抄録
(目的)チンパンジー幼児の認知発達分析の一環として、不定型な砂という素材とそれを操作することの出来る簡単な道具数種と自身の身体や他者との関係づけ操作の発達的分析を行った。
(方法)チンパンジー3幼児(アユム、クレオ、パル)を被験者として、それぞれの母親(アイ、クロエ、パン)と同伴場面での、砂の対象操作についての実験・観察を行った。実験は、実験者同室と非同室の2つの条件を設定して行われた。各母子・各条件につき30分1セッションずつの実験・観察を、幼児の1∼4歳齢段階にわたって行った。実験・観察は2歳齢段階以降は、基本的に3ケ月毎に行われた。
(結果及び考察)幼児の砂の対象操作は、1歳齢では直接身体を用いた操作が主であったが、2歳齢以降徐々にではあるが、道具との関係づけによる砂の対象操作も現れはじめた。この年齢段階での道具との関係づけは、砂を道具に入れるとか道具で砂をすくうといった操作であった。3∼4歳齢段階では、道具との関係づけ操作ももう一段階進み、砂を道具ですくい別の道具に入れるといった道具から道具への移動を伴う操作が見られはじめ、砂の対象操作に階層性が見られるようになってきたし、4歳齢では砂を実験者にかけるという自分=砂=他者という砂を介して他者との関係性を構築する三項関係的操作も出現するようになった。また、アユムはコップに入れた砂を飲み物に見立てて飲むふりをしたと観察者には理解できる操作を示した。象徴的操作が出現したと断言は出来ないが、類似的な操作をすることの可能性は示唆されたと言える。また、ヒト幼児での同様な条件での実験結果から、やはり4歳齢以降にこのような象徴的操作が見られており、ヒトもチンパンジーも同様の発達的傾向を有している可能性も考えられる。