抄録
(目的・背景)多数のオリゴDNAをスライドグラス上に搭載したDNAマイクロアレイ(DNAチップ)は、細胞・組織特異的な機能遺伝子の発現特性の大規模(網羅的)解析を可能にし、霊長類の生理・病理学的特質を機能ゲノムレベルで明らかにできる。
マカクサルは、その医生物学的特性およびゲノム構造がヒトに酷似するため、バイオメディカル試験・研究には欠かせない実験動物で、サルでの機能遺伝子情報についてDNAチップを用いた網羅的解析の展開が待たれている。
(方法・材料)ヒト用のDNA Microarray (CodeLink 20K)を用い、ヒト及びニホンザル白血球(PBMC)機能遺伝子の発現プロファイルを比較解析した。ヒト及びニホンザルPBMCよりDNA-free RNAを調製し、増幅後Cy5標識化しCodeLink 20Kと反応後、所定解析プログラムを用いて発現プロファイルを比較検討した。
(結果・考察)CodeLink 20Kはヒト用のDNAチップであるが、サルにおいても対ヒト85%の高い交叉反応性を示し、サルの網羅的遺伝子発現プロファイルに充分利用可能であることが明らかになった。
特に興味深い知見としては、サルにおいてヒトよりも発現性の高い機能遺伝子が3, 000以上見出され、その内約500の遺伝子はヒトでの発現が見られないサル特異的な機能遺伝子で、サル白血球(PBMC)の機能特性がヒトと予想以上に異なることが示唆された。
また、このDNAチップをサル胃上皮ガンにおける機能遺伝子発現異常の検討にも活用し、ガン化に伴う遺伝子発現プロファイルの特徴も検討した。