抄録
熱帯林内は地表から林冠部にかけて果実生産量だけでなく、気温や日射量など様々な垂直構造が発達している。林冠付近は地上部にくらべ気温が高いので、気温の高くなる日中、ボノボは地表に近い場所を利用することが多いと考えられる。ボノボの空間利用と森林内の気象の関係を調べるため、2005年1月から2月にかけてコンゴ民主共和国のワンバ地域で調査を行った。地上1.5mから21m(樹冠は28m)まで、4カ所の高さに自動温湿度記録計を設置し、10分ごとに気温と湿度を記録した。また、10分ごとに追跡個体およびその周囲の観察できる個体の高さを測定、記録した。高さの計測には三角測量機能をもつレーザー距離計を用いた。調査中の林内最高気温の平均は26.4℃(1.5m)、30.1℃(21m)で1.5mと21mの差は最大で5.5℃であった。また、最高気温はほぼ13:00から14:00前後に記録され、そのとき1.5mでは21mにくらべ平均で3.4℃低い値となった。ボノボの位置する高さとその時の気温は負の相関を示し(rs=-0.25, p<0.001)、とくに休息時の高さと気温の相関係数が最も強かった(rs=-0.42, p<0.0001)。採食時間の割合と採食時の高さ(1時間ごと)に相関はなく、朝、夕の採食行動のピークが気温と高さの解析に影響している可能性は少ない。ボノボは、林内の気象の垂直構造を利用して、高気温や低気温による体温調節のコストを低減していると考えられる。これはボッソウやカリンズ森林のチンパンジーと同様の結果であり、アフリカ各調査地のpan属の地上利用頻度の違いに、気候要因が関与している可能性を示している。