • 淵脇 仁美
    2026 年2 巻1 号 p. 361-366
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]独居の認知症⾼齢者では、タンパク質、ビタミン類、ミネラルの不⾜が、意欲低下や不安焦燥を増悪の要因となり、在宅医療における栄養精神医学的介⼊の意義が注⽬される。

    [症例]82 歳⼥性アルツハイマー型認知症、独居。強い不安、頻呼吸、喉のつかえ、摂⾷低下を呈した。医師と連携して、訪問看護師として3 か⽉間の⾷事療法中⼼の栄養介⼊を実施した。タンパク質強化、低糖質、鉄・亜鉛・ビタミンB 群・ビタミンD の補給、イヌリン・整腸剤を導⼊し、体重は38 kg から42kg、フェリチンは5.9 ng/mL から14.9ng/mL、ALP 54 U/L から80U/L、 25(OH)ビタミンD は22 ng/mL から56ng/mL へ改善し、栄養状態の回復とともに、味覚、喉のつかえ感、⾷⾏動、⽪膚乾燥、意欲低下、不安焦燥、睡眠リズムの改善を認めた。

    [結論]栄養療法による「⾷べる⼒」の回復は、認知症⾼齢者の在宅⽣活維持に寄与した。訪問看護による栄養精神医学的介⼊は、⽀援が届きにくい独居⾼齢者に対し実践的価値を持つと考えられる。

  • ⽩岩 恭⼀
    2026 年2 巻1 号 p. 367-372
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]精神症状の形成には、エネルギー代謝や腸内環境、メチレーション関連代謝等の⽣理学的要因が関与する可能性が⽰唆されている。

    [症例]27 歳⼥性。診断は、軽度知的障害に伴う精神病性障害、⽉経前不快気分障害。⽉経前に限局して、精神運動興奮、不安焦燥を認め、基盤となる幻聴・独語・空笑・疎通困難は、⽉経前に増悪。⽉経発来後には意欲低下あり。抗精神病薬と栄養補充への反応は限定的。初診時、有機酸検査ではアラビノース・シュウ酸・乳酸の⾼値およびアコニット酸低値を⽰し、腸内環境とミトコンドリア関連代謝の関与が⽰唆される所⾒あり。エネルギー代謝⽀持後、⽉経前を除く期間の精神症状は軽減し、抗精神病薬は⽉経前のみの使⽤へ減量。⽑髪ミネラル検査で有害⾦属代謝に関する所⾒を認めたため、抗酸化⽀援、肝代謝⽀援を⾏い精神運動興奮は減弱。さらに、メチル化関連代謝を標的とした栄養学的介⼊(5-MTHF、メチルコバラミン、トリメチルグリシン等)を試み、⽉経前増悪は消失し、抗精神病薬は中⽌とした。中⽌後7 ヶ⽉間、軽度の空笑と焦燥を⼀時的に認めた以外、再燃は認めず。

    [結論]⽣理学・⽣化学的評価に基づく段階的介⼊は、精神症状の重症度と出現様式に変化をもたらし、機能的転帰に影響を与えた可能性が⽰唆された。

  • ⼩林 真美, 児⽟ 奥博
    2026 年2 巻1 号 p. 373-378
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]統合失調症では糖尿病を合併しやすく、⽣活リズムや⾷習慣の偏りが治療経過に影響し得るため、栄養精神医学の観点から介⼊内容と経過を整理する。

    [症例]54 歳⼥性、統合失調症・糖尿病・不眠症。30 年以上外出機会なく家族による代理受診が継続し、X 年8 ⽉に訪問診療へ移⾏した。⾝⻑170cm、体重86kg、体格指数(BMI)29.8、⾎圧134/74mmHg。⾎糖262 mg/dL、HbA1c 11.8%、中性脂肪411 mg/dL。宗教的習慣に伴う起床時間のこだわりから1 ⽇2 ⾷が多く、麩菓⼦やチョコレート等の間⾷が多かった。⽉1 回の栄養指導を開始し、主⾷量調整、間⾷量の具体的提⽰、3 ⾷化できる⽇の増加を指導し、⾷事準備は⾷品交換表を⽤いて家族中⼼とした。X 年10 ⽉の再検でHbA1c 10.6%。外部職員との定期的な接触が⽣じ、親戚に会うことや⾳楽ライブ参加など外出に関する発⾔がみられた。

