変形しやすく柔軟な特性を有する高分子ソフトマテリアル(例えばハイドロゲル)の高弾性かつメンテナンスフリーな自己修復能などの高機能化のため,高分子内にホスト-ゲスト包接錯体として,光応答性のゲスト分子をホスト内に包接させた超分子架橋構造を導入した。本総説では,このような超分子形成を利用し,光に応答したハイドロゲルの粘弾性の制御に加え,水を媒体として得られる水性塗膜樹脂の自己修復機能に関する創出事例について紹介する。

角層は,体内の水分が体外へ蒸発することを制御し,外界からのさまざまな刺激が体内に侵入することを防ぐバリア機能と,角層自体に水分を保ち体内の水分を維持する水分保持機能を有する。このバリア機能や水分保持機能は,加齢や外気の乾燥などの影響で低下してしまう。
我々は,保湿機能をこれまで以上に高める成分開発を目指し,角層の保水力を維持する新たなアプローチとして,保湿剤としてクリームなどに広く利用されているワセリンに着目した。一般的にワセリンは極性が低く水に溶けない油性成分のため,皮膚浸透性は極めて低く,専ら皮膚表面を覆い水分の蒸散を防ぐことで保湿効果を発揮する。一方で接触やこすれなどで皮膚表面から取れやすく,効果が持続しないという課題がある。
今回開発したナノ化ワセリンは,粒子を約80nm以下のサイズに微細化した結果,角層への浸透性が大きく向上することが分かった。さらに,浸透後の保水効果や角層を膨潤させる作用があることも確認した。極性の低い炭化水素系の油性分子の皮膚浸透性は,これまで非常に低いと考えられていたが,ナノ化によって水系へ安定に溶解しテクスチャが向上するのみならず,保水効果との両立も可能となった。本研究により,ワセリンの新たな有用性が発見され,スキンケア製剤への応用の幅が広がった。

酵素は洗浄時に必要なエネルギーを削減しつつ,洗浄対象となる汚れを分解除去でき,また環境へ放出したとしても負荷が低いといった特性を有する。そのため,酵素を洗浄剤に配合することは,SDGsや環境配慮(ECO)の観点から重要な検討項目の一つとなっている。しかし,酵素配合製品においてその性能を十分に発揮させ,かつ製品の品質を維持することは容易ではない。たとえば,アミラーゼは水道水に消毒目的で添加されている塩素(次亜塩素酸ナトリウム等)の酸化作用により失活することが多い。そのため,アミラーゼを水道水で希釈すると,アミラーゼが失活し,米飯などのデンプン汚れに対して十分な洗浄力を発揮できなくなる。この酵素失活の問題を解決するには,塩素除去剤としてアミン化合物や還元剤を洗浄剤に配合し,塩素を不活化する必要がある。しかし,ほとんどのアミン化合物および還元剤には,酵素の保存安定性,洗浄剤の外観安定性,あるいは金属に対する腐食性などの点で何らかの欠点がある。本総説では,これらの課題を解決するために行った検討の結果について報告する。
