霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
セッションID: A-11
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口頭発表
チンパンジーとヒト幼児の描画行動の比較
*齋藤 亜矢林 美里竹下 秀子
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抄録
チンパンジーの描画行動をヒト幼児の発達過程と比較し、描く心の起源について考察した。過去の類人猿の描画研究および対象としたチンパンジーの自由描画では、明らかな表象を描いた例はない。表象を描く能力の基盤となる要素を明らかにするため、自由描画に加えて、新たな2つの研究をおこなった。まず描画模倣課題では、検査者が見本として描く図形に対する描画行動を調べた。初回1~2歳半のヒト幼児26名とチンパンジー6個体を対象に、自由描画と比べて見本(横線、縦線、円、十字、正方形)提示後の描画の位置と線の変化を解析した。ヒトでは、1歳前半になぐりがきの位置が見本に重なるようになり、1歳後半で描く線に変化がみられ、2歳以降に横線の模倣ができるようになった。それぞれ見本に注意を向ける、動作を模倣する、形を描く目的を模倣するという認知機能の発達が示唆される。チンパンジーは形を模倣することはなかったが、無秩序ななぐりがきだけではなく、なぐりがきの位置が見本に重なる行動や、線を調整して見本をなぞる行動がみられた。次に描画補完課題では、ヒト幼児で表象的な描画が出現しやすい顔刺激に対する描画行動を調べた。ヒトは顔認知に特異性があり、表象描画の発達初期にも顔が多く描かれる。1~3歳のヒト幼児のべ37名とチンパンジー6個体を対象に、目などの部位を一部取り除いた顔の線画を提示した。ヒトでは1歳後半に顔内部への描きこみ、2歳前半に描かれている顔部位への重ねがき、2歳半以降で顔の描かれていない部位への補完が増えた。チンパンジーは描かれている部位や線への重ねがきがみられたが、ない部位を補完することはなかった。ヒトは手の調整が不完全なうちから、描かれていない部位を補完しようとするのに対し、チンパンジーは線を調整できてもすでにある線に集中し、ない部位を補完して描くのが難しいことを示している。
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© 2007 日本霊長類学会
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