    [結論]統合失調症の⻑期外出困難例において、糖尿病に対する⾷事調整と多職種による継続⽀援が、⾏動⾯の変化と関連する可能性が⽰唆された。

  • 並河 康浩
    2026 年2 巻1 号 p. 379-383
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]統合失調症では慢性的な精神症状に加え、糖質偏重・タンパク質不⾜などの栄養不良が、神経伝達物質合成や⾎糖調節を介して意欲や思考⼒の低下・感情調整不良を助⻑しうる。栄養精神医学では、⾷事内容の是正が症状安定化に寄与することが報告されている。

    [症例]63 歳男性、統合失調症。⻑期に⽢味飲料・菓⼦・炭⽔化物中⼼で、タンパク質・微量栄養素が著しく不⾜していた。X 年より⾷事改善指導とビタミンC、鉄、ビタミンB 群、DHA/EPA、ミネラル等の補給を開始した。X+1 年より意欲・会話量が改善し、X+2 年には⾎糖値スパイクによる不調を⾃覚し⽢味摂取を控えるなど⾃⼰調整⼒が向上。X+3 年には⾃発性・判断⼒・社会的配慮が回復した。

    [結論]⻑期の偏⾷が精神症状を増悪させる可能性を⽰し、⾷事および栄養補給の体系的⽀援が統合失調症の機能改善に有効であることを⽰唆した。

  • 松本 かずみ
    2026 年2 巻1 号 p. 384-389
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]精神疾患患者では栄養摂取の偏りが精神症状や焦燥感に関連し得るため、栄養精神医学の観点から多職種による介⼊が重要である。

    [症例]40 歳代⼥性、統合失調症。肥満症(BMI 31.2)、脂質異常症、⾼⾎圧、腎機能障害を併存し、対⼈ストレス時に糖質過剰摂取と強い焦燥を呈した。初診時、中性脂肪 277 mg/dL、フェリチン 25 ng/mL、⾎清鉄 45 µg/dL であった。栄養⼠は7 回の指導で、⾼糖質の間⾷・清涼飲料⽔の制限、タンパク質と鉄を中⼼とした⾷事、緑⻩⾊野菜や⾷物繊維によるビタミン補給、歩⾏量増加を提案した。指導後、⾎清鉄 86 µg/dL、フェリチン 37 ng/mL、中性脂肪 173 mg/dL へ改善し、焦燥感は軽減した。体重は70.3 kg から69.4 kg へ減少し、患者は学⽣時代に好んでいた⾛⾏を再開した。

    [結論]統合失調症におけるストレス関連の⾷⾏動には、鉄関連指標や⾷事内容を評価し、栄養⼠を含む多職種で具体的な⾷事調整と⾏動⽬標を設定することが有⽤である可能性が⽰唆された。

  • 袴⽥ 拓
    2026 年2 巻1 号 p. 390-394
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⼩腸内細菌異常増殖症(SIBO)は腹部症状に加え、鉄・亜鉛・ビタミンD 不⾜を介して精神症状を伴うことがあり、その疾患概念の理解は臨床医にとって重要である。

    [症例]42 歳⼥性。腹痛・⾷後腹部膨満感・便秘が1 年持続し、不眠と抑うつ気分を合併した。精査で器質的異常なく受診し、初診時フェリチン7 ng/mL、亜鉛74 μg/dL、25(OH)D 15.6 ng/mLであった。低FODMAP ⾷を導⼊し、H2 ブロッカーを中⽌、ウルソデオキシコール酸600 mg/⽇を開始し、カルボキシマルトース第⼆鉄500 mg を2 回静注、ポラプレジンク150 mg およびビタミンD 2,000 IU/⽇を追加した。腹部症状が先⾏して軽減し、約半年で不眠と抑うつ気分の消失を認め、フェリチン55 ng/mL、亜鉛84 μg/dL、25(OH)D 31.5 ng/mL へ改善した。

