抄録
従来急性心筋梗塞 (AMI) や不安定狭心症 (U-AP) に対しての, 冠状動脈造影 (CAG) は禁忌とされていたが, 近年これらの疾患に対して緊急にCAGが施行され, 急性期病態の正確な把握と冠状動脈血栓溶解術 (PTCR) が臨床的にきわめて有用であると認められている. 今回の研究は発症約6時間以内のAMIまたはU-APと診断され, 緊急CAGを施行した43例について臨床的検討を加え, 次の結果を得た. (1) AMIで緊急CAGを施行した34例中30例にPTCRを試み, 24例 (80%) に再開通を, また4例は自然開通を認めた. PTCR成功例の慢性期左室造影では局所心筋障害と駆出率の有意な改善 (P<0.01) をみた. (2) AMI後の合併症についての検討では, PTCR成功例 (含自然開通例) はPTCR未施行例またはPTCR不成功例に比べ, 重症不整脈・うっ血性心不全などの出現はほとんど認められなかった. (3) U-AP 9例に対してのCAGでは早期に病変を把握した結果, 心筋梗塞へ移行する前に全例治療し得た. 全例中1例に緊急A-Cバイパス術 (CABG) を, 3例に1-2日以後での準緊急CABGを, 1例に緊急経皮的冠血管拡張術 (PTCA) を施行し心筋障害を呈する前に軽快した.
以上の如く緊急CAGはAMI, U-APに対しその診断的価値は大きく, 特にPTCRはAMI中でも左主幹動脈や左前下行枝近位部閉塞による心原性ショックの患者に対しても, 左室補助循環や大動脈内バルーンパンピング (IABP) 以上に, 冠閉塞の再開通という原因の直接的除去による第一義的救命治療法で, 臨床上きわめて有用であると確信された.