抄録
ニホンザル(Macaca fuscata)のメスの出産率は、20歳齢を超えると急激に低下する。これまでに26歳齢での最高齢出産が2度報告されているが、その後の報告はない。ニホンザルのメスが25歳齢を超えて生存していることはまれであり、これまでほとんど行動研究の対象とされてこなかった。嵐山ニホンザルE集団には、25歳齢以上の老齢メスが、2010年には15頭、2011年には17頭も生息していた。本研究では25~32歳齢の老齢メスを対象に行動観察を行い、加齢や順位による影響を調べることを目的とした。他の集団にはほとんどいない25歳齢以上の老齢メスに焦点を当て、2年にわたり観察を継続した初めての研究である。
嵐山モンキーパークいわたやまに生息する25~32歳齢の全ての老齢メスを対象に個体追跡観察法を用いて観察した。観察は2010年9月~11月、2011年6月~12月にかけて行われた。1セッション20分間の連続観察を1頭当たり39セッションずつ行った。総観察時間は207時間であった。
老齢メスの活動性を評価するために休息の生起率を、社会交渉の量を検討するために毛づくろいの生起率を算出した。休息の生起率も毛づくろいの生起率も年齢との間に有意な相関は見られなかった。ただし高順位メスは中・低順位メスに比べ、横たわる姿勢の休息が有意に多かった。中・低順位メスにおいて、「攻撃する/サプラントする」生起頻度は加齢に伴い減少し、「攻撃される/サプラントされる」生起頻度は加齢に伴い増加した。これまでの研究では、若齢メスとの比較から、老齢メスは休息の生起率が増加し、社会交渉の量が減少するという結果であった。しかし、本研究では25~32歳齢にかけては休息や社会交渉の量が変化しないという結果が得られた。一方、「横たわる休息」や「攻撃/サプラント」の結果から、老齢メスであっても順位による影響が大きいことがわかった。