    [結論]腹部症状に精神症状を伴う症例においては、SIBO を鑑別に挙げ、栄養関連指標を評価したうえで、⾷事調整および栄養素⽋乏の是正を含む栄養精神医学的介⼊を検討することの重要性が⽰唆された。

  • 内⼭ 睦美
    2026 年2 巻1 号 p. 395-400
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⻭科領域の慢性症状や⽣活機能低下の背景に栄養不⾜が関与し得る点は、引きこもり状態を伴う症例においても栄養精神医学の観点から臨床的意義がある。

    [症例]24 歳⼥性。開閉⼝時クリック⾳を主訴に受診し、⾝⻑155cm、⾆圧18.4kPa、⾆・頬粘膜に⻭⽛圧痕、⾅⻭部にC1〜C2 カリエス、⾅⻭部⻭周ポケット4〜5mm でプロービング時出⾎多数を認めた。⾷事は春⾬スープや菓⼦類が中⼼で⾁・⿂・野菜摂取はほぼなく、午前3 時頃就寝・昼頃起床の昼夜逆転と外出頻度低下を伴う引きこもり状態を呈していた。⾼タンパク質の⾷⽣活とエナジードリンク制限を含む⾷事指導を⾏ったところ、8 週で⻭⾁出⾎は減少し⻭周ポケットは2〜3mm へ改善し、睡眠リズムの正常化と就労(アルバイト開始後に正社員)を認めた。

    [結論]顎関節症や⻭周組織所⾒を⼿掛かりに、引きこもり状態を含む⽣活背景と⾷事内容を評価し⾷事介⼊を⾏うことが、⽣活機能の改善に寄与する可能性が⽰唆された。

  • 福⽥ ⾐⼦, ⼤⽥ 静⾹
    2026 年2 巻1 号 p. 401-407
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]パニック障害では予期不安や回避⾏動により⽣活機能が低下しやすく、栄養精神医学の観点からも⽣活状況や⾷事内容を含めて評価することが重要である。

    [症例]69 歳男性。呼吸困難感を伴う不安発作および予期不安を主訴に受診し、パニック障害と診断した。慢性閉塞性肺疾患あり。初診時の体重は48 kg で、⾷事は1 ⽇1〜2 回程度で⾷欲不振。Hb 14.6 g/dL、フェリチン117 ng/mL、CRP 0.03 mg/dL、中性脂肪 64 mg/dL。薬物療法は困難であり、外来診療と訪問看護の連携のもと、タンパク質・ビタミンB 群・亜鉛を含む⾷事改善を軸とした⽣活環境介⼊を⾏った。訪問看護導⼊2か⽉後には体重は51 kg となり、発作の頻度低下、短時間散歩の継続、睡眠および⽇中活動量の変化を認めた。4 か⽉後には発作は減少し、活動範囲の拡⼤がみられた。

    [結論]パニック障害において、外来診療と訪問看護の連携のもとで⽣活状況と⾷事内容を継続的に把握し、⾷事調整を含む⽀援を⾏うことは、症状経過を評価する上で有⽤な視点となる可能性が⽰唆された。

  • 坂⼝ 妙⼦
    2026 年2 巻1 号 p. 408-416
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⾎糖変動は動悸・めまい・中途覚醒などの⾃律神経症状を増悪させる可能性がある。しかし⽇常⽣活下の変動は従来の検査では把握が難しい。持続⾎糖測定は⾎糖変動の時間的パターンを可視化でき、症状との関連評価や⾏動変容⽀援に有⽤性が報告されている。

    [症例]40 代⼥性。対⼈ストレス後の感冒様症状を契機に下痢、腹部膨満、不眠、動悸、発作様の不安が出現し、⾷欲低下が持続した。症状は⾷事前後や夜間に集中していた。初期介⼊では改善が限定的であったが、持続⾎糖測定により昼⾷後の⾎糖スパイク(最⾼246 mg/dL)と夜間相対的低⾎糖(50〜70 mg/dL)が明らかとなった。これを基に糖質量と補⾷時刻の最適化、⾷後の短時間歩⾏、就寝前の糖質・中鎖脂肪酸・必須アミノ酸補給、漢⽅薬の時刻調整など段階的な⽣活・栄養介⼊を⾏い、中途覚醒・動悸・不安の改善を認めた。

