古くから『油』と『水』は相容れないものの代名詞とされている。そして,その仲立ちをしてきたのが乳化剤(界面活性剤など)である。そのため,『乳化剤を使用しなければ油と水は混ざり合わない』という考え方が長らく常識とされてきた。しかし,油と水の混合現象を追究し続ける中で,その常識は必ずしも常識ではないことに気付き始めた。適切な条件下では,乳化剤を用いなくても油と水が混ざり合い,安定なエマルションを形成することができる。本稿では,これまで非常識とされてきた『油と水だけで乳化する:乳化剤フリー乳化(エフィ)』」の実現性について紹介する。

脂質二分子膜は生体膜の基本構造であり,多様な生命現象の場として機能している。ナノディスクは,脂質二分子膜の平面性を保持したまま極限まで微細化された円盤状構造体であり,「最小の脂質二分子膜」とみなすことができる。両面が水相に露出した構造と高い分散安定性を有することから,膜タンパク質や膜活性分子の研究に用いられるモデル膜として発展してきた。近年では,薬物送達,分子イメージング,ワクチン開発などへの応用も期待されている。本稿では,リン脂質バイセルから膜骨格タンパク質(MSP)ナノディスク,高分子ナノディスクへと至るナノディスク研究の発展を概説するとともに,筆者らが開発した有機-無機ハイブリッドナノディスクおよび両親媒性ポリメタクリレート(PMA)を用いたポリマーナノディスクについて紹介した。有機-無機ハイブリッドナノディスクは,膜表面に形成されたシロキサンネットワークにより優れた構造安定性を示す。また,PMAナノディスクは高い分子設計の自由度を有し,ナノディスク形成能や機能の制御が可能である。さらに,アミロイド凝集抑制や薬物送達への応用例を紹介し,ナノディスクが機能性ナノ材料として発展していることを示した。今後,脂質科学と高分子科学の融合により,さらなる高機能化とバイオ応用の拡大が期待される。

グリセリンおよび尿素が皮膚角層の微細構造および水分恒常性に及ぼす影響について,高輝度放射光X線回折(XRD)を用いた研究を基に整理し,その作用機構の違いを比較した。ヒト角層を用いた湿潤・乾燥過程の時間分解XRD解析により,グリセリンおよび尿素はいずれも乾燥時における角層細胞内ソフトケラチンのコイルド・コイルαヘリックス鎖間隔の収縮を抑制し,結合水の保持を促進することが示された。特にグリセリンは尿素よりも高い抑制効果を示した。一方で,細胞間脂質の短周期ラメラ構造に着目した解析から,両ヒューメクタントは層間水の安定化を通じて脂質ラメラ構造の水分調整機能を強化することが明らかとなった。これらの結果より,グリセリンおよび尿素は,角層表面付近における約25 wt%の結合水の維持と,脂質ラメラ構造による水分制御機構の強化という二つの補完的な作用を通じて角層の水分恒常性を向上させると考えられる。特にグリセリンは,尿素に比べてより高い恒常性向上効果を有するヒューメクタントであることが示唆される。
