ポリカチオンの一つであるポリモアルギニン (poly-L-Arg) の高分子医薬品の経鼻吸収促進メカニズムを電気生理学的手法および免疫抗体法により検討した。家兎摘出鼻粘膜にポリ-L-アルギニンを適用すると, 自発的膜電位 (PD) および短絡電流 (Isc) は一過性に上昇し, その後減少した。阻害実験からこの初期の自発的膜電位および短絡電流の一過性の上昇は, ポリーレアルギニンによるモデル高分子薬物のFD-4の透過の促進とは関係していなかった。ポリ-L-アルギニン適用後の自発的膜電位および短絡電流から計算した経上皮電気抵抗 (TEER) は, 自発的膜電位および短絡電流の減少に伴い減少し, これに一致するようにFD-4の透過は増加した。この現象を種々の阻害剤を用いて調べ, また免疫抗体法によりtight junction関連タンパク質 (ZO-1, occludin) を染色した結果, メカニズムの一部は, カルシウム非依存的なシグナリング分子の活性化を導くような細胞内イベントを介して, セリン/スレオニンキナーゼを活性化してZO-1のセリン/スレオニン残基のリン酸化によりZO-1を細胞内へ分散させる一方, チロシンポスファターゼを活性化してoccludinのチロシン残基の脱リン酸化によりoccludinを細胞内へ分散させ, 結果的に細胞間隙部が開口し, 水溶性高分子薬物の透過を促進したと考えられた。このように, ポリ-L-アルギニンは, tight junctionの調節に働き, 高分子薬物の経鼻吸収性を改善できる極めて有用な添加物として期待される。