栄養精神医学
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総説
栄養精神医学における亜鉛 −抑うつ・不安・神経発達症との関連と臨床応⽤−
奥平 智之
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2026 年 2 巻 1 号 p. 81-101

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抄録

[背景]亜鉛は多くの酵素反応と神経伝達・免疫に関与する必須微量元素であり、⾷事性摂取の不⾜は世界⼈⼝の相当な割合に及ぶ。観察研究では、⾎清亜鉛の低値がうつ病をはじめとする精神症状の重症度と関連し、とくに重症例や⼊院例でその差が⼤きいと報告されている。亜鉛は精神科臨床で⾒落とされやすい修正可能な因⼦として注⽬される。

[⽬的]本稿は、亜鉛と精神症状との関連について、基礎・観察・介⼊・メタ解析の各証拠を確実性の段階を区別して整理し、想定される作⽤機序、⾎液検査の解釈を含む実践的な位置づけ、ならびに限界を明確にすることを⽬的とする。

[内容]亜鉛はNMDA受容体・GPR39・脳由来神経栄養因⼦・視床下部-下垂体-副腎系・炎症調節を介して気分制御に関与しうる。メタ解析では抑うつ群で⾎清亜鉛が有意に低く、補助的な亜鉛投与は抑うつ症状を軽減したが、効果量は⼩〜中等度で異質性が⼤きい。不安症・注意⽋如多動症・統合失調症でも亜鉛異常が報告されるが⼀貫しない。さらに、亜鉛⽋乏と銅過剰はそれぞれ別の経路で攻撃⾏動に寄与しうるが、知⾒は動物実験が中⼼でヒトでの因果は仮説の段階にとどまる。⾎液検査の解釈には注意を要する。⾎清亜鉛は中枢の亜鉛状態を直接には反映しない。炎症で肝へ再分布し、低アルブミン⾎症・⽇内変動・溶⾎でも変動するためであり、早朝空腹時に採⾎し、炎症指標・アルブミンと併せて読む必要がある。⾎清銅の⼤半が結合するセルロプラスミンは急性期蛋⽩で、炎症やエストロゲンで上昇する。炎症・加齢では銅亜鉛⽐が上昇し抑うつとの関連も報告されるが相関にとどまり、標準化されたカットオフはない。⾼⽤量亜鉛は銅⽋乏を招くため、亜鉛・銅・銅亜鉛⽐は背景因⼦と経時変化を踏まえて読む。実務への応⽤として、鉄と亜鉛の吸収競合を避ける「朝亜鉛・⼣鉄」プロトコルを⽤いた低亜鉛⾎症の20 歳代⼥性の成功例を提⽰する。

[結論]亜鉛⽋乏の同定と是正、および標準的精神科治療への補助は、潜在的⽋乏・治療抵抗性・⾼齢者で現実的な選択肢となりうるが、亜鉛は単独で標準治療を置き換えるものではなく、バイオマーカー異常が直ちに症状改善を意味するわけでもない。現時点で全症例への⼀律推奨を⽀持する段階にはなく、個別の栄養評価に基づく併⽤が妥当である。

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