抄録
チンパンジーの雌雄の遊動パターンの違いは,食物パッチを複数個体で利用する場合のscramble competitionのあらわれ方の違いによって説明されることが多い。すなわち,より大きな遊動パーティで採食すると,より速くパッチ内の食物を食べつくして食物パッチ間を移動する回数が増えるために,移動による不利益を大きく受けるメスは大きなパーティに参加しにくいという考え方である。
しかし,これまでに行ってきたウガンダ共和国カリンズ森林のチンパンジーの研究では,1つの食物パッチを大きなパーティで利用した時の方が,より長時間その食物パッチに滞在するという逆の傾向が見られている。このことは,チンパンジーが食物パッチ内の食物を食べ尽くしながら遊動しているわけではなく,したがって上述のようなscramble competitionは雌雄の遊動パターンにあまり大きな影響を及ぼしていないことを示唆している。
この点を確認するために,あるパーティがある食物パッチで採食を始めてから,最後の1頭の個体がその食物パッチを去るまでの間に,採食速度がどう変化するかを調べた。その結果,(1)雌雄を問わず,ある採食パッチでの採食速度はきわめて安定していること,(2)しばらく採食を続けるとやや採食速度が下がったのち休息に入るが,休息を終えたあとはまた同じペースで採食を再開すること,(3)チンパンジーが採食パッチを去る直前の採食速度は,利用開始時の採食速度とほとんど変化がないことが示された。これらの結果から,チンパンジーの遊動と食物パッチ利用の関係についての検討を行う。