2021 年 64 巻 2 号 p. 92-100
蝶形骨洞は視神経管や海綿静脈洞に隣接し, 蝶形骨洞から炎症が波及すると, 激しい頭痛や嘔気をきたし, ときに髄膜炎や硬膜外膿瘍などをきたす。 今回われわれは, 海綿静脈洞に炎症が波及した急性蝶形骨洞炎の1例を経験したので報告する。
症例は47歳女性。 激しい頭痛, 熱発を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診した。 CT, MRI にて左蝶形骨洞に軟部濃度陰影を認め, 精査・加療目的に当科に救急搬送となった。 画像精査で急性蝶形骨洞炎の炎症が左海綿静脈洞に波及したものと考えられ, 同日当科に緊急入院し, 抗菌薬投与を開始した。 入院翌日も症状の改善を認めず, 蝶形骨洞のドレナージ目的に内視鏡下鼻内手術を施行した。 術後, 複視や髄膜炎などの後遺症もなく経過し, 第17病日に退院となった。
海綿静脈洞への炎症波及は, 早期の診断と治療が予後を左右する。 激しい頭痛や眼球運動障害を認めた場合には, 早急に造影 CT や MRI などの画像精査を行い早期診断し, 手術加療によるドレナージだけでなく, 原因菌を同定し, 適切な抗菌薬の投与を行うことが非常に大切である。