抄録
TC = 26 Kを有する超伝導体フッ素ドープLaFeAsOの発見は、より高い転移温度を持つFeAs系ならびにそれに関連した鉄化合物の探索の口火を切った。現時点までに、LaFeAsOにおけるLaサイトを他の希土類元素(Ln: Ce, Pr, Nd, Sm, …etc)で置き換えることにより、TC = 56 Kが達成された。LnFeAsOは絶縁層である(LnO)+層と伝導層である(FeAs)-層が交互に積層した構造を持ち、酸素を部分的にフッ素に置き換える、あるいは酸素欠損により、LaO層を通じてのFeAs層への間接的な電子ドープによって超伝導が生じる。我々は、(CaF)+ 層と(FeAs)-層からなる新物質CaFeAsFの合成およびFeの一部をCoに置換することで生じる超伝導性について報告した。それらの結果は、Feサイトに置換されたCoはFeAs層へ直接電子を供給するドナーとして働くことを示唆する。本研究では、Feに対するその他の遷移金属の部分置換の効果を系統的に調べた。ノンドープCaFeAsF試料の温度に依存した電気抵抗率における120 Kで観測された異常は、すべての遷移金属のドープに対してより低温側に抑えられた。そしてドープされた試料の格子定数はドープ量と共に徐々に変化した。Cr、MnおよびCuドープは超伝導を引き起こさないが、Niドープ試料はCoドープと同様に超伝導を示した。さらにTCの最適値は、Niドープでは組成比x = 0.05で12 K、Coドープではx = 0.1で22 Kであった。これらの最適ドープ量の差は、FeAsに供給する電子の数がCo2+(3d7)は1つであるのに対し、Ni2+(3d8)は2つであることに由来すると考えられる。