抄録
秋田県八森町(現・八峰町)では,88年の公式報告以来,野生ニホンザルによる農作物被害に悩まされてきた.97年度から電気柵の設置,01年度から八森式サル追い上げボランティア,02年度から捕獲ニホンザルの奥山放獣などの対策を行い,被害額は減少した.だが,地域住民の被害感は,必ずしも被害額と一致しない.被害農家にとっての“猿害”とは,生活の楽しみの喪失,サルからの威嚇などの弊害でもあるからである.そこで,白神獣害対策調査研究所では,職員による被害農家に対する調査を行った.2001年度・2005年度・2006年度に,ジャガイモ・トマトなどの各農作物の被害程度(5段階評価),各農家が耕作する畑の位置・面積を調べた.そのデータを使用して,各地区における被害程度の測定を行った.八森町を,畑の分布を元にして北部・中部・南部に区分し,各地区における被害程度の変化について分析を行った.全農作物の被害程度の中央値を年度間で比較した.どの地区においても,01年度の被害面積が50%以上だったのが,05年度・06年度の被害面積は5%以下に減少していた.また,被害がとくに深刻で耕作が諦められていたダイズなどの栽培が,06年度には復活している様子も確認できた.北部・中部・南部では,各対策の実施量が異なる.結果的に,地区に応じた適切な組み合わせで被害が減少できていたことが裏づけられた.ニホンザルによる農作物被害対策では電気柵設置と有害駆除が一般的である.八森町では電気柵の効果はあまり見られなかった.地形の複雑さ・積雪などが原因と考えられる.八森町では有害駆除を行っていない.しかし追い上げボランティアと奥山放獣を組み合わせることで,被害程度は激減した.両対策ともに,八森町の文化・自然があることで可能な対策である.だが他地域にも応用可能な対策として期待できるものである.