    [結論]持続⾎糖測定による⾎糖変動の可視化は、症状理解と⾏動変容を⽀援し、個別化された⽣活・栄養介⼊の検討に資する可能性がある。本症例は、⾎糖変動の是正と症状の改善が時間的に関連した可能性を⽰す仮説提案型の症例報告であり、⽇常診療での位置づけは今後の検証を要する。

  • ⽑利 有⾹
    2026 年2 巻1 号 p. 417-423
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]抑うつ不安状態では、鉄やタンパク質を含む栄養状態の偏りが症状に関連する可能性があり、栄養精神医学の観点から⾷事内容を評価する意義は⼤きい。

    [症例]40 歳代⼥性。うつ病、パニック障害。抑うつ気分、易疲労、不安、不眠、予期不安、呼吸困難感を認めたが、抗うつ薬は悪⼼により継続困難。1 ⽇推定鉄摂取量20 mg 以上、タンパク質は体重×1.5 g/⽇以上を⽬標に、主⾷の⽶への変更、補⾷導⼊、カフェイン調整を含む⾷事介⼊を開始した。約3 週間で便通は3〜7 ⽇に1 回から毎⽇に改善し、介⼊6 か⽉後、ヘモグロビン13.5 g/dL、フェリチン20.7 ng/mL。8 か⽉後には抑うつ0/10、不安1/10、疲労2/10、睡眠障害0/1 0 となり、不眠と予期不安は消失した。

    [結論]精神症状を呈する患者では、⾷⽣活と栄養状態の評価を⾏い、鉄およびタンパク質摂取を含む⾷事内容の改善を検討することが有⽤となる可能性が⽰唆された。

  • ⻲坂 まゆみ
    2026 年2 巻1 号 p. 424-430
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]栄養精神医学では栄養・代謝因⼦と精神症状の関連が注⽬されるが、サプリメント継続が困難な症例での介⼊設計は整理が不⾜している。

    [症例]40 歳代⼥性、気分変調症。抑うつ気分、易疲労感、不安焦燥感を主訴。初診時総タンパク6.7 g/dL、ヘモグロビン11.8 g/dL、フェリチン42.4 ng/mL、25(OH)ビタミンD 17.0 ng/mL、体格指数(BMI)19.9 であった。鉄・亜鉛・ビタミンB 群・ビタミンD 補充は⼼理的抵抗感と家族要因で中断し、⾼タンパク⾷と鉄含有⾷品(レバー等)を中⼼に⾷事を調整した。X+1 年にフェリチン59.3 ng/mL、ヘモグロビン13.0 g/dL となり抑うつ気分と易疲労感が軽快した。X+5 年に持続⾎糖測定で夜間から朝⾷前の低値傾向を確認し、補⾷導⼊後に不安焦燥感が軽減した。X+9 年8 ⽉に総タンパク7.6 g/dL、ヘモグロビン12.9 g/dL、フェリチン110.5 ng/mL、SDS(Self-ra ting Depression Scale:抑うつ⾃⼰評価尺度)24 点となり症状は寛解した。

    [結論]サプリメント継続が困難な場合でも、⾷事⾏動の具体化と検査指標の追跡を組み合わせた⻑期介⼊が症状改善と関連する可能性が⽰唆された。

  • 渡辺 綾
    2026 年2 巻1 号 p. 431-436
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]貧⾎のない鉄⽋乏が精神症状や⾃律神経症状に関連する可能性があるが、精神科の臨床現場では⼗分に評価されていない現状がある。

    [症例]26 歳⼥性。思春期以降に抑うつ、不安、パニック発作、反復性失神を呈し、うつ病、パニック障害の診断のもと、エチゾラムなどの向精神薬を服⽤していたが、他の医療機関を受診。初診時、⾝⻑161cm、体重47kg、BMI 18.13、⾎圧90/68mmHg、倦怠感、冷え、抜け⽑、不眠、便秘、⾷欲なし。Hb 14.3 g/dL と貧⾎はないが、フェリチン11.2 ng/mL と低値であったため、硫酸鉄製剤105mg 2 錠/⽇とアスコルビン酸製剤200mg/⽇で補充の継続を⾏った。鉄補充開始後まもなく失神は消失し、その後フェリチンは58.9 ng/mL まで上昇し、抑うつ・不安も段階的に軽減し、向精神薬も不要となった。⻑期経過ではフェリチン150 ng/mL 前後で推移し、精神症状の再燃を認めていない。

