抄録
視覚探索課題において、顔刺激を他の物体の中から見つけ出すことは、ヒト同様チンパンジーでも効率的に行われることが示された(第22回大会)。この結果は、チンパンジーも顔刺激に注意が捕捉されることを強く示唆している。しかしながら、先の実験においては、他の刺激(バナナの写真)においても比較的効率的な探索が確認された。そこで、今回の発表では、顔刺激の効率的探索を可能にするものが何であるかを、各種の操作を施した刺激を用いた実験によって検討した。顔認知における特徴的な現象に倒立した顔の認識が難しいという倒立効果が知られており、これはチンパンジーにおいても報告されている(Tomonaga, 1999, 2007; Primates)。一方、バナナの写真は黄色という色手がかりによって容易に見つけ出すことが可能である。したがって、同様の効率的探索がチンパンジーで見られても、その原因が顔とバナナの写真では異なることが予想される。そこで、チンパンジーの顔写真、バナナの写真、自動車の写真を標的刺激、他のさまざまな物体の写真を妨害刺激として、各刺激について倒立提示、白黒写真での提示、スクランブル提示(画像全体としての色情報は保持される)の操作を行った。その結果、実験に参加した3個体の成体チンパンジーすべてにおいて、 (1)倒立提示では顔写真でのみ反応時間が長くなる、(2)白黒提示ではバナナの写真のみ反応時間が長くなる、(3)スクランブル提示では顔写真のみ反応時間が長くなるという傾向が認められた。以上の結果は、先の予想を支持するものである。つまり、チンパンジーにおける顔刺激の効率的探索は顔認知が基盤となっていることが明らかとなった。