霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: B-12
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口頭発表
クモザル果実採食における3色型色覚の意義
*平松 千尋MELIN AmandaAURELI FilippoSCHAFFNER Colleen河村 正二
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抄録
霊長類において3色型色覚は緑色の葉の背景から赤系の果実を識別するために進化したと考えるのが従来の仮説であるが、自然集団の霊長類においてその仮説を検証した例はない。新世界ザルは同一種内に2色型と3色型個体が混在するため3色覚の進化と行動の関連を研究する上で優れた観察系である。中でも果実採食性の強いクモザルは果実採食における3色型色覚の有用性を検証するのに格好の対象である。これまでに我々はコスタリカ共和国サンタロサ国立公園に生息するチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)1群を対象に糞DNAを用いて赤- 緑視物質遺伝子型の判定を行い、色覚の種内多型が自然集団に実在することを報告した。今回我々は、色覚型判定された個体の採食行動を観察し色覚型による果実採食成功率の違いを調査した。
[方法] 2003~2005年にかけての8ヶ月間に、クモザル2色型16個体、3色型10個体の行動を1~2分間の個体追跡サンプリング法により観察し、合計約60時間の記録を得た。果実にアプローチしてから最終的に食べるに至った割合を採食成功率と定義し様々な果実に対する様々な光条件下における採食成功率を色覚型間で比較した。また、採食物の反射光および環境光を小型輝度計を用いて測定し、クモザル視物質の吸収波長を考慮してクモザルによる視覚対象物の視認度を推定した。
[結果と考察] 色度図を作成し採食物の色を分類したところ赤系より隠蔽色系の採食物が多く、また主要な果実の採食成功率に色覚型間で有意差は見られなかった。しかし、3色型においては、葉遮蔽光下においては直射光下に比べ、隠蔽色果実の採食成功率が低下し、代わりに嗅覚への依存度が増大する傾向が見られた。推定視認度と採食成功率との相関から色相よりも明度が果実採食において重要な手がかりとなることが示唆され、3色型色覚は果実採食において必ずしも優位ではないと結論した。
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© 2006 日本霊長類学会
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