霊長類研究 Supplement
第21回日本霊長類学会大会
セッションID: B-16
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口頭発表
ミューラーテナガザルの歌によるインタラクション
*井上 陽一
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抄録
(目的)テナガザルの歌の構造や意味を明らかにする。
(方法)2004年8月3日、マレーシア・サバ州・ダナムバレー保護区で、あるミューラーテナガザル家族(S家族)が隣の家族(A家族)と縄張り境界で30mの距離を挟んで歌い交わすのが観察され、そのやりとりを録音・分析した。
(結果)5:48∼ 6:59の経過を以下に示す。
(1)5:48∼ 6:07:双方の雄が歌い交わす。
(2)6:07∼ 6:32:A・雌がグレートコールを12回歌う。この時A・雄の声も交じる。
(3)6:32∼ 6:40:双方の雄が歌い交わす。
(4)6:40∼ 6:47:S・雌がグレートコールを8回歌う。
(5)6:51∼ 6:59:A・雄が弱々しい声で歌う。
(6)その後A家族は自分の縄張りに戻り、S家族はそれを追って約100m相手方に侵入した後、自分の縄張りに戻った。
上記のうち、(1)と(3)の雄のやりとりを分析した。両者全106回のコールは多様で、同じものは一つも再現しなかった。(1)では双方が69回コールしたが、重なったのは6回のみ(17%)、(3)では37回コールしたが、重なったのは6回(32%)だった。双方の全ての音素989個のうち1000Hz以上の音を含むものの割合は、A・雄では、(1)60%、(3)58%と同じだったが、S・雄では(1)53%、(3) 5%と変動した。連続音を含むコールは、(1)(A/S:12/2)(3)(A/S:4/0)とも、A・雄の方が多かった。
(考察)ミューラーテナガザルの歌は、waとooの二つの音素で構成されるが、それに加え雄ではwa-oo、雌ではoo-waという合成音素が含まれる。雄のコールや雌のグレートコールがほぼ重ならず交互に歌われたことは、彼らが何らかのやりとりをしていたことを示す。これまでの観察を総合すると、テナガザルはコール頻度、音素の組み合わせ、声の強さ、高低、リズムや抑揚の変化、連続音の有無などによって歌に意味を持たせていると考えられる。
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© 2005 日本霊長類学会
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