    [結論]反復性失神や抑うつ不安症状を呈する症例では、Hb のみでなくフェリチンを含む鉄代謝評価を⾏い、指標の推移を確認しながら栄養学的介⼊を検討することが⽰唆された。

  • ⼩泉 智裕
    2026 年2 巻1 号 p. 437-443
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]抑うつ不安状態では薬物療法に加え、⾷事内容を具体化した介⼊が臨床上の選択肢となり得る。

    [症例]32 歳⼥性。不安感、過呼吸、抑うつ気分、不眠、⽉経前症候群を呈し、⽣活負荷が軽い時期でも症状が持続した。介⼊時、主観的苦痛Numeric Rating Scale(NRS)9、PHQ-9 24 点、GAD-7 18 点。⾷⽣活は⽢味・⼩⻨・乳製品・加⼯⾷品が多く、タンパク質・発酵⾷品・⾷物繊維が不⾜していた。そこで⾷事内容を①精製糖質を減らしおかずを増やす②⼩⻨・乳製品を完全除去③1 ⾷20〜25g のタンパク質確保(卵、⿂、鶏⾁、⼤⾖製品)④発酵⾷品(味噌、納⾖、ぬか漬け)を毎⽇1 品追加⑤野菜350g/⽇+⽞⽶1 膳で⾷物繊維を増量⑥⽔分を1.5〜2L/⽇に調整という形で導⼊。鍼灸療法と併⽤したところ、1〜2 週間で抑うつ不安状態が軽減し、翌⽉以降は⽉経前症候群の諸症状が⽬⽴たなくなった。約7 か⽉後にNRS1、PHQ-9 6 点、GAD-7 3 点となって服薬中⽌で経過観察となった。

    [結論]本症例では、栄養精神医学に基づく⾷事療法が鍼灸療法の効果を増強し、精神症状の改善に寄与した可能性が⽰された。

  • ⼩倉 直⼦
    2026 年2 巻1 号 p. 444-449
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⽉経前症候群(PMS)は抑うつ状態や情動不安定を⽣じやすく、⾷習慣や栄養素不⾜が増悪因⼦となる。栄養精神医学ではタンパク質・鉄・ビタミンB 群・⾎糖調整が情動安定に寄与するとされる。

    [症例]28 歳⼥性。希死念慮、抑うつ状態に加え、PMS 期の易怒性・感情失禁・過⾷衝動、倦怠感、起床困難を呈し、初診時AST 13 U/L、ALT 11 U/L、BUN 13 mg/dL と代謝低下傾向を⽰した。X 年9 ⽉から朝⾷を⽩湯・⾖乳で開始し、卵・納⾖・⿂などのタンパク質を毎⾷へ導⼊。⼣⾷の糖質単独摂取を中⽌し、ヘム鉄(10 mg×3/⽇)を投与開始した。X 年10 ⽉に抑うつ状態と易怒性が明らかに軽減。X 年11 ⽉にビタミンB 群を分割投与した。X 年12 ⽉から便秘悪化を受けて野菜量を増やし、⼩⻨・乳製品を制限。X+1 年1 ⽉よりビタミンD・C・E・DHA を追加し腸内環境が改善。3 か⽉で感情失禁・過⾷衝動・起床困難が⼤幅に改善し、X+1 年2 ⽉に希死念慮と⽉経前不調が消失した。

    [結論]段階的な⾷事再構築と微量栄養素補充によりPMS 関連症状が改善し、栄養精神医学的介⼊の有⽤性が⽰された。

  • 横部 旬哉
    2026 年2 巻1 号 p. 450-455
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]鉄⽋乏は慢性疼痛を増悪させ、炎症が併存すると鉄代謝が阻害され補充効果が乏しくなる。栄養精神医学では、鉄⽋乏と慢性炎症を同時に評価し介⼊することが重要である。

