霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-15
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ポスター発表
ニホンザルの離乳期のアカンボウにおける採食を介した社会関係の地域間比較―屋久島と下北半島
*谷口 晴香
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抄録
 ニホンザルのアカンボウは春に生まれ、冬前には成長に伴うエネルギー要求量の増加のため採食を行う必要がでてくる。ニホンザルの分布北限にあたる青森県下北半島(以下、下北)で冬季の野生ニホンザルを対象とした発表者の研究により、アカンボウは母親に比べ容易に手に入り、処理できる食物品目を好む傾向にあり、そのためときには母親から離れた場所で別の食物品目を採食することがわかっている。また母親から離れた際に、アカンボウ同士で集まり伴食を行う場面もみられた。下北は落葉樹林帯に属し積雪があるため、冬季にサルが利用できる食物は主に冬芽や樹皮、球果やスゲ類などに限られていた。しかし、冬季の環境条件は生息地によって大きく異なる。鹿児島県屋久島は亜熱帯要素を含む照葉樹林帯に属し、冬に常緑樹の葉や果実が利用できる。よって、気温や食物の面で屋久島は下北と比べ良好な生息環境にあると考えられる。本研究では冬季の生息環境の違いがアカンボウの採食と採食時の近接個体に与える影響について屋久島と下北を比較し検討した。
 2010年の10月~2011年3月に屋久島において生後6~11カ月のアカンボウとその母親4組を対象に調査を実施した。母子同時個体追跡を行い、採食時には食物品目の種名と部位、母子間距離、2m以内の近接個体を記録した。下北については2008~2009年に同様の方法ですでに調査を終えている。
 同月齢のアカンボウについて比較した結果、屋久島と下北で採食時間割合に差はなかった。採食時における母親との2m以内の近接割合についても差はなかったが、採食時に母子間距離が5m以上離れている割合は屋久島の方が高かった。また、採食時の他のアカンボウとの近接割合も屋久島の方が高かった。屋久島のアカンボウは、母親が採食を始めると、しばしば視界内にいる他のアカンボウと合流し、アカンボウ同士で集まり採食を行っていた。一方で下北のアカンボウは、母親の食物品目によって自らの食物品目と母子間距離を変えることがわかっている。下北では、アカンボウの採食行動が母親の食物品目に左右されるため、アカンボウ同士で集まるタイミングが一致しにくく、アカンボウ同士で採食を行う場面は限られていたのだと考えられる。下北と比較して屋久島のような豊かな環境では、アカンボウは母親に対する執着を弱め、アカンボウ同士での伴食の機会を増加させている可能性が示唆された。
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© 2011 日本霊長類学会
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