2022 年 91 巻 9 号 p. 553-557
イオンビームを用いた粒子線がん治療のより効果的な治療に向けて,放射線によるDNAなどの生体分子の損傷過程を原子レベルで解明する研究が進められている.本稿では,イオンビームによる水中での生体分子損傷について,分子周辺で起こる素反応の解明に向けた実験研究を紹介する.実験では,細胞を模擬するため,真空内液体分子線法および微小液滴法により作製した生体分子水溶液の標的にイオンビームを照射し,標的から放出した生体分子の分解イオンを質量分析することで,分子の切断箇所を特定した.ここでは,実験とシミュレーションの共同研究で明らかになった,高速イオンによる生体分子損傷の微視的描像を述べる.