霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: A-21
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口頭発表
タイ中部から南部に分布するベニガオザルの毛色変異とその進化史的含意
*小薮 大輔MALAIVIJITNOND Suchinda濱田 穣
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抄録
ベニガオザルM. arctoidesの体毛色には著しい種内変異があり、赤褐色、茶色、黒色などの体毛がみられることが知られてきた。赤褐色の北部グループM. a. arctoidesと黒色の南部グループM. a. melanotaの二亜種に分けられるとされてきたが、近年、体毛色は地理的変異ではなく個体変異であるとして、亜種を認めない議論も為されるようになった。しかしながら、体毛色種内変異とその進化史的含意に関する研究は圧倒的に不足しており、種内変異についての議論は決着には至っていない。
そこで、本研究ではタイ中部~南部のKhao Krapuk-Khao Taomo 保護区 (Petchaburi県、 N 12゜ 47’ 43”、 E 99゜ 44’ 21”)、Wat Tham Khao Wong寺院 (Prachuab Khirikhan県、 N 11゜ 17’ 33”、 E 99゜ 29’ 43”)、Wat Tham Khao Daeng寺院 (Nakhonsithammarat県、 N 8゜ 14’ 38”、 E 99゜ 52’ 1”)の三地域個体群を対象として体毛色を定量的に測定し、その種内変異のパターンを考察した。
その結果、北部二集団は一様に茶色の体毛色がみられた一方、南部集団においては茶色と黒色の二型的な体毛色がみられ、亜種分類はできないことが示された。南部集団においてみられた高い集団内変異は、更新世の海進時にクラ地峡が海道となり、マレー半島のクラ地峡以南の地域が地理的に分断され、地域個体群内で体毛色が遺伝的浮動によって固定された結果である可能性がある。その後、クラ地峡がつながり、集団間に遺伝的交流が再形成されたが、南部集団内の体毛色多型性はいまだに維持されていると推測される。
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© 2006 日本霊長類学会
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