抄録
海綿類に存在する長鎖5, 9-ジエン酸は, 通常demospongic acidと呼ばれ, 非メチレン中断型脂肪酸 (non-methylene-interrupted Fatty Acid, NMI FA) のグループに属する不飽和脂肪酸の一つである。興味深いことに, これまでに数種類の長鎖5, 9-ジエン酸は, 抗癌剤標的酵素の一つヒトDNAトポイソメラーゼ1および熱帯熱マラリア原虫脂肪酸合成の鍵酵素エノイル-ACPレダクターゼに対して, in vitroで, それぞれ優れた阻害剤になることが報告された。しかし, 最近の研究では, サンゴやイソギンチャク類などの刺胞動物だけでなく, 最大構成グループの腹足類である軟体動物からも, 偶数鎖および奇数鎖からなる5, 9-ジエン酸が多数見いだされた。さらに, 腹足類 (Cellana grata, Collisella dorsuosa) や二枚貝類 (Megangulus zyonoensis, Perna canaliculus) には, 新規な構造を含むNMI FAおよびその位置異性体が豊富に存在することが明らかになった。本稿では, 海洋に生息する腹足類・二枚貝類から見いだされたNMI FAの構造 (5, 9, x-トリエン酸, 5, 9, x, y-テトラエン酸, および5, 9, x, y, z-ペンタエン酸) とその多様性ならびに生物学的役割などを含めて, 研究の現状とその課題について概説する。