1993 年 42 巻 p. 206-208
症例は72歳男性。検診にて胃の異常を指摘され当科を受診した。噴門部のⅡaと診断し,手術を勧めたが拒否し,明らかな遠隔転移の所見を認めなかったため,レーザー治療の適応として,以後6年間照射を行った。その結果,明らかな増大傾向などなく,経過良好と考えられた。その後,老人性痴呆などが出現したため,治療の継続が困難となり,年1回の内視鏡的経過観察とした。治療中止後2年目に,癌巣と離れた胃体部に巨大な潰瘍性病変を認め,生検の結果T cell typeの悪性リンパ腫と考えられた。また全身性のリンパ腫を疑う所見は認められず,胃原発のものと思われた。本症例は,胃癌の経過観察中,胃原発の悪性リンパ腫の発生をみたもので,両者の因果関係は不明であるが,癌の存在に対する異常な免疫反応の結果,悪性リンパ腫が発生したという可能性も示唆され,共存腫瘍の発生を考えるうえで興味深い1例であると思われる。