抄録
【目的】ヒトの前頭前野は計画、作業記憶、時間・順序情報処理、言語、注意、社会性といった高次の行動の情報処理を担う脳領域として注目されている。さらに、この領域の発達過程は他の脳領域と比較して特にゆっくりとしたペースで行われることが明らかとなっている。例えば、シナプスの数は3~4歳でピークに達し、その後青年期後期に至るまで徐々に減少する。また、髄鞘化は青年期まで続くことが報告されている。そこで、本研究ではチンパンジーの脳発達を検討する一連の研究の中で、チンパンジーの前頭前野の灰白質および白質の発達過程を解析した。
【方法】霊長類研究所で2000年に出生した3頭と2003年に出生した1頭の、計4頭のチンパンジーを用いた。脳解剖画像はGE製Profile 0.2 Tを用い、3Dグラジエントエコー法によりT1強調画像を生後2ヶ月~7歳まで縦断的に取得した。MRI 画像処理はMRIcro(Wellcome Department of Cognitive Neurology, London, UK)およびFSL (Analysis Group, FMRIB, Oxford, UK)を用いた。画像解析では、中心溝の前方の脳領域でかつシルビウス裂の上方の領域を前頭葉、脳梁膝の前方領域を前頭前野と区分し、灰白質、白質の相対容積を各個体の年齢ごとに解析した。
【結果と考察】(1) 灰白質と白質の相対容積を前頭葉および前頭前野で縦断的に比較すると、前頭前野の灰白質の相対容積の比率が前頭葉よりも高いことが示された。(2) 最新のデータである生後6歳6ヶ月のチンパンジーと成体のチンパンジーの前頭前野における白質の相対容積を比較すると、前者では16%、後者では43%であり、生後6歳6ヶ月ではまだ成体のレベルに達していないことが明らかとなった。(3) チンパンジーの前頭前野はゆっくりと発達することが示され、ヒトの研究における結果と一致した。