2021 年 53 巻 2 号 p. 111-117
【目的】多言語環境にある小児の読み書き困難は, 学習機会の少なさといった環境要因が原因とされやすいが, 発達性読み書き障害や知的能力障害などに基づく場合もある. 本研究では, 日本語-英語のバイリンガル症例に両言語による基礎的な読み書き評価を適用し, 多言語環境児における発達性読み書き障害の評価・診断のあり方を検討した. 【方法】読み書きの困難を主訴として医療機関を受診した, 日本語-英語バイリンガル児4名に標準化知能検査, 英語の口頭言語能力評価, および両言語の基礎的な読み書き検査を実施し, DSM-5による限局性学習症の読字・書字表出困難の診断を行った. 【結果】全般的な知的発達水準と口頭言語能力は, 全例で正常範囲内にあった. 日本語の読み書き検査では, 症例1, 3, 4がひらがな読字から, 症例2が漢字で困難を示した. 学校言語が英語の2名では, アルファベットの呼称 (症例3) と英語の文章音読 (症例3, 4) にも重篤な困難が認められた. これらより, 症例1, 3, 4は読字および書字表出, 症例2は書字表出に特異的な困難がある発達性読み書き障害と診断された. 【結論】文字や単語の基礎的な読み書き検査は, 多言語環境児の診断的評価に有用であった. 複数言語での評価は実施面の課題が多いが, 中核症状である正確性・流暢性低下, および言語歴や学習時間等との乖離の把握により, 環境要因では説明しがたい生得的な限局性学習症を特定できる.