霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: B-16
会議情報
口頭発表
オオアリ釣りの博物学-マハレM集団のチンパンジーのオオアリ釣り行動
*西江 仁徳伊藤 詞子西田 利貞
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
マハレのチンパンジーは、樹上性のオオアリを細い枝などで釣って食べる。このオオアリ釣り行動の先駆的な研究はNishida (1973)、 Nishida & Hiraiwa(1982)がおもにK集団を対象におこなったが、現在の調査対象であるM集団のオオアリ釣り行動の網羅的なデータはこれまでまとめられていない。そこで本発表では、2002年から2004年にかけて得られたM集団のチンパンジーのオオアリ釣り行動に関する基礎データをまとめ、その生態学的基盤について検討する。現在のM集団では、3歳以上の個体は移入メスも含めてほぼ全員がオオアリ釣りをおこなうことがわかった。アリ釣りの頻度・持続時間は、メスの方が高く長い傾向があり、とくにオトナオスは低頻度の傾向を示した。一回のアリ釣りに費やす時間は1個体あたり平均約30分間で、最長約2時間50分のアリ釣りで約3000匹のアリを食べていることがわかった。現在マハレM集団のオオアリ釣りの対象となっているアリは2種が同定されており、うち1種に実際のアリ釣りはほぼ集中している。アリの釣り場となる樹木の種構成はかなり多様だが、アリ釣りに利用される頻度は一部の樹種に偏っており、チンパンジーのアリ釣り場の選択がある程度樹種によっていることが示唆された。またアリ釣り場となった樹木個体の分布は、M集団の遊動域の低地に偏っており、高地ではほとんどアリ釣りが見られないこともわかった。このことに関して、アリの釣り場となる樹種の樹木個体の分布やチンパンジーの食性・遊動ルートの季節変化といった他の社会・生態学的要因などとの関係について、さらにいくつかの可能性を検討する。
著者関連情報
© 2006 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top