抄録
人類の起源を探る上で類人猿の進化を解明することの重要性は言うまでもなく、従来、さまざまな分野で研究が進められてきた。国内においても、現生/化石、野外/実験室を問わず、多彩な研究者によって類人猿研究がおこなわれ、年々、類人猿進化に関する知見が蓄積されている。類人猿進化に関する重要なトピックは多々あるだろうが、形態的な側面でいえば、姿勢・運動様式の大きな変化が挙げられよう。現生類人猿はすべて木の枝からぶらさがる懸垂型であるが、中新世前半の化石類人猿では一般的な樹上性四足歩行が主流であった。明確な懸垂型の類人猿が化石記録に現れるのは中新世も後半になってからの事であり、中新世末期には人類の祖先が直立二足歩行という大変革を成し遂げた。一方、我々人類を特徴づけるもののひとつが卓越した認知能力であり、その萌芽と発展はやはり類人猿進化の文脈の中に求められるべきものである。また、認知能力と深く関連するのが人類のもつ複雑な言語である。言語の獲得は我々の祖先にコミュニケーション能力の飛躍的な拡大をもたらした。言語の進化は、もちろん、認知能力の増大に支えられているが、同時に、音を生み出す発声器官というハードウェアの進化にも依拠している。さらに、運動、認知、音声などに関する能力の基盤として脳の進化という視点も欠くことができない。大型類人猿の脳は、現生人類の巨大な脳に比べれば三分の一程度とはいえ、他の霊長類に比較すれば際立って大きい。脳の大型化、からだの大型化、運動様式の変化、認知能力の発達、音声器官の変化などは互いに影響を与えながら進化してきたはずである。今回のシンポジウムでは、4人の講演者にそれぞれの分野から話題を提供してもらい、類人猿進化に関する議論を深めたい。
俣野彰三・平崎鋭矢 脳の進化:かたちを中心に
友永雅己 心の進化:ヒトの心の類人猿的起源
竹本浩典 発声器官の進化:最近の音声生成研究の成果をふまえて
中務真人 化石から見た解剖学的特徴の進化:運動、サイズ、成長