抄録
動物が生きていくためには,摂取した食物から栄養分やカロリーを吸収しなくてはならず,どれだけの食物を必要とするのかは,その動物がどれだけ効率的に食物を消化・吸収できるか(消化率)によって決まる。霊長類において,食物が消化管内に留まる時間(平均滞留時間: MRT)と消化率との関連性を同時に検証した研究はほとんどなく,体重による影響についてもほとんど明らかにされていない。そこで本研究では,飼育下のニホンザルを対象に,消化管マーカーを用いた実験ならびに消化試験を行ない,食物の質や量およびサルの体重がMRTと消化率に及ぼす影響を検証した。
実験対象は,京都大学霊長類研究所のニホンザル14個体(体重2.2 kg-16.6 kg)である。食物の質による影響を比較するため,高繊維飼料(NDF37.5%)と低繊維飼料(NDF13.6%)の2種を用いた。また,野生ニホンザルは食物量の減少といった食物環境の悪化にもしばしば直面することから,高繊維食物×多量,高繊維食物×少量,低繊維食物×多量,低繊維食物×少量の4通りの給餌条件を設定した。
結果は,MRTは食物の質の影響を強く受け,高繊維飼料を採食したときに短くなったが,食物の摂取量による影響はみられないというものであった。消化率も,乾物,タンパク質,脂質,NDF,灰分すべて食物の質の影響を強く受け,低繊維飼料に比べると高繊維飼料の消化率は約20%低くなった。食物の摂取量による消化率への影響はみられなかった。MRTと消化率の関係について,MRTが長くなってもより消化が進むということはなく,消化率は食物の種類ごとで一定であった。また,体重が重い個体のMRTは長くなったが,MRTの長さと消化率に関連性はみられず,消化率に個体差はなかった。本研究では,消化しにくい食物への対処としてニホンザルは食物の摂取効率を高めるという戦略を取っていることが示された。