抄録
近年、全国的にニホンザルによる農作物被害が増加し、社会問題化している。そのなかで現在、山梨県富士吉田市において、サルが人里におりて来る度にモデルガンを使って脅かすことで、人里は危険なところだと学習させ、サルの出現頻度を減少させることを目的にした追払い活動に、市民団体「獣害対策支援センター」が主体となって取り組んでいる。本研究では、このニホンザルの追払いの効果を把握することを目的とした。調査は、富士吉田市および富士河口湖町を行動圏とするニホンザル「吉田群」のオトナメスにVHF発信器付きの首輪を装着し、ラジオテレメトリー法で移動追跡を行って位置を特定し、ニホンザルが加害する農作物の種類と分布を、直接観察により把握した。調査期間は2004年4月から2007年11月で、毎月最低5日以上の放探を実施した。なお、「獣害対策支援センター」による追払いは、富士吉田市のみにおいて2007年6月から行われていた。「獣害対策支援センター」が追払いを開始した2007年6月以降の、富士吉田市におけるニホンザルによる農作物の摂食頻度は、それ以前の年の同じ時期の頻度に比べ低下していた。また、「吉田群」が集落地域を利用する出没割合も、追払い開始後においては以前より低くなる傾向が認められた。さらに、追払いの効果がもっともあらわれた秋期における「吉田群」の行動圏をみると、追払い開始前の2004年と2006年には、富士吉田市内の住宅地は「吉田群」のコアエリアに含まれていたが、追払い開始後の2007年にはコアエリアに含まれていなかった。これらのことから追払い活動は、ニホンザルを人里から遠ざけ、農作物の被害を軽減するうえで、有効であるといってよい。ただし本研究を通じて、過去におけるニホンザル群の行動圏や出没頻度、農作物の摂食頻度に大きな年次変動があることが確認された。そのため、被害対策の効果を確認するためには、より長期における調査が必要である。