霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: A-07
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口頭発表
野生ニホンザルにおけるオス間関係の季節比較
*川添 達朗
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抄録
ニホンザルの群れオス同士で非交尾期に見られる親和的行動は、個体間での緊張を緩和しオス同士の共存や交尾期における協力関係の構築に有効であると考えられている。本研究では群れ外オスが多く生息する宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象として、群れオスだけでなく群れ外オスを含めた非交尾期のオス間の親和的関係がその後の交尾期のオスの親和的、敵対的関係に与える影響を明らかにすることを目的とする。
 本研究は金華山島に生息するニホンザルのうち1群の群れオスと群れ周辺で観察される群れ外オスを対象とし、2009年の非交尾期と交尾期に実施した。対象となるオトナオスを終日個体追跡し、親和的、敵対的交渉の交渉相手と回数を記録した。敵対的交渉が見られたときには追跡個体の活動状況と交渉への参加個体、発情メスの有無を同時に記録した。
 1頭の群れ外オスを除き非交尾期に比べ交尾期では親和的交渉の相手個体数、頻度はともに減少し、すべての追跡個体において交尾期に敵対的交渉の相手個体数と頻度が増加した。敵対的交渉の多くは非交尾期には採食場面で、交尾期では交尾場面で観察された。また、季節や状況を問わず敵対的交渉に第3者の参加はほとんどなかった。個体の組合せごとに交渉頻度を非交尾期と交尾期で比較すると、非交尾期の親和的交渉頻度は交尾期の親和的交渉頻度と正の相関を示し、交尾期の敵対的交渉頻度とは負の相関を示した。また群れオスと群れ外オスの組合せでは季節を問わず親和的交渉頻度と交尾期の敵対的交渉頻度は負の相関を示し、群れ外オス同士の組合せでは有意な相関は見いだせなかった。
 以上の結果から、非交尾期と交尾期ではオス同士の競合を引き起こす要因となる資源が異なると考えられる。また、特定のペアでは非交尾期に見られる親和性が交尾期まで持続し、交尾期における敵対的行動の発現に影響していることが示唆された。
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© 2012 日本霊長類学会
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