    [症例]40 歳代⼥性。掌蹠膿疱症性⾻関節炎により21 歳時から激しい全⾝痛が持続し、ビオチン療法やトリガーポイント注射でも改善に乏しかった。感冒を契機に疼痛の悪化と⿐閉を認め、上咽頭炎を疑い上咽頭擦過療法を実施したところ炎症が軽減し、ある程度疼痛・⼼⾝の不調が改善したが不⼗分であった。疲れやすさ・⽴ちくらみ・いらいらを伴い、⾎液検査でフェリチン低値を認め鉄⽋乏症と判断した。鉄サプリメントとビタミンB・C を併⽤し、亜鉛・マグネシウムなどの微量栄養素も補充した。以後、鉄補給と慢性炎症コントロールを並⾏することで症状はさらに改善し安定した。

    [結論]鉄⽋乏を伴う慢性疼痛では、栄養素補充のみならず慢性炎症の制御が症状改善に不可⽋である。栄養精神医学的評価は、疼痛と⼼⾝の不調の双⽅を改善する実践的アプローチとなる。

  • 越智 彩葵
    2026 年2 巻1 号 p. 456-462
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]慢性頭痛に焦燥感や倦怠感を伴う症例では、鉄摂取不⾜を含む栄養不均衡を評価する栄養精神医学的な視点が重要である。

    [症例]34 歳⼥性。頭痛、焦燥感、朝の起床困難、冷え、⾷後の眠気、便秘、⻭ぎしり、⽉経痛を認め、鎮痛薬を週4 回以上使⽤していた。⾝⻑160 cm、体重56 kg、体格指数(BMI)21.9 kg/m2で、朝⾷⽋⾷、⾼糖質⾷、夜間の加⼯⾷品摂取、タンパク質および鉄摂取不⾜が疑われたため、体重×1.6 g/⽇のタンパク質確保、鉄を多く含む⾷品の摂取、糖質調整に加え、ヘム鉄、ビタミンB 群、ビタミンC、ビタミンD、マグネシウムを導⼊した。頭痛は数値評価スケール(NRS)10 点から0.5 点、冷えは10 点から1 点、焦燥感と抑うつ気分はフェイススケール5 点から0 点となり、鎮痛薬は不要となった。

    [結論]慢性頭痛と焦燥感を有する⼥性では、⾷事内容、鎮痛薬使⽤頻度、症状スコアを経時的に確認しながら、タンパク質確保と鉄を含む包括的栄養介⼊を検討する意義が⽰唆された。

  • ⼭⼝ 孝⼆郎
    2026 年2 巻1 号 p. 463-467
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/10/07
    ジャーナル 認証あり

    [背景]⼝腔顔⾯痛の病態には疼痛調節機構と栄養状態が相互に影響することが知られており、栄養精神医学的視点からの評価が重要とされる。

    [症例]40 歳代⼥性。顎変形症⼿術後に外傷性三叉神経障害性疼痛および特発性⼝腔顔⾯痛を呈し、うつ病と⾷欲低下を併存していた。初期にはメコバラミン1500μg/⽇に加えて、神経障害性疼痛の治療および中枢性オキシトシン増加の可能性も考慮して、⼗全⼤補湯・桂枝加苓朮附湯・⽴効散(⼗味剉散の⽅意)を投与し、疼痛、知覚異常は改善が認められた。しかし、疼痛が再燃。AST 17 U/L、ALT 12 U/L、総タンパク 6.6 g/dL、BUN 6.0 mg/dL、総コレステロール 144 mg/dL、Hb 11.8 g/dL を⽰し、⾁類・野菜摂取の著しい不⾜が判明したため、タンパク質、ビタミンB 群、ビタミンC、マグネシウム、亜鉛の補給を中⼼とした栄養指導を併⽤。その結果、疼痛VAS は70 から19 に改善し、体重も41kg から43.2kg まで増加した。

    [結論]痛覚変調性疼痛を伴う症例では、漢⽅治療に加え栄養状態の適切な評価および栄養介⼊を併⽤することが有⽤と考えられる。

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