抄録
被災地で人々が復興を目指すうえで、人々の心の支えとなり、希望や励みにつながる「復興のシンボル」と呼ばれる対象が存在することが知られている。本論では、その復興のシンボルが成り立つ条件を明らかにすることを目的に、東日本大震災の被災地で、「夜の森の桜並木」や「奇跡の一本松」などの4事例を現地調査した。特に樹木に焦点を当て、過去にさかのぼり第二次世界大戦の戦災都市事例も加えて特性を探った。さらに歴史的な景観保存や文化活動との関係も含めて復興のシンボルの特性を比較・考察した。その結果として、復興のシンボルには、①自然や災害の科学的な理解を促す、②希望、安心、不安、悲しみといった個人の価値観を反映する、③人びとの交流や賑わいを回復させる、④過去を振り返り、未来へメッセージを伝える、という4つの機能があり、この4つを統一的に強く結びつける役割があると推察された。自然的、歴史的な景観などシンボルの対象となる事物は、人の寿命を超えて存続するものが多い。数世代にまたがる長期の復興に際して、シンボルの対象は、人や地域の「履歴」を踏まえた新たな願いを次世代にメッセージとして伝えていく媒体役になりうる。他方、シンボルを地域で見出す際に、もし行政や地域の指導者が住民一人ひとりの履歴を丁寧にくみとるプロセスを軽視し、不適切な意味を付加してシンボルを押しつけた場合は、人々の望む復興にならないと考察された。