抄録
肉眼解剖的手法により剖出した筋は,筋の付着部や筋を支配する末梢神経さらには周囲の筋との関連から筋の機能的特性を伺い知ることができる。比較解剖にあっては相同性の有無が吟味できる。筋腹や腱の形状は筋収縮特性に合致している。筋が起始と停止で示す骨への付着範囲や,運動の支点となる関節から筋付着部までの距離などからは,その筋が関わる運動特性が判る。これらの形態的特徴は各個体で少しずつ異なることが普通で,一定の個体差,雌雄差,左右差に収まっている。足背外側で伸筋群の最外側に位置する第三腓骨筋はヒトの場合は欠損する事が稀であるのに対してゴリラやカニクイザルでは出現する事が稀である。これは進化の過程で小指の働きが増したことと一致している。長腓骨筋はヒトとカニクイザルでは母指基節骨底部の付着場所が異なる。サルは枝掴みに,ヒトは地面のけりだしにそれぞれ働くのに都合の良い位置に付着している。この様に,相同筋にあっても,筋の形状を細かく見るとその動物固有の運動様式に合致している事がわかる。筋の変異は治療の対象はならないことが多い。生活習慣が大きな原因となる外反母指などの発症予防の知識としては意味がある。