抄録
霊長類種8種(ヒト,チンパンジー,テナガザル,ヒヒ,ルトン,マカク,オマキザル,リスザル)を対象に,小円筋を除く回旋腱板(肩甲下筋・棘上筋・棘下筋)について,皮質骨厚と筋力指標値(生理的筋断面積・PCSA)の相関関係について調査した。結果:チンパンジーは,ぶらさがり行動を主な移動様式とするテナガザルよりは,むしろ四足歩行を主な移動様式とするマカク・ヒヒに類似した特徴をもつことが分かった。テナガザルのブラキーエーションによる移動様式では,骨の筋付着部は受動的な張力を強いられることが予測される。この場合,四足歩行の霊長類における張力よりも大きいと考えられ,テナガザルにおける筋付着部の皮質骨が相対的に厚いという分析結果との関連性が示唆される。オマキザルも観察される頻度は少ないが,ぶらさがり行動することが知られており,結果として筋付着部の相対的な皮質骨厚を増す一要因となっているのではないかと考えられる。旧世界ザルとリスザルにおいては,筋付着部の皮質骨厚は相対的に薄い結果となったが,それは,彼らの主な移動様式は四足歩行であり,ぶらさがり行動主体の霊長類に比べると,筋付着部に張力がかかることは少ないためなのかもしれない。ヒトでは,肩甲下筋はマカクに,棘上筋と棘下筋ではルトンに似た特徴を示し,ヒトの回旋腱板における皮質骨厚とPCSAの相関関係は,四足歩行をする旧世界ザルと類似していた。これらの結果と共に,上腕および前腕の骨・筋について調査した結果も併せて,ヒト・上肢の機能形態学的解釈について検討する。