抄録
野生下の同所的なゴリラとチンパンジーの食性重複の地域差の検討をするための基礎資料として、採食対象と量が判明している飼育下個体について、食物と体毛の安定同位体比の関係を検討した。対象は、日本モンキーセンターのチンパンジー7頭(オス3、メス4)、ゴリラ2頭(オス1、メス1)である。通常、餌はリンゴの果実などの植物性食物13品目と、牛乳とニボシの動物性食物2品目で、チンパンジーには植物性の食物と2個体に牛乳を、ゴリラのオスはチンパンジーと同様の品目を、メスのゴリラにはさらに煮干しが毎日与えられている。分析は、京都大学生態学研究センターの安定同位体分析システムによって行なった。結果は、植物食中心のチンパンジーは相互に近い値のグループになり、チンパンジーの平均値は、餌対象の平均値と、窒素、炭素とも、4.5程度の差で、食物と採食する動物の安定同位体比の標準的な対応関係の範囲内だった。ニボシを食べていないゴリラのオスの安定同位体比は、チンパンジーのグループの範囲に含まれた。ニボシを毎日食べるゴリラのメスは、ゴリラのオスやチンパンジーとは異なり、ニボシの値に近い方向にプロットされた。これらの結果から、ゴリラとチンパンジーの安定同位体比の種間での違いは、代謝機能の種差ではなく、摂取食物の違いを反映すると考えられる。また、動物食の量により、両種の安定同位体比の値は予測された方向にはっきりと変動すると考えられる。本研究の対象とした資料の提供をいただいた日本モンキーセンターに感謝したい。