霊長類研究 Supplement
第21回日本霊長類学会大会
セッションID: C-08
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口頭発表
チンパンジーの積木つみにみる物理的理解
*林 美里
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抄録
ヒトの子どもは1歳頃から積木をつむようになる。チンパンジーも、ヒトと同じように積木をつむ能力をもつことがわかっている。既存の検査では、立方体の積木を使って認知発達の段階をはかっていた。本研究では、立方体の積木をつむことができるチンパンジーに、形の異なる積木を与えて課題をおこなった。5センチ角の立方体の積木2個に加えて、新たな形の積木2個を提示してチンパンジーにつんでもらった。立方体以外の積木の形は3種類で、(1)円柱形の積木、(2)三角柱の積木、(3)積木の一面が傾斜した台形の積木、を順次導入した。3-4歳のチンパンジー乳児3個体と、成体チンパンジー3個体を対象とした。円柱形の積木では、乳児1個体と成体2個体が、はじめからつむのに適した平面を選択的に利用した。この乳児は、2歳7か月から自発的に積木をつみはじめた唯一の個体で、訓練後につみはじめた他の2乳児とは異なる履歴をもっていた。はじめはうまくつめなかった乳児2個体も、15セッション頃から円柱形の積木を丸い面でつむことが少なくなり、円柱形の積木の向きをかえてつむようになった。円柱形の積木の平面でつむようになった乳児3個体と成体2個体に三角柱の積木を与えると、はじめはどの個体でも、つむのに適した面を選択的に使う行動はみられなかった。三角柱の積木はすべての面が平面で構成されているため、円柱形の積木にくらべると面の判別が難しいことが一因となっている可能性がある。さらに、三角柱の積木をつむことを学習した乳児1個体を対象に、積木の一面が傾斜した台形積木を与えると、はじめからつむのに適した2平面を選択的に利用した。三角柱の積木で学習したルールが、新しい積木の形にも般化した事例ということができる。積木つみという複数の物を関係づける場面で、チンパンジーが物理的特性を理解して物を操作しているかをはかる有効な課題であることが示された。
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© 2005 日本霊長